Image by: LE COUVENT MAISON DE PARFUM)
香水界の巨匠、ジャン=クロード・エレナ氏がコロナ禍を経て4年ぶりに来日した。「ヴァンクリーフ&アーペル(Van Cleef & Arpels)」でラグジュアリーブランド初の香水を手がけ、「ブルガリ(Bvlgari)」で世界初のティー・フレグランスを作り、さらには「エルメス(HERMÈS)」初代調香師として、多くの人を魅了する作品を生み出し続けた。現在は「ル クヴォン メゾン ド パルファム(LE COUVENT MAISON DE PARFUM)」のオルファクティブディレクターとして、また新たな香りを提案する。来日したエレナ氏に、新作「シグネチャー ベチバー」の誕生秘話と、インスピレーション源や香り作りのこれまでとこれからを聞いた。
ジャン=クロード・エレナ氏
1947年フランス・グラース生まれ。50年以上にわたってフランスのフレグランス界で活躍。ル クヴォン メゾン ド パルファムとコラボレーションした理由を「誰もが手に取れる価格ながら、ユニークで高級なフレグランスを希少な植物原料と高貴なエッセンスを使用して仕上げている点に、魅力を感じた」と語る。ルクヴォンには4つのコレクションのうち、”ボタニカルコロン””シンギュラー オーデパルファム””リマーカブルパルファム”は香りを監修、”シグネチャー”コレクションは、エレナ氏自ら香料を厳選し、調香する。
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愛と香りと自然を語る
オートクチュールの高みにへ、“シグネチャー”コレクションが誕生
ー11月に最新作として「シグネチャー ベチバー」を発売しました。“シグネチャー”コレクションについて教えてください。
シグネチャーは、私自身が手がける香りのコレクションだ。数年前にスタッフと話していて、これからは1つの香りをテーマに、単一の香りを作りたいと直感が働いた。ル クヴォン メゾン ド パルファムは、そもそもクオリティの高いブランドではあるが、更にオートクチュールの高みへ昇華させたい、そういう想いから誕生させたのが、このコレクションだ。
われわれが出した後に、「ゲラン(GUERLAIN)」や「ディオール(DIOR)」などのメゾンが追随したことからも、私の直感は当たっていたと思うよ。
ル クヴォン メゾン ド パルファムとは
ルーツは1614年南仏プロヴァンスに建設されたミニム修道院。後に太陽王ルイ14世に植物学者として任命され、当時知られざる植物を探求して大陸を渡り歩いたルイ・フュイエが若き日を過ごした場所だ。ル クヴォン メゾン ド パルファムは、フュイエの世界各地への冒険あふれる旅と植物学における功績を称え、ミニム修道院の伝統と歴史を継承すべく誕生した。
処方はすべて、植物エッセンスとナチュラルな素材を優先し、すべての製品がイギリスのヴィーガン協会に認定されている100%ヴィーガン。動物実験も行っていない。すべてのフレグランスは仏・グラースで生産し、ガラス瓶もフランスで製造。外箱はFSC認証紙を使用する。
愛を交わすときに女性から香るベチバーの香りを調香
ーでは最新作、シグネチャー ベチバーはどのように誕生したのでしょうか?
マーケティング的なアプローチを施さずに、職人的で自由に生まれた香りだよ。従来はベチバーは男性的な香りとして使用され作られることが多い香りだけど、女性的な香りを作りたいと思ったんだ。ベチバーはベチベルとも呼ばれる、インドネシアやハイチなど、比較的温暖な土地に自生するイネ化の植物。実は女性が男性と愛を交わす前に、ベチベルの根っこを噛んでお湯につけて煮出して飲むことで、愛を交わしたときに出る汗からベチベルの香りが体から漂い、男性が喜ぶという風習があるんだ。
ーそんな風習があるんですか!?そういった風習を反映した香りを作りたかった?
そうなんだよ。女性の肌から香り立つベチベルの香りを作りたいと思ったんだよ。
ーなぜ今、その香りを作ろうと思ったのでしょうか?
きっかけになったのは、シェフの友人が12mもある大きな木造船を持っていて。その船でクルーズをしたときに、船に使われていたロープと大西洋の塩で湿ったにおいが混ざり合ってベチベルの香りがしたような気がしたんだ。そして女性の風習を思い出し、それらが混ざり合う香りを作りたいと思ったんだ。
ー男性と女性の官能的な話を聞くと、もっと甘い香りかと思っていましたが、落ち着いた自然を感じる香りですね。
使用しているのはハイチ産の最高品質のベチベルで、特徴として土の香りがする。今回は、その土の香りを取り除いて、よりウッディで温かみのある香りを生み出したんだよ。
シグネチャー ベチバー(100mL 税込2万3760円、10mL 同4180円)
香水のアプローチは「自然の中で本物の香りを嗅ぐ」
ー香水を作るインスピレーション源は?ベチバーと同様に男女の関係や、もしくは旅からというのもありますか?
私の香水の属性・アプローチは自然派と言ってよいと思う。たとえば「シグネチャー チュべローザ」をあげよう。チュべローザ自体は香水の原料として有名だと思うが、原料を取り寄せて作ったのではなく、実際に自宅の庭に植えて、8月の花が咲くときにどんな風に香るか。それをどう感じるか。違うアプローチができるのかを考えながら作ったんだ。
「シグネチャー ミモザ」も同じ。自宅の前に丘があって、2月になると満開のミモザの香りを風を通して感じることができる。そのセンセーショナルな想いを香水に落とし込んだんだ。私は自然の中で本物の香りを嗅ぐというアプローチをしている。
歳を重ねて気づいた本当に香りに込めたい思い
ー50年あまり、調香師として第一線で活躍しています。歳を重ねることで感覚面の変化はありましたか?
もちろんあったよ。若いころと今では香りの感じ方が異なっている。同じ原料を使っていても自分の中の捉え方や香りに対する感じ方が違うと思っている。
あと香りづくりを始めたころは、市場というものをものすごく意識していて、市場に合いそうな香りを考え作っていた。だがあるとき自分が本当に香りに込めたい思いとはなんだろう…と。そう考えたことをきっかけに市場を頭から外して香りを作れるようになった。
ーそれは何歳ぐらいのことですか?
45歳のころだと思う。賢くなるには歳を重ねなければならないよね(笑)。
技術的な話をすると、それまでは1000種類ほどの香料を使っていたが、今は200種類へと自然に絞り込まれるようになった。選び抜いた、クオリティのある原料のみを使えるようになった。それも歳を重ねたからだろうね。
愛や恋が何千年も存在するがストーリーの語り方は変わる、香りも同じ
ーその「選び抜く」ということは長い間使い続けるということだと思いますが、新しい原料が見つかることもよくあるのでしょうか?
愛や恋は何千年も前から変わらずあるが、その愛や恋のストーリーの語り方は常に変わっていると思う。香り(原料)も同じ。とてつもない変化はあまりないが、少しずつ変わっていくことはあるだろう。
ー最後に、ずっと作りたい香りがあって、今でも作れない香りは存在しますか?
香りを作るとき、3日で完成する香りもあれば、10年かかる香りもある。それから未完成の香りもたくさんある。頭の中でどういう香りなのか、はっきり分かっていれば作ることができるけど、そうでなければ時間がかかる。だから死ぬときも完成していない香りがたくさんあると思う。
(聞き手:福崎明子、平原麻菜実)
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