Image by: FASHIONSNAP
とどまることを知らない未曾有の古着ブーム。歴史的背景を持つヴィンテージの価値も高騰を続け、一着に数千万円なんて価格が付くこともしばしば。「こうなってしまってはもう、ヴィンテージは一部のマニアやお金持ちしか楽しめないのか・・・」と諦める声も聞こえてきそうです。
でも、そんなことはありません。実は、現時点で価格が高騰しきっておらず、ヴィンテージとしての楽しみも味わえる隠れた名品もまだまだ存在します。この企画では、そんなアイテムを十倍直昭自身が「令和のマストバイヴィンテージ」として毎週金曜日に連載形式でご紹介。第24回は「エルメス(HERMÈS)」トルサード編。
2008年にセレクトヴィンテージショップ「グリモワール(Grimoire)」をオープンしたのち、2021年にはヴィンテージ総合プラットフォーム VCM(@vcm_vintagecollectionmall)を立ち上げ、日本最大級のヴィンテージの祭典「VCM VINTAGE MARKET」を主催している。また、渋谷パルコにて、マーケット型ショップの「VCM MARKET BOOTH」やアポイントメント制ショップ「VCM COLLECTION STORE」、イベントスペース「VCM GALLEY」を運営。2023年10月には初の書籍「Vintage Collectables by VCM」を刊行するなど、"価値あるヴィンテージを後世に残していく"ことをコンセプトに、ヴィンテージを軸とした様々な分野で活動し、ヴィンテージショップとファンを繋げる場の提供や情報発信を行っている。
縄がモチーフのエルメスジュエリー、注目ポイントは「留め具」
ADVERTISING
この連載ではこれまで、 ヘラクレス、アクロバット、クレッシェンド、アレアと、エルメスのヴィンテージジュエリーのなかでも「王道」と言えるモデルをピックアップしてきました。そして、今回紹介するトルサードもそれらに負けず劣らずの逸品です。
初期のエルメスジュエリーのモチーフは、馬や海に関係するものが中心でした。1938年に、エルメスの4代目社長となるロベール・デュマ(Robert Dumas)が、ノルマンディーの海岸で見かけた船の鎖から着想を得て生み出したのが、エルメスで初のジュエリーとなった、みなさんご存知シェーヌダンクルです。そのほか、エルメスを代表するジュエリーのひとつであるブックルセリエなど、祖業である馬具をモチーフにしたジュエリーも多数存在します。
1950年代に登場したトルサードは、馬と海の両方に関係する「縄」をモチーフにしています。馬には手綱が付き物ですし、船員や漁師も縄を使いますよね。そんなトルサードは、エルメスジュエリーに多いトグルが採用されておらず、全体的にクセがないシンプルなデザインが特徴。付ける人を選ばず、どんなファッションにもマッチするのがポイントです。
Image by: FASHIONSNAP
トルサードは、1990年代に一度廃盤になりましたが、2020年代に復刻されました。長い期間販売されていたこともあり、時代によって素材やつくりが異なることもトルサードの特徴と言えるでしょう。僕は1970年代くらいまでをトルサードの前期、それ以降を後期と分類しています。トルサードならではのディテールとして是非注目していただきたいのが、留め具の部分。まずは、後期から見ていきましょう。後期はこのように留め具の真ん中が開くようになっています。
そしてこちらは前期の留め具。前期は横の部分を開ける仕様です。
使われている素材やサイズも前期と後期で違います。前期はシルバー800が、後期はシルバー925が用いられています。サイズでは、前期はやや大きめで男性でも無理なく付けられる個体が多いのが特徴。後期のものはやや小さめで、細身の男性や女性向けです。相場は、前期のほうがやや高めで130万円くらいから。後期は80万円くらいからです。他のヴィンテージエルメスジュエリーに比べるとまだお手頃な価格なので、気になる方はお早めに。
こちらは、オーダーメイドでつくられた、ゴールドのトルサード。個人オーダーは上顧客のみが可能だったため、希少性は桁違いです。
