左からニック・ハラミス、ニック・ウースター、サラ・ソッツァーニ・マイノ
Image by: ©JFWO
9月2日から7日まで開催された、2025年春夏シーズンの東京ファッションウィーク「Rakuten Fashion Week TOKYO」(以下、東コレ)。東京ブランドの魅力を海外へも積極的に発信すべく、東コレでは2024年秋冬シーズンから、海外のバイヤーやプレス、ジャーナリストの誘致を積極的に行っている。コロナ禍も落ち着き再び国内外の人や物の行き来が活発になった今、東京のデザイナーやブランドは、海外のファッション業界人の目にどのように映っているのか。
2018年以来6年ぶりの東コレ参加となった「ソッツァーニ・ファウンデーション(Fondazione Sozzani)」のクリエイティブディレクターを務めるサラ・ソッツァーニ・マイノ(Sara Sozzani Mainos)、初参加の「T: The New York Times Style Magazine」編集長 ニック・ハラミス(Nick Haramis)、今回で19回目の参加となるフリーエージェントのニック・ウースター(Nick Wooster)の3人に、“世界から見た東京ファッションの今”について話を聞いた。
2030年に向けた持続可能な開発目標を支援するサーキュラーファッションサミット諮問委員。2009年、 フランカ・ソッツァーニとともにクリエイティブな才能を支援する「VOGUE TALENT」を設立。また、LVMHプライズ、ウールマーク・プライズ、インターナショナル・タレント・サポートなど、数々のファッションコンペティションに審査員やコンサルタントとして定期的に参加。2018年9月より、新世代のデザイナーを支援するカメラ・ナツィオナーレ・デラ・モーダ・イタリアーナのインターナショナルブランドアンバサダーを務める。2021年5月、モンテカルロ・ファッションウィークからPositive Change賞を授与された。
── 2025年春夏の東コレを見ての率直な感想は?
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サラ・ソッツァーニ・マイノ
6年ぶりに参加したのですが、やはり東コレには、新しいエネルギーや魅力を発信する若いデザイナーが多いという印象を受けました。ただ、一つ思ったのは、ランウェイショー以外の表現の仕方を皆さんにさらに模索してほしいということ。日本は他にはない伝統的な文化とものづくりの高いクオリティをもつ国なので、ランウェイショーだけでなく、インスタレーションやエキシビション、パフォーマンスなど、さまざまな方法でそのクリエイティビティやメッセージを見ることができたら、より面白いのではないかと感じました。
ニック・ハラミス
今回が初の東コレ参加でした。元々川久保玲や三宅一生、山本耀司といった日本のアヴァンギャルドな大物ファッションデザイナーのことはよく知っていましたが、今回初めて若手デザイナーたちのクリエイションを見ることができて本当に楽しかったです。革新的な技術を用いたものから、美しくロマンティックなもの、若く反抗的なフィーリングのあるものなど、コレクションの豊かさや多様さには驚かされました。ファッションがどうあるべきか、どうあり得るかについて、非常にさまざまなヴィジョンを目にできたと感じています。
ニック・ウースター
私はもう10年間参加し続けていますが、毎回進化を感じられます。日本には、世界でも類を見ない伝統的な文化や職人技、細部へのこだわりがある一方で、テクノロジー面でもさまざまなイノベーションを遂げているブランドも多く、それが東京独自の魅力だと感じます。そして、他のどの都市よりも優れている部分は、新しい才能のインキュベーターとして機能していること。特に「TOKYO FASHION AWARD」などは、新しい世代のデザイナーを世界に発信していく役割を果たしているのではないかと思います。
── 今季見た中で特に印象に残ったブランドや、注目のブランドは?
サラ・ソッツァーニ・マイノ
まずは「ハイドサイン(HIDESIGN)」です。服が溢れている今の時代、ファッションブランドにはただ服を作るだけではなく、その背景にある価値観やメッセージ、機能性、社会に対する責任を持ったデザインとプロセスなどが非常に重要。ハイドサインは、そういった要素をうまくクリエイションに反映し提案していると思いました。
また、「ピリングス(pillings)」は、ニットウェアという伝統的なものに対してクリエイティブな視点と才能を持っており、大きな可能性を秘めていると感じます。
そして、ミラノでの発表も含め長年コレクションを見ている「ヨシオクボ(yoshiokubo)」も、日本の伝統やアヴァンギャルドさを取り入れたクオリティの高いものづくりがユニークで魅力的でした。
「カミヤ(KAMIYA)」と「バルムング(BALMUNG)」は、日本のストリートスタイルやファッション観を反映しているところが興味深く、今後も注目していきたいですね。
「HIDESIGN」2025年春夏コレクション プレゼンテーション
Image by: HIDESIGN
ニック・ウースター
私が挙げようと思っていたブランドをサラがほとんど全て言ってくれました(笑)。私の目から見ても、やはり今季は「ハイドサイン」が特に優れていたと思います。ランウェイから飛び降りる演出があったバルムングのショーも、とても面白かったですね。
そして、今回は出ていなかったものの、前回2024年秋冬シーズンに参加していた「コウタグシケン(Kota Gushiken)」は、非常に革新的で面白く、新世代のスピリットの一端を担っているブランドだと感じてとても印象に残っています。
ニック・ハラミス
私はヨシオクボが特に印象に残っています。ウェアラブルアートのような斬新な洋服を、日本の伝統的な喜劇の舞台で表現するというマリアージュがとても美しかったです。ストリートスタイルの「ブレードランナー」のようだったバルムングや、「ユェチ・チ(YUEQI QI)」のコレクションからは、今の東京の若いエネルギーやスピリットが感じられてエキサイティングでした。
吉本新喜劇とコラボレーションした「yoshiokubo」2025年春夏コレクション ランウェイショー
Image by: FASHIONSNAP
── 日本の若いブランドが世界のマーケットに進出していくためには、何が必要でしょうか?
ニック・ウースター
一番の改善点は、展示会の開催方法だと思います。欧米からやってくる海外のバイヤーにとっては、各ブランドがバラバラの場所と日程で展示会を開催するのではなく、3〜4週間ほどの期間に多くのブランドをまとめて見ることができるような形で展示会を開催したら、よりいろいろなブランドを見やすくなり、取り扱いを検討するチャンスも増えるのではないでしょうか。そしてその点を除けば、本当に可能性は無限大だと思っています。特に今は円安なので、海外のバイヤーにとっては日本のブランドを取り扱う絶好のチャンスと言えます。
サラ・ソッツァーニ・マイノ
これは日本ブランドに限ったことではないですが、この数年間で世界は社会的にも政治的にも変化し、人々の価値観やファッションのヴィジョンも大きく変わりました。特に新しい世代は、ファッションブランドに対してデザインや生産面など、あらゆる側面でより責任ある行動を取り、エシカルなメッセージを発信することを求めています。今回、ハイドサインのプレゼンテーションやヨシオクボが行った日本の伝統的なコメディを通して表現したショーは、メッセージを外に向けて発信する一つの効果的な方法だったと思いますが、今後はますますランウェイショー形式に限定されない多様な発表方法と、コレクションを通して届けるメッセージや社会的責任が重要になってくるのではないでしょうか。
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