スニーカーを長く愛用する上で、知っておきたい劣化現象「加水分解」。加水分解が起きてしまうと、修理をしない限り履くことができなくなりますが、そもそもこの現象はなぜ起きるのでしょうか? 池尻大橋のシューズリペア専門店「シューオブライフ(The shoe of life)」の担当者に、加水分解が起きる仕組みから、自宅でできる対策、日々のシューズケア方法について話を聞きました。
目次
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加水分解はなぜ起きる? 仕組みを解説
加水分解とは、経年変化の一種で、スニーカーに使われているソールが湿気を通して水分を吸うことで、素材がボロボロになってしまうことを指します。ソールがボロボロになってしまうと、アッパーなどの他の部位との設置面が少なくなることから、ソールの剥離につながります。諸説ありますが、日本は欧米諸国と比べて湿気が多いことから、より加水分解がしやすいと言われているんだとか。
シューオブライフの担当者によると、とくに加水分解が起きやすい素材がポリウレタン。ポリウレタンは、クッション性を高めるために使われる素材で、ランニングシューズなどのソールに採用されています。柔らかいスポンジのような質感で気泡があることから、水分を吸いやすいため、高温多湿に弱く、組成が分解してしまいやすいのだそうです。
シューオブライフ
このシューズはソールが3層になっていて、上部のみにポリウレタンが使われているため、分解が起きたことでソールがまるごと剥がれてしまったケースです。
加水分解しにくい素材
ポリウレタンが加水分解しやすい素材の代表例なのに対し、湿度に強い素材も存在します。スニーカーに多用される素材の中で、加水分解しにくいのがEVAと呼ばれる樹脂素材と合成ゴムの2つ。紫外線や湿度に強いため、自然環境の影響を受けにくいのが特徴なので、加水分解してしまったスニーカーを履き続けたい場合には、ソールを合成ゴムかEVA素材と丸ごと交換するのがおすすめです。
シューオブライフ
ちなみに、EVAや合成ゴムも、履いていくうちに「硬化」と呼ばれる劣化が起きます。硬化とは、文字通りソールが硬くなってしまうことを指し、悪化することでソール自体が割れてしまいます。
また、外側に合成ゴムやEVA、内側にクッション性を高めるためのポリウレタンが使われているシューズの場合、目に見えない内側だけボロボロになってしまい、履き心地が硬くなるケースもあります。
目安は3年、スニーカーの“耐久年数”
実は、スニーカーには「耐久年数」が存在します。耐久年数とは、着用頻度に関わらず、そのスニーカーを“問題なく使用できる期間”として設けられている年数のこと。あくまでも目安の期間ではありますが、この年数を超えると劣化しやすくなります。耐久年数はメーカーごとに異なり、例えば、ニューバランスジャパンは、自社のスニーカーの耐久年数を3〜5年と設定しています。
耐久年数を超えたからといって、必ず加水分解をするというわけではありませんが、あくまでもスニーカーを履く上での目安として頭に入れておきましょう。
自宅で実践できる加水分解対策
ポリウレタンが使われたスニーカーには付き物である加水分解。完全に防ぐことは難しいですが、劣化を遅らせることはできます。ここからは、加水分解を遅らせるために実践するべき2つのポイントを解説します。
①定期的に履いて内側の水分を外に発散する
実は、スニーカーは全く履かないよりも適度に履いたほうが長持ちすると言われています。歩くことで素材が伸び縮みして、素材の中の水分が外に発散されるため「加水分解を防ぐ」という観点から考えると、定期的な着用が対策につながります。
②乾燥剤と一緒に保存袋に入れて湿度から守る
2点目が、保存袋に入れて湿度から守ること。しばらく履かないという場合には、乾燥した状態で空気を抜いて保管すれば、新たに水分が入ることはないので、湿度の影響を受けづらく、劣化しにくくなります。
乾燥剤はホームセンターなどで購入できます。
Image by: FASHIONSNAP
お気に入りを長く愛用するために、スニーカーの手入れの基本
アッパーやソールの素材によって、手入れ方法や劣化の仕組みは異なります。ここからは、日頃取り入れたい、自宅でのシューズのケア方法を手順と合わせて解説! お気に入りのシューズの状態を綺麗に保つために、以下の手順に沿ってケアするようにしましょう。
STEP 1:タオルで全体の汚れを拭く
まずは、タオルでアッパーからソールまで、スニーカー全体の汚れを拭き取ります。タオルは家にあるものであれば何でも大丈夫ですが、目の粗いものの方が、汚れを取り除きやすくなります。乾拭きではなく、専用のクリーナーや除菌用のアルコールと一緒に拭きましょう。
