人気美容師が自身で撮影した写真とともに、半生を紐解く連載第19回。今回は渋谷の美容室、QUQUのクリエイティブディレクター・楽人さんにフォーカス。誰にも真似できないヘアデザインで、業界内外から注目を集める楽人さん。探究心を持ち、アップデートし続ける楽人さんの目線でとらえる、現在地と未来について聞きました。
#19 楽人 らくと
インスタグラム
1993年生まれ。千葉県出身。日本美容専門学校後にFLOWERSに入社。otopeのオープニングスタッフとして参加し、2018年にデビュー。2020年にQUQUへ移籍し、現在クリエイティブディレクター。その人の個性や雰囲気、生き様で似合わせるデザインを得意とし、ビビッドでユニークなヘアスタイルを常に生み出し続けている。
【店舗プロフィール】
QUQU くく
世の中に媚びない唯一無二のヘアスタイルになれる一流サロン。”常に疑問を持って新しいことに挑戦し続ける-Question×Question-”をコンセプトに、業界を牽引するヘアデザインを発信している。白を貴重とした店内は「自分は何者にでもなれる」と思わせてくれるような不思議な居心地のよさがある。デザイン力の高い実力派の美容師が在籍し、雑誌などメディア露出も多数。
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ー楽人さんを語るうえで「カラー」や「Y2K」というキーワードは欠かせないと思います。最近はどんなデザインをつくっていますか?
今回撮影したこちらのヘアデザインは、顔周りや前髪のハネ感にポイントを置いたスタイル。カラーリングはいろいろと重ねていて、この絶妙な色加減をつくっています。こちらのお客さまはいつもおまかせで来てくださっていて、SNSに投稿すると毎回バズるんです。去年1番バズったのは彼女のヘアかもしれない。
ーご自身でもカラーは強みだと感じていますか?
そうですね。カラーがなくなったら何者でもなくなっちゃうような気もするんですけど、最近は「カラーが得意ですよね?」と言われないようにしているところもあります。「楽人ってやっぱりカットもいいよね」と言ってもらうことを目指していて。でも、お店としてもカラーが強いというイメージもあるし、目に入るのはカラーなのかなって。
ーご自身としては、どういった美容師に見られたいですか?
うーん、「Y2KってSNSで流行っているよね」のような感じにはなりたくないと思っています。2020年くらいに僕がY2Kのヘアデザインをやりはじめたとき、それは流行を読んだわけではなくて、そのときの自分の感覚にフィットしただけなんですよね。
「Y2Kの人」になって終わるのは嫌だし、自分の中にはそれ以外のゾーンがまだたくさんある。時代に沿ってやっていかなければならない気持ちはもちろんあるのですが、「かっこいい」と言われるデザインを作り続けたいと思っています。
ー今のデザインの気分はどんなものでしょうか?
90年代や2010年代くらいまで遡ってみると、面白いカルチャーってたくさんあるんです。だから、やってもやっても飽きないというか。最近の作品は、自分が興味を持ったカルチャーにどんどんフックしていくという感じなのですが、Y2Kのムーブメントがメインストリームに行き過ぎた感じもして、ちょっと飽きてる(笑)。
かわいいなとは思うのですが、それをつくっている人が多くなると嫌になっちゃうタイプなんですよね。当時は、Y2Kのヘアをつくっている人が少なかったからやっていたけれど、流行っちゃったからもういいかってなっちゃう。でも、ただ「飽きた」というのももったいないので、みんなが好きなゾーンとこれから来るであろうゾーン、そしてもうちょっとニッチなゾーンを探して消化していく...というのが最近の気分かもしれないです。
ー今回、映画や音楽イベントのお写真も撮ってきてくださいましたが、映画・音楽などカルチャーが表現のリソースになったりするのでしょうか?
映画も音楽もアニメも漫画も好きなんですが、それ自体はヘアデザインには直結しないです。世界観からのインスピレーションはありますが、結局デザインの源って”全てを咀嚼した自分”だと思っていて。サロンワークのデザインがお客さまの感性と自分の感性のミックスから生まれるのに対し、自分だけから生み出すのはもう「自分の咀嚼」でしかないです。
ー普段、どのようにカウンセリングをしていますか?
