FASHIONSNAPの新春恒例企画、経営展望を聞く「トップに聞く 2023」。本年はアフターコロナにシフトする中で各企業に求められている「イノベーションをテーマに送る。
第14回は、イスラエル発のナチュラルコスメブランド「サボン(SABON)」を展開するサボン ジャパン代表取締役社長CEOの畠山喜美恵氏。ブランド誕生25周年を迎えた2022年は、日本初のアンバサダー起用や世界初のスパを中目黒にオープンするなど華やかなニュースが踊り、コロナ禍といった不透明な状況が続く中でも、攻めの姿勢で成長を続けた。一方で華やかさの裏では教育改革や、Bコープ認証取得に向け着実に基盤を固めた年でもあった。2023年は日本上陸15周年。続くアニバーサリーイヤーに、打つ手はーー。2022年の振り返りとともに聞いた。
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■畠山喜美恵(サボン ジャパン代表取締役社長CEO)
ラグジュアリースキンケア、フレグラスブランドの日本上陸とブランド成長に携わり、2018年からSABON Japan 代表取締役社長CEOを務める。
ブランド誕生25周年、華やかに沸いた2022年
ー2022年を一言で振り返ると?
ブランド誕生25周年という記念の年で、とても華やかな1年にすることができました。初のジャパン アンバサダーを務めていただいた女優の桜井日奈子さんとの出会いも非常に素敵なものでした。彼女の華やかさや、柔らかさ、ライフスタイルがブランドのイメージにフィットしていて、お互いにとって豊かな関係を築くことができたと思います。
ーオーガニック認証取得の「ローズ フェイスケアライン」の発売も大きなニュースの1つでした。
昨年8月末に発売したオーガニック認証取得の「ローズ フェイスケアライン」は大きな進化でした。ブランドのミッションとして地球環境に配慮していることはもちろん、ブランドヴィジョンにもある「日常の喜びに満ちあふれる、きらめく感動の瞬間を大切にします」ということも含めて、効果実感の高いフェイスケアでありながらも、五感を満たしながら幸福肌に導くといった、サボンらしいフェイスケアを提案することができたと思います。またオーガニック認証の取得は、お客さまからの安心と信頼につながっており、コミュニケーションが広がったのではないでしょうか。
ーこの製品でこれまで以上にスキンケアのニーズが高まったのでしょうか?
そうですね。2022年はこれまでサボンと言えば、ボディケアやバスブランドのイメージが強かったと思いますが、そこからフェイスケアへと移行ができた年とも言えます。メイクアップアイテムこそありませんが、総合的なブランドへと躍進した年になりました。ローズ フェイスケアラインは下半期のローンチでしたが、大きな動きで売上に貢献し、フェイスケアカテゴリーは前年比5%増と好調でした。
ー昨年は中目黒の旗艦店をリニューアルし、世界初のスパも併設しました。
サボンは世界で初めて化粧品売り場にウォータースタンドを設置し、お客さまをご自宅に招き入れるような、おもてなしを大切にしたストア作りを行っています。そういった文脈の中で、フラッグシップとなる「サボン アトリエ スパ(SABON l'Atelier SPA)」をオープンして、ホリスティックにブランドを体験いただけることに、大変意義があると考えています。都会の喧騒を忘れて、羽を休められるような、まさにオアシスができました。
世界初のスパではパーソナライズされたサービスをお届けすることで、お客さまからとても満足していただき、リピート率も高いです。またフラワーショップとのコラボレーションやアフタヌーンティーなど、フラッグシップならではのイベントを開催するなど、さまざまな角度からサボンを楽しんでいただけるような空間にもなっています。全国からブランドのファンが集まっていただき、さらには初めてサボンを知る人にも訪れるたびに喜びと驚きを届けられたことで、ビジターは想定の300〜400%超を記録し、売上を含めて良い状態で推移しています。
「サボン アトリエ スパ」
Image by: サボン
ー続くコロナ禍に、円安、原料・輸送費の高騰など市場には多くの課題がありますが、サボンへの影響は?
われわれは幸いにして、本国が早い段階で原料調達のパイプラインを構築したことで、2021年は製品の入荷やローンチが遅れることはほとんどありませんでした。ただ、急激に成長をし続けてきたことで想定の2、3倍の製品を提供しなければならず苦労しましたが、よくハンドリングできたと思います。一方で2022年に入って船便が届かないなどのトラブルがありながらも滞りなく順調に進められたのですが、為替の問題や、原料をはじめ、燃料や輸送費などが高騰する中で、心苦しくはあったのですが、10月に一部製品の価格を上げるという決断をせざるを得なかったのも事実です。
ー価格改定によって、客足に変化はありましたか?
