FASHIONSNAPの恒例企画「トップに聞く 2024」。第14回は、化粧品業界 世界NO.1 ロレアル グループ(L’Oréal)の日本法人 日本ロレアル ジャン-ピエール・シャリトン社長。好調ブランド、ヒット商品にも恵まれ、2023年は市場の成長の2倍の成長を記録し、「最高で、歴史的な年」になったと語る。2024年は、タカミやイソップに続く、新たなM&Aも視野に入れ、さらなる飛躍を目指すシャリトン社長に、日本ロレアルの“現在地”を聞いた。
■ジャン-ピエール・シャリトン(日本ロレアル代表取締役社長)
1966年3月13日生まれ、フランス・パリ出身。1989年にフランスのEM リヨン経営大学を卒業。1991年に仏・ロレアル本社に入社し、スキンケアブランド「Biotherm」でキャリアをスタート。タイ、韓国、イギリス・アイルランドのロレアル リュクス事業本部長を経て、2008年にロレアル リュクス事業本部「ジョルジオ アルマーニ ビューティ」のグローバルプレジデントに就任。2013年にロレアル アジア太平洋地域(APAC)のロレアル リュクス事業本部ゼネラルマネージャーに就任、2021年11月から現職。
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目次
ー2023年はどのような年だったでしょうか?
過去25年間を振り返っても最高で、歴史的な年になったと言えるでしょう。
日本のビューティ市場はコロナ前の数値に回復していますが、われわれは市場の2倍の成長を遂げました。オンラインとオフラインのバランスも良くそれぞれ50%の成長で、カテゴリー別ではメイクアップが50%、スキンケアが30%、そのほかで30%の成長率となりました。
ーオフライン、オンラインでどんな戦略が奏功した?
「美容部員からリアルでサービスを体験・経験したい」というお客さまが増え、2023年は新製品発表会やイベントなどはリアル開催を増やしました。コロナ前よりも多く催したかもしれませんね。そのようにオフラインは体験を重視して好調でしたし、一方オンラインは利便性を追求してこちらも順調に推移しました。スキンケア、メイク、フレグランスの全てのカテゴリーが成長していることはとても喜ばしいことです。
ー中でも特に好調だったブランドは?
「タカミ(TAKAMI)」と「シュウ ウエムラ(shu uemura)」は成長貢献度トップ2ですね。この2ブランドだけで当社の昨年の成長の半分に貢献しています。メイクアップカテゴリーも非常に好調で、特に「イヴ・サンローラン・ボーテ(Yves Saint Laurent Beauté)」(以下、YSL)がけん引。YSLは年末にリニューアル発売したアイコンリップ「ルージュ ピュールクチュール」や、クッションファンデーション「アンクル ド ポー ルクッションN」と、「ラディアント タッチ グロウパクト」の限定デザイン登場なども非常に盛り上がりました。また、「メイベリン ニューヨーク(MAYBELLINE NEW YORK)」の人気マスカラ「スカイハイ」が引き続きベストセラーとなるなど、ラグジュアリーブランドとマスブランド共に良い結果でした。フレグランスは「メゾン マルジェラ レプリカ フレグランス」と、YSLの「リブレ」が多くの消費者に支持されました。
日本ロレアルNo.1ブランドに成長したタカミ
ータカミはー昨年のインタビューでも成長著しいとおっしゃっていました。さらに大きな成長を遂げる鍵となったのは?
まさにロングセラーを誇る角質美容水「タカミスキンピール」ですね。リピートのお客さまも多く、すでに20回以上リピートしているという人もいます。タカミは2021年に傘下に入りましたが、2024年は当時の売り上げ規模から3倍ほどの伸びになると見込んでいます。タカミ事業部のメンバーも当時の2倍と規模も拡大し、当社の日本におけるナンバーワンブランドに成長しています。もともと中国で高い支持を得ていましたが、今後はアジア諸国を軸にグローバル展開の勢いを加速させることで、グローバルブランドへ成長させます。
ー世界的にもダーマコスメ市場が伸長しています。そうした背景も意識していますか?
