【スニーカートップセラーに聞く】2021年のベストスニーカーとこれからのシューズ事情-mita sneakers 国井栄之-
国井栄之
Image by: FASHIONSNAP
国井栄之
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【スニーカートップセラーに聞く】2021年のベストスニーカーとこれからのシューズ事情-mita sneakers 国井栄之-
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日本を代表するスニーカーショップのキーマンが1年間を振り返る「スニーカートップセラーに聞く」。2021年も同企画の常連、ミタスニーカーズ(mita sneakers)のクリエイティブディレクター国井栄之さんに今年のベストスニーカー3足と、来年のスニーカー市場について語ってもらいました。
■【スニーカートップセラーに聞く-2021-】
■【スニーカートップセラーに聞く-2020-】
■【スニーカートップセラーに聞く-2019-】
前編:atmos 小島奉文とmita sneakers 国井栄之が選ぶ今年のベストスニーカー5選
後編:atmos 小島奉文とmita sneakers 国井栄之が語る2020年のスニーカー市場
■【スニーカートップセラーに聞く-2018- 】今年のベスト&最多着用は?これからのシューズ事情も
■mita sneakers
東京の下町、上野から世界へ向けて独自のスニーカースタイルを提案する「mita sneakers」。下駄や草履を売る日本古来の履物屋「三田商店」としてスタート。創立者「三田耕三郎」の英断で40年以上前から本格的にスニーカーを取り扱い始め、アメ横の老舗スニーカーショップ「スニーカーの三田」として再出発する。現クリエイティブディレクター「国井栄之」の加入後、ショップ名を現在の「mita sneakers」に改名し、当時の日本市場では未知だったコラボレーションや別注を手掛けるようになる。現在ではスポーツブランドからラグジュアリーブランドに至るまで、様々なスニーカーのグローバルプロジェクトに参画し、コラボレーションモデルや別注モデルは勿論、インラインモデルのディレクションまで多岐に渡ってスニーカープロジェクトに携わり、世界のスニーカーヘッズに支持されている。2020年6月に1階をリニューアルし、増床オープンした。
■国井栄之(くにいしげゆき)
「mita sneakers」のクリエイティブディレクター。数多くのブランドとのコラボレートモデルや別注モデルのデザインを手掛けるだけでは無く、世界プロジェクトから国内インラインのディレクションまで多岐に渡りスニーカープロジェクトに携わる。
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国井栄之が選ぶ今年のベストスニーカーTOP3
FASHIONSNAP(以下、F):昨年に引き続き、今年も3足をピックアップしていただきました。
国井栄之(以下、国井):今回はしっかり売れていて、街でも見かけたモデルをピックアップしました。昔話になりますが、2ちゃんねるが活発だった頃って実社会とネットの世界に線引きがあったと思うんです。だけどSNSが発展して、タイムラグがなくなったことで今はリアルタイムで世界中が繋がるようになりました。ただ、コロナが流行して、ネットで起きていることと現実に凄く乖離ができたなと感じています。SNSや、こういったメディア取材の時はマスクを外しているけれど、実際はマスクをして生活しているわけですし、スニーカーでも一瞬で完売する商品にも関わらず街では誰も履いていなかったり。二次流通やネットオークションでは注目アイテムとして扱われていて、インスタグラムには画像がたくさん出回っているけれど街では見ることがない、というネットとリアルのギャップを感じることが多かった年でした。
ナイキ DUNK Low
F:早速一足目から。「ナイキ(NIKE)」のダンク(Dunk)ローカットです。昨年から人気が継続し、今年もダンクイヤーでしたね。
国井:はい、今年も一番話題があったモデルでした。数年前からコート系がトレンドという認識があったと思いますが、今年で完全にランニングからコートへ移行したと言い切って良いでしょう。それを象徴するのがダンクで、スニーカーマニアだけでなく一般にまで普及した一足でした。少しウィメンズサイズは落ち着き始めたかなという印象ですが、コラボではないインラインモデルが発売になる度に抽選をしていましたから。大きく分けて人気だったのがオーセンティックなカレッジカラーと、ミニマルなモノトーンカラーのもの。ということで、今年を象徴していた2カラーを持ってきました。
F:特にローカットが人気でしたか?
