Image by: FASHIONSNAP
トレンドの最前線を行く者、映画の最新作も気になるはず──。今月公開が予定されている最新映画の中から、FASHIONSNAPが独自の視点でピックアップする映画連載企画「Fスナ映画部屋」。
今回は、ファンの熱量も高いウェス・アンダーソン監督の記念すべき10作品目で、3年ぶりとなる最新作「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」(以下、フレンチ・ディスパッチ)をセレクト。編集部員によるゆる〜い座談会付きで本作を紹介します。
目次
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フレンチ・ディスパッチ
気になるあらすじは?
20世紀フランスの架空の街にある米国新聞社の支局で活躍する、一癖も二癖もある才能豊かな編集者たち。しかし、編集長が仕事中に心臓麻痺で急死。彼の遺言によって廃刊が決まる。残された編集者たちは、編集長の追悼号にして最終号の執筆に着手する。ストーリーは三部構成で、画面のいたるところにウェス・アンダーソンらしいユニークな演出が散りばめられている。
■フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊
公開日:2022年1月28日(金)
監督・脚本:ウェス・アンダーソン
出演:ベニチオ・デル・トロ、エイドリアン・ブロディ、ティルダ・スウィントン、レア・セドゥ、フランシス・マクドーマンド、 ティモシー・シャラメ、リナ・クードリ、ジェフリー・ライト、マチュー・アマルリック、スティーブ・パーク、ビル・マーレイ、オーウ ェン・ウィルソン、クリストフ・ヴァルツ、エドワード・ノートン、ジェイソン・シュワルツマン、アンジェリカ・ヒューストンほか
公式インスタグラム
一足先に「フレンチ・ディスパッチ」を観た、同い年編集部員2人による ゆる〜い座談会
普段はアートやカルチャー関連のほか、東京のデザイナーズブランドなどを担当。ウェス・アンダーソン作品ベストは「犬ヶ島」。「グランド・ブタペスト・ホテル」は大学時代に周りで流行り、3度トライするも2度寝る失態を犯す。
マサミーヌ:「THE・ウェス・アンダーソン作品」という感じで、ウェス・アンダーソン(Wesley Anderson)の世界観を愛する人なら誰しもが好きになるような作品だった!
フルカティ:オープニング映像からウェス・アンダーソン節炸裂って感じだったね。
マサミーヌ:「ウェス・アンダーソン作品は『犬ヶ島』よりも『グランド・ブタペスト・ホテル』派である」という人はきっと気に入るんじゃないかな?
フルカティ:今作は、アメリカに本社を構える出版社が、フランスにある架空の街 アンニュイ・シュール・ブラゼで刊行している雑誌「フレンチ・フレンチ・ディスパッチ」が舞台となっている。土地の名前や時代ではなく「雑誌が物語の舞台になっている」という表現はおかしいとは思うんだけど……。
マサミーヌ:雑誌が記事を寄せ集めて作られているように、この映画もいくつかの記事を映像化したオムニバス作品だから「雑誌が舞台になっている」としか言いようがない気持ちもわかるよ(笑)。
フルカティ:本来雑誌は読み物だけど「雑誌を"観る"」というのが感覚としては1番近かった。
マサミーヌ:物語の構成も、ビル・マーレイ(Bill Murray)が演じる編集長がはじめに雑誌「フレンチ・ディスパッチ」の概要を教えてくれた後に、それぞれ書き手も趣きもまったく異なるストーリーが3作品続く形となっていたね。
フルカティ:柱となっているのはその3作品だけど、それとは別に短い1本がある。そこではオーウェン・ウィルソン(ウェス・アンダーソンと大学生の頃からマブダチ)演じる自転車レポーターが、雑誌が発行されている架空の街 アンニュイ・シュール・ブラゼの案内をしてくれる、というもの。
マサミーヌ:この4本で物語が構成されていることを知らずに観ると「私は今なにを見ているんだっけ」と初見はなりそうだよね(笑)。
フルカティ:少しおかしな例え話だけど、東京ディズニーランドでアトラクションに並んでいる時に聞かされたり、観させられたりする、アトラクションの世界観設定を説明する時間がずっと続く、みたいな作品。
マサミーヌ:「出版されている雑誌も街もとてもリアルだけど、全て架空世界のもの」というのを理解するための映画だったね。私は演劇っぽいな、とも思った。わかりやすい場面転換もあるし、字幕もト書きのようだったし。
フルカティ:字幕はもちろんだけど、ウェス・アンダーソン作品は情報量が凄まじいよね。
マサミーヌ:ト書きのような字幕を読みつつ、素敵な美術や衣装に目を向けるのは忙しいし、大変(笑)。
フルカティ:字幕と美術を一生懸命追いかけていると、今度はちょい役で出ている名優を見逃す(笑)。ウェス・アンダーソン作品は「一度の鑑賞では全てを網羅することができない」ということがわかっているからこそ、何度観ても楽しめるのかな、と思う。
マサミーヌ:そうだね。ト書きのような字幕はセリフが長い分、意味を理解し切る前にどんどん流れてしまうし。
フルカティ:あの長く、回りくどい言い回しはネイティブの人が聞いたら落語のように感じるかも。
フルカティ:衣装はどうだった?
