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マーガレット・ハウエルが認めた「アングルポイズ」のデスクライト【連載:sushiのB面コラム】

黒いデスクランプ
黒いデスクランプ

マーガレット・ハウエルが認めた「アングルポイズ」のデスクライト【連載:sushiのB面コラム】

黒いデスクランプ

ファッションライターsushiが独自の視点で、定番アイテムの裏に隠れた“B面的名品”について語るコラム連載「sushiのB面コラム」。第10回で掲げるテーマは「マーガレット・ハウエル」。筆者のファッション観を変えた思い入れの強いブランドだが、インテリアでも大きな影響を与えたというエピソードを紹介する。

 「丁寧なくらし」と聞いて、どんな生活を思い浮かべるだろうか。部屋をきれいに保ったり、健康的な食事をこしらえてみたり、持ち物を必要最低限に抑えてみたり。思いつく丁寧なくらしの“かたち”はいくらでもあると思うが、僕が考える「丁寧に暮らす」という事は、こういった表層的なかたちやパッケージ化された雰囲気のことではなく、自分なりの軸を持って一つ一つの選択を丁寧にすることで自分らしい生活スタイルを形作っていく長い営みのことだと思っている。僕のこの「丁寧なくらし」という言葉に対する考え方は、「マーガレット・ハウエル(MARGARET HOWELL)」というブランドのコンセプトや、デザイナーであるマーガレット氏のスタイルから多大に影響を受けたものだ。

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 マーガレット・ハウエルの魅力は、プロダクトが持つ“パッケージ化された丁寧なくらし的雰囲気“ももちろんそうだが、1970年に一枚のメンズシャツを発表してから今も変わらず貫いている「上質で機能的かつ、目的に合ったものづくり」というコンセプトにある。これこそが「丁寧なくらし」を極地的に表現している要素の一つだと僕は思う。独自の思想の元にデザイン、もしくはセレクトされるマーガレット・ハウエルの品々は、直接脳に突き刺さるようなインパクトは少なくとも、移り変わる時代に寄り添って微々たるアップデートを繰り返しながら常にオーセンティックであり続け、どれもがきっとこの先長く付き合っていけるだろうと安心できるアイテムであふれている。その安心感というのは、家族のあたたかさとか、昔からの馴染みのあるものとか、そういった類のものだ。そんなマーガレット・ハウエルのプロダクトの中でも、今回はブランドを代表するシャツやツイードのジャケット、チノパンツではなく、家具ラインから「アングルポイズ(ANGLEPOISE)」の別注デスクライトを紹介したい。

黄色、ブルー、シアンのスタンドライト

 アングルポイズのデスクライトは、自動車エンジニアであるジョージ・カワーダイン氏がスプリングの専門メーカー ハーバート社のスプリングを用い、重量バランス技術を駆使して開発したもので、自由自在に好きな方向へ光を向けることができるスプリング式デスクランプの元祖と呼ばれている。わざわざ固定具を絞めたり緩めたりせずとも、ランプの根元に仕込まれたスプリングの力でランプの高さや方向を滑らかに調整し、ワンタッチで固定できる機能性は、当時のデスクライトとしては非常に画期的なモノだった。見た目は至ってシンプルだが、時代に合わせてマイナーチェンジを重ねることでタイムレスかつモダンであり続け、長く愛用できるところもマーガレット・ハウエルのものづくりに通ずるものがある。そしてそこに落とし込まれるイエローオーカー、サクソンブルー、シーグラスといったニュアンスの効いたマーガレット・ハウエル独自のカラーパレットが融合した別注モデルは、2つの異なるブランドのコラボとは思えない調和がとれた名品だ。

 マーガレットは自身のブランドの中で洋服以外の暮らしにかかわるプロダクトも多く提案するが、洋服以外は自分ではどうしても作れないので、世界観に見合うものをセレクトして別注するというスタイルをとっている。長く取り扱いを続けるアングルポイズのライトは、それだけ彼女の世界観にマッチしていると言えるだろう。強く一貫したコンセプトが魅力であるブランドが支持し、信頼を置き続ける——そんな箔がついたこのプロダクトの持つ説得力はこの上ない物だと思う。

* * *

 僕自身の「一貫性」について振り返ってみると、洋服は昔からとにかく好きだったが、それの為にいろいろなことを蔑ろにしてきたと思う。学生の頃は食費を削りに削ってよく体調を崩したし、部屋だってクローゼットからモノがあふれ、洋服が寝床まで侵食していてとても「丁寧なくらし」と言えるものではなかった。以前、別の記事で、僕が洋服にのめり込むきっかけになったのはマーガレット・ハウエルだったと書いたが、同社の服や世界観が大好きなのにも関わらず、いわゆる「丁寧なくらし」からかけ離れた自分の生活スタイルはブランドに対し少々後ろめたいという思いがずっとあった。

 社会に出ると生活リズムがある程度安定したからか、ようやく服以外の身の回りのものにも気を使いたくなって、インテリアも自分の感性に響くものを少しずつ集めるようになった。マーガレット・ハウエルの別注ライトはまさに僕が最初に手にしたこだわりの家具だった(正しく表現すれば、リクエストしてプレゼントしてもらったのだが)。小学生のころ、夏休みになると決まって田舎の祖父の家を訪れて夏休みの課題を片付けるのがお決まりで、その時に使って気に入っていたデスクライトにそっくりだったことも手に入れたいと思うきっかけの一つになった。

 ファッションだけではなくインテリアという扉を開いた先でも最初に手が伸びたのはマーガレット・ハウエルだったという事実は、自分自身の好きなモノやスタイルにある種の一貫性があるのだと思えたし、無意識ながら僕なりの「丁寧なくらし」を体現できていたのかもしれないと気付かせてもらえた。

 僕は今も相変わらずモノにあふれた部屋で暮らし、毎日のように外食をしている。未だに“丁寧なくらし的雰囲気”からはかけ離れているが、そんな自分の生活の中にも揺るがない軸が確かにある——マーガレット・ハウエルのランプとの出会いはそう肯定してくれたように感じられた、思い出が詰まったプロダクトだ。

>>次回は10月31日(月)に公開予定

15歳で不登校になるものの、ファッションとの出会いで人生が変貌し社会復帰。2018年に大学を卒業後、不動産デベロッパーに入社。商業施設の開発に携わる傍、副業制度を利用し2020年よりフリーランスのファッションライターとしても活動。noteマガジン「落ちていた寿司」でも執筆活動中。

FASHIONSNAP 過去連載「あがりの服と、あがる服」記事一覧

ハウエルについて語ったコラムはこちら

【コラム|あがりの服と、あがる服】シャツ編:15歳の僕を変えたマーガレット・ハウエル

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