ソールの溝など、細かい部分もタオルで磨きます。
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STEP 2:ブラッシング
タオルで大体の汚れが拭き取れたら、ブラッシングをします。ブラシであればどんなものでも良いですが、より細かい汚れを落としたい場合には、馬毛がおすすめ。馬の毛は先が細く、また真っ直ぐではないため、細かいところに入って汚れを落とすことができます。革靴用にブラシを持っているという人は、同じものを併用してもOK。
STEP 4:中敷を洗う
中敷を取り外して、手洗いします。中性洗剤で丁寧に洗いましょう。
STEP 5:内側の汚れを拭き落とす
アッパーと同じように、内側の汚れもクリーナーと一緒にタオルで拭き落とします。
STEP 6:紐を取り替える
スニーカーの見た目の汚れに大きく関わるのが、靴紐の汚れ。紐は取り外して手洗いをするか、新しいものに取り替えましょう。紐が綺麗になることで一気に綺麗に見えるので、安価で手に入る靴紐は、新しいものに取り替えてしまうのがおすすめ。
靴紐を取り替えるだけで、スニーカー全体が綺麗な印象になります。
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また、スニーカーは、元の素材の上に色が塗られているので、履いていくうちに塗装が剥がれると、汚れのように見えてしまうことがあります。そんな時には、スニーカー用に販売されている顔料を使いましょう。ファンデーションのように薄く色がつくので、最後の仕上げにおすすめです。
STEP 7:陰干し
一通り汚れが取り除けたら、風通しの良い場所で陰干しをしましょう。水洗いはしていなくても、クリーナーには水分が含まれているので、干してからしまうことで加水分解の原因となる湿気を飛ばすことができます。
陰干しまでが終わったら、シューズの形を保つシューキーパーを入れて保管するのがおすすめ。スニーカーは、履いているうちに「カウンター」と呼ばれる、かかと部分の補強パーツが崩れやすく、カウンターの形が崩れると履き心地にも影響するため、シューキーパーで形を整えることが重要です。
Image by: FASHIONSNAP
シューオブライフ
この手順は、あくまでもキャンバス素材などのベーシックなスニーカー向けです。レザーやスエードなどの素材は、水を吸うことで変形したりシワになりやすいため、専用のクリーナーを使用してください。
スニーカーのお手入れにまつわるQ&A
ここからは、スニーカーを扱う上で浮かぶ疑問について、プロが回答!
加水分解は自宅で応急処置できる?
シューオブライフ
一度、加水分解してしまったスニーカーは、自宅で直すことができません。剥がれてしまったソールをボンドなどで接着しようと考える人もいますが、組成が崩れてボロボロになった状態に接着剤を付けても、結局剥がれてしまうのでおすすめできません。加水分解が起きてもどうしても履き続けたいという場合には、ソール交換の修理に出しましょう。
防水スプレーはどのくらいの頻度でかけるべき?
シューオブライフ
新品のスニーカーを購入したら、まず防水スプレーをかける人が多いと思いますが、その後はどのくらいの頻度でかけるべきか迷ってしまいますよね。
実は、防水スプレーは履くたびにかけるのが適切な頻度です。防水スプレーに含まれているのは、繊維を立たせる成分「フッ素樹脂」。体に有害な成分で、滞留しない仕様になっていることから、擦れることですぐに取れてしまうため、高頻度での使用を推奨します。
スニーカーを脱いだら軽く汚れを拭いてスプレーをかける、というのをルーティーン化するのがおすすめです。
ゴアテックスのスニーカーは洗える?
シューオブライフ
昨今、人気を集める防水素材「ゴアテックス(GORE-TEX)」。防水素材のため洗えるのかどうか迷ってしまいますが、水洗いが可能です。しかし、ゴアテックスの上にさらに撥水加工がかけられているスニーカーもあり、それらの加工は水洗いによって取れてしまうことがあります。
そのため、ゴアテックス素材のスニーカーをケアしたい場合には、必ず、事前にメーカーに確認するようにしましょう。
コットンスニーカーの黄ばみはどう落とす?
シューオブライフ
コットンスニーカーは、汚れとは別に、経年変化で黄ばんでしまうことがありますが、この黄ばみは、弱酸性の洗剤で洗うことで落ち着かせることができます。ちなみに、中性洗剤で洗うと「アルカリ化」と呼ばれる現象が起き、表面が焼けて、かえって汚れてしまうので要注意。自宅でのケアが難しいため、どうしても気になる場合にはプロに任せるのがおすすめです。
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