価格に関しては、お客さまの判断に委ねるしかありません。プレミアムな製品であることから、1製品が100〜200円上がることもあり、インパクトは大きかったと思います。駆け込み需要やまとめ買いも見受けられ、10月以降は若干静かになったところもあります。それを補完すべく、10月からもいかにお客さまに気持ちよく楽しく来店していただくか。新製品を含めたプロモーションを展開するなどで計画的に新客を獲得し、乗り越えることができたのではないでしょうか。結果的に価格改定による事業全体への打撃はほとんどなく、2022年の業績も非常に好調で、2桁に近い伸長率となりました。
原点に立ち返る、ウォータースタンドを起点にした感動体験を届ける教育改革
ー製品や旗艦店以外で好調の背景をどう見ていますか?2022年に行ったことは?
下半期に、スタッフ教育に力を入れたことが挙げられると思います。2020〜21年はコロナ禍でも手を緩めず邁進したことで、あまりのスピードで店舗の売上が拡大し、同時にEコマースも成長を遂げました。店頭には常にお客さまがあふれている状況で、そのような中では、一人ひとりのお客さまのニーズを細かくお伺いして、さまざまな提案をすることは難しかったのも事実です。サボンでの体験を、感動体験へと変えることにうまくピントがあってなかったようにも思います。2020〜21年に比べると、2022年は成長しながらも、そのスピードは緩やかだったこともあり、お客さま一人ひとりに寄り添い、感動体験を届ける体制を整えることができた1年だったとも言えます。
ー具体的にはどのような教育改革を行なったのでしょうか?
行き着くところは、来店時にちょうど良いタイミングでお声がけをして、まずはウォータースタンドで製品を試していただくことです。ウォータースタンドでの体験は、サボン独自のエンターテイメントでもあり、製品の良さを実感してもらう大切な“シーン”なのですが、忙しい状況や多くのお客さまが来店してくださる状況では、ウォータースタンドをきちんと活用して、サボンの良さをお伝えする丁寧な接客ができていませんでした。
そのため、ビューティーアドバイザーを増員しながら、感動体験を届けられるような教育のモジュールを作成しました。ウォータースタンドには蛇口が3つあり、輪になって3人のお客さまが立てるようになっています。スタッフによっては偶然居合わせた3人のお客さまとコミュニケーションすることができ、お客さま同士の会話が生まれることもあります。小さなサロンがそこに生まれるのです。リアルの店頭にわざわざ足を運ぶのは、人や物に触れ合いたいから。原点に立ち戻りウォータースタンドを活用して、お客さまと会話する。これはサボンならではの特別な体験だと考えています。
ーそのほか人材育成で取り組んだことがあれば教えてください。
これまでアルバイト比率が高く、離職につながる懸念もあったことから、キャリアアップできる人事評価制度を構築しました。教育制度と人事制度の見直し、加えて福利厚生の充実を計りました。社長に就任してからの4年、働きやすい環境づくりを進めてきましたが、2022年は制度の更なる充実を図ることができたと思います。
ーリアルの店頭だけでなく、Eコマースも好調です。
Eコマースは2桁伸長の着地と非常に良い数字です。10月以前はまだステイホームのムードがあったように思いますが、制限が緩和された11月以降は世の中のムードが変わりました。あえてEコマースを選択する人も多かったと思いますが、サボンではデジタルの施策からEコマースだけでなく、店頭に足を運んでもらえるようなスキームが構築できたと思います。
中でもライブコマースが大きく飛躍しました。店頭のスタッフが出演し製品の素晴らしさを説明することはもちろんですが、たとえばゲストを招いて魅力を分かち合ったりすることで、出演者のファンの方にもブランドを知っていただく機会を得たと思います。さらに手前味噌ではありますが、私もときどき配信に参加し、ブランドの世界観や製品に込めた思いを発信したり、質問にお答えしたりすると、とても共感を持ってコメントしてくださる方が多く、こういったコミュニケーションがとても重要なのだと実感しました。
ライブ配信で商品の魅力を伝える畠山社長
Image by: サボン
ーデジタル、SNSの進捗はいかがでしょうか?
