Image by: 栗原みなみ
新進気鋭のヘアスタイリストに迫る連載第8回。ハイセンスなヘアスタイリストたちが多く在籍する渋谷の美容室・bloc japon。その最前線で活躍してきた栗原みなみさんの美容人生は、負けん気と向上心で溢れています。今夏、産休に入り、新たなステージへと進み始めた彼女の信念に、使い捨てカメラで撮ってもらった画像とともに迫ります。
#8 栗原みなみ(くりはらみなみ)
インスタグラム
神奈川県出身。国際文化理容美容専門学校渋谷校卒業後、3店舗を経てbloc japon入社。現在ビジュアルディレクター。ハイトーンカラーからハイセンスなヘアカットまでデザイン性の高いヘアデザインが幅広い顧客層の支持を集めている。2023年夏ごろまで産休・育休予定。
【店舗プロフィール】
bloc japon ブロックジャポン
2020年に20周年を迎え、渋谷・宇田川町へ移転。多くの著名人やモデルが通い、個性豊かで才能あふれるヘアスタイリストが多数在籍している。
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―美容師になった経緯を教えてください。
小学生のころ、初めて美容室に行ったとき「こんなにかわいくしてもらえるんだ…!」と衝撃を受けたことがきっかけです。それまで母に髪を切ってもらっていたので、ヘアアイロンやワックスを使ってセットしてもらうのも初めてで。まるで魔法をかけられたような感覚になったことをよく覚えています。
―学生時代、なりたい美容師像はありましたか?
当時はお店単位ではなく、個人で目立つ美容師が増え始めた時代だったので、とにかく私も有名になってお客さんをつけ、自分の世界観を世の中に出していきたいという思いが強かったです。外部の撮影の仕事もやりたいと思っていました。
―となると、東京のサロンを中心に就職活動を?
いえ、じつは地元の横浜で就職したんです。どこもいいなあと思っていたらほとんど募集が終わっていて…。これからどうしようかと思っていたとき、まずは実家近くで就職しようと地元の美容室を選びました。東京には中途採用で行くことを目標にしよう、と。
―東京に出たい気持ちはずっとあったのでしょうか?
ありましたね。実際地元で就職してみて、雑誌の撮影などは本当に全然ない、というのを実感して。すごくいい美容室でしたし、とてもよくしていただいたのですが、「やっぱり東京じゃないとやりたいことができない」という気持ちが強くなり、半年ほどで就職活動を開始。2つ目に選んだのは渋谷にある美容室でした。
―念願の東京の美容室ですね。
当時は芸能人やモデルさんも来店するようなサロンだったのでとても刺激的でした。そこではジュニアスタイリストとして働いていたのですが、2年ほど経ったときに突然一方的にクビを宣告されたんですよね…。
―えっクビ宣告!?
何かミスをしたとかそういうことではなく、いわゆる理不尽なクビで…。「こういう世界だから」と一方的に宣告されたものだから、めちゃめちゃ悔しかったんですよ。そこで、「絶対に見返してやりたい」という気持ちがすごく強くなったんです。後々この強い気持ちが私のすべての原動力になっていきます。
―クビ宣告されても心は折れなかったのですね。
いえ、じつは一度辞めよう思い、アパレルの面接を受けました。するとその面接官に「本当に美容師やめちゃっていいの?」と問われ、「あれ?私まだ美容師ちゃんとできてないわ」とわれに返って…。「絶対に見返す」という目標を思い出し、美容師に戻ろうと思ったんですよね。辞めようと揺れたのはその1回だけです。
―「絶対に見返す」信念で立ち戻れたんですね。
私をクビにした2つ目の美容室の人たちの出身がblocだったんです。だから、私もblocに入ろうと。あの人達が売れなかったところで私がめちゃめちゃ売れてやろうと思いました。その後、1年ほど3つ目の別の美容室を経て、24歳のときにblocに入社しました。
―実力者が集まる美容室bloc。働いてみてどうですか?
今年で入社して9年目になりますが、個々で売れている人たちがたくさんいるので、すごく心強いし、刺激になりますね。当初は見返すことが目標だったのですが、感謝じゃないですけどクビにされたあの経験がなかったら今の私はいなかっただろうなと思います。あの悔しさをバネにして力を出せたことは自信にもつながりましたし。
信頼できる後輩たち。このメンバーでいつもサロンワークを行っている
―学生時代から目標としていた外部の撮影仕事などもできているのでしょうか?
