「マメ クロゴウチ(Mame Kurogouchi)」のショー会場は、建築家 谷口吉生が設計した東京国立博物館内の法隆寺宝物館。その敷地に生い茂る木々の緑が水盤に映る様子を、デザイナーの黒河内真衣子は「服作りと似ている」と話した。山々の複雑な色や、その地に根付く信仰までも、水面に映すように服に映して表現することを試みたという今シーズン。2022年秋冬コレクションは、前回に引き続き黒河内が生まれ育った長野を題材にした「Land」がテーマとなった。
故郷の遠い記憶と春の息吹から着想した前回の2022年春夏コレクションから季節が移り変わり、今回の舞台は秋から冬にかけての長野。約半年、何度も長野に通い、自身を見つめ直しながら制作したという。
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コレクションを紐解くキーワードは、「山のテクスチャー」と「縄文」。ショー会場には、その2つの着想源が服作りに至るまでの過程を明らかにするムードボードが展示された。
■山の景色とテクスチャーを服に表現
晩秋の山々の景色を、どのようにして服に表現するか——。黒河内は長野の山や自然をスケッチし、そこから多彩な色を抜き出してかすり染めした系で織り上げるといった、新たな手法を試みた。生地の表面をすいて起毛させ、色を混ぜることで独特なテクスチャーのコート地に。また岩肌の苔は、繊細な立体刺繍となってドレスのカフスやショルダーを飾った。
カラーパレットのメインは、秋の野山から抽出した深いブラウンやグリーン、カーキなどのアースカラー。そこに、対照的なイエローやオレンジのネオンカラーが差し込まれた。また、サスペンダー付きのスキーパンツやスパッツ、ロングソックスといったアスレチックの要素が混ざり、現代的な装いへと昇華させている。
■懐かしいスキーニットに描かれた白馬の景色
スキーニットのランドスケープ柄は、黒河内が白馬五竜のスキー場で目にして心を打たれたという、絵織り作家の作品が着想源。四季折々の白馬の景色が、どこか懐かしさを感じさせる絵柄となって編み込まれた。チャンキーニットに刺繍された「Snow」「Time」などのワードは、記憶や風景を言葉に表したものだという。
■縄文土器の文様をドレスに
故郷の探求はさらに進み、その地に伝わる民間信仰や自然信仰、そして1万5000年前の縄文文化にまでさかのぼっていく。特に注目したのが、縄文時代中期の土器の造形美や文様。先祖らが残したものに思いを馳せながら、「私の文様とは?」を探し、自身の記憶の中の景色を文様に紡いでいったという。
シルク混の三重織で唐草文様を表現したテキスタイルは、ミリタリーコートやセットアップに。ベロアに施された曲線のコードワークは土器や土偶のシルエットを想起させ、コード刺繍のテクニックを応用したオリジナルの文様がディテールをエレガントに装飾した。
■スキースタイルとガラスのジュエリー
アクセサリーにもテーマが反映され、幅広のヘアバンドやニットのバラクラバ、スキーゴーグル風のキャットアイ型サングラスといったノスタルジックなスキースタイルを、都会的に演出。
長野は黒曜石の産地で知られ、中には透明性の高いものも採掘されている。それを軽量ガラスに置き換え、ピアスやバングル、ネックレスなどのジュエリーにデザインした。
■伝統を更新する2つのコラボ
「キジマ タカユキ(KIJIMA TAKAYUKI)」とのコラボレーションによるクロシェハットは、スタイリングをモダンに仕上げるアクセントに。そして京都の「履物 関づか」と制作した足袋と厚底の草履は、毛足の長いベルベットの共地でブーツのように仕立てられた。
「キジマ タカユキ」と制作したクロシェハット
「履物 関づか」と制作した足袋と厚底の草履
10周年を経たマメ クロゴウチが、2022年春夏から2シーズンにわたって探求した「Land」は、黒河内にとって最もパーソナルな私小説とも言える特別なテーマ。ルーツを辿り、そして後世に残すものを服に表現することで、マメ クロゴウチの新たな一ページが開いた。
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