美に対してストイックなこだわりを持つ人に、その美学と愛用品を聞く連載「美の STOCK LIST」。第4回は、最もスケジュールが取れない人気ヘアスタイリストのひとり、ASASHI氏が最近オープンした「ASASHI BARBER TORANOMON」を訪問。「こだわっているプロダクトは特にない」という、まさかの出鼻をくじかれる回答から始まったインタビューだったが、髪に捧げる情熱は少年時代から真っすぐに貫かれ、オシャレを求める全ての人に開かれたものだった。
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⎯⎯この連載は、ストイックにこだわっているものを通して、その人の美学に迫ります。まず、ASASHIさんが仕事でいつも使っているプロダクトやツールから教えてください。
これじゃないとダメだとか、そういうのはあまりないです。ドライヤーは乾けばいいし、ヘアアイロンはストレートに伸びればいい。でも、最近のモーターを使ったドライヤーなどは苦手です。髪がサラサラになりすぎると、逆に髪がいうことをきかなくなってしまうので。
⎯⎯スタイリングしにくくなる?
そうですね。なるべく髪は汚れていて、手で動かしていけるのがいい。なので改めて考えると、手が一番大事かな。ブラシももちろん使いますが、コームで梳いたりもあまりしません。
⎯⎯手で髪を動かす時、よく使うプロダクトはありますか?
プロダクトでいうと、「アヴェダ(AVEDA)」のムースは何十年も使っています。これがなくなったら、僕は廃業。あとは「エルネット(Elnett)」のスプレー。これだけですべてのスタイリングができるわけではないけれど、スタイリングのベースになっているといっても過言ではないですね。
⎯⎯撮影現場ではいつも即興でつくっていく感じですか?
そうですけど、髪の毛って、写真になった時にどうやって写っているかが一番大事なので、カメラのファインダーから見える絵を理解した上で、常に計算しながらやっていかないといけない。頭を使ってないように見えると思いますが、実はけっこう使っています。
⎯⎯ヘアの世界に入りたいと思ったきっかけは?
中学生の頃に床屋に通っていて、カットしてもらってる時のハサミの音だったり、髭を剃ってもらっていた匂いやホットタオルの心地よい感覚から、美容師、理容師になりたいなと思いました。
⎯⎯ASASHI BARBER の原点は、少年時代からあったのですね。
はい。中高時代は友達の髪をセットをするのが楽しくて、卒業してすぐに名古屋にある美容室に入りました。そこで6~7年ほど美容師を経験、東京に出て、1998年にロンドンへ行きました。
⎯⎯ロンドン時代は「i-D」、「Dazed & Confused」、「FACE」などのカルチャー誌から「VOGUE」まで、当時勢いのあった雑誌で仕事していますよね。当時、師匠的なスタイリストはいましたか?
誰かのアシスタントになりたいと思ったことはなかったです。もちろん好きなスタイリストはたくさんいて、ショーのバックステージを手伝うなどはありましたが、ちゃんと誰かについたことはないです。逆に今、アシスタントを経験してみたいとは思います。今も第一線にいるユージン・スレイマン(Eugene Souleiman)氏は、僕と全然違うやり方なので、現場を見てみたいですね。
ユージン・スレイマン(Eugene Souleiman):イーストロンドン生まれ。1995年の「ジル・サンダー(Jil Sander)」のキャンペーン参加をきっかけに注目を集める。「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」、「エルメス(HERMES)」、「ヴィヴィアン ウエストウッド(VIVIENNE WESTWOOD)」など数多くのキャンペーンやランウェイヘアを手がける。レディー・ガガが「アレハンドロ」(2009)のMVで着用しているトリムボブでも有名。
⎯⎯美容師とヘアスタイリストは近いようでまったく違う世界ですが、どんな転機があったのですか?
ワークウエアやジーンズ、スーツなど、メンズの洋服がすごく好きで、美容師時代はファッション誌を見てときめいていました。男をおしゃれにしたいという気持ちが常にあります。僕が最初に入った美容室は、おばあちゃん達もよく来る老舗で、ヘアカットはもちろん、ブローの仕方、逆毛の立て方からセットまで教えてもらって、本当に感謝してます。そこで習ったことが、今の僕のすべてだから。
⎯⎯自分のバーバーをやろうと決めたのはいつ?
