日高俊、日高琴葉
Image by: FASHIONSNAP
「コトハヨコザワ(kotohayokozawa)」の横澤琴葉(日高琴葉)と「ヒダカ(HIDAKA)」を手掛ける日高俊のデザイナー夫婦。結婚4年目を迎え、第一子も誕生するなど生活を共にする2人は、今回初の共同作業として仕事でもパートナーになった。
2人が新たに立ち上げたのは、「シンク コトハヨコザワ(SINK kotohayokozawa)」(以下シンク)。ZOZOのD2Cプラットフォーム事業「YOUR BRAND PROJECT」に参加し、10月29日にデビューする。横澤琴葉が出産から間も無い頃にZOZOの一般公募オーディションに応募し、デビューを勝ち取ったという新ラインのコンセプトは「家で過ごす自分のままで、どこまで出かけられるだろう」。日高夫妻は「コトハヨコザワでできないことを」と自宅で思いを語る。そこには、ルームウェアとストリートウェアの"間"というコロナ時代におけるファッションクリエイティブの新たな視点があった。
目指すは「ド・ストリート」?
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ーまずは横澤さん、2020年度「第38回毎日ファッション大賞」新人賞・資生堂奨励賞の受賞おめでとうございます。
横澤:ありがとうございます!まさか自分がと思っていたので本当に驚きました。
ー今回初めて夫婦で取材を受けるとのことですが。
日高:はい、結婚4年目にして初めてですね。
ー横澤さんはコレクションを1シーズンお休みされていますが、SNSでは色々と発信していますね。先日は「トゥードゥー コトハヨコザワ(todo kotohayokozawa)」の類似品について投稿していたのが気になりました。
横澤:単純に面白いなと思ったんですよね。似たものがしまむらのセールで500円で売られていて、おそらく定価だと2000円とかなのかな?ちなみにコトハヨコザワでは物によってですが1万5000円前後です。デザイナーなら抗議をするところなのかもですが、私が小さい頃はしまむらとかイオンとかユニクロで買うことしかできなかったので、もしブランドのことを知っているけど高くて買えないという人がしまむらで買ってくれてたらと思うと、素直に嬉しいんですよね。
ー達観していますね(笑)。何か確固たる自信のようなものがあるんですか?
横澤:特にそうも思っていないんです(笑)。別に発明したというわけじゃないと思いますし。
ー日高さんはこの気持ちわかりますか?
日高:どうでしょうね...。ただ価格が安いからというのは許せる理由になるのかも。高かったら話が変わってくるというか。
横澤:結局はお客さんがどれを買うかですし、私もプリーツシリーズだけで生きて行こうとは思っていないから、あまり執着がないんだと思います(笑)。自分で作ったものだからもちろん大好きですけど。私のブランドを好きでいてくれている方のために、他にもやっていかなきゃなって思うことは沢山ありますし。
ーファンから反応などはありましたか?
横澤:「大丈夫ですか?代わりにクレーム入れましょうか?」と言ってくださる方は結構いました。ただ、皆さんが良いと思ったものを買って頂けたらという感じで返信しました。本当はみんな私に怒って欲しかったのかもしれないです。
ー本題に入りますが、ZOZOからデビューした新ライン「シンク コトハヨコザワ(SINK kotohayokozawa)」について。こちらは様々な分野で活躍している23組がファッションブランドを立ち上げるというプロジェクトですが、2人もオーディションを受けたんですか?
横澤:私がオーディションを受けてきました。5月〜6月にTwitterか何かで募集について見つけて、すごく面白そうだなと思ってすぐに応募したんです。元々大きな企業と何かを作るということに憧れがありましたし、ZOZOさんとモノ作りが出来たらすごく良いなと思ったので。
SINK kotohayokozawa ファーストコレクション
Image by: ©Miyu TAKAKI
ーその理由は?
横澤:ZOZOはどこに住んでいても買える、というところですね。自分のブランドの服となると、どうしても主要都市がメインになってしまいますし。もう少し開けたというか、色々な人に着てもらえるアイテムをいつか作りたいと考えていたこともあって。
ー日高さんはどのタイミングで参画したんですか?
