Image by: FASHIONSNAP
砂川卓也が手掛ける「ミスターイット(mister it.)」が、ブランド初となるランウェイショーを渋谷ヒカリエで開催し、2024年秋冬コレクションを発表した。古き良き時代の劇場を思わせるセットが組まれた会場でユーモア溢れるアナウンスとともに幕を開けたショーには、デザイナーのクチュール仕込みのテクニックとファッションや人への愛情が惜しみなく詰まっていた。
ミスターイットは、デザイナーの砂川(いさがわ)卓也が2018年にスタート。エスモードパリ(Ecole International de Mode ESMOD Paris)を主席で卒業後、2012年に「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」に入社し、メインコレクションに加えてオートクチュールのデザインにも参加。現在はメゾン マルジェラで積んだ経験を元に、オートクチュールのテクニックを身近なアイテムに落とし込んだコレクションを展開している。
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そんなミスターイットにとって初のランウェイショーとなった2024年秋冬コレクションのテーマは、「クチュール リズム(couture rhythm.)」。「オートクチュール」とは技術だけでなく、人の存在や身体、嗜好を捉える態度が中核にあるものと考える砂川が、服が作られる過程で発生する音や、人と人との触れ合いの中にある目には見えない律動といったブランドやクリエイションを取り巻く様々な「リズム」を、多様なテクニックと表情豊かなディテールに落とし込んで表現したという。
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美しいドレープや、裾に複数走る大胆なスリット、構築的なペプラムスカートの下から覗く豊かなチュール、サイドや背中にたなびくスカーフ、胸元やウエストから垂れ下がる装飾のコードといった、クチュールの技術がふんだんに詰まったディテールの洋服たちは、軽快なビートを刻むBGMに合わせてモデルが一歩踏み出すごとにリズミカルに揺れ、その音や動きとともに、ファッションの楽しさが観客の心にも届いてくるような小気味良さがあった。ほぼ全てのルックで「couture rhythm.」のセンテンスが胸元のバンドで示されていたのも、ドレーピングにおける基点が胸元にあることから着想を得て作られているといい、クチュリエらしい遊び心に思わず微笑みが浮かぶ。
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凝ったディテールやデザインのアイテムが多いものの、アヴァンギャルドにはならずにどこか身近な印象を与えるのは、砂川が学生時代から好んでいるという、歴史を感じるクラシックであたたかみのあるキャメルやベージュカラーのテーラリングをベースにしていることや、曽祖父の代からスカーフを作る家庭に生まれたという出自を反映させたカラフルでレトロなスカーフ使い、ハンガー型バッグや背中に付いたカラフルな三つ編み、大きくてふかふかしたハートのモチーフなど、遊び心溢れるチャーミングな要素を織り交ぜているところも大きいだろう。
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加えて、以前から糸の開発も手掛けるほど素材にもこだわっている砂川は、今季のアイテムの一部に、協和ホールディングスが新たに始動したファブリックブランド「デコンファブ(decon FAB)」との協業で開発したサステナブル素材を採用。デッドストックの贅沢な生地に今の技術を用いて加工を施したシャツ地や、コットンで再現したウールメルトン素材、シルク着物を綿に戻して糸にしオーガニックコットンと混ぜて織ったデニムなど、「“クラシック”に現代のエッセンスやテクニックを融和させることで今の日常に浸透するものを作り出す」というブランドの思想に沿った選択を、生地選びでも行っている。
ミスターイット初のランウェイショーが五感で体感させてくれた「クチュール リズム」の楽しさや小気味良さは、時間が経った今も筆者の中にしっかりと残っている。今回のショーは、「オートクチュールの考え方を現代に解放し、パーソナルなものづくりの楽しさや自由さを共有し、現代の生活や日常にしなやかに馴染む実践を行っていく」という価値観を持ち、「身近なオートクチュール」をブランドコンセプトに掲げる同ブランドのエッセンスが凝縮された、まさにこれ以上ない名刺代わりのようなショーになっていたのではないだろうか。
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