RMKクリエイティブディレクター YUKI
Image by: FASHIONSNAP
「アールエムケー(RMK)」の新たなクリエイティブディレクターに、ニューヨークを拠点に様々な分野で活躍するメーキャップアーティストのYUKIが就任。色、光、質感を絶妙なバランスで組み合わせYUKIが得意な"生っぽさ"を落とし込んだ新生RMKのフォールコレクションは、発売前から話題に。ビューティとストリートカルチャーを掛け合わせたメイクアプローチや美意識に衝撃を与えたというアーティスト、秋コレクションのおすすめの使い方まで、新たなRMKをリードするYUKIに語ってもらいました。
東京でヘアスタイリストとしてキャリアをスタートし、2011年に渡米。世界的なメーキャップアーティスト パット・マグラス(Pat McGrath)のチームで数々のショーのメーキャップデザインを手掛け、リードアーティストを担当した。独立後は、メーキャップにストリートのカジュアル感をミックスしたスタイルで注目を集めた。現在はニューヨークを拠点に活動し、世界各国のファッション誌やブランドとコラボレーションしている。
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FASHIONSNAP(以下、F):キャリアのスタートはヘアスタイリストです。メイクに興味を持つようになったきっかけは?
YUKI:実は、最初はメイクするのがとても苦手でしたが、美容師の仕事に付随してメイクも担当することになったので始めました。その頃日本で流行っていた「ザ・可愛い系メイク」にあまり興味を持てなかったからか、メイク全体への興味も薄かったですね。その後、オーナーの撮影やお店の広告制作に参加していくうちに徐々にメイクの面白さに気が付きました。
F:ヴィジュアル制作を通じてメイクの面白さに気づいたんですね。
YUKI:「VOGUE ITALIA」や「The Face」をアイデアリファレンスにしたルックで、クリスタルを顔に貼り付けたり、真紅のリップだけ塗ったり。当時の僕にとっては衝撃で、自由でアヴァンギャルド、パワーといったメイクが僕に可能性を感じさせてくれました。
F:渡米後は、いきなりパット・マクグラスのチームに入れたそうですね。
YUKI:本当に運良く繋がって。チームに参加して実技を学ぶ前にインターンとして働くことが前提ですが、当時はインターンの間に契約が終了してしまうことも多くて。なので1年間は下積みとしてインターンをやって、それでダメなら諦めようと考えていたんです。結果、半年でインターンから昇格してチームの一員として現場で仕事をすることができるようになったんです。結局5年くらいチームに在籍して、リードアーティストとして仕事をさせてもらいましたね。
F:パットはファッション業界やセレブリティから支持されている世界的なアーティストです。彼女から学んだテクニックはありますか?
YUKI:あらゆることを学んだので一つには絞れないですね。各国のトップクリエイターたちと仕事をする上で、彼らが何をリファレンスにクリエイションしているのか、それをどうやってメイクに落とし込むのかを0から100まで学べたと思います。ファッションショーをはじめとした様々な撮影、スティーブン・マイゼル(Steven Meisel)やセレブリティなどとの仕事もありましたし、刺激的な日々でした。
パット・マクグラスって誰?
Time誌の「最も影響力のある100人」にも選ばれた世界的なメーキャップアーティスト。ラグジュアリーファッション業界人とも親交が深く、数々のバックステージを担当した。自身のブランド「PAT McGRATH LABS」はエッジを効かせた配色のアイシャドウや美発色のリップ、フローレスなルミナススキンを作るベースメイクアイテムなどが人気。10色入りのアイシャドウパレット「MOTHERSHIP」は、日本のファンから「母艦」の愛称で親しまれている。
F:YUKIさんのメイクにはどこか"生感"を感じます。何からインスピレーションを得ているのでしょう。
YUKI:僕のバックグラウンドにはストリートのカルチャーが欠かせないんです。右腕とボディに入れたタトゥーも僕のアイデンティティですし、リアルに生きている人たちの生き様そのものがインスピレーションに溢れています。完璧ではなくてもどこかにオリジナリティが落とし込まれているというか。そういう意味で、ストリートカルチャーのバイブスは僕が好きな生っぽさやハズしのあるクリエイションに通じていますね。
例えば、僕が住んでいるニューヨークのブッシュウィックの道行く人たちを見ているだけで、メーキャップのアイデアが湧いてくるんです。古い建物が多い街ですが、年季を感じるようなヒビや汚れのある寂れた質感の壁に現代のグラフィックが描かれている光景をよく目にします。そういう対比的なものが調和している情景が、上品、クリーン、 エレガントの要素だけではなく生っぽさを取り入れたり、スモーキーアイに合わせるベースメイクはすっぴんだったりと、コントラストを作り込んだルックを生み出すヒントになることが多いです。
F:現代アーティストのジェニー・サヴィルにも影響を受けたそうですね。彼女の作品の特徴である歪な身体性へのアプローチが"歪みやズレ"と共鳴する気がします。
YUKI:彼女を筆頭にYBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)のアートムーブメントは衝撃でした。ニューヨークのギャラリーで初めて彼女の作品を見た時に「何なんだ、この汚いのに美しいバランスは!」と驚きました。体型や社会における女性のあり方に対する怒りだとか、作品から物凄くエモーショナルなものが伝わってきて。世の中に綺麗で完璧な人ってそんなにいないじゃないと思うので、とてもリアルな力を感じたんです。彼女の作品は人の感覚を揺さぶるような"違和感"があるのに、全体は美しくまとまっている。そのバランスや作品に対するアティチュードが、僕のメイクアプローチの一つにインスピレーションを与えてくれました。
F:現在の活動拠点はニューヨーク。RMKクリエイティブディレクターに抜擢された際の感想は?
