Image by: 山下純平
人気ヘアスタイリストに迫る連載の第3回。今回は美容だけではなく、フレグランスにも精通するhodosオーナー山下純平さんにフォーカスします。ユニークでハイセンスなヘアスタイリストたちが集まる美容室hodosは、フラワーショップも併設している心地よい空間。そんなhodosのコアである山下さんに、使い捨てカメラで自身が撮影した画像を見ながら、お話を伺いました。
#3 山下純平 やましたじゅんぺい
1986年1月6日千葉県生まれ。日本美容専門学校卒業。都内サロン1店舗を経て2014年渋谷nanukにオープニングスタッフとして参加。2015年nanuk店長、2017年ディレクター就任。2020年3月フリーランスとして独立。2021年1月東京・南青山にhodosをオープン。インスタグラム
hodos
ハイセンスなヘアデザインで予約待ち状態が続く東京・南青山のヘアサロン。ファッション以上に大切なヘアデザインやスタイリングなどを提案してくれると業界内外から話題。モデルやインフルエンサーも多く通う。
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表参道に構えるhodos
ー美容師になったきっかけを教えてください。
実は、大学卒業後に美容師になりました。就職活動をするタイミングで、好きなフレグランス、タトゥー、ヘアで迷って結局、美容師を選んだんです。大学4年から夜間の美容専門学校とダブルスクールで通ったんです。昼間は大学の授業、当時サッカーにも打ち込んでいたので夕方は練習をして、その後に専門学校に行って…。そこから夜10時から朝6時までバイトして8時まで寝てまた大学に行くという生活。今思うとハードすぎますよね(笑)。
ーたった2時間しか寝ない生活だったんですね…。さまざまな選択肢がある中、「美容師」を選んだ理由は何だったのでしょうか?
僕、双子なんですよ。相方と見た目が全く変わらないので「僕のアイデンティティって何だろう?」と考えたんです。それで思ったのが、人の「香り」と「ヘア」だと思ったんです。でも人から香りを外したとして、ヘアは服を着ていても、“その人らしさ”が出る。そこを本質的に作れる仕事を選びました。
ー“その人らしさ”というと、個性的であるということでしょうか?
個性は、その出し方や見せ方次第でどうにでもなるものだと思っています。その一方で、それは必ずしも本人の裁量によるものでなくてもいいと思うんです。僕自身、美容師の「この髪型、いいんじゃない?」に当て込まれたことで、「めちゃくちゃ個性的だね」と言われて感動した経験もあるのですが、その人自身が個性的に振る舞わなくとも、美容師サイドの提案でそれは成り立つものなのです。
ー山下さんが個性を作ってあげると?
僕は、「あなたの好きな髪型にしてあげますよ」という美容師ではなく、こちらから提案できる美容師でありたい。他の人よりも髪のことばかり考えて生きているので、自分でもその部分に挑戦し続けるのが楽しいなと思っていますから。常にこの立ち位置に立っていたい、と思いながら毎日クリエーションをしています。
ー「いつもなんとなく同じ髪型にされてしまう…」というのはお客側からするとあるあるだと思います。
「いつもとちょっと変えたいんですけど」って言いにくいですよね。思っているのと違う感じにされるリスクもある。でも、そういう髪型の最終的な落とし所を決めるのは、僕は美容師側に責任があると思っています。思い切り振り幅を付けてほしい人もいれば、そうじゃない人もいる。それを探っていくのは美容師の経験値です。カウンセリングでは、ご要望を伺う前にいつも似合うと思うデザインをお伝えしているのですが、常に人を見て、髪のことを考えて、答えるべきところに答えていきたいですね。
ー少し遡りますが、美容学校卒業後は、どのようにキャリアを積まれたのでしょうか?
卒業後は渋谷にあるサロンに入社しました。がむしゃらに過ごしていましたが、その当時の一番の悩みは手荒れでしたね。夜も眠れないほどひどくて。今はもう笑い話なんですけど、すごい生活をしていたので薬を塗る時間もなくて…。そうなると当然、治る時間もない。自転車に乗ると血が出るし、毎日絆創膏一箱使って、白いTシャツも着られない。でも、手荒れがひどくても仕事を優先していました。(大学行ったので)みんなよりも3~4年遅れていたし、早くデビューしたい気持ちが強かったんですよね。ところが、スタイリストになったとたんに治ったんです(笑)。きっとストレスもあったんでしょうね。
ーそれは大変でしたね…。では、これまでで一番嬉しかったことは?
先日、業界誌の表紙をやらせていただいたことはうれしかったですね。あとは、自分が一番やってみたいなという形でこの店を出せたことです。
ーそれはどういった形でしょうか?