髪の話ももちろんしますが、お客さまの好きなものやカルチャーの話、今までどんなふうに生きてきたのか、大事にしているものは何か、みたいな話もします。そういったパーソナルな話から、ヘアデザインを決めていくことが多いですね。「こんなに面白い感性を持っているんだったらもっとヘアも攻めよう!」って途中で路線を変更したりもします。
ー多彩なヘアデザインができるのは技術力があってこそだと思います。技術はどのように磨いてきたのでしょうか?
新卒でFLOWERSというヘアサロンに入ったのですが、もともと当時流行っていたゆるふわロングのかわいいヘアスタイルに憧れていたんですよね。
でも入ったら、美容業界でも異色の存在だったデザインに強い浦(現QUQU代表の浦さやかさん)がいて、「こういう世界もあるんだ!」と衝撃を受けたんです。美容師としてはゆるふわな系統から入ったものの、浦の作品を見ているうちに「クリエーションって面白いな」と感じていって。
サロンワークだけではなく「表現」という世界もあることを知り、クリエイティブという部分を自分の中で磨いていきました。浦のサロンワークを毎日見たり、撮影に同行して勉強させてもらったり。
ー練習は好きでしたか?
嫌いですね(笑)。でも、極めようと決めたらとことん練習はします。たぶん、器用なだけなんだろうなと思います。でもそれがコンプレックスに思うときもありました。
ーというと?
何でもできる、でも全部70%止まり…みたいな。満遍なく器用に70%にはできても、どうやったら100%に到達できるんだろうって。そこを突破するためには練習をたくさんしてきたかもしれません。
ーこれまでにつらかった経験はありますか?
デビュー後、お客さまを呼ぶというフェーズが1番つらかったですね。デビューした当時は、SNSも今みたいに発達していなくて、とにかくカラーモデルを路上でたくさんハントしてお客さまをつけようみたいな時代だったんです。もう何千人、何万人と声をかけてきていて、プレッシャーもあって、いつもの場所に立つだけで動悸が止まらなくなる時期もありました。そしたらインフルエンザにもなってしまって。
ー集客に苦戦した時期、どう乗り越えていったのでしょうか?
実は何が良かったのかというと、インフルエンザが良かったんです(笑)。休んでいる期間に時間ができたので、お客さま一人ひとりにメッセージを送ったんですよ。その当時はLINEの友達登録が1500人くらいいたのですが、「また来てくださいね」などのメッセージが効いたのか、無理だと思っていた翌月の集客ノルマを達成できました。
ー地道な努力が実を結んだんですね!
たぶんいつも通り働いていたら、LINEを1500人分送る気力もなかったと思うんです。割とすぐ熱が下がったので、お客さまにコンタクトを取れる時間を確保できたんですよね。もう「インフルエンザバンザイ!」でしたね(笑)。
ー今までで1番うれしかったことを教えてください。
自分が尊敬している人に認められること。一番身近でリスペクトしているのは代表の浦なのですが、先日「今度一緒にイベントをやろう」と言ってもらったとき、ミックスしたいというより対等にコラボしたいという意思が見えてすごく嬉しいなと思いました。
あとは父親も。ライトのデザイナーをしていて、息子のことは認めないタイプだったのですが、この前、「俺よりもお前のほうがデザイナーとしていい」みたいなことを突然言い出して。そんなこと言うなよって思ったし、寂しさもくすぐったさもあったのですが、やっぱり嬉しかったです。
ー美容師を目指したのはお父さんの影響もありましたか?
それは全くないです。中高生の頃にファッションやヘアに興味を持ったんです。毎日制服なので、どちらかというとファッションよりもヘアに興味があって。平成初期のギャル男に憧れていた時期もありました(笑)。
ー10年後はどうなっていたいですか?
10年後も、正直な人でいたいですね。誰にも真似できないかっこいいものをつくりたい気持ちと、美容師として売れなくちゃいけないという気持ちの両方をいつも持っています。「流行っているからこれをつくらなきゃ」という気持ちと葛藤しながら、”自分の一番やりたいこと”をやってもいい人間になっていきたい。
店としては、引き続き世の中に媚びないデザインを打ち出してはいきたいのですが、実はQUQUの強みって、「人間として人にちゃんと寄り添える美容師でいる」というところにあるんです。デザインだけではなく、美容師としてお客さまにいつも安心していただけるような場所になっていければいいなと思っています。
(写真:楽人、企画・編集:山本真由香)
編集者、ライター
出版社2社を経て独立。書籍の企画・編集、ブックライティング、記事等のインタビューなど活動中。ペンギンが好き。「now&then」の聞き手、文を担当する。
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