ヘア&メイクアップアーティスト 夢月
Image by: FASHIONSNAP
今やメイクアップアーティストにとってもSNSはテクニックやパーソナリティの発信に欠かせないツール。メイクアップアーティストの夢月(むづき)は、アシスタント時代からTwitterやInstagramでの発信を駆使してファンを獲得。「ナチュラルで繊細でちょっぴりドーリーなメイク」こと「夢月メイク」はアイドルからの指名も多い。昨年10月からThree PEACEに所属し、今年から活動の場をさらに広めるビューティパーソンだ。そんな夢月がメイクアップアーティストを目指した理由から、転機となった出会い、SNSとの距離感、これからの目標までを語ってもらった。
夢月
Three PEACE 所属。ナチュラルなのに作り込まれている、繊細でちょっぴりドーリーなメイクを得意とする。SNSでは「#夢月メイク」で紹介されたアイテムが店頭で売り切れることも多い、10〜20代の若者から支持が厚い次世代ヘアメイクアーティスト。SNSの総フォロワー数は19万5000人を越える。趣味はスイーツ巡りで、年間で数十万円を使うほど。チョコレート好きが好じて、有名ショコラトリーとのコラボショコラの販売やスイーツメディアでの連載も予定。
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目次
SNSを始めたきっかけは”スタートの遅れ”を取り戻すため
ーYouTubeなどSNSで発信するメイクアップアーティストは増えたと思いますが、夢月さんが発信を始めたのはいつでしょうか?
夢月:今のTwitterアカウントは5年前くらいに始めました。ヘアメイクの仕事の片手間ではなく、自分のポートフォリオのような気持ちで、ちゃんと力を入れていて発信しています。
ーなぜ、力を入れて発信しようと思ったのですか?
夢月:元々は、オートクチュールやアーティストの衣装のような特別な服が作りたくて、文化服装学院のファッション工科基礎化に通っていたんです。たまたま美容学校に行っていた友人のモデルをする機会があって、メイク道具を広げて色々なパターンのメイクを完成させる友人の姿を間近で見て、もの凄く惹かれました。それから美容学校に入り直したのですが、周りの子と比べてスタートが遅いという感覚があって。どうにかこの溝を埋めなきゃと思って始めたんです。だから個人のつぶやきではなくて「プロのメイクアップアーティストの発信」を初めから意識していました。
ー卒業してからはアシスタント業務からのスタートでしょうか。
夢月:アシスタント業務もしましたし、メイク動画メディアで企画からキャスティングまで編集以外の仕事も並行していた時もありました。アシスタントってほぼ無給なので、アルバイトもしましたし。
アイドルの撮影で培った”ヴィジュが良い推し”メイクが強みに
ー夢月さんはアイドルのヴィジュアルを担当することも多いですよね。何かきっかけはありますか?
夢月:動画メディアの仕事で、ミスiDに出ていた女の子をキャスティングすることがあって、その子たちが小林さん(ミスiD実行委員長 小林司)にSNSを使っている面白いメイクさんがいると伝えてくれたのをきっかけに、ミスiDの審査員をさせていただいたのが転機です。ミスiDの子たちと出会っていなかったら今の私はないと思うくらい感謝していますし、切磋琢磨してきました。
ミスiD:講談社が主催する2012年にスタートしたオーディション。「アイドル」と「アイデンティティ」、「i(私)」と「Diversity(多様性)」がコンセプトで、ルックスやジャンルに捉われず、新しい時代をサバイブしていく女の子のロールモデルを発掘する。生きづらい女の子たちの新しい居場所になることを目標とするプロジェクト。
ー今でもiD出身のモデルとは繋がっているのですか?
夢月:当時オーディションに出ていた子たちが活躍の場を広げていて、その要所要所でメイクをさせていただけたり。そうすると本当に一緒に成長してきた気持ちで、あの子が頑張っているから私もちゃんとしなきゃって背中を押されますね。
ー盟友のような関係なんですね。夢月メイクのコンセプト「ナチュラルで繊細でちょっぴりドーリーなメイク」もアイドルメイクに通じるように感じます。
夢月:まさにそうで、アイドルの子たちとの仕事の経験から作り上げていったものですね。自己プロデュース力に長けている子たちばかりなので、自分のコンプレックスもよく分かっているし、それをどうやってカバーするかも熟知している。だからその子たちの譲れない部分を大事にしながら、私だからこそできる可愛いメイクはどうしたら良いんだろう?と考えさせられました。今ではその経験がもの凄く活かされているので、共同制作してきたような気持ちです。
ー実際にアイドルの子たちのメイクで意識していることはありますか?
