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サスティナビリティって環境を守るだけじゃない 資生堂の「化粧品を売る」以外の役割とは?

Video by: FASHIONSNAP

 今、「サステナビリティ活動」と聞くと、何を思い浮かべるだろうか? 多くの人は「環境」についてイメージするだろう。買い物袋の有料化や、ペットボトルや空き缶などの資源の再利用など、地球環境を壊さず良好な経済活動を維持し続けるさまざまな取り組みとして認知されてきている。しかし、国連が定めた持続可能な開発目標SDG’sには「すべての人に健康と福祉を」「ジェンダー平等を実現しよう」などの項目があるように、「誰もが平等で生きやすい社会」にしていくこともサステナビリティ活動だ。化粧品メーカーのリーディングカンパニーである資生堂は、さまざまなサステナビリティ活動を展開しているが、そのなかでも今回は、70年以上の歴史をもつ「資生堂 ライフクオリティー メイクアップ」についてフォーカス。資生堂 ダイバーシティ&インクルージョン戦略推進部 ライフクオリティー メイクアップ ブランドマネジメント担当の森田京子さんに話を聞いた。

 「資生堂 ライフクオリティ メイクアップ」とはーー。
あざや白斑、やけど跡や傷跡、がん治療などによる見た目の変化。肌の深い悩みを持つ人のために、商品開発、トータルメイク提案など、さまざまにサポートする活動。

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きっかけは、ある患者さんに施したメイク

 活動の始まりは1956年と歴史が長い。「正確にいえば、これらの前衛ともいえる活動は1949年にスタートした『整容講座』から引き継がれています。高校卒業予定者を対象に社会人の“身だしなみ”としてのメイクのノウハウを紹介していたのですが、その後化粧の社会への浸透とともに『すべてのお客さまに美しくなっていただきたい』という思いのもと、高齢者・障がいのある方、さらには学校・企業など対象者を拡大してきました」と森田さん。

 「資生堂 ライフクオリティー メイクアップ」の現在の主な活動内容は、肌に深い悩みを持つ人のための商品開発やトータルメイクの提案など、そのサポートは限りなくある。あざや白斑、やけど跡や傷跡、がん治療などによる見た目の変化で苦しむ人々に寄り添い、どのように応えていくか。その活動のきっかけとなったのは、「ある患者さんとの出会い」だったという。

 当時、医療機関から依頼を受け、資生堂のヘアメイクアップアーティストが、やけど跡に苦しむ人たちにメイクを実施した。すると、メイクを受けた人たちから「魔法がかかったみたい」と笑みがこぼれ、多くの人がメイクを落とさずそのまま帰宅。「いつもは傷が気になって下を向いて歩いていたけど、その日は顔を上げて帰りました」というお礼の手紙が届いたという。「当時の担当者は、見た目の変化でこんなにも苦しんでいる人がいることにもびっくりしたらしいのですが、その一方で、自分たちの経験や技術が患者さんたちを笑顔にできたことが嬉しかったそうです」。

社員の思いが一つに、商品開発を開始

 見た目の変化で苦しむ人との交流が大きな渦となり、会社全体の取り組みとなって広がった。メイクのノウハウを教えたメイクアップアーティストはもちろん、その場に居合わせた社員たちもその“笑顔”に惹きつけられ、思いは一つに。「あざや傷跡、やけど跡が目立たないファンデーションを作りたい」。商品開発がスタートしたのは自然な流れだったという。そして1995年、パーフェクトカバーシリーズが誕生した。

パーフェクトカバーシリーズ

今年の3月にリニューアルしたパーフェクトカバーシリーズは、肌色・凹凸・バランスなどの悩みに応えるラインナップ。固形クリームファンデーションとリキッドファンデーション(白斑用)の2種とルースパウダー、クレンジングオイルの計4品。

「パーフェクトカバー ファンデーション MC」SPF30・PA+++(全7色、各20g、3850円)。肌の青み・赤み・茶色のあざやシミ、がん治療などの副作用によるくすみなどもしっかりカバーする部分用ファンデーション。豊富な7色展開

