(左から)ヘアメイク向井大輔、デザイナー関根隆文、スタイリスト 百瀬豪
Image by: FASHIONSNAP
予期せぬパンデミックにより、生活が一変して丸一年。多くのファッションブランドがデジタルに発表の場を移してから3シーズン目となる。パリからミラノ、ロンドン、ニューヨーク、東京までフラットに繋がるデジタル上では、各デザイナーが工夫を凝らしたコレクションを発表しており、東京発のブランド「メアグラーティア(meagratia)」を手掛けるデザイナー 関根隆文もその一人。3月17日(水)に映像配信で披露した2021年秋冬コレクションは、現役音大生をモデルに「コンサート映像形式」で発表した。
「Unexpected」をテーマに掲げた2021年秋冬コレクションの背景にあるものとは? 「メアグラーティア」デザイナーの関根隆文に加え、今回のコレクション映像の制作に携わり、プライベートでも親交のあるスタイリスト 百瀬豪とヘアメーキャップアーティスト 向井大輔を迎え「予想外のクリエイションができるまで」を語ってもらった。
【関根隆文】
「メアグラーティア」デザイナー。1982年、茨城県出身。東京モード学園卒。在学中よりインターンをし、下積み時代を経て2008年コレクションブランドに入社。ミラノでの展示会や東京コレクションを経験し、4年間アシスタントを務めたのち独立。2011年に「メアグラーティア」を立ち上げた。ブランド事業以外でも、2020年NHK紅白歌合戦に出演したYOASOBIをはじめ、アーティスト衣装も手掛ける。2019年度「Tokyo 新人デザイナーファッション大賞プロ部門」入賞。
【百瀬豪】
スタイリスト。丸本達彦に師事した後、2010年に独立。SEKAI NO OWARI、山下智久、山崎育三郎など多数のアーティストのスタイリングを担当するほか、広告やファッションブランドとの仕事も行っている。
【向井大輔】
ヘアメーキャップアーティスト。INOMATA氏に師事した後、2008年にフリーランスとして活動を開始。アパレルブランドのルック撮影などファッションメディアをはじめ、ミュージックビデオやアーティスト写真、ライブ、CM、広告などのヘアメイクを手掛ける。ウィッグなどを使ったヴィジュアルワークも得意としている。今回のメアグラーティア2021AWコレクションでは、ヘアアーティストとして参加。
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変化する「花」の様子に着想した服
― 皆さんの出会いは?
ヘアメイク 向井大輔(以下、向井):百瀬くんと関根くんはかなり長いよね。
スタイリスト百瀬豪(以下、百瀬):最初に関根くんに会ったのは20歳になる前くらいだったから、もう17、18年くらいの付き合い。出会った当初は、お互い中目黒の古着屋さんと洋服屋さんで働いていて。
デザイナー 関根隆文(以下、関根):同じマンションで、僕が7階、百瀬くんが1階の洋服屋さんでアルバイトをしていたんですよ。
百瀬:苦楽をともにしたね(笑)。
― 仕事でコラボレートするようになったきっかけは?
百瀬:関根くんが「メアグラーティア」を始める準備をしている時に、偶然原宿で会ったんです。「ブランド始めるんだよね、ルックも撮るんだよね」って言うから、「(声をかけないなんて)水臭いよ!」って強引に僕が入って(笑)。
関根:そうそう(笑)。原宿でばったり会ったのが撮影の3日前とかだったんですが、急遽スタイリングで入ってくれることになりました。向井さんは共通の知人を介して知り合い、最初のコレクションからヘアメイクで入ってくれています(今回の2021AWコレクションではヘアアーティストとして参加)。
向井:3人とも、年齢も近いしね。
― 「メアグラーティア」のブランドコンセプトは、「歴史と現在の感覚の融合」「時代とともに移り変わってゆく文化や環境、人々に花の姿を重ねた世界観」。コレクションでも花は毎シーズン、キーモチーフになっていますね。
関根:もともと花が好きなんです。花って、枯れたらドライフラワーになったり、ずっと変化しながら生き続けるじゃないですか。変化するたびに新しい表情を見せ、進化していくというか。メアグラーティアはギミックが詰め込まれた服が多いんですが、そういったスタイリングによって変化を着けられるポイントも、花の「変化していく様子」に重なっていると思っています。
百瀬:メアグラーティアは、関根さんそのものっていう印象。彼のワードローブやパーソナリティがそのまま出ているというか。
― 2021年秋冬のテーマ「Unexpected」について教えて下さい。直訳すると、予期しない、予想外、突然の...といった意味ですね。
関根:今回のコレクション製作は生地からスタートしています。「にじみ」や「ぼかし」を取り入れた生地をオリジナルで作るために、生地屋さんと何度も打ち合わせをしたんですが、生地って上がってくるまでどうなるのか分からないものが多くて。どう染まるか分からないし、製品になってみるとまた違う見え方になったり。予想できない事が多かったので「Unexpected」というテーマになりました。
― キーピースは?