日高:企画を考える段階からです。考えていく中で、例えばモードなイメージのブランドだったりと色々アイデアが出てきて。でもECということで価格を安くすることが必須だったので、仮にモードなテイストを打ち出したとしてもそういうブランドは他に沢山あって二番煎じ感は否めない。そこで出たのが「ギャップ(Gap)」です。それから、イケアやコストコといった郊外のイメージを軸に。
横澤:郊外にあるモールが大好きなんですよ(笑)。ゾゾタウン(ZOZOTOWN)はモール感があると思っていたので、イメージも合うなと。
日高:あとやっぱり、僕的にブランド軸になるのは彼女がエスモード時代に作った卒業コレクション。ヤマハ(YAMAHA)のスウェットとデニムというスタイルですが、これが彼女のパーソナルな部分なんですよ。でも今コトハヨコザワだとできないので、この雰囲気をシンクで出せればと考えましたね。
卒業コレクション
ーGapのイメージと横澤さんのパーソナルな部分を融合させる。
日高:そうですね。背景やコンテクストがあるブランドで、ストーリー性があるということを伝えていきたいなと思うんです。彼女は、ヤマハのスウェットにデニム履いている昔のお父さんの写真が一つのバックボーンになっていますから、それをどうシンクに繋げていくかという作業をしていますね。
ー「家で過ごす自分のままで、どこまで出かけられるだろう」というコンセプトもパーソナルな部分を感じます。
日高:自粛期間中に彼女が始めたお家スナップがそのコンセプトを反映しているんですよね。
横澤:私は家でよくデニムを穿くんですけど、やっぱり家にいる時ってパジャマやスウェットとか楽なものになるじゃないですか。家と近所の行き来しかできない期間が2ヶ月あって、その中で色々な私服を毎日撮ったりしてみたんですけど、何も考えずにスタイリングした服装がコンビニの鏡に写ったときに「意外と良いかも」と思えたんですよね。部屋着でエコバッグを持っている姿がカッコいいなって。みんな普段家ではそういう服装なのに、会う時はよそ行きの格好だからすごく勿体無いなと思ったんです。
ーそれは横澤さんだからおしゃれに見えたのでは?
横澤:いや、そうじゃないんですよ(笑)。近所の人たちのゆるっとした格好をたくさん見て、心の底から表参道や渋谷で見る服装より見応えがあって何倍も面白いと感じたんですよね。もはやストリートってどこにあるのって感じで(笑)。そこでカッコいいと感じた、家とストリートの"間"のモノを提案できればと考えたんです。
ーワンマイルウェアという言葉がありますが、それとはニュアンスが違うようですね。
横澤:そうなんですよ。私は勝手にこの間のスタイルを「ド・ストリート」と呼んでいます(笑)。でももっといい名前がありそうなんですけど思いつかなくて。そこを見つけたら勝ちな気がします。
ー「ド・ストリート」もわかりやすいですね。新しいジャンルとして名前が浸透すれば、2010年代のトレンドメーカーとされているデムナ・ ヴァザリア(Demna Gvasalia)の次の時代を築けるかも。
横澤:ちゃんと考えてみます。もし思いついたら教えてください(笑)。
ー「ド・ストリート」の具体的なイメージは?
日高:家にいるままの格好でできるだけ遠くに行けることが大事な価値観だと思っています。それが一番豊かというか。
横澤:ドレスアップする機会があるのはもちろんいいんですけど、個人的にカッコいいなと思うのは「近くに住んでるのかな?」と思える着こなしをしている人。その格好でどこへでも行っちゃうというか。
ー気取っているスタイルがあまり好きではない?
横澤: 格好いいとは思うんですけど、自分にはあまりしっくりこないと言うか...。カッコつけることが苦手なんです。
ーなぜ苦手なんですか?