夢月:アイドルのグラビアページでよく「すっぴんっぽい感じでお願いします」と言われるのですが、個人的に「ヴィジュが良い推し」を見せることがその子にとってもファンにとっても大切だと思っていて。「すっぴん風」だとしてもベースには「ちゃんと盛れてる(可愛い)メイク」をしてあげたいと思うんです。雑誌の企画でエッジが効いたメイクや、普段の本人のイメージとは違う新しい一面を引き出すようなヴィジュアルを求められた時でも、その子が盛れていて「良いヴィジュアル」に仕上がるようにしています。私の経験上ですが、本人も「今日の私可愛いな、盛れてるな」と思えた方が、カメラの前で自信を持って振舞えるんじゃないかなと思うので。
ーすっぴん風メイクの方が意外と工程が複雑だったりしますよね。
夢月:本当にそうですよね。グラビア撮影や素顔を重視するような撮影の時は、「どこまでバレずに盛れるか」と考えてメイクしています(笑)。アイラインの仕込みも、ツヤ感、リップの色味などめちゃくちゃ熟考してるんです。どんなコンセプトでも通じますが、「技術は足し算、質感と色味で引き算」を意識していて。細かいテクニックはいくらでも組み合わせて足していくんですが、質感と色味の全体的なバランスを調整して最終的にナチュラルだけど盛れるメイクにするっていう。
プロ視点の発信は1投稿に2時間かかることも
ーSNSの投稿ではどんなことを意識していますか?
夢月:プロの発信であることは大事にしていますね。私がSNSをしている理由は、ヘアメイクの仕事につなげるためなので、いわゆる「バズ構文」を使ってフォロワー数を一気に増やしたいわけではないんです。どんなに魅力的な文言でも、薬機法に違反する表現は避けています。「この表現が使えたら良いのに」ともどかしくなることも本当に多いですけど、そういう基本的なことを守るのも業界で働く者として、それからフォロワーさんに対しての誠意かなと思うので。
ー以前のツイートで、否定系の表現はしたくないと言っていたのも印象的でした。
夢月:SNSを続けているからこそだと思うんですが、「美容師さんや美容部員さんから、コンプレックスをえぐられるような言い方をされて悲しかった」って定期的に見かけるんです。だからこそ自分はそういう表現は避けたいと思っていて。例えば「面長を緩和する」とか、分かりやすいですが、「じゃあ面長だと可愛くないの?」って思っちゃう。キャッチーな言葉の方が目を引くかもしれないですけど、そもそも可愛くなりたい気持ちでメイクしている人たちにはそこを楽しんでもらいたい。どうしても企画内容でそういう言葉を使わないといけない時以外は、美容に関わっている以上気を付けたいと思っています。
ーSNSでの発信が実を結んだ経験はありましたか?
夢月:作品撮りをひたすらあげていた時期に、偶然とあるバンドの方が見つけてくれて、メジャーデビューシングルのヴィジュアルで作品撮りに出てくれたモデルの子と、メイクで私を起用してくださったんです。街頭の大きなモニターにそのヴィジュアルが表示されたのを見て、続けてきて良かったなと、じーんときちゃいましたね。
ー夢月さんが紹介した商品がバズることもよくありますよね。
夢月:元々「夢月メイク」で使って良かったアイテムを紹介していて。プロ目線もありますが、基本的に私が得意な「盛れるメイク」に使えるアイテムなので、フォロワーさんやマスのユーザーと近い感覚でアイテムを選べているというのもあるかなと。SNS自体を長くやっていることで、今みんながどういう部分を気にしているのかもなんとなく分かって、アンサーになるようなものを紹介したり。テクニック紹介に合わせて使用アイテムをピックアップすると、そこで興味を持っていただくこともありますね。
ー紹介するアイテムやメイクのラメ感や色味など、実物に近いなと思っていたのですが、投稿の所要時間はどのくらいですか?
夢月:Lightroomなどの編集ツールを使っていて、大体2、3時間かかっていますね。きっとキャッチーにするためにはもっと発色をガッツリ目立たせた方が良いとかあるんでしょうけど、自分が良いと思ったポイントをリアルに限りなく近い形で伝えたいので。アシスタントにもSNSは絶対やった方が良いよって言っていて、編集の仕方や表現もできる限り教えています。
ーTwitter、Instagram、TikTok、YouTubeと、あらゆるプラットフォームを活用しています。正直、色々ありすぎて大変じゃないですか?