LINEのお友達は220万人を超え、最大価値を生むことができています。そのほかInstagramが好調ですが、バズの大きさという点ではTwitterも大切にしています。またTikTokの存在感が大きくなり始めているので、強化していきたいところですね。また2022年は多数の動画制作にも取り組み、お客さまに「サボンのある生活」を自分ごと化してもらえるような発信をしました。今年はさらに精度を上げることと、内容を多角的に分析して、包括的かつ戦略的に取り組んでいきます。
近い将来全製品をヴィーガンに
ー創業からサステナブルにまつわる取り組みは自然に行われています。昨年、新たに行った取り組みは?
サボンではほとんどの製品をガラス容器で提供しているのですが、使い終わった容器をインテリアやフラワーベースとして再利用することで、新たな“命”を吹き込みながら、再び生活をうるおし、愛を生み出すという、Reuse, Renew, ReLove(リユース、リニュー、リラブ)を推奨しています。
昨年はさらに、中目黒の旗艦店サボン アトリエ スパで、空きガラス容器の回収もスタートしました。さまざま理由で破棄されてしまう花に新たな命を吹き込む活動を行うRINとコラボレーションしたフラワーショップもオープンしています。ロスフラワーをドライフラワーとしてアップサイクルし、 ブーケや製品とセットにしたフラワーギフトボックスとして販売するなど、花の命を長く楽しみながら、生活に取り入れることで花の廃棄ロスに貢献しています。
また日比谷公園にサボンの花壇「Gardens of Wonders」を作りました。グローバルのコンセプトの1つであるボランティア活動「Seeds of Joy」にも通じます。植え替えなどで土や花に触れることはフラワーセラピーの効果もありますし、地球環境を整える瞬間にも立ち会えます。さらに障がいを持つ方を雇用する会社と提携し、この花壇の日々のお手入れをお願いすることで、雇用機会の創出が可能になりました。今後は、この花壇を起点に、植え替えの体験や公園でのヨガ教室など、お客さまをお招きして自然に触れながら、サボンを“体感”してもらう。コミュニティを作れるようなアクションをしていきます。毎日の健康な生活は大切で、それは心にも言えることです。心が満たされた状態が体を健康に保つことにつながりますし、充実した生活を送るという意味でも、この花壇は非常に有意義だと思っています。サステナビリティとCSRはイコールになりつつありますね。
「RIN」とコラボレーションし、廃棄されてしまう花をドライフラワーとしてアップサイクル
Image by: サボン
日比谷公園に作ったサボン花壇「Gardens of Wonders」
ーそのほかのサステナビリティにおけるイノベーションは?
製品面では相当なイノベーションが起きています。オーガニック認証の取得しかり、製品のアップグレードも果敢に行っており、マイナーチェンジについては大々的にお知らせをしていませんが、細かな成分の変更に水面下で取り組んでいます。近い将来ほぼ全ての製品でヴィーガン処方を宣言できる日が来ることを楽しみにしています。地球に、お客さまに、より優しい処方を目指しています。
2023年は日本上陸15周年のアニバーサリーイヤー
ー2023年の戦略について教えてください。
昨年のブランド誕生25周年に続き、2023年は日本上陸15周年のアニバーサリーイヤーです。みなさんに自分ごと化していただけるような取り組みを行います。まずは関係者やプレスの方々をお招きした15周年イベントを開催しました。八芳園の白鳳館を会場に桜を咲かせ、サボンのあゆみをご紹介するコーナーをはじめ、おみくじ、飴細工など、縁日のような演出を通してサボンが大切にしているメッセージなどを体感いただきました。その中で、15周年のメイン企画として、漫画家のいくえみ綾さんに賛同いただき、サボンにまつわるみなさんの、きらめく感動のエピソードを描き下ろしで漫画化する企画「Emotional Story」を発表しました。美容誌「美的」とのコラボレーションで、エピソードを募集し3回に渡って公開します。
Image by: FASHIONSNAP
また15周年を記念して特別につくられた「サクラ・ブルーム コレクション」もお披露目し、日本の精神を象徴するような“桜”に、ブランドの発祥地イスラエルならではのエッセンスを融合したアイテムをゲストのみなさんに堪能いただきました。
「サクラ・ブルーム コレクション」
「シャワーオイル ブルーミング」(300mL 税込2970円)や「ボディスクラブ ブルーミング」(320g 同3960円)などのボディケアアイテムから、「ハンドクリーム ブルーミング」(30mL 同1540円)ハンドケア、「ファブリックミスト ブルーミング」(300mL 同3300円)といったホームアイテムまで揃える
Image by: サボン
3月のホワイトデーで男性に選ばれるサボン
ー2023年、これまで以上にメンズコスメにコミットするブランドが増えていますが、サボンはいかがでしょうか?
