ルイ・ヴィトン 2021年秋冬メンズコレクション
Image by: Louis Vuitton / Ludwig Bonnet
雪に覆われた壮大な山の麓に立つ男。シルバーのモノグラムのトランクを持った男はこう呟く。「I’m no stranger anymore. The world is love to me. (私はもう部外者ではない。世界は私を愛してくれている)」。こんなヴァージル・アブローの心の内を代弁するようなシーンから、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」2021秋冬メンズコレクションのフィルムが幕を開ける。ヴァージルが掲げたコレクションのキーワードは「Ebonics(黒人英語の意味) / Snake Oil / The Black Box / Mirror, Mirror」だ。
(文:ファッションジャーナリスト 増田海治郎)
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男の正体は、詩人でラッパーのソウル・ウィリアムズ。やがて舞台は雪山と街をつなぐスケートリンクに切り替わり、大理石に囲まれた美術館のようなモダンな空間へ歩みを進めていく。
途中、ランウェイを歩きながら人の名前と単語を連呼。ガンディ、シェイクスピアなどの様々な人の名前に混じって、ヒロシマ、ナガサキとも聞こえる。その関連性を読み解けないのが残念だが、何らかのメッセージが込められているのは間違いない。シルバーのトランクを引き継いだ男は、ラッパーのモス・デフ(現在はヤシーン・ベイに改名)だ。
コレクションのキーカラーは、ガーナ国旗や自然回帰を連想させるグリーン。床に引きずる長さのトレンチコート、太畝のコーデュロイジャケット、世界地図と手書きのモノグラムがジャカードで表現されたモッズコートなど、様々なアイテムで提案されている。
全体的に目立つのは、ウエスタン、カウボーイの要素。ヴァージルのシグネチャーブランドである「オフ-ホワイト」では以前から提案してきたウエスタンブーツ(正面にイーグルの焼印を施し、トゥは金属のチップで飾っている)と、ウエスタンベルトをスタイリングのポイントに使っていて、とくに極太ベルトの存在感は強烈だ。バイクのライディングスーツにウエスタンブーツを合わせた異質なスタイリングは、現代の馬=バイクを掛け合わせたのだろう。
Louis Vuitton / Ludwig Bonnet
コートやスーツといったメンズのドレスアイテムも自在にアレンジしている。前述したようにコート類は、レッドカーペットを歩くためのドレスのような裾を引きずる長さ。ダブルブレストのジャケットには、飛行機やバイク、2021年春夏に登場した「ズームと仲間たちの冒険」のキャラクターをモチーフにしたボタンを飾っている。
先月発表された2021秋冬メンズ・プレコレクションのルック写真は、背景に飛行機が写っていたが、あれはきっと今回の布石だったのだろう。飛行機のモチーフは、ファーストルックのコートの飾りボタンの他、機体を象ったモノグラムバッグ、そしてセーターの編み柄として登場する。コロナ禍前はヴァージルは世界有数のジェットセッターだったはずだが、飛行機での移動が制限されたことで色々と考えることがあったのかもしれない。これまでに何度か展覧会等で見せてきた「Tourist vs. Purist」(旅行者 vs 純血主義者)の文字がモノグラムのバックに描かれているのも、旅との連動を感じさせる。
Louis Vuitton / Ludwig Bonnet
中盤には、ニューヨークのビルを立体的に貼り付けたショーピースが登場する。凱旋門やサクレクール寺院、エッフェル塔を貼り付けたパリバーションもある。どこかのファッション専門学校の卒業コレクションのようなプリミティブなショーピースだが、これも移動に関連したメッセージに思えてならない。
メンズのスカートも当たり前のように登場する。ウエスタンとスコットランドのキルトを融合させたようなチェックのスカートスーツもある。そして終盤には、ガーナの民族衣装である「ケンテ」を取り入れたスタイルが登場。冒頭の言葉とのリンクを感じずにはいられなかった。
Louis Vuitton / Ludwig Bonnet
今回のコレクションは本当に様々な要素が混じり合っているし、議論を呼ぶような融合も散見する。でも、文化も人種もジェンダーも、互いに影響し合って進化していくものだ。ヴァージルの出自や影響を受けてきたものが、これまでで最も反映されたコレクションを見て、私はその思いを強くしたのである。
文・増田海治郎
雑誌編集者、繊維業界紙の記者を経て、フリーランスのファッションジャーナリスト/クリエイティブディレクターとして独立。自他ともに認める"デフィレ中毒"で、年間のファッションショーの取材本数は約250本。初の書籍「渋カジが、わたしを作った。」(講談社)が好評発売中。>>増田海治郎の記事一覧
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