バーバーを意識し始めたのは、2005~2006年頃。ヴィンテージ感を残した新しい感性のバーバーがロンドンで少しずつ流行り出していて、すごくかっこいいと思いました。その後一度帰国して、5年間日本をベースに活動したのですが…やはりどうしてもバーバーがやりたくなって。でもこのまま始めてしまうと知らないことが多すぎると思って、もう一度ロンドンに戻ることにしました。
⎯⎯2013年の再渡英は、バーバーが念頭にあったんですね。
そうなんです。床屋をつくる目線で街を歩いたりするうちに、小さい物件をひとつ見つけました。そこで始めたのが、ASASHI BARBER LONDON。当時一緒にいたスタッフとふたりでペンキを塗ったり、必要なものを揃えたりして、完全に手づくりのお店でしたが、お客さんもたくさん来てくれて、4年ほど続けました。
⎯⎯その後、再び帰国した理由はありますか?
帰国することに迷いはありました。LONDONは面白かったし好きだったので。ただ、昔の僕がそうだったように、ファッション誌を見てときめいてくれる若い人たちが今きっといるだろうと思ったのがひとつの理由です。自分が思うカッコいいものをつくって、それが世に出て、見てくれる新しい世代がいるはずで、それをやるなら今だ、と思いました。
⎯⎯バーバーを再びやることについては?
帰国してから丸5年、物件はずっと探していて。申し込みまで行ったところもありましたが、下水がダメとか電圧が低いとかで諦めざるを得なかったりして見つからない中、今の物件と出合いました。虎ノ門のビルの狭間に残っている木造の2階建てで、梁を残した天井も面白い。吸い込まれるようにして、すぐに契約。タイミングも良かったです。床屋は美容師免許では営業できないので、通信で1年半勉強して、去年の春に国家試験を受けて理容師免許を取りました。
⎯⎯多忙な撮影スケジュールの合間に勉強してたんですね。
そうなんです。
⎯⎯虎ノ門というのが、ちょっと意外でした。
ですよね。僕も最初は虎ノ門⁈と思いました。でも、新橋も歩いて行けるし、何より活気がすごいです。週末になると逆にパタっと人がいなくなって静かになるのも、めちゃくちゃ気持ちいい。ロンドン時代のバーバーはリバプールストリートの近くにあって、新旧入り混じったビジネス街なんですけど、そこの雰囲気にも似ているなと。渋谷から銀座線に乗ればすぐだし、日比谷線も通っているし、この場所自体が駅近だから、みんなに来てほしいです。
⎯⎯内装もロンドンの時と同じ雰囲気?
木の梁が残っている天井が気に入っていて、これをベースにロンドンの店をアップグレードさせたような感じです。ロンドンは床がチェック柄だったんですけど、それだと天井に合わないので、もうちょっと大人っぽい感じにしました。新たにかき集めたものもあるし、ロンドンから持っていたものもたくさんあります。ASASHI BARBERのロゴを入れた鏡とか、写真を飾っている額とか。
⎯⎯ASASHIさんのスタイルにはアメリカのテイストも感じますが、好きなメンズのイメージは?
アメリカンというわけではないですが、50年代のクラシックが好きですね。僕はとにかくみんなをおしゃれにしてあげたい。髪の毛の役割ってすごく大きいと思います。
⎯⎯虎ノ門界隈のエリートサラリーマンが、フラッと立ち寄れる場所になったらカッコいいですね。
ですね。オープンしてすぐに、近所の会社に勤めているという男性が何人か、昼休みや、仕事が終わった後に来てくれました。
⎯⎯女性も来ていいですか?
ぜひ来てください。バーバーというとメンズのヘアカットというイメージが強いと思いますが、実はレディースのカットも上手ですよ。ただ、ロングヘアをブリーチして、カラー入れだけでしたら、お店のコンセプトから外れてしまうので難しいですね。もちろんちょっとしたカラーリングなら対応できます。
⎯⎯今後の活動のヴィジョンは?
これまでと変わらず、撮影の仕事も続けるつもりです。今、バーバーで一緒に働いてくれるスタッフを募集しています。床屋というのは、そこで働いている全員が理容師免許を持ってないと営業できないルールなので、門が狭くなっていますが、正当にやっていきたいし、僕はなるべく店に立ちたい。店主がいる店っていうのが好きなんです。
⎯⎯最後に、ASASHIさんご自身の愛用品を教えてください。
僕ですか? なんだろな…… コレ(クールグリースのエクストラハード)を頭につけてます。
(企画・文:合六美和、編集:福崎明子)
Miwa Goroku
コレクション取材記者を経て、フリーランスのエディター&ライターに。雑誌や広告、ウェブメディアなどさまざまな媒体で、執筆やディレクション、コーディネーションを手がける。ファッション、ビューティーを軸に、クリエイティブに関わる人やカルチャーをフォロー。
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