ダーマコスメは肌の“健康”を考えた化粧品です。コロナ禍から健康への意識が高まった人が多く、長年肌と向き合い健康で美しい肌に導くタカミの商品はそうした消費者の意識に刺さったのでしょう。
一方で、当社が展開するダーマコスメブランドの「ラ ロッシュ ポゼ(LA ROCHE-POSAY)」も日本上陸20周年を迎え好調ですし、今後も成長すると期待しています。当社は皮膚科への流通を持つ唯一の部門、ロレアル ダーマトロジカル ビューティ事業本部を有していますが、同事業本部は直近で30%以上の成長を遂げています。ラ ロッシュ ポゼ以外にも、日本未上陸ではありますが、セラミドがメイン成分のスキンケアブランド「CeraVe(セラヴィ)」が東南アジアや欧州で大ヒット。高濃度で安定化したビタミンC配合のスキンケアブランド「スキンシューティカルズ(Skinceuticals)」は中国で人気ですし、グローバルでもダーマカテゴリーは右肩上がりで推移していますね。
ーもう1つの好調ブランドと挙げた、シュウ ウエムラが躍進した理由は?
ひとつはロングセラーの「クレンジングオイル」が根強い人気であることです。2つ目は2023年春コスメで発表した新テクスチャーアイシャドウ「クロマティックス クワッド」の成功です。同アイシャドウはアジア人の肌を綺麗に引き立てるカラーを日本の四季からインスパイアして作り出しました。そして昨年のこのトップインタビューでお伝えした、国産車メーカー「マツダ」の塗装技術から着想を得た、新開発のテクスチャー「アイスカルプト」が、これまでに無いイノベーションとして後押しした形です。こうした日本初の取り組みなどが奏功し、オンライン・オフライン共に好調で、若年層の獲得も進んでいます。海外に発信できるブランドに成長していますね。
TWICEのSANAや平野紫耀の起用が話題に
ーそのほか、Number_iの平野紫耀をアジア アンバサダーに迎えたYSLも、話題に事欠きません。
そうですね。YSLは2つの成長があったと思います。ひとつは、ジャパン アンバサダーのTWICEのSANAを起用した、クチュールブランドらしい4色アイシャドウパレット「クチュール ミニ クラッチ」を昨年8月に発売しベストセラーになったこと。また2つ目として、ブランドのアイコンフレグランス「リブレ」とNumber_iメンバーとのタイアップデジタルコンテンツです。リブレはフランス語で自由を意味し、それを体現するNumber_iメンバーとコラボできたことはとても喜ばしいことです。11月に1週間限定でオープンしたリブレ シリーズのポップアップスタンド「YSL LIBRE STAND」も大盛況でしたし、ブランドも市場全体の3~4倍の伸びと大きな成長につながりました。今年は、Number_iの平野紫耀をアジア アンバサダーに迎え、さらなる飛躍が期待できます。
ーオフラインはポップアップなど体験を重視した一方、オンラインはどのようなイノベーションを起こしたのでしょうか?
オンラインは、利便性を追求していると話しましたが、アマゾンや楽天などモール型ECプラットフォームは新客獲得にフォーカスし、一方で自社ECは化粧品が好きでさまざまに比較検討している“目の肥えた”人が集まるよう、チャネルでの差別化を図っています。自社ECでは商品背景を詳しく説明したり、AI肌診断を導入したりとブランドの世界観までを伝え、心地よく長く滞在してもらえるような“体験”も重視しています。
こういった取り組みが成功しているのがタカミで、購入者の90%がオンラインを選択しており、約30日間隔で自動的にお届けする定期便(サブスクリプション)の利用者も多いのが特徴です。また、タカミのサブスクモデルは、すでにランコムの人気美容液「ジェニフィック アドバンスト N」や、ラ ロッシュ ポゼの日焼け止め化粧下地「トーンアップUV」で導入し成功しているので、さらにブランド、アイテムを広げていきたいですね。
傘下に入ったイソップは唯一無二の世界観が人気の秘密
ー2023年の大きなトピックのひとつに、オーストラリア発スキンケアブランド「イソップ(Aēsop)」の買収もありました。
イソップの中でも日本はナンバーワンの市場です。イソップの店舗はそれぞれ、その土地の背景や文化に合わせた店作りを行っていて、同じ見え方の店舗はありませんが、明るすぎないライティングや居心地良い雰囲気はイソップらしさを作り出しています。これは、谷崎潤一郎の評論「陰翳礼讃」に通じるものがあり、陰影にこそ日本の美意識や細やかさが現れているように感じます。グループ傘下になったことで、こうしたイソップの店舗作りは、他にも活かせるのではないかと考えています。イソップの唯一無二の世界観をさらに高めながら今年も今以上に成長していくのを楽しみにしています。
ー環境問題や、女性活躍推進、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)など、SDG’sの課題にも積極的に取り組んでいます。
DE&I(ダイバーシティ、エクイティー平等、インクルージョン)では、私含め150人以上の従業員が参加した、日本最大級のLGBTQIA+イベント「東京レインボープライド」への協賛など、積極的に取り組んでいますし、社内でも従業員の多様性と個性を強みとして捉える「One L'Oreal Japan」キャンペーンを推進しています。当社はさまざまなバックグラウンドを持つ幅広い年齢の人が働いていますが、その1人ひとりが多様でユニークな人財であり、日本を輝かせる基になっています。当社の一員であることにプライドを持って欲しいと社内向けコミュニケーションを継続しています。
ー社内向けコミュニケーションとは?
