エス・エス・デイリーのスティーブン・ストーキー・デイリー
Image by: FASHIONSNAP
ロンドンを拠点にするファッションブランド「エス・エス・デイリー(S.S.DALEY)」は、イギリス・リバプール出身のデザイナー、スティーブン・ストーキー・デイリー(Steven Stokey Daley)が、自身の労働者階級の視点から伝統的な衣服を再解釈し、新しい英国らしさを追求したデザインに定評がある。
2022年に若手デザイナーの登竜門「LVMH Young Fashion Designers Prize」でグランプリを受賞して瞬く間に業界で注目を集めたが、2024年も大きな進化を遂げる一年となった。今年1月にピッティ・イマージネ・ウオモ(Pitti Imagine Uomo)のゲストデザイナーとしてショーを開催し、直後に歌手のハリー・スタイルズが投資家になったことを発表。9月には「エリザベス2世女王 英国デザイン賞」を受賞し、初となるウィメンズコレクションの単独ショーをロンドンファッションウィークで披露した。
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デイリーは10月末、ドーバー ストリート マーケット ギンザ(DOVER STREET MARKET GINZA)で開催されたイベント「オープンハウス(OPEN HOUSE)」に合わせて初来日。自身のルーツや投資家のハリー・スタイルズとの関係性、今後の目標について語ってもらった。
憧れのアレキサンダー・マックイーンでの経験
―初来日とのことですが、東京の印象はいかがですか?
昨日着いたばかりですが、美しい街ですね。賑やかな都会でありながら、人々が礼儀正しくて、心地よく歓迎してもらっている感覚です。食べ物も本当に素晴らしい。早速ラーメンやとんかつを食べて、小さなパン屋さんで菓子パンを買いましたが、すごく美味して感動しました。あとヨーロッパと異なって、全てのデザインが垂直で整っているのが面白いと思います。
―まず、あなたのファッションルーツについて聞かせてください。ファッションに目覚めたときに憧れていたブランドやデザイナーは?
月並みですが、アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)です。幼少期からロンドンで絶大な影響力を持っていたのを見てきたので、私の世代では最初に憧れを抱くデザイナーは、必然的にマックイーンであることがほとんど。また当時マーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)が手掛けていた「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」、ドリス・ヴァン・ノッテン(Dries Van Noten)のデザインにも刺激を受けました。ファッションを学ぶようになってからは、「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」を知って、引き込まれていきました。
―その憧れだったアレキサンダー・マックイーンとトム フォードでのインターン経験があるそうですね。それぞれのブランドでどんなことを学びましたか?
2つのブランドで全く異なる経験ができました。アレキサンダー・マックイーンでは、当時のクリエイティブ・ディレクターのサラ・バートンが素晴らしいチームを築いていました。サラは一緒に働く人たちを尊重しながら、その異なる才能を最大限に引き出せるように働きかけていました。一方トム フォードでは制約の中で、精密なモノ作りを学べたと思っています。コレクションを通して世界観を作り上げることや上質な素材に触れられたこともとても勉強になりました。
ウェストミンスター大学の恩師に学んだこと
―エス・エス・デイリーの根底にあるのは、労働者階級で育った経験を反映し、英国の伝統的な衣服を現代的に再解釈したコレクションを展開している点です。このアイデアにはどのように辿り着きましたか?
私はずっとイギリスの伝統的なパブリックスクール(イギリスの私立中高一貫校)の統一された美学に興味がありました。そういった歴史をリサーチする中で、自分のアイデンティティでもある労働者階級の視点を融合してみたいと思ったんです。難しいことではなかったですが、形にするまでには時間はかかりましたね。
―出身校であるウェストミンスター大学では、業界で有名なアンドリュー・グローブス教授*の指導を受けたそうですが、彼による助言は大きかったのでしょうか?
はい、彼の影響は大きかったです。私がウェストミンスター大学に進学したのも、アンドリューの元でファッションを学びたかったからでした。常に挑戦させてくれる環境があり、今まで持っていた固定観念を覆すような発想を出すように後押ししてくれました。自分の進みたい道に導いてくださって、数々の貴重なアドバイスをもらいました。独特な教育方針を持っている教授だと思います。
*アンドリュー・グローブス教授:ロンドンでデザイナーとして活動後、ウェストミンスター大学で長年ファッションデザイン科の教授を務める。メンズウェアの教育者として業界で影響力があり、教え子にはリアム・ホッジスやアシュリー・ウィリアムス、ロビン・リンチ、プリヤ・アルワリアのほか、ラグジュアリーブランドで活躍するデザイナーが名を連ねる。またアンドリュー本人はアレキサンダー・マックイーンの元パートナーとしても知られる。
―ロンドンのファッションスクールといえば、セントラル・セント・マーチンズも有名ですが、卒業生としてファッションを学びたい学生たちにウェストミンスター大学をおすすめしますか?
そうですね。実はアンドリューが2年前にファッションデザイン科の主任教授を退任してしまったので、現在の教育方針は少し変わってしまったかもしれません。でも、ウェストミンスター大学にはアンドリューが収集した素晴らしいメンズウェアのアーカイヴコレクションがあります。特にメンズウェアを学びたい学生には役立つはず。ロンドンではセントラル・セント・マーチンズにスポットが当たりすぎていると思いますが、他にもいい学校があるんですよ。
―イギリスのデザイナーたちは、よく自身のルーツを理解してデザインに落とし込み、独自のメッセージを発信できているように感じます。
そうですね。私の場合は、歴史的で伝統的な英国文化をいかにモダンに表現できるかということに挑戦し続けたいと思っています。英国デザインの特徴は、真面目な美的感覚がありながらも、ユーモアのセンスもあるところ。特に若い人たちには時代遅れで古びたものに感じられることもありますが、現代的な考えを融合することで未来に繋げていきたいと思います。
―エス・エス・デイリーではアイコニックなアヒルをはじめ、羊や犬、猫、ウサギなどたくさんのアニマルモチーフが登場します。これらには何かメッセージが込められているのでしょうか?
