トレンドの最前線を行く者、映画の最新作も気になるはず──。今月公開が予定されている最新映画の中から、FASHIONSNAPが独自の視点でピックアップする映画連載企画「Fスナ映画部屋」。
今回は映画公開前からSNSを中心に密かに話題となったフィンランド発のホラー映画「ハッチング―孵化―」をセレクト。「テルマ」や「ボーダー 二つの世界」など、怖いだけでは終わらない北欧ホラーは一見の価値あり!編集部員によるゆる〜い座談会付きで紹介します。
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あらすじ
北欧フィンランド。12歳の少女ティンヤは、完璧で幸せな家族の動画を発信することに夢中な母親を喜ばすために全てを我慢し、体操大会で優勝を目指す日々を送っていた。ある夜、ティンヤは森で奇妙な卵を見つける。家族に秘密にしながら、その卵を温めるティンヤ。やがて卵は大きくなりはじめる。
【ゆる〜い座談会を行う同い年編集部員2名】
ネタバレなしで「ハッチング―孵化―」を解説!
今作はホラー映画好きにとっても新鮮な作品なんじゃないかな。
「それなりに色々な映画を観てきているし、話の展開も何となく読めるな」と途中まで思っていたんだけど、ラストも含めて全く読めなかった(笑)。
監督を務めたハンナ・ベルイホルムは今作が長編映画デビュー。
今作で長編映画デビューする前は、様々な短編映画やTVシリーズを手掛けていたらしいね。
2018年に発表された「Puppet Master(原題)」はモントリオールで開かれるファンタジア国際映画祭などに選出。
ニューヨーク近代美術館のモダンアート映画部門で上映されるなど、高い評価を受けたとか。
冒頭3分で映画の世界観にグッと引き込む感じは
「さすが短編映画で評価されていた人!」と思ったよ。
上映時間も91分と短めだし、サクッと観られるのも嬉しいね。
たった90分の映画だったのか。2時間半くらい観た気持ちになる情報量だった……(笑)。
本作の大きな特徴は、ホラー映画なのに物語の舞台が「暗闇」ではないところ。
やりすぎなくらいロマンチックな北欧スタイルのインテリアや装飾、明るいパステルカラーの壁紙、鮮やかな花など。
一見するとホラー映画とはとても思えなよね。
インテリア全体のデザインは
「『素敵な毎日』と題して動画をSNSにアップロードしている主人公ティンヤの母親が、幸せな家族と綻びのない家という完璧なイメージを示すためにデザインした」
という設定に沿って作られたとのこと。
なるほど。だから自然体な感じが全くしなかったのか。
登場人物たちがドールハウスのような家で、見せかけの生活を送っているように見えたよね。
表面上は素敵なんだけどね……。
あるシーンで登場した、ウジ虫が湧くほどにゴミが溢れかえったティンヤ家のゴミ箱が忘れられない。
たしかに。
そういう示唆に富んだ演出やカットが多いよね。そこに注目すると楽しめそう。
それにしても本作の主人公は12歳の少女ティンヤではなく、その母親なんじゃないかと思うくらい彼女のキャラクターデザインは強烈だったね
母親は、娘であるティンヤを体操選手として育て上げることで成功を追体験し、幸せを得ようとしている。
一方ティンヤは母親から愛されるためには何事にも一生懸命取り組む必要があると考えている……。
所謂「毒親」だよね。
ティンヤの、本当は嫌だし辛いしやりたくないけど「嫌われたくない」と理由だけで取り繕う笑顔が痛々しかった……。
ティンヤ役を演じたのは、1200人のオーディションから選ばれた逸材シーリ・ソラリンナ。
シーリ・ソラリンナは、シンクロナイズドスケートの選手でもあるらしい。
北欧で生まれた伝説や古典的なおとぎ話は、母親が不在で意地悪な継母が登場することが多いけど、今作では明るく優しく美人な母親がティンヤにとってストレスの要因になっている。
個人的には、本作では母親と父親の名前が一度も明かされないところがゾッとした。
言われてみればたしかに……。
「ハッチング」というのは英語で「孵化」という意味ももちろんあるんだけど
絵画や版画においては平行線を何本も描くことや、指定された範囲を斜線や特定の模様で埋めることを指すんだよね。
監督がどこまで意識しているかわからないけど、交わらない家族や人間関係を描いた本作にぴったりな名前だなと思った。
秀逸なダブルミーニングなのかもしれないね。
母親もなかなかのキャラクターデザインだけど、父親や息子マティアスとの関係性も強烈だったね。
今作は「飛び上がるような怖さ」というよりも
「考えさせられるホラー調の映画」といった方がしっくり来るよね。
そうだね。
本質的には親に抑圧される思春期の女の子の心情を丁寧に描くドラマだと思った。
ただ、嫌な雰囲気でその過程を描いていくのでしっかりとホラー映画の体をなしているのが見事(笑)。
醜形恐怖症や摂食障害などの心の健康問題や、承認欲求、自己嫌悪、母親からの自己投影など誰しもが大なり小なり経験したことがあるであろう問題を取り上げている。
「社会的な問題を取り上げる」というアプローチは直接的だけど
そこに卵という要素が入ることでひねりを加えているのが本作のおもしろさだよね。
私も、卵というモチーフを用いることで「自分の気持ちを外に発散せずに溜め続けてしまうと、その気持ちはどんどん強く大きく育ってしまう」ということを暗喩していると思った。
反面教師的に「自分とはいくつもの感情があってこそひとつの個性になるのだ」というメッセージ性も感じたんだけど私だけなのかな(笑)。
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