MURRAL 2023AW
Image by: FASHIONSNAP
桜も咲き始めすっかり春めいていた東京の気温が打って変わり、寒さと雨に凍えた「Rakuten Fashion Week TOKYO 2023 A/W」最終日。東京国際フォーラムの6階からスロープを登り7階のラウンジに案内された観客は、「ミューラル(MURRAL)」デザイナーの村松祐輔と関口愛弓が「儚さ」を探し求めた12月の富良野の雪山を図らずも追想する。不運に思われたこの天候もこのショーのためにあったのかもしれない。
23年春夏のショーで10周年を迎えたミューラルは、そのショーを迎えるまでの1週間、今までになかった焦燥を感じたという。「あと1週間で楽しい時間が終わってしまう」ことへの切なさ、時の移ろいの儚さ、去るものは止められないということ、全ての事象が永遠ではない現実を痛感したその時に、その「儚さ」を形に残せたらどんなに美しいだろうと考えた村松と関口の脳内では、2023年秋冬コレクションのキーワードがすでに決まっていた。11年目ではなく、また新しい1年目を始めたいと語る2人にとって、その「儚さを切り取って形に残したい」という欲求は、ブランドが作り上げてきた世界観の完成を意味していたのかもしれない。2023年秋冬コレクションはまさに、終わりの瞬間の儚さを刹那的に切り取ったものが、新しい姿の始まりとして表出する静かな変化の提示だった。
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儚さの形を模索する過程で着想した「雪」というモチーフを追い求め、雪が吹き荒ぶ12月の北海道・富良野の雪山奥地へ村松と関口は足を運ぶ。壮大な自然にその身一つで対峙したとき、2人は「雪は天から送られた手紙である」という世界で初めて人工雪の制作に成功した物理学者中谷宇吉郎の言葉の意味を知る。空から降り注ぐ雪の結晶は肌に触れると消えてしまう「儚い」存在だが一つとして同じ形のものはなく、その小さな粒が降り積もって雪景色を作り上げる。刹那的な存在が積み重なることで完成する力強さこそが、今回のコレクションの軸。朧げで不安定で曖昧で掴みどころがなく、だがどこか芯があるもの。それが、ミューラルが導き出した儚さの姿の一つの答えだった。
コレクションは、ブランドが得意とする繊細な刺繍が施されつつ、シャープさが際立ったブラックトーンのルックでスタート。ブルー、グリーンなどの限られた色彩を経て複雑な表情をもつ多様な白に収束していく。白は、柔らかさと、何色にも染まる自由さと曖昧さを持ち、今回のコレクションにおける儚さの象徴。中でも終盤に登場したグラデーションのテキスタイルは、一体分ずつのカットした生地に村松と関口自身が羊毛を4層に配置し、ニードルパンチを施して制作されたもの。1点1点表情が異なり、ほっこりとした所謂フェルト表現にならないシャープさと軽やかさを備えた「自分たちの手でしか作れない」オリジナリティあるアイテムに仕上げた。
ショーを見て特に印象的だったのはシルエットの変化。体の動きを滑らかに追随する艶のあるフレアシルエットは、今までのノスタルジックなガーリースタイルにセンシュアルさが加わり、新しいミューラルの始まりを強く感じさせた。
富良野で撮影した雪の写真をプリントしたというオリジナルテキスタイルのワンピースは荘厳な中に静けさがあり、仄暗さをロマンティックに色付ける従来のミューラルらしさを継承しているように感じさせた。
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