ありがたいことに外部の仕事をやらせてもらえる環境にあります。でも、「現場でお客さまの髪を切ることのほうが好きだな」とここ数年で思うようになりました。そう気づいたので、今はサロンワークがメインです。日ごろから自分の技術を求めてサロンに足を運んでくれるお客さまのありがたさを実感しているからだと思います。
―サロンワークの醍醐味は?
大きなサロンなのでお客さまと1対1というのはなかなか難しいのですが、その分アシスタントとチームワークでやる仕事は楽しいですね。信頼しているアシスタントに仕事を任せて、お客さまにも楽しんでもらって、技術をしっかり提供させていただく。考えることはいっぱいあるんですけど、1日終わってみると楽しかったなと思う日ばかりです。
―これまでの美容人生でつらかったことを教えてください。
blocに入社して早々、とにかく「見返したいからやってやる!」という気持ちが強かったので、最初からバコーンと売上がついたんです。ある日、すごく尊敬している先輩からご飯に誘われました。当然褒めてもらえるんだろうなと思ってわくわくしていたら、まさかの説教で…。1ミリも褒められず、「今の栗原はいいけど、将来的に考えたらその売れ方じゃダメだよ」と。私のことを考えてのアドバイスだったと思うのですが、当時は悔しくて泣きながら帰ったりしていました。
それで、褒められたくてさらに頑張って売上を伸ばしたんです。「今度は絶対に褒められたい!」と意気込んで半年後に再びご飯につれてってもらうのですが、また説教。半年スパンでご飯に連れてっていただいていたのですが、どれだけ売上を伸ばしても毎回説教だったんですね。だから悔しくて。
―成長してほしいからこその説教だったのでしょうね。
そうなんです。直接言わないけれど、裏では褒めてくれていたみたいなのですが…。ようやくここ2年くらいですね。「栗原ってほんとすごいよね」と言っていただけるようになったのは。「昔は全然褒めてくれなかったですよね?」と聞いたら先輩は当時のことを全然覚えてなかったんですけどね(笑)
―でも、その叱咤激励があったから頑張れた。
そうです。尊敬している先輩だったからこそ悔しくて、努力できたんですよね。そのときは悩んだし、しんどかったけれど今はよかったなと思っています。
―クビを宣告されたときもそうですが、悔しさをバネに成長していくエネルギーをすごくお持ちですよね。
負けず嫌いというのもあると思うのですが、ここまで来たのも「何があっても絶対に見返す」という気持ちを忘れなかったからだと思います。どんなにつらくても自分が設定していたゴールややり遂げるべき目標を忘れないというのは、意外と大事かもしれません。ブレることは誰にでもあると思うのですが、目標を持ち続けることが自分の支えになるんじゃないかなと。
―今年の夏から産休に入られているとのことですが、不安などはありますか?
今blocでは産休・育休を経験している先輩が2人いて、うち1人は今年復帰したばかり。それを間近で見ているおかげで安心して産休に入っています。時間の調整や有給を使うことも割と自由な環境なので、例えば子どもが熱を出して急に休まなければならなくなったとしても後輩たちが連携してお客さまに連絡をとってくれたりします。もちろん迷惑はかけちゃうのですが、社長を筆頭に、フォローしてもらえる土壌があるというのは心強いです。
―“子どもがいて当たり前”の職場環境があると安心ですよね。
そうですね。妊娠期間中も時短で働くことができていましたし、子どもがいても働きやすい環境が整っていると思います。唯一のネックといえば…。「1年産休に入ってしまうとお客さまに忘れられたりするから気をつけて」とこの前先輩にアドバイスされたことですかね。休み中もInstagramは続けたほうがいいよって。なので、SNSでの発信は続けていきたいと思っています。
―最後に、これから美容師になる方、若手美容師の方に向けてメッセージをお願いします。
美容師を続けていると辞めたくなることが一度はあると思います。でもそれを乗り越えたら楽しいお客さまとの人生が待っているはず。私自身も長年任せていただける方も増えたので、このままお客さまと一緒に年をとっていけたらいいなと思っているところです。つらくなったら最初に掲げた目標を思い出し、原点に立ち返ってみてください。何よりもプラスに考えること。応援しています。
(写真:栗原みなみ、企画・編集:福崎明子)
編集者、ライター
出版社2社を経て独立。書籍の企画・編集、ブックライティング、記事等のインタビューなど活動中。ペンギンが好き。「now&then」の聞き手、文を担当する。
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