「タナカ」デザイナーのタナカサヨリ
Image by: FASHIONSNAP
「タナカ(TANAKA)」は、2018年にニューヨークを拠点にする日本人デザイナーのタナカサヨリ(Sayori Tanaka)が立ち上げたブランドだ。海外で手掛けたデザインを日本で生産し、日本のモノ作りを世界中に発信している。「今までの100年とこれからの100年を紡ぐ服」をコンセプトに掲げ、デニムやワークウェアの普遍的なアイテムを、性別や年齢、国籍を問わない多様な人々へ提案。環境に配慮したモノづくりや日本の伝統的な技術を取り入れながら、デザイン性とサステナビリティの両立を目指している。
■タナカサヨリ
東京モード学園アパレルファッションデザイン学科卒業。ヨウジヤマモトにて「ヨウジヤマモト ファム」「ヨウジヤマモト プールオム」「ワイズ フォー メン」で企画、ニットカットソーデザイナーとして約4年経験を積む。ファーストリテイリングに入社し、「ユニクロ」のウィメンズデザインのチームリーダーとして東京、上海、ニューヨークのオフィスで約11年間勤務。17年にニューヨークを拠点に「タナカ」をスタート。国内ではビショップ(Bshop)やシティショップ(CITYSHOP)バーニーズ ニューヨーク(Barneys New York)、エスティーカンパニー(st company)などで取り扱う。
デザイナーのタナカは、ヨウジヤマモトとユニクロの異なるグローバルなファッション企業で経験を積んだ。ヨウジヤマモトでは、「ヨウジヤマモト ファム(Yohji Yamamoto FEMME)」などで企画やカットソーデザイナーを担当し、ユニクロでは、ウィメンズデザインのチームリーダーやデニムのデザイナーとしても数多くのヒット商品を生んできた。現在はタナカは、ニューヨークに留まらず、パリやミラノ、東京でもデザインの仕事をこなすほか、ポッドキャスト「NEWWWNAME」のパーソナリティーを務めたり、ダンサーや音楽家への衣装提供を行ったりと活動の幅を広げている。日本に一時帰国したタナカに、モノづくりのこだわりや今後の目標などついて聞いた。
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「タナカ」2021-22年秋冬コレクション
Image by: TANAKA
着想源はニューヨークの多様性
―どのように「タナカ」をスタートさせましたか?
前職のユニクロ時代にニューヨークに赴任したのがきっかけでした。ニューヨークの街がとても気に入って、住む人や生活、カルチャー、ファッションにインスピレーションを受けて、自分のブランドを立ち上げたいと思いました。
―影響を受けたのは、ニューヨークの多様性?
はい。リアルクローズに多様な文化が混ざり合っているのが面白いなと思いました。例えば、性別の行き来ができるところ。スケスケの服を着ている男性もいれば、ボウズ頭でおじさんのような格好をしている女性もいて、それがファッションとして成立している。さまざまな人種の方がいるので、「それは、どこで買ったのだろう?」と疑問を持つような、日本では見たことがない柄や色の服を見られることもいい。ファッションに対する考えが自由なところが刺激的ですね。
―コンセプトの「今までの100年とこれからの100年を紡ぐ服」にはどのような思いを込めていますか?
サステナビリティに対する意識は学生の頃からあり、「世の中にたくさんの服が溢れている中で、洋服の仕事をしていていいのだろうか?」「私が新しい服を作る意味はあるのだろうか?」と思うことが多々ありました。同級生でも深く考えて、ファッションの道を諦める子もいましたね。でも私はファッションの魅力に支えられ、励まされてきて、ファッションを通して何かを恩返しができたらと思うようになったんです。そこでトレンドを追うというよりも、しっかりとモノ作りをしている会社に入ることができたので、そういった疑問を抱かずに働くことができました。だからこそ、自分でブランドを立ち上げるときは、タイムレスで長く愛される服を目指していきたいという思いはありました。
主力アイテム、デニムへのこだわり
―「タナカ」ではデニムが主力アイテムになっていますね。
ユニクロではデニム担当を任せていただき、そこでさまざまなブランドで経験を積んだデニムマスターたちにお会いする機会に恵まれました。その方たちからデニムの本格的な知識や生産背景を教わり、たくさん吸収させてもらいましたね。そこで出会ったデニム生地メーカーのカイハラ、加工の西江デニムとは、自分がブランドを立ち上げてもご一緒したいとオファーして今に至ります。おかげさまで「タナカ」のデニムは海外でもとても反応が良く、ブランドを代表するアイテムになっています。日本のデニム生地は、ヨーロッパとは異なり、「上品でありながら、NYのストリートの雰囲気もあり、バランスがいい」という嬉しい評価もいただきました。
―モノ作りでは環境問題に配慮されていますね。「タナカ」流のサステナビリティとは?