英国らしいひねりの効いたユーモアを取り入れています。イギリスにはたくさんの自然があるので、都会から逃避して、自然に癒されることがあります。また伝統的な紋章には、動物たちが描かれていることが多いので、そのようなデザインからヒントを得ることもあります。
初のウィメンズはメンズと真逆のプロセス
―ハリー・スタイルズやエマ・コリンといったセレブリティのスタイリストでも知られるハリー・ ランバートが深く携わっていますね。彼と仕事をすることで自身の視点が変わった部分、得られたこととはありますか?
ハリーは寛大な人です。忙しい中でも相談に乗ってくれたり、お互いにアイデアを語り合ったり、一緒にいることで学ぶことが非常に多いんです。私たちは同じ感覚を共有しながらも、全く異なるタイプの人間なので相乗効果があって、いい仕事を共にできるんだと感じます。ファッション業界では仕事仲間がいい友達になることがよくあって、ハリーもその一人。アトリエもずっと隣同士で、引っ越しするときも一緒に隣の部屋を借り続けてるんです。毎日連絡を取り合っていて、昨日はハリーに日本のお土産としてリクエストされた「ソニーエンジェル」を買いに行きましたよ(笑)。
―2025年春夏からはウィメンズをスタートしましたね。メンズとウィメンズをデザインする上で異なる部分はありますか?
プロセスは似ていますが、異なりますね。これまでのメンズコレクションでは、典型的な制服や紳士服に少しフェミニンな要素を取り入れようと試みてきました。一方で初のウィメンズでは、典型的な婦人服にマスキュリンな要素を加えるようにして、真逆のことを行っている感覚です。嬉しいことに、これまでにもメンズコレクションを購入してくださる女性の顧客がたくさんいて、その方々の存在がきっかけになりました。メンズから派生したテーラリングやニットウェアがありながらも、ウッドビーズの刺繍スカートやエレガントなドレスもあったり。一目でエス・エス・デイリーだと分かるけれど、これまでと異なる新しいものにしたかったんです。
―今後ショーは継続する予定ですか?
エス・エス・デイリーは4人体制の小さな会社で、現在の私たちの体力的に、年2回ショーを開催していきたいと思っています。例えば、1月のパリ・メンズ・ファッション・ウィークと、9月のロンドン・ファッション・ウィークで発表するようなイメージ。メンズとウィメンズの春夏と秋冬で全4コレクションですが、ショーはシーズンで分けて年2回に集約するという考えです。次は1月にロンドンでショーを開くより、パリのメンズファッションウィークで発表するかどうか検討中です。
ハリー・スタイルとの新たな関係性
―ハリー・スタイルズがエス・エス・デイリーの投資家になったことがニュースになりました。彼とはどのようなビジョンを共有していますか?
ハリーは私たちが2020年にブランドを立ち上げたときから、エス・エス・デイリーを着用してサポートしてくれていました。それからお互いの活動に共鳴して、一緒に将来のビジョンについても話し合って、投資家になるという判断も自然な形で決まりました。公に発表することで、ハリーがブランドの可能性を信じていることを世の中に示してくれたと思います。セレブリティが若手ブランドを着用してデザイナーを応援することは多々ありますが、ブランドを長く継続することは簡単なことではありません。今後、セレブリティがブランドの投資家になるという一歩進んだ形での関係性が広がっていけばいいですね。
―素敵な関係性ですね。今後はハリー・スタイルズの衣装を制作することもありそうですか?
直近のツアーでは「グッチ(GUCCI)」が衣装を制作していましたが、チャンスがあれば私たちも作ってみたいですね。ハリーは毎晩衣装が必要なので、そのペースに追いつけるように頑張らないといけませんが(笑)。
―1月に開催したピッティ・イマージネ・ウオモでのショーに、デザイナーのポール・スミスが訪れていましたね。彼はあなたにとってどんな存在ですか?
尊敬しているデザイナーです。1年前にオフィスに招いてくれて話をする機会を得て、私たちのことを応援してくれています。ポールがイギリスの紳士服を中心に店舗から世界中でビジネスを成功させているように、いつか彼のようなレベルに到達できたら、どれほど素晴らしいことかと想像することがあります。
―将来お店を開きたいと思いますか?
実は昨日、(パートナーでブランドのセールスを担当する)レオと初めてお店について話し合ったんです。これまでは自分たちで店舗を構えることに全く関心がありませんでしたが、東京を散策する中で「いつか東京にならエス・エス・デイリーの素敵な店舗が作れるかもしれない!」と想像ができたんです。ロンドンに実店舗を構えることは現実的に思えないですが、東京だったら温かくて、エネルギーのあるお店ができるかもしれない。日本人のファッションに対する熱意は他の都市とは異なります。デザインの理解度や細部へのこだわりはロンドンやニューヨークではなかなか感じられないもの。なので、いつか東京にお店を構えることが一つの目標になりました。
―ぜひお願いします!今後、ブランドをどのように成長させていきたいですか?
まずはメンズとウィメンズのコレクションでそれぞれしっかりと世界観を打ち出して、ビジネスを軌道に乗せていきたいです。そこから、バッグやシューズなどのアクセサリーの制作にも取り組みたいですね。でも、急がずに妥協はしないで「これだ!」と思うものを世の中に出していきたいです。私たちが出すアクセサリーは確実に素晴らしいものになる自信があります。ぜひ楽しみにしていてくださいね。
Photography: Masahiro Muramatsu
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