社内フロアの環境だけでも3つのアイデアを取り入れています。1つ目は「コラボレーション」。フロアの40%をコラボレーションスペースと位置付け、フリーエリアでは誰もが自由に部署を超えたコミュニケーションを行えます。2つ目は「ジャパン」。落ち着いたモダンでクリエイティブな日本的要素を取り入れています。3つ目は「ブランド什器」の設置。リアル店舗と同様にフロアにも各ブランド什器を配置し、商品やポップを社内向けに宣伝することで自分の仕事に誇りをもってもらいたい。オフィスで働くことが楽しくなる環境作りに注力しました。
ー環境に関するサステナビリティでは、栽培やバイオテクノロジー、グリーンケミストリー、処方科学などを包括する科学的分野・グリーンサイエンスを活用しています。
ロレアルグループは30年までに、製品に使用する成分の95%を再生可能な植物由来、あるいは豊富に存在する鉱物を原料としたものにすることを目的としています。そして製品処方の100%は水生環境に配慮したものにすることを目指しています。その他、ロレアル・フォー・ザ・フューチャーを立ち上げ、①プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)を尊重し活動すべく変革、②ビジネスのエコシステムを強化し、よりサステナブルな世界への移行を支援、③火急の社会的・環境的ニーズを支援することで、世界の課題解決に貢献。以上の3本柱に基づき、30年までに測定可能かつ期限を定めた負荷削減の目標を達成します。
2024年も成長を加速、外資系化粧品企業としてトップシェアからその先へ
ースタートしている2024年の目標は?
ビューティ市場全体が堅調に進むだろうと予想する中で、日本ロレアルはインバウンドによって下支えされる要素も含みつつ、2024年は1桁代後半の成長で着地すると見込んでいます。さらにこのまま前進すると、日本の化粧品市場において、外資系企業としては現在トップシェアに到達していますが、さらにその先を目指したいと考えています。
ー各ブランドではどんな新しい商品が登場しますか?
ブランドでは、まずランコムで「タンイドル ウルトラ ウェア」「クラリフィック」「UV エクスペール」の3アイテムが新技術と共に大きく生まれ変わります。先進的なイノベーションを求める日本の方々にもきっと満足してもらえるはずです。ラ ロッシュ ポゼからは世界60ヶ国以上で愛されているフェイスクリーム「シカプラスト リペアクリーム B5+」が待望の日本上陸、メイベリンからは新たな「スカイハイ」が登場します。さらに昨年は先ほどお伝えしたイソップに加え、「プラダ ビューティ(PRADA BEAUTY)」も日本ロレアルの下でフレグランスをローンチし、発売前から話題を集めました。今年はロレアルの技術を搭載したプラダらしい、メイクアップ、スキンケアもスタートしたので、これらにも期待したいですね。
またタカミの後に続く、新たな日本ブランドのM&Aも検討しています。わたしたちはコスメの力で日本を輝かせたいという思いがあり、そのためにはクリエイティブかつ、イノベーティブでモダンな日本の側面をもっと引き出すことが重要だと考えています。そんな革新的な日本ブランドを世界に発信し、日本のビューティが世界でナンバーワンになることが、日本を輝かせることにつながるのではないでしょうか。
(文:ライター 中出若菜、聞き手:福崎明子)
◾️日本ロレアル:公式サイト
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