サステナブルであっても、見た目や着心地が良くない服では必要とされないと思います。クオリティとデザイン性を大前提に、そこからできることを考えています。例えば、デニムは緯糸(ヨコ糸)に落ち綿を混ぜたリサイクルコットンの生地を採用したり、奄美大島の伝統的な泥染めをしたりと工夫しています。定番のローホワイトデニムは、染めていないので水を汚染しないで生産できますね。また加工をお願いしている西江デニムは、排水を飲み水までできる浄化システムがあり、そういった工場と取り組むことも大事だと考えています。
ファッションとエンターテインメントの融合
―ポッドキャスト「NEWWWNAME」では、世界中に住む日本人のクリエイターにインタビューしていますね。なぜポッドキャストを始めようと思ったのですか?
ミラノのラグジュアリーブランドでデザイナーを務める友人のケイくんと一緒に始めたプロジェクトです。アーティストは、本業以外の場面でも活躍をしている人が多く、歌手を本業にしながらも、俳優業を行ったり、ラジオの番組を持っていたり、絵を描いたりと、役割が多様化している人々に魅力を感じていました。そこで、自分たちも多様な活動をしてみたいと思ったんです。番組では、デザイナーやアーティストの生い立ちや経歴を聞く中で、その人について理解が深まっていき、勇気付けられることも多いです。たまたま聞いたリスナーが、ゲストや私たち、ブランドのファンになってくださることもあり、このポッドキャストが今後の私たちの活動につながっていくと思っています。
―ダンサーや音楽家にも衣装提供をしていますね。アーティストをオンラインで見つけて、タナカさんからアプローチされている?
コロナ禍でライブパフォーマンスが中止になり、コレクションを通して躍動感を見せたいと思いました。見渡すと他のデザイナーたちも同じことを考えていて、ダンサーに服を着せてコレクション発表した方も多かったと思います(笑)。ある時、SNSで福岡に住むダンサーのユリナジア(yurinasia)さんの映像に惹かれました。ユリナジアさんは20代で2児の母でダンサーとして活躍し、日本の地方からの熱量とパワーを感じます。9月に横浜で行われた「Dance Dance Dance」というイベントでは、ユリナジアさんを含む35人の若きダンサーさんたちに衣装を提供させていただきました。工場の協力を得ながら、「タナカ」の代表的なデニムを10色用意し、6種のペイントを施しました。また先日は、ニューヨーク在住の日本人トランペッターの黒田卓也さん率いるエータックバンド(aTak band)の衣装も提供し、フォトプリントを施したシルクウェアのシリーズを着用いただきました。
©jABBKLAB、撮影映像制作:ayumugugu
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「タナカ」を着用したトランペッターの黒田卓也
Image by: genya
―タナカさんは、ニューヨークを拠点に、パリ、ミラノ、東京でも仕事をしていますね。どうしたら、そのような働き方が実現できますか?
「どこがベースなの?」とよく聞かれますが、「地球ベース」と答えています(笑)。コロナ禍で移動はしにくくなっていますが、日本人は多くの国に観光ビザで約3ヶ月は滞在できますね。共感しあえる友人や協力してくれる仲間がいれば、実現できると思います。
―今後の目標は?
2019-20年秋冬にニューヨーク・ファッション・ウィークでプレゼンテーションを行い、今後もどこかの都市でコレクションを発表したいと考えています。また音楽やダンスなどのエンターテインメントを組み合わせることの楽しさも味わったので、そのような発信も続けていきたいですね。舞台衣装にも興味があるので、いつか携わってみたいです。
フォトプリントを施したシルクパンツ
Image by: FASHIONSNAP
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