「パーフェクトカバー ルースパウダー」(10g、3850円)。ファンデーションの上からしっかりフィットしてマスク移りを軽減してくれるルースパウダー

知識と経験を1冊の本に 「化粧の力」で笑顔に

 「現在は、がんと就労という社会課題解決の一環として『化粧の力』で支援活動を続けています」と森田さん。「日本人の2人に1人が、がんになる時代と言われており、がん患者さんはさまざまな悩みを抱えています。たとえば、抗がん剤治療の副作用で髪の毛や眉毛・まつげが抜けてしまう…。当たり前にあった眉毛やまつ毛がなくなってしまい、『どこに、どのようにメイクをしたらいいかわからない』という方が多いそうです。そんなさまざまな悩みについて、会社としてできることはないか、と考え、2008年から患者会と連携したセミナーを通じ外見ケアに対する研究をしていました」。また同社は昨年、ウェブ調査を実施。がんになり抜け毛などによる外見の変化について93%の人が「気になっている」と回答し、さらに73%の人が「外見の変化を周囲に相談しづらい」という結果になった。

 「こういった現実に、私たちはどのように応えたらいいのか…」。もちろん、患者や悩みを持っている人のところへ出向いて、メイクの仕方をレクチャーすることもあれば、セミナーなどを開催することもあるが、そもそも外出ができない状況の人や、また新型コロナウイルスの影響でさらに外出がままならなくなった中で、悩みを抱える多くの人に何かできること、またプラスαのできることはないのか。

 「出てきた答えは、『化粧の力』でした。私たちが持っている知識と経験を1人でも多くの人に知ってもらい、役立てていただきたい。そう願い、2015年にスキンケア&メイクのお手入れガイダンス『外見ケアBOOK』を制作し、今年2月にジェンダレス版としてリニューアルしました」。この本は本当に必要としている患者さんやその家族の人々に届けられるよう、病院や医療施設でも配布している。「メイクは、ただ化粧する、きれいになるだけのものではなく、心のケアであり、その人らしさを引き出し、守ることでもあるんですよね」と語る。

今年2月にリニューアルした「外見ケアBOOK」

さまざまな活動への参加が社員の気持ちの変化に繋がる

 さらに同社は、がん患者の方が笑顔で過ごせる社会のためにがんサバイバーを支援する活動「LAVENDER RING」に参画し、「MAKEUP&PHOTOS WITH SMILES」を主導する。「資生堂のビューティーコンサルタントと資生堂美容室が、がんサバイバーをその人らしくヘアメイクして、その生き生きとした姿をプロのカメラマンが撮影して発信する」活動だ。毎年、社内でボランティアを募集する。「参加した社員からは『来年も必ず参加したい』と返ってきます。『化粧品会社だからこそできる取り組み』『入社した時の気持ちを思い出した』と熱い思いを語る社員もいました」。

 これらの活動内容はCMやプロモーションイベントのような派手さや華やかさはないかもしれない。「ただこういった取り組みが、「誰かの、自分らしい毎日」に繋がっているのであれば、こんなに嬉しいことはないんです」と森田さんは笑顔を見せる。患者さんと触れ合うことで、「こんな活動をしていたのね」「こんな本があったんだ」「もっと早く知りたかった」と言われることが多いという。会社で得た利益を社会活動で還元する。今まで積極的に語ることはなかったが、多くの人が知ることで、より良い社会づくりに繋がっていくのだろう。

 「これ以上、“知らない”ということがないように。化粧品会社の社員だからこそ、この活動の意義がある」と語る森田さんの言葉が響く。

■がんサバイバーを支援する活動「LAVENDER RING」:公式ホームページ

(文:長谷川真弓、企画・編集:福崎明子)

美容エディター・ライター

長谷川真弓

編集プロダクションを経て、広告代理店で化粧品メーカーの営業を7年半担当。化粧品のおもしろさに目覚め、2009年INFASパブリケーションズに入社。美容週刊紙「WWDビューティ」の編集を担当し、2014年にフリーに転身。ビューティにまつわるヒト・コト・モノを精力的に取材している。

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