日高:郊外生まれだからですかね(笑)。
横澤:それはあるかも(笑)。でも一方で、一般家庭で育ったということが自分たちの強みだとも思うんですよ。「ファッションはお金持ちの人たちが楽しむもの」というのは昔の話だと思っていたんですけど、今も富裕層でずっといいもの見て育ってきた人たちがすごく綺麗なものを作ったり嗜好したりっていう価値観はとてもあるなと感じていて。ただそこで一般家庭育ちの私たちはカウンターとしてラッパーみたいにのし上がっていきたいのかというとそうでもなくて。苦手でやりたくないので、こういうスタンスになっているんです(笑)。
ーのし上がろうという野心はないんですね。
横澤:野心的でもないし、すごくコンプレックスがあるわけでもないんです。周りのもので自分のできる装いをしてきた、ただそれだけで。憧れも何もないんですよね(笑)。自分たちは今幸せ、それだけです。
日高:僕も本当になくて(笑)。
ーでは、仕事意欲はどこから?
横澤:今回の応募がまさにそれで、「面白そう!やってみたい!」だけですね(笑)。
「お皿洗いをしている姿を見たい」
ーブランド名「シンク」の由来は?
横澤:家にまつわる英単語で3、4文字のキャッチーな言葉がいいなと思って色々考えたんですが、商標を調べていくと使えないものばかりで。使えて語感も気に入ったのが「シンク」です。
ー台所の流しという意味のシンクですか?
横澤:そうです。水まわりがとても好きなんです。台所ってすごくパーソナルじゃないですか。
ーパーソナルだから見られたくないという人は多いですね。
横澤:私も嫌ですけど、台所や洗面台にいる人っていいじゃないですか。ずっとお皿洗いをしている宇多田ヒカルさんの「光」のPVなんて最高ですよね。歌いながらお皿を洗うって本当に素敵な光景じゃないですか。
ー人が普段見せない部分を見たい?
横澤:普段見れないコーヒーカップを洗ったりする姿って見たくないですか?見るとその人のことをきっと好きになると思いますよ。今年特に、外出自粛などを言われるようになってから人を外から見ることができる部分に限度があるっていうのをすごく痛感して。普段見せない部分を少しでも見えやすくするためには、家にいる時と変わらない服でいることが良いんじゃないかなって。
ーなるほど。ブランドコンセプトに繋がりました。
横澤:家にいる時と変わらない服だったら、外でも大胆にできたり、適当にできたりするんじゃないかなって。それをもっと広げていきたいんです。ただ全て変化がなくなるとメリハリがないので、もう少し家にいる時の自分と変わらない姿の機会を増やしてもいいよね、という提案をシンクでしていきたいんです。
ー生産はZOZO?
日高:生地の手配から生産まで、ZOZO側で進めています。
ーアイテムはシーズンで分けられているんですか?
横澤:一応そうです。10月29日に第1弾を受注販売して、次は春頃と聞いています。ただ始まったばかりなので、変更はありそうですが。
ーファーストコレクションでは、スウェットのセットアップやカットソー、デニムパンツ、エコバッグ、マスク、キャップなどが販売されます。
横澤:色々とアイデアを2人で出して「ド・ストリート」なアイテムを作りました。マスクは首にかけられるようになっていて、耳の後ろで長さを調整できます。二重になっていてフィルターを入れることもできます。
スウェット(税込7900円)
Image by: SINK kotohayokozawa
日高:今日僕が着ているカットソーはかなりGapなどからリファレンスをもらっています。
横澤:古着が好きで良く買うんですけど、結局クローゼットに残るものってボロボロのボーダーTなんですよね。それで作ってみようと。3色展開で、洗えば洗うほど味が出るようなデザインにしています。
ーこのキャップは「ヒダカ」特有のデザインも取り入れていますね。
横澤:ペンがさせるのはそうですね。ポケットには小銭やカードを入れてもらいたいです。
日高:「ヒダカ」の方が売れなくなってしまうので、正直このアイテムは出すのが嫌だったんですが、彼女に押し切られました(笑)。
横澤:あとTシャツのグラフィックはストーリーズに投稿された動画をイメージしていて。デニムはスマホの跡がついたようなデザインを採用しています。多分こういうスマホの跡がついたデニムが古着屋に並ぶようになるのって5年後くらいだと思うんですけど、それを今やってみたというか。
ー結構ロゴを打ち出しているんですね。
日高:このデザインだったらロゴものにしたほうがいいなと思ったんですよね。
横澤:単に今回作ったロゴをすごく気に入ってるっていうのもあります。Gapしかり「ポロ ラルフ ローレン(Polo Ralph Lauren)」しかり、アメカジを見て育ってきた人間が作ったらこうなりました。
ーこのランドリーバッグとしても使えるエコバッグは、まさに家でも外でもというデザインですね。
横澤:買って下さい、5900円で買い求めやすいので(笑)。中に使っているのは緩衝材のプチプチで、使っていくうちに潰れていくと思うんですけどそれもすごくいいと思うんですよ。最初から潰してもいいですし。リバーシブルになっていてプチプチ側を表にしても可愛いです。
ー大手企業との連携の部分で難しさはありましたか?