国井:そうですね。「ナイキ SB(NIKE SB)」からダンクを知った世代はローカットを好んでいる印象です。
F:2017年頃までは、夏にローカット、冬にハイカットが人気という流れがありましたが、今年のダンクは通年でローカットが人気だった?
国井:昔はアウターのボリュームに負けないよう冬はハイカットが人気だったんですが、今はあまり気にしている人が少ないようです。逆に、気にしている人はブーツだったり別の履き物を選んでいますね。
F:ダンク、エア ジョーダン 1、エア フォース 1とナイキのコート系モデルはたくさんありますが、その中でダンクが選ばれる理由は何なんでしょうか?
国井:ダンクって1985年の販売開始当時は、日本未発売のモデルなんですよ。1990年代のストリートカルチャーと相まって注目され、その後の1999年に日本からのリクエストで復刻してから、日本でも正式に販売されるようになって。それまでは、サブカルチャーの先人たちが平行輸入で持って来ていたんです。エアフォース 1だとチャンキーな印象ですが、ダンクはそれに比べてロープロファイルなシルエットで「スタイルに取り込み易い」と。エア ジョーダン 1はやはりNBAやブラックカルチャーの色が強いですが、ダンクはカレッジバスケットボールを軸にしているだけあって、アメカジやスケート、ヴィンテージブームとの相性も良いので好まれているんでしょう。
F:ダンクがよりストリートカルチャーと密接だったんですね。エア フォース 1やエア ジョーダン 1も今年は売れましたか?
国井:エア フォース 1は一年を通して売れていましたし、特にミニマムな白黒のカラーは若い人をはじめ、街でもよく見ました。一昨年くらいから人気は続いていますが、今年も好調です。 エア ジョーダン 1はハイカットのOGがずっと人気だったんですが、今年はミッドカットやローカットも非常に売れました。エア フォース 1やエア ジョーダン 1はダンクよりもバリエーションが豊富なので、目立っていたのはダンクですが、販売足数が最も多いモデルといえばエア フォース 1だと思います。やはり、コート系だけでもいくつも看板モデルがあるナイキの強さが出ましたね。
ニューバランス 990
国井:ナイキのコート系ブームと、もう一つトピックスをあげるとしたら間違いなく「ニューバランス(New Balance)」でした。今回は990のV2とV3を持ってきました。
F:持参頂いた990には「V2」や「V3」と書いてないんですね。
国井:昔のエア マックスと同じで。エア マックスも昔はボックスにエア マックスとしか書いていなかったけど日本では分かりづらいからと、当時雑誌で年号を付けて紹介していたことから、それが商品名になったんです。だから当時は990だけだったんですが、アップデートの時にわかりやすいようにとバージョンで呼び始めて。2022年は990が周年なので、先駆ける形で初代からV4までが復刻されましたね。
F:現在売られているのはV5。V6がそろそろ発売されるんじゃないかという噂もあります。
国井:V6は先行ローンチで年内に出る予定だったんですが、コロナによる世界的なロックダウンの影響で来年に先送りになりました。990って進化する毎に新たなテクノロジーを盛り込みつつ、普遍性を担保することでファンを置き去りにしない靴なんですが、V6はいつもより挑戦的というか。ここまで喋って良いのかわかりませんが、990に安心感を求めている人にどう映るか楽しみな1足でもありました。
F:攻めたデザインなんですね。
国井:時間の経過と共に納得できる機能美、というのが一番正しい表現だと思います。iPhoneや「メルセデス・ベンツ(Mercedes-Benz)」の車みたいに、フルモデルチェンジされたときは「前の方が良かった」といった意見がありつつも、気がつけばそれがベンチマークになっているというか。
F:990の復刻モデルは全て話題になっていました。
国井:そうですね。まさかニューバランスのオーセンティックなカラーで抽選をすることになるとは、数年前には想像できなかったことです。ニューバランスの定番モデルですし、当時販売していたときは常にリストックしていた靴なので。
F:990はスニーカー好きだけでなく、ファッション好きからも支持されている印象です。
国井:元々は歴代のアメリカ大統領たちがこぞって愛用し、スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)の影響もあってインテリジェンスな印象が強かったシリーズだったんですが、ノームコアの流れからファッション層にも支持されて履かれるようになりましたね。今の若い人たちは、もうイナたい靴とかダッドシューズという認識では見ていないでしょうね。そういう意味でも定番になったと言えます。本来はアスファルトに馴染む色として作られましたが、発表当時はグレーのランニングシューズってかなり先鋭的だったんです。機能面でもイノベーティブな試みをしていましたし。先鋭的な靴からおじさんの王道になって、気がつけば世代、性別を超越したものになっている。時代の変化に歩み寄るのではなく、伝統ある進化を魅せるシリーズだと思っています。
F:990は今年、「ダブルタップス®(WTAPS®)」や「ジョウンド(JJJJound)」ともコラボしていました。
国井:かなりインパクトがありました。元々人気ではありましたが、コラボを機に990自体が色々な人の「欲しい靴」となったように思います。他のブランドとニューバランスのコラボの違いは、コラボ先の選び方も納得できるし腑に落ちるんですよね。
F:国井さんはV2とV3ではどちらの方が好きですか?