自分と違うジャンルの美容師が集まる美容室をやりたかったんです。勤めていた美容室は、店のカラーがきちんとあって、(施術すると)“そのお店っぽいね”と言われることが多くて。店全体の雰囲気も含めて評価されることはもちろんいいことなんですが、自分の中で引っ掛かりになっている部分もあって。だから、自分が店を出すんだったらジャンルの違う人たちを集めようと。それぞれになんかトゲがあり、真反対の人たちなのになぜか集まれる。そういうサロンをつくりたいなって思っていたんです。だから、個性的なスタッフが揃ったと思います。
信頼できるhodosのメンバー
ー将来のやりたいことで悩まれた一つに、フレグランスがありました。このお店でも“香り”がキーワードのようですね。
香りはずっと好きだったのでフレグランスを紹介できる空間がほしいなと思っていました。お店の一角に“スキンサイド”という場所を設けているのですが、そこがまさにそれです。香水を販売しているのではなく、自分が普段使っている好きな香り、「バイレード(BYREDO)」や「フレデリック マル(FREDERIC MALLE)」「ドルセー(D'ORSAY)」といったブランドを置いて紹介しているという感じでしょうか。ファッション的にも香りはものすごく大切なパートです。
ヘア以外では花の販売もしていて、これは奥さんが担当しています。ヘアと組み合わせて、hodosに来た人にしか体験できないような美容室になればいいなって。
ーそこまで好きだと、オリジナルで香りを作ってみたいと思いませんか?
最終的にはヘアプロダクトを作り、そこに僕らが大切にしている香りの要素も落とし込めたらと思っています。実は現在、鋭意製作中なのですが、ある意味限定的に作り、“ずっと同じものは作らない”ことをポリシーにしていきたいという気持ちがあります。サステナビリティを考えたときに、販売を持続していく生産性の高さとトレンドに合わせられるアイテムにしていくということに重きを置いていきたい。期待していてください。
ーそもそも山下さんが香りにハマり始めたのはいつからなのでしょうか?
中学のとき、めっちゃいいにおいのする後輩がいたんですよ(笑)。そいつが「ブルガリ(BVLGARI)」の「プールファム」をつけていて、中1なのにシャツのボタン3個くらい外しているような奴で。そのルーズさや雰囲気がかっこいいなと思って、それがきっかけでハマっていきました。好きな香水はすぐ使わないと結構儚くなくなっていくもんだと知ってからは気になったら買って使っていたので、若い頃は正直苦しい生活をしてましたね(笑)。でも、Tシャツ一枚と、いい感じの香水をつけるほうがかっこいいかなって。
ーこれからブームがくると思っているモノやコトはありますか?
テキスト(文章)だと思います。僕は身一つで生きてきた人間なので、残していくことが今までなかった分、テキストに魅力を感じます。帰宅後はできるだけ本を読む時間を取っているのですが、やっぱり紙のほうが腑に落ちるし、何度も読み返すことができて保存も効く。アイデア不足になったときもSNSからは何も得られないとわかっているので僕は本を読みます。最近は話す仕事も増えてきているので、意識的に本を読まないと話せなくなっちゃいそうで…。とはいえ、時間がなくて積読することが多いのですが(笑)。
ー山下さんの考えるヘアスタイルのネクストトレンドを教えてください。
お客さまから感じるトレンドでいうと、ジャケットにハマるようなかっこいいヘアですね。もちろんきっちりしたスタイルもいいのですが、それ以上に崩す機能を追加するのが今の気分です。以前、ある媒体でジョン・ガリアーノが「急いで準備したような服を作りたい」と言っていたのを聞き、瞬時に映像が浮かびました。そういうファッションにハマるヘアもありだよなあって。最近セミナーなどでは“ソリッドパーマ(Solid Perm)”というものを提案させていただいています。“削ぎ落とし”の意味を込めたヘアというのが肝なのですが、できるだけ引き算をしてその人に落とし込む。だけどフィット感もあるようなものがトレンドなのかなって。
ーでは最後に、美容師を目指す人、若手美容師、さらにはこの記事を読んでいる方へメッセージをお願いします。
美容師は夢のある職業です。だから、“技術だけは絶対に甘えるな”。人間性はそれぞれが成長する先があるのであまり関係ないと僕は思っています。でも、美容師と名乗る以上はできるだけ高水準のものを求め、新しいものを模索し、自分から”美容の探求沼“に突っ込んでいってほしい。自分はこれを極めると決めていかないと真似ごとだけになってしまいます。二番煎じ、三番煎じにならないためにも、自分で見つけて、自分で沼にはまりにいくことが大切です。
大切なパートナーである奥さんの亜由美さん。hodosの花の販売も担当しながらヘアメイクとしても活躍中
(写真:山下純平、企画・編集:福崎明子)
編集者、ライター
出版社2社を経て独立。書籍の企画・編集、ブックライティング、記事等のインタビューなど活動中。ペンギンが好き。「now&then」の聞き手、文を担当する。
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