マサミーヌ:学生運動の主導者コンビをティモシー・シャラメ(Timothee Chalamet)と共に演じたリナ・クードリ(Lyna Khoudri)の衣装は気になった!格子柄のプリーツスカートに、艶感のあるレザージャケットとロングブーツを合わせたスタイリングでオートバイに乗るシーンは、女性的でありながら、情熱的でたくましくもある「ジュリエット」という役柄を表現するのにとてもふさわしい格好だなと思った。
フルカティ:ティモシーとリナ・クードリが出演しているオムニバス作品「宣言書の改定」は、実際にフランスで起きた学生運動「パリ五月革命」についてのウェス・アンダーソン流の受け止めらしく、ウェス・アンダーソンと長年タッグを組んでいる映画衣装デザイナー のミレーネ・カノネロは、実際にパリ五月革命のデモに参加していた若い女性の写真をヒントにしたそう。
マサミーヌ:「フランスっぽさ」は衣装全体を通して感じたかな。
フルカティ:そうだね。特に劇中最初のオムニバス作品「確固たる名作」に出てくる囚人が、フランス発の伝統的なスリッパ「ラ シャランテーズ チャ(La Charentaise TCHA)」を履いていたところにグッときた。
フルカティ:キャスティングの楽しみ方で言うと、ウェス・アンダーソン作品ではお馴染みの俳優が数多く出演していることも去ることながら、ウィレム・デフォー(Willem Dafoe)などの名優が本当に一瞬だけ映ったりするから気を抜かないで欲しいね(笑)。
マサミーヌ:ウェス・アンダーソンは出演俳優を顔で選んでいるのかな?と思う時がある。
フルカティ:どういう意味?
マサミーヌ:「イケメンである」「美女である」という選び方をしているという意味ではなく、役者名は覚えていないけど印象的な顔の俳優というか。ユニークなフェイスの俳優を意図的に選んでいるのかなと思うんだよね。
フルカティ:たしかに。ウェス・アンダーソン作品は登場人物も多いから、役名を覚えようと思っても限界がある。でも役者の顔が印象的だから、役名を覚えていなくても観進めることができる節はあるかも。
マサミーヌ:ウェス・アンダーソン作品にも数多く出演していて、本作にももちろん登場しているティルダ・スウィントン(Tilda Swinton)も大女優だけど、意外とフルネームを言える人はいないんじゃないかな?
フルカティ:ウェス・アンダーソンは、長年フランスに住んでいたほどの自他共に認める"フランス好き"。
マサミーヌ:「アメリカ人から見る、憧れのフランス」という愛が端々から伝わってきた!