国井:強いて言えばV2ですかね。そういえば、990の好きなエピソードがあって。アメリカのボルチモア地区のドラッグディーラーたちの間で990がステータスシンボルになったことが他の都市に飛び火し、ラッパーやファッションデザイナーたちにも大きな影響を与えた話があって。その後の2015年にボルチモアで暴動が起きてしまったんですが、その際にも足元に注目が集まってしまったんですよね。それを受けてニューバランスはソーシャルメディアで、暴動とは無関係であると釈明をわざわざしたんですよ。真面目であり、企業の特性が出ていて興味深いなと。
アディダス エキップメント
国井:今年はエキップメントが30周年を迎えて、久しぶりにグローバルで展開したプロジェクトがこれでした。
F:ダンクや990に比べると、あまり目立っていなかった印象です。
国井:このシューズはグローバルプロジェクトのものなんですが、ミタとのモデルはミタでしか買えないし、参加している各国のお店のモデルもそのお店でしか買えない。世界規模でありながらハイパーローカルなプログラムなんです。
F:ベストに選ばれた理由は?
国井:アディダスってドイツのブランドなのに、日本人はNBAやヒップホップカルチャーなどアメリカでのストーリーを経由したコート系モデルでしかアディダスを語れなかったんですよ。ドイツではZXやエキップメントが人気だと聞いていたんですけど、10年前くらいに初めてドイツに行ったときに現地の人に話を聞くと「アディダス=ランニングブランド」という認識だと言うんです。更にベルリンの壁が崩壊して、ドイツ再統一の時代を知っている世代にはエキップメントやアディダスのシューズたちは「自由な西側の象徴だった」という昔話を聞かせてもらい、アディダスというブランドの見方が大きく変わった旅でもあったんです。そういった話を聞いてからはアメリカ経由のアディダスではなく、ヨーロッパでのアディダスに興味が湧き、掘り下げていったので、今回のアニバーサリーで声をかけてもらえたのも本当に嬉しかったんですよ。
F:ミタスニーカーズのコラボモデルはどういう意図でデザインしたんですか?
国井:「ランナーズハイ」をテーマに作りました。ランナーズハイは脳内で大麻に似た成分が生成されるというのがドイツの研究で判明していて。そういった背景からも着想を得てアレンジしました。僕らはランナーではないので、ランナーズハイをスポーツとは別の側面から表現したかたちです。
F:履き心地は?
国井:当時のエキップメントはクッション、サポート、ガイダンスの3カテゴリーに分かれていたんですが、これは3カテゴリーを一つに集約していることもあってとても良いですよ。今年1番履いたスニーカーですね。
F:どういった人が購入したんですか?
国井:コート系スニーカー一辺倒の中で、トレンドではなく主観でスニーカーを選ぶ方々に買っていただいた印象です。去年、うちのスタッフたちがアディダスのランニングシューズをよく履いていたんですよ。売れなかったので特価セールでワゴンに入れていたら、一人のスタッフが履き始めたのをキッカケに広がっていった。そういった仲間内での流行が懐かしくて凄く嬉しかったんですよね。結局、スタッフも何人か追加で購入していて。前回はワゴンセールで買っているけれど、今回は正規の値段で。それって良い流れだなと思うんですよね。
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