パリ・メンズ・ファッションウィーク2日目に当たる1月17日、「エムエーエスユー(M A S U)」が2024年秋冬コレクションを発表。日本から世界で活躍するファッションデザイナーの輩出を目的とした「FASHION PRIZE OF TOKYO」を2023年に受賞した同ブランドは、そのプライズの支援を受けながら、コレクション発表の場をパリへと移した。パリ・メンズ・ファッションウィークのオフィシャルカレンダーには載らない、いわゆるアン・オフィシャルな形でのランウェイにも関わらず、会場には大勢の人々が駆けつけ熱気に溢れていた。
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孤独は贅沢なことーー「M A S U」の、日本国外では初となるショーの後、デザイナーの後藤愼平はそうこぼした。かつてカール・ラガーフェルドが放った「孤独は最大のラグジュアリー」という言葉が頭をよぎりながらも、しかし「M A S U」は、日本でたくさんの仲間と“マス・ボーイズ”と呼ばれる熱心な若い顧客に囲まれてきたことを思い出す。優れたデザインだけでなく、独自の活気あるコミュニティを生み出す後藤の能力は、近年、彼が東京ファッションの若手筆頭株と囁かれてきた理由のひとつである。そんな彼の元にさえも、孤独は等しくやってくるのだが、冷静な自己分析に基づき、それを新たな活力へと変えてみせた。
薄暗い会場の天井からは、おどろおどろしい巨大な黒のランプシェードが吊り下げられている。哀愁漂うピアノが鳴り響く中、ゆっくりと歩いてきたファーストルックは、漆黒のセットアップだ。魔術師を思わせるケープのフードを深く被り、虚な瞳にはクリスタルの涙がキラリと光る。
「ダークヒーロー」をテーマに掲げた今コレクションは、アトリエで一人で過ごす時間に感じた孤独から始まったという。孤独とは決して悪いことではないーーその意義を体感した後、通りを歩いていると、蜘蛛の巣に煌めく朝露へと目が留まるようになったそうだ。パブリックイメージが必ずしも良くないものに、肯定のまなざしを向ける。そこから、優しさを武器にするダークヒーローという像を導き出した。
Image by: M A S U
このイメージは一見、キャンディカラーで埋め尽くされた前回の2024年春夏コレクションとは真逆の方向性にも思えるが、実はそうではなく、「M A S U」の武器である“可愛らしさ”は、ディテールやモチーフの随所にふんだんに散りばめられている。毛足の長いフェイクファーや、エンジェルのモノグラム、虹色のスパンコールなど、これまでの人気デザインは踏襲。
Image by: M A S U
Image by: M A S U
Image by: M A S U
逆さの風船のモチーフは、グラフィック・アーティストのヴェルディ(Verdy)にデザインを依頼し、話題作りにも事欠かない。
Image by: M A S U
「ORIGINAL MASU」と書かれたニットウエアのルックで締めくくると、会場中にシャボン玉が舞い、フィナーレを迎えた。
ここ数年の中で、今回のコレクションのトーンは控えめだったと言っていいだろう(無論、それでも派手ではあるが)。初のパリでの発表という大舞台を前に、後藤はデザインを削ぎ落とすことを選択したが、その理由について「ボーイズだけでなく、大人にも着てほしいんです」と語る。自身のデザイン・ボキャブラリーを反芻し、"「M A S U」とは何か"を、熱狂とともに伝えられた納得のショーだった。その存在を世界に知らしめるにはどうしても時間がかかるが、ヨーロッパのデザイン文脈にどこまで乗るかは今後の鍵となるだろう。少年は、一夜にして大人になれるわけではない。童心を抱えながら、色気を増していく「M A S U」が楽しみでならない。
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