関根:「裂き織り」という手法を取り入れた、オリジナルのデニム地を使ったアイテムです。デニムを裂いてテープ状にしたものを経糸に使っているんですが、デニムをテープ状にすることによって全体的にほつれがでてくるのと、デニムの裏表がランダムにでてくるので、一点一点違った表情になるのが魅力です。あとは、今回のコレクションでは染め物を多く使っています。これはコーデュロイを染め、縦にシワを寄せてから、さらに染め上げたアイテムで、一点一点違う表情に仕上がっています。今シーズンは日本の伝統技術を用いたアイテムが比較的多くなりましたね。
21AWの映像は現役音大生がモデルに
― 百瀬さんはスタイリング、向井さんはヘアメイクとしてメアグラーティアのヴィジュアル制作に長く携わっています。
百瀬:関根さんはデザイナーの中でも特殊で、服ができたら「もう全部任せた」っていうタイプ。ルックを組む時も「良いね」ぐらいで、基本的にはほとんどこっちに任せてくれる。撮影中も静かにずっと見ていることがほとんど。たまにインスタのストーリー用に写真を撮るくらいで(笑)。
関根:ヴィジュアルの制作においては、そっちのプロに任せるのがベストだと思うんですよ。僕は「こういうのをやりたい」っていう大枠だけを決めます。前シーズンだったら「アニメーションを使ったムービーにしたい」、今回は「音大生をモデルにして、コンサートのような映像にしてみたい」と。
百瀬:全部任せてくれるからこそ、「カメラマンも含め撮影チームのテンションが高いと良いものができるね」っていう意識があるんです。今回は特に沢山打ち合わせもして、ここ何年かで一番良い着地ができたかな、と思っています。
― なぜ「音大生とコンサート」というリクエストだったんでしょう?
関根:プロのモデルではなく、一般の方に着てもらいたいと思ったんです。あと「歴史と現在」というコンセプトのもとに服を作っているので、クラシックなものとの融合を追求したいと考えました。それで色々とアイデアを膨らます中で、音大生に行き着いたんです。
百瀬:(音大生の)モデルの写真が送られてきたときに、いわゆるプロのモデルとは違うので、どうやったら良いものができるんだろうと色々と考えました。それでチームで集まった時に、向井くんが以前に制作したヘッドドレスを見せてくれて、「めちゃくちゃかっこいいな」となって。
向井:映像でモデルが着用しているヘッドピースは「メアグラーティア」の残布を貰って作ったものなんですよ。みんなに良いと言ってもらえて良かった。
百瀬:良い意味で世界観を壊したかったので、メイクは入れ墨風にしてもらって。撮影当日は、僕のタトゥーを入れてくれたアーティストさんに来てもらったんです。関根さんは花のタトゥーを入れているんですが、そこから着想を得て、花を顔に描いてもらったりね。良い意味で「違和感」のある仕上がりになったかなと。
― 通常のショーとは全く違う見せ方ですが、スタイリングで意識したことは?