Image by: FASHIONSNAP
ホールマークの意味を理解してヴィンテージエルメスを深く楽しむ
フランスやイギリスのジュエリーには、金属の種類や純度、産地、製造した年代や工房を示す「ホールマーク」という刻印を施すことが、法律で定められています。下の画像をよく見ると、学校の校章みたいな印の左右にアルファベットがあるのが分かります。これはホールマークのひとつで、作られた工房を示すメーカーズマーク。ほかにも例えば、パリで製造されたものには猪、パリ郊外で製造されたものには蟹の刻印など、ホールマークからは様々な情報を得ることができるんです。意味が理解できると、より深くエルメスジュエリーを楽しめるようになります。
エミール・エルメス工房のメーカーズマーク
Image by: FASHIONSNAP
今回ピックアップしたアイテムのホールマークを見てみると、エルメス3代目社長の名を冠したエミール・エルメス(Emile Hermès)工房で製造されたことが分かります。この個体は、留め具部分のピースが両側から完全に外れるようになっているのが特徴。この仕様、紛失のリスクが高くなるだけで、メリットなんてないように思えますよね(笑)。あくまでも僕の推測ですが、これはエミール・エルメス工房をはじめとした、ごく一部の工房でしか採用していなかったディテールではないかと考えています。通常、アクセサリーの留め具は目立つことがご法度とされる黒子のような存在ですが、トルサードはかなり凝ったつくりになっていているので、留め具をあえて手首の上に来るように付ける方が多い印象ですね。
Image by: FASHIONSNAP
エルメスのジュエリーを手掛けていた工房は100以上あると言われています。「リーバイス(Levi’s®)」のヴィンテージジーンズは、どの工場で製造されたかで評価が違ったりしますが、今後はエルメスジュエリーにおいても、工房によって価値が変わってくることがあるかもしれません。例えば、ジョージ・ランファン(Georges L'Enfant)は、エルメスの他にも「カルティエ(Cartier)」や「ヴァン クリーフ&アーペル(Van Cleef & Arpels)」、「ティファニー(Tiffany & Co.)」などの名だたるメゾンのジュエリーを手掛けた、20世紀を代表する工房です。ジョージ・ランファン工房製のエルメスジュエリーは既に高く評価されているので、今後はリーバイス501XXのなかでも随一の人気を誇る「大戦モデル」のような、ヴィンテージエルメスを象徴する存在になるかもしれませんね。
編集:山田耕史 語り:十倍直昭
vol.1 Carhartt × STÜSSY編
vol.2 キース・ヘリング Tシャツ編
vol.3 HERMÈS ヘラクレス編
vol.4 リーバイス ギャラクティックウォッシュデニムジャケット編
vol.5 ポロ ラルフ ローレン オープンカラーシャツ編
vol.6 セックス・ピストルズ ポスター編
vol.7 シュプリーム ゴンズジャケット編
vol.8 ソニック・ユースTシャツ編
vol.9 HERMÈS アクロバット編
vol.10 ナイキ クライマフィット ジャケット 2ndタイプ編
vol.11 カルバン・クライン「オブセッション」Tシャツ編
vol.12 マルタン・マルジェラ ペンキデニムジャケット編
vol.13 J.クルー ツートーンアノラックパーカ編
vol.14 エルエルビーン ボート・アンド・トート編
vol.15 HERMÈS クレッシェンド編
vol.16 オンブレチェックシャツ編
vol.17 HERMÈS アレア編
vol.18 スカジャン編
vol.19 カルチャーポスター編
vol.20 エルメス グレンデシャン編
vol.21 アディダス レザートラックスーツ編
vol.22 コム デ ギャルソン オム シャツ編
vol.23 ハーゲンダッツ編
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【令和のマストバイヴィンテージ】の過去記事
RELATED ARTICLE