昨年、メンズシリーズ「ジェントルマン コレクション」を刷新しましたが、そのときに「あなたにとってジェントルマンとは?」をテーマに俳優の窪塚愛流さんをはじめ、さまざまなシーンで活躍する男性にフォーカスするムービーを制作したところ、再生回数もそうですが、とても好評で共感していただける部分はあると思いました。サボンはアイテム数が限られているため、メンズコスメブランドのような見え方にはなりませんが、ジェントルマン コレクションだけでなく、サボンのどの製品でもカップルや家族でシェアしている人が多く、比較的ユニセックスなブランドでもあると思います。たとえば、「奥さんが使っていて良い香りだから一緒に使っています」ということも良く耳にしますし。カップルや家族で使っていることを踏まえると、おそらく想定の倍は男性使用の機会はあるのではないでしょうか。
サボンと男性にまつわるエピソードでいうと、私が4年前にサボンに入社して、1つの社会現象だと思ったのが3月のホワイトデーです。実はサボンにとって3月は、1年で2番目に売上が高い月。来店の動機の1つは、デジタルで検索し「サボンなら間違いない」と思っていただく場合、2つ目はパートナーから「サボンが欲しい」と言われたから。いずれにせよ、ギフトを求めて来店されてサボンを“体感”していただくと、ギフトにプラスして自家需要として購入される方も多く、これから来る3月は男性客をより増やしていける大切な月なので、じっくりと取り組んでいきます。
ー今年の成長も2桁を目指しているのでしょうか?
15周年で発信を強めますし、先ほどもお伝えしましたが、今年は製品のイノベーションにも注力しており、サクラ・ブルーム コレクションを皮切りに、今年もフェイスケアの新製品など続々ローンチし、2桁成長を目指します。
2025年のBコープ認証取得を目指す
ーサステナビリティ活動の今後の取り組みは?
大きな目標にしているのは、2025年までのBコープ認証の取得です。取得企業が増えている中で、今後さらにBコープの認知度は高まっていくでしょう。お客さま、取引先、従業員、会社を取り巻く全ての人々において公益性と透明性のある会社運営をしていくことをコミットメントするための指標として、Bコープ認証の取得は非常に重要だと考えています。2021年から取得に向け進めていますが、これもある意味でひとつのイノベーションですよね。さまざまなシステムなどを大幅に変更し、福利厚生も整えています。ウェルネスプログラムや、毎月社員とコミュニケーションを取りながら、向上心を持って生き生きと仕事ができるようなプログラムの導入、さらには積極的なボランティア活動など、社外からは見えないところでもさまざまな活動を行っています。2025年の取得に向けて、さらに細かいところまで改善をしながら進めています。
(参考)
Bコープ(B Corporation)とは
米国の非営利団体B Labによる国際認証制度。厳格な評価のもと、環境や社会に配慮した公益性の高い企業に与えられる。
ー今までの経営からは大きく変化する必要があるのではないでしょうか?
そうですね。良い変化はとても良いことだと思っています。「こういう指標があり改善に積極的に取り組んでいる」「社会的な役割をより良く実現しようとしている」と、会社の取り組みが社員にリアルに伝わります。会社が実行することに自分たちもコミットメントして、一緒に会社を、そして社会を良くしようという気持ちになってくれていると感じています。会社や自身の仕事へのエンゲージメントが高くなっていると感じることもあり、取得を目指して良かったと思います。
私は会社経営、ブランド運営においては「人が全て」だと考えています。社員全員が同じ方向を向いて進み、もっともっと輝くブランドにしていくために、1人でも多くのお客さまに愛してもらうために、よりミッション感と高いエネルギーを持って、さまざまな仕事に臨んでもらえると嬉しいですね。大変なことも多いのですが、それはやりがいのある大変さで、とても充実しています。Bコープ認証の取得に向けて、社内改革を積極的に推進していくことで、確実に思い描いている方向に向かっていけると思っています。
(文:米山奈津美、聞き手:福崎明子)
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