百瀬:ルックブックとショーの両方を制作しているブランドは、見せ方をどう変えるのかを必ず考えるものだと思います。「メアグラーティア」でも前シーズンはルックブックとショーでかなり差をつけたスタイリングにしたんですけど、今回はモデルやヘアメイクが特殊だったので、あまり意識せずスタイリングしましたね。今回は「服の届け方」自体に大きな違いがありますから。
― ショー映像では現役の音大生がモーツァルトなどクラシックの楽曲を演奏しています。ファッションショーという枠を超えた、デジタルならではの見せ方でした。
向井:「あのヘッドピースを着けながら演奏できるかな?」と心配に思っていたんですが、なんなく楽器を弾いてるのを見て「この人達すごいな」って改めて感じました(笑)。集中していたからか、彼らも途中から変なテンションで、ちょっとしたトランス状態になっていましたね。
「Rakuten Fashion Week TOKYO 2021 A/W」で3月17日に発表した映像
デジタルだからこそ「熱」のあるショーに
― 以前は東コレでランウェイショーを開催していましたが、このような状況になりここ数シーズンはデジタル配信で発表しています。デジタルならではの良さは感じますか?
関根:「見せ方勝負」というか、見せ方のアイデアでも勝負ができるのがデジタルならではだと思います。実際、ブランドごとに見せ方が全く違いますし。「メアグラーティア」ではランウェイをムービーで撮るのとは違う表現にしたかったので、今回のように現役の音大生をモデルに起用したり、いかにフィジカルではできない表現に挑戦するか、ということはギリギリまで考えましたね。
百瀬:デジタルショーの良い点は、映像という形であれば、海外のブランドも日本のブランドも関係なく、フラットな目で見てもらえるんじゃないかな、という気がします。それは色んなブランドにとってチャンスが広がる事だと思いますし、だからこそ、映像を制作するにあたり「生のショーじゃないけど、テンションあげていこう!」と、チーム一丸となって取り組みました。映像のほうがランウェイだけよりも多くの人に見てもらえる可能性もありますし。
向井:映像になったことでコンセプトは盛り込みやすくなったので、見てくれる人に、より伝わりやすいという点がデジタル配信ならではの良さですよね。一方で、ランウェイならではの熱気や熱量をデジタルで感じ取るのはやっぱり難しい。できることならショーと映像の両方で発表できたら良いのになと思います。
― コロナ禍で、プライベートから仕事まであらゆる変化があったと思います。
百瀬:2ヶ月位、割と誰もが「何もない時期」があったじゃないですか。僕自身は、その時間があったからこそ生まれた「仕事への枯渇」が今もあって、コロナ前よりも良い気持ちで1つ1つの仕事をできているなとは感じます。独立したばかりの頃のハングリーさがあるというか。
向井:確かに、おのずと自分の根本を見つめ直す時間になりましたよね。それまでは何かに追われるように忙しく過ごしていたけれど、僕自身、本当は何が大事で、何をこれからやっていきたいのか、というのを見つめ直せた時間でした。そういう意味で、コロナ前よりも仕事に取り組む気持ちや姿勢は変わっていきましたよね。ひとつひとつにコミットしていきたい気持ちが強くなったというか。
関根:分かる気がします。その「何もない時期」が、僕にとっては次のデザインを考える時期と重なって。そこで深く、次のデザインを考えられたので、よりこだわったものになったし、表現したいものを追求する時間にあてられたのはすごく良かった。初心にかえるじゃないですけど、もの作りをしっかりやっていこうという決意にはなりました。デザインしかり素材しかり、しっかり考えたり、工夫する時間を毎シーズン作ろうって思いましたね。
百瀬:みんなそうだと思う。これだけの「何もない時期」というのは、後にも先にももうないんじゃないかな。
― 「メアグラーティア」の次の目標は?
関根:この状況が落ち着いてからにはなりますが、パリでモデルを起用してインスタレーションを開催したいです。コロナになる前も毎シーズン、パリでは展示会を行っていたので。目標としては、次はそういったフィジカルなことをやりたいですね。
■Rakuten Fashion Week TOKYO 2021 A/W
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