横澤:結構ありましたね。このデザイン画のどこに私が惹かれていて、どこが譲れないポイントなのかとかがなかなか共有できなかったり、最初はコミュニケーションの部分でうまくいかず。コトハヨコザワは少人数でおこなっており、意思疎通ができるアシスタントがいるので、ざっくり伝えれば思い通りのものができるんですが、初めて仕事をする方々の場合、いつもの感覚的なディレクションだと伝わらないんだなって。
日高:でもあなたはちょっと下手過ぎたと思うよ(笑)。この人は指示書もかなり適当で。僕はそういうところが得意なので最初からアドバイスすれば良かったんですが。
横澤:何をもって良しとするかの部分が、人と結構違うのかもしれないです(笑)。解像度も粗いというか...。
日高:だいぶ粗いね(笑)。
横澤:でも解像度を高めすぎてしまうと伝わらないものってあると思うよ。
ーどういう意味ですか?
横澤:緻密でマニアックなものはとてもコアな人に刺さる、一方で解像度が粗いざっくりなものは全然違うジャンルの人たちが興味を持ちやすいなと思うところがあって。私はそっちのほうが好きなんですよね。玄人が褒めるものもそれはそれで素晴らしいんですけど、もっと広がるものの方が好きなので。
ーターゲティングやセグメントをしないということですね。老若男女が着られるようにと。
横澤:そうですね。そのほうが楽しいと思いますし。
ー逆に楽しくない時はあるんですか?
横澤:手が止まってしまうときはあります。スイッチが入らない時は本当に何もやりたくなくなります(笑)。
日高:全部うまく行っているのに、どうして何も進められないのだろうって僕ですら思います(笑)。
横澤:基本的には常にハッピーなんです。でもたまに刺激が足りないというか...。わからなくなっちゃう時がたまーにあります。何のためにやってるのかとか。
日高:お金への執着もないし。
横澤:でもお金を稼ぐことは好きなんです。売り上げが伸びたっていう結果は素直に嬉しい。でも個人では一体何をとか考えてしまって...趣味がないからかもですが。
日高:でも結構出かけてるじゃん?
横澤:子どもが保育園に行っている間だけは自分の好きなことをやろうと貪欲。今しないともったいないなって思ってしまうんです。でもそう言っておきながら、家でグタグタしてしまうんですけど(笑)。
ーブランドに子育てにと大変だと思っていました。
横澤:コレクション発表は2021年春夏シーズンをお休みしたので、意外と余裕はあります(笑)。その分プロジェクトごとで色々とやっていこうと思っていて。シンクもそうですし、年内は「トゥードゥー コトハヨコザワ」のアイテムをカスタムできるサイトを開設して、古着やアーカイブなどをカスタマイズして作る「サムバディコトハヨコザワ(somebody kotohayokozawa)」では100点の一点物のアイテムを限定販売しようと思っています。
ー最後に、これからシンクで何を目指していくか教えてください。
日高:インタビューを受けていて思ったんですが、こういう定番系アイテムを展開するのにパーソナルなブランドってあまりないと思うんですよね。このテーマでデザインしていくともっとプロダクト寄りになるから、あまりエモさが出てこなくなります。ヴィンテージやオールドだったら分かりますけどね。なので新品なのにちょっとエモさがあるブランドってところで、皆さんに愛されるブランドになれればなと思います。
横澤:うん、確かにね。そうなれたら嬉しいなあ(笑)。
(聞き手:芳之内史也)
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