夢月:正直にいうと大変ですよ(笑)。私の目標のひとつが「夢月メイク」を一つのジャンルとして認知してもらうことなんです。今の若い子ってTwitterだけとかじゃなくて、SNSほぼ全使いしているので、どこかで目にしてくれたら良いなと思っていて。だからどのアカウントもちゃんとやっています。特定のアカウントだけ膨大なフォロワー数がいるインフルエンサーになりたいんじゃなくて、それぞれのアカウントである程度のフォロワーがいて、そういう層のファンがいるメイクさんとしてプロのお仕事をいただけるようになりたいんです。
ーSNSを続ける中で、夢月さん自身が傷つくようなこともありましたか?
夢月:アイドルや芸能人のメイクをすることが多いこともあり、「可愛い人にしか通用しないメイク」という意見をもらうことがあります。私自身もすごくコンプレックスはありますし、他人と比べることもあるので、その気持ちは痛いほどわかるんです。だから夢月メイクでは「自分史上一番盛れている」を目指しています。完全に憧れのあの子になるっていうのは難しいけど、自分が楽しくいるために一番盛れている状態でいられる、そんなメイクを伝えたい。とはいえ、全方位に嫌われないことは、今の時代は本当に難しいことだと思います。特にコンプレックスと切っても切り離せないメイクや容姿に関わることなので。キツイ言葉で色々とコメントをもらうこともありますが、トンチンカンな内容以外は出来るだけ冷静に、「こういう捉え方もあるのか」と思うようにしていますね。
事務所所属でやりたい仕事に貪欲に
ー2021年10月にスリーピースに所属してから数ヶ月が経ちました。
夢月:フリーランスでの活動に限界を感じていたこともあり、事務所に入ったことで仕事は大分やりやすくなりました。やりたいこと・目標を大きく考えられるようになりましたし、それをちゃんと実現しようとサポートしてくださる。素直に所属して良かったと思っています。
ー契約の決め手はなんだったんでしょう。
夢月:自分のプロフェッショナル性を磨きたいし、もっと大きな仕事に飛び込みたくて、数年前から憧れていて、いつか事務所に入るなら絶対ここ!と決めていたスリーピースに連絡しました。所属について半年くらい相談を進めました。一般的な契約交渉よりも時間がかかった方だと思うんですが、だからこそ私のリクエストを丁寧に聞いてくださいました。悲しい現状なのですが、フリーランスの女性って舐められることも度々あり...。メイクの仕事以外の部分に時間も精神も割かれてしまったんですが、大島さんに、所属している人たちを守ると言ってくださったことが励みになりました。
ー今後はどんなことに挑戦していきますか?
夢月:美容雑誌の特集ページや表紙のようなビューティ業界の大きな仕事を任せていただけるように、あらゆる面でパワーアップしていきたいです。所属したことで、これまでよりもいろんな技術も学べるだろうし、それが今までお付き合いがあった人たちにも還元できると思います。
ーSNSでの発信もこれまで通りですか?
夢月:その点に関しては先ほどもお伝えしたように、SNSを起点に色んな人に見てもらいたという私の意図を尊重してくださって、継続しつつ、より良いコンテンツの発信に力を貸していただいています。YouTubeも本格稼働して、メイク動画をじゃんじゃんあげていきます。
ーコスメについてもそうですが、夢月さんはやりたい仕事もよくSNSで発信していますよね。
夢月:これまでも「やりたい!」と言ってきたことがちゃんと叶ってきて、発信しておくのって大事だなと実感しているからですね。メイク以外に専用のアカウントを作るくらいスイーツも大好物で、それを見てくださった大好きなショコラティエの方と仲良くなり、コラボでボンボンショコラを作ることができました。その方が繋いでくださり、スイーツメディア「ufu」で連載をいただくことになったんです。伊勢丹の「サロン・デュ・ショコラ」のバイヤーさんと対談をさせていただけて、夢が叶って本当に感激でした。ヘアメイクしたい方や媒体を周りに積極的に話して、実際に呼んで頂けることも多くあります。こんな経験があるので、やりたいことは貪欲に言うようにしています!
ーそれでは最後に、今後やりたいことを教えてください。
夢月:アシスタントから独立したときに、3年以内にファッション雑誌、5年以内に美容雑誌に出ると目標を立てたんですが、それは着々と達成できています。スリーピースに所属したからこそ、美容雑誌の大きな特集で起用していただくのがまずひとつの夢です。これまでの経験を全て詰め込んだ書籍「アイドルメイク解体新書」も作りたいし、コスメブランドのタイアップのお仕事も増やしたい。SNSを続けてきて、どんなポイント・内容で発信したら話題化できるのか試行錯誤してきたので、そういう強みを活かして色々なブランドと取り組みができたらなと。それから、コロナが落ち着いたらセミナーのような形で、ファンの方々とコミュニケーションも取りたいです。
ufu. 連載「夢月のショコラに恋して」
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