フルカティ:生まれも育ちもフランスの人にしてみたらきっと突っ込みどころもたくさんあるんだろうけどね。
マサミーヌ:本作には実際にフランスで生まれ育ったスタッフも数多く参加していて、劇中歌を手掛けたアレクサンドル・デスプラが「監督の頭を通したフランスのイメージだからすこし歪んでいる。これは詩的なフランス」とコメントしていた。
この映画はフランスのイメージから作られています。でも、監督の頭を通したイメージなのですこし歪んでいます。ですから、フランスとも言えますが「詩的なフランス」です。細部や引用の多くは正確ではありませんが、本物らしく見える。「これは本物のフランスですか?」と問われれば違います。ですが、どういうわけかフランスなのです。
ー作曲家 アレクサンドル・デスプラ
フルカティ:また例え話だけど、日本語を翻訳サイトで英文にしてからそれをもう一度日本語に再翻訳し直すと、少しだけおかしな言い回しになるじゃん。本作にも同じような「意味は伝わるけど不思議な違和感」を感じた。英語↔仏語の再翻訳が繰り返されることで現れる、文章的に変だけど「なんとなく言いたいことはわかるぞ!」がずっと続く感じ(笑)。
マサミーヌ:ましてや私たちは英語↔仏語再翻訳されたものを、日本語字幕で観ているからね。
マサミーヌ:本作はウェス・アンダーソン監督が学生時代に愛読していたという雑誌「ザ・ニューヨーカー(The New Yorker)」で実際に働いていた記者や編集者、ライターをかなり参考にしているらしい。(ウェス・アンダーソンは特に創業者で編集者ハロルド・ロスの時代のニューヨーカーに傾倒したとか。当時寄稿していた作家ジェームズ・サーバーや、A・J・リービング、ジョセフ・ミッチェル、ロザモンド・ベルニエらがキャラクターのインスピレーション源とのこと)
フルカティ:雑誌「ニューヨーカー」に限らず、雑誌という媒体は決まった文体がある訳ではなく、寄稿するライターそれぞれのスタイルやセンスが寄せ集められて一冊の本になっていて、ウェス・アンダーソン監督は個性的やストーリーの違いを、映画で撮り分けることに見事成功したな、と思った。
マサミーヌ:そう思うと本作は、ウェス・アンダーソンが愛してやまないものを組み合わせた映画とも言えそうだね(笑)。
フルカティ:これは拡大解釈かもしれないけど……。雑誌「フレンチ・ディスパッチ」を刊行している架空の街 アンニュイ・シュール・ブラゼで用いられている「ブラゼ」というのは、フランス料理の調理法「ブレゼ」に由来しているのかな?とも思って。ブレゼというのは「蒸しながら煮る」という調理方法。
マサミーヌ:つまり、炒め焼きと蒸しの2つを組み合わせてる料理なんだ。
フルカティ:その通り。なんとなく、この映画が醸し出している「僕が好きな全く別の物をなんとかして組み合わせて、一つの素晴らしい作品として成り立たせる」みたいな気合や雰囲気は、「炒めながら蒸す」という調理法とマッチするな、と。
フルカティ:私の中でウェス・アンダーソン作品の印象は「人生謳歌」というか、誰かの人生や歴史にフォーカスするものが多いのかなと思っていて。例えばグランド・ブタペスト・ホテルは、ざっくり「新人ベルボーイが、何故廃れたホテルの支配人をしているのか」という支配人の人生が主軸。
マサミーヌ:本作にも出演している大女優ティルダ・スウィントンが的確にこの映画を評価していて。「これは監督が、国際人であること、文化、自主報道という芸術への祝福についてフランス語で書いたラブレターです」と。
フルカティ:言い得て妙!本作は、人生讃歌というよりかは「仕事讃歌」だなと思っていて。なぜなら、今まで製作されていたウェス・アンダーソン作品が「過去から現在まで」「ある少年が成長するまで」といった線的時間の描写に対して、本作はオムニバス作品ということもあり、点的時間の描写が多い。だからこそティルダ・スウィントンも、1日や数時間という単位の中で働いている人達に向けたラブレターのように感じられたんじゃないかな。
マサミーヌ:具体的にはどういうところで「仕事讃歌」だと感じたの?
フルカティ:それはネタバレになるから次のページで話そう(笑)!
【もう観た!? Fスナ映画部屋アーカイブ】
・ロバート・パティンソンとウィレム・デフォーのW主演映画:「ライトハウス」
・フランス映画がアツい:「Summer of 85」
・UA栗野とミキオサカベが語る:「マルジェラが語る"マルタン・マルジェラ"」
・令和のスター・ウォーズ誕生:「DUNE/デューン 砂の惑星」
・あなたも"やられた!"と思うはず?:「アンテベラム」
・完全"復活"を世界最速考察:「マトリックス レザレクションズ」
・ファッション業界のタブー!?:「ハウス・オブ・グッチ」
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