YUKI:物理的に日本と距離があったので、正直最初はピンとこなかったのですが、徐々に重厚感や責任感というか、ことの重大さを感じるようになりました。実は、僕が初めて仕事道具として買ったコスメがRMKのリキッドファンデーションだったんです。運命的なものを感じましたし、スリリングな経験になるに違いないと思い、クリエイティブディレクターの仕事を引き受けることにしました。
F:根底にあるストリートカルチャーをRMKではどう活かしていきますか?
YUKI:元々RMKにはクリーン、上品、可愛らしいというイメージを持っていました。ブランドの根底にはソフィスティケートなコンセプトがありますから、そこはこれからも大切にしたいです。その上で、僕が得意な要素の生っぽさをプラスして。先入観や固定観念を持たずに新しいものを生み出し、使う人の等身大を輝かせるようなブランドに育てたいです。
F:デビューコレクションはどこか力強さを感じさせるニュアンスカラーが印象的でした。
YUKI:20世紀のアメリカを代表する女性画家ジョージア・オキーフ(Georgia O'Keeffe)が晩年を過ごしたニューメキシコ州・ゴーストランチの荒々しさや神秘的な雰囲気を参考にしました。岩や大地、樹木、ジョージアの自宅の壁を秋の陽光が照らす情景を、ローズウッドやマルーン、アンバー、ゴールデンシエナ、モーヴなどのカラーパレットに落とし込んでいます。
F:特に4色入りのアイシャドウパレット「ローズウッドデイドリーム 4 アイズ」は、情報が公開されるとSNSで話題になりました。グローバルでも人気が継続している暖色系が多いのも印象的です。
YUKI:それぞれのパレットで秋空の早朝、午前、午後、夕暮れの4つのシーンを表現しています。マット、シマー、サテン、シャイニーの4つの質感を組み合わせていて様々なルックを自由に楽しめるので、今回の自信作のひとつ。トレンドカラーのアイテムとして興味を持っていただいた人も多かったのではないかと思います。
F:4色の質感の組み合わせがパレットごとに異なるのも特徴で、重ね塗りの幅が広がりそうです。
YUKI:このパレットはキャラクターが異なる4つのカラーがつまった宝箱みたいなイメージなんです。例えば、「01 キャニオンデイブレイク」はマット2色、サテン1色、シマー1色の構成で、「03 ゴールデンシエナ」はシャイニー2色、サテン1色、マット1色の組み合わせという風に。深みのある色だから少し透け感があった方が重ねやすいなとか、メインのカラーだからしっかり発色するようにマットにしようとか、カラーの特徴を最大限活かすような質感の組み合わせになっています。異なる質感のレイヤードを楽しんでもらうのが基本の提案ですが、全て主役級のカラーなのでもちろん単色でも使えます。
01 キャニオンデイブレイク
F:近年様々なブランドが提案している「質感のレイヤード」。魅力はなんだと思いますか?
YUKI:質感を重ねる一番のメリットは奥行きや立体感。複数色を使った複雑なグラデーションのようにぼかしていくのではなく、異なる質感を重ねるだけで最終的に同系色にまとまったアイシャドウになるんです。そうすると、見た目はシンプルなのに、ラメ感やマットな質感のコントラストで目元の印象がグッと高まるんですよ。
F:複雑なグラデーションを作るよりも手軽に印象的な目元に仕上がります。
YUKI:マットなカラーにシマータイプのカラーを重ねて、シャイニータイプのカラーで輝きをプラスして、とラフに塗るだけでも良いのでメイク初心者の人にこそ試して欲しいです。フォールコレクションのパレットは、締め色やメインの色のどちらも肌のトーンに馴染む柔らかい発色にこだわりました。基本は質感のレイヤードを楽しんでもらいたいですが、個人的にはマットなレッド系だけで仕上げるルックなどもいいと思います。メイクに正解はないですからね。
F:「赤系のアイシャドウは目が腫れて見える」と苦手意識を持っている人もいます。塗り方のコツを教えてください。
YUKI:赤系のアイシャドウは深みがポイントだと思います。赤だけをまぶた全体に塗ってしまうと腫れぼったくなってしまうので。赤系の色を少しずつ塗ったら、グレーやブラウンの暗めの色をまつ毛の際に重ねていく。そうすると、赤とダークカラーが馴染んで全体的に深みが増し、モダン雰囲気のアイメイクにまとまりますよ。
F:アイシャドウ以外にコレクションを象徴するアイテムは?
YUKI:どれも自信作ですが、強いて言うならアイライナーです。「EX-05 レイブレッド」は上品で少しダークなレッドでマットなフィニッシュ。「EX-08 ミューテッドマルーン」はモーヴ系ブラウンで温かみを出しつつも暗くなり過ぎない。付属のチップでスマッジ(ぼかす)できるので、赤みアイシャドウに深みをプラスするのにも最適です。
F:RMKといえばファンデーションに定評があります。デビューコレクションのアイテムに合わせるなら?
YUKI:RMKのアイコン製品「クリーミィファンデーション EX」との組み合わせが良いと思います。「エアリータッチ フィニッシングパウダー」の秋限定カラーを重ねて自然な透明感のあるセミマットなベースメイクに仕上げることで、アイシャドウの深みカラーが際立つんです。
F:今回は全て数量限定ですが、今後のパーマネントアイテムの構想を聞かせて下さい。
YUKI:作りたいものは沢山あります。まずは、カラーメイクのパーマネントコレクションをパワーアップしていくアイデアを練っているので、楽しみにしてて下さい。
(聞き手:平原麻菜実/Location:東京エディション虎ノ門)
■RMK 2021 Fall Collection:特設サイト
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