「レザー」と聞くと、どういったものが思い浮かぶでしょうか? 動物の革をなめしたものを「レザー」「革」と呼びますが、世の中にはサステナビリティへの配慮から、本物の動物の革を使用していない“レザー調”の素材にも、「〇〇レザー」や「〇〇革」といった表現が数多く使われています。しかし、これらの“レザー調”素材を「ヴィーガンレザー」や「フェイクレザー」といった表現で発信するブランドやメーカーが増えたことで、本来の革(レザー)製品と誤認して購入してしまう消費者が続出。この課題解決のため、「革やレザーと呼べる製品は動物由来のものに限定する」という新たな規格がJIS(日本産業規格:Japanese Industrial Standards)で制定されました。
これに伴い、一般社団法人 日本皮革産業連合会では、「レザー」の名称を正しく使うために「合成皮革」の正しい定義を定め、その内容に注目が集まっています。本記事では、本革製品と合成皮革製品を正しく呼び分けるために、新たに制定された「革」の分類を細かく解説します。
改めて知りたい「革」の定義
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JIS主要項目における「革、レザー」の定義は「皮本来の繊維構造をほぼ保ち、腐敗しないようになめした動物の皮」。細かくは、以下のような条件が規定されています。
- 毛は除去したもの、残っているものがある。※毛皮(ファー)は対象外。
- 仕上げ塗装または表面層を付与したものは、仕上げ塗装または表面層の厚さが0.15mm以下のものを革(レザー)と言う。
- 革(レザー)を機械的、または化学的に繊維状、小片又は粉末状に粉砕し、樹脂などの使用の有無にかかわらず,シート状などに加工したものは革(レザー)とは呼ばない。
- 「天然皮革」または「本革」ともいう。「皮革」という用語も使用されるが、「皮革」は「皮」および「革(レザー)」を総称する用語である。
- 「革(レザー)」および「皮革」という用語の使用は、JISで定義されたものだけに使用してもよい。この規格に規定されたものを除き,人工的な材料の名称として使用してはならない。
本革は水に弱く、合成皮革製品と比べると重たいなどのデメリットがありますが、長持ちしやすく、使い込むほどに個体ごとに異なる経年変化が楽しめるのが魅力の一つ。
近年は環境問題への意識が高まり、非動物性由来の合成皮革が広まりつつありますが、一般に流通している動物由来の本革の多くは、食肉や乳製品の原料を得るために飼育された家畜の副産物を使用しており、皮革の材料を得るために殺生を行われていないものがほとんど。廃棄される予定だった皮をなめして生産する本革は「最もサステナブルなレザー」という見方もあります。
「レザー」新定義、押さえておきたいポイント
①「エコレザー」の定義は、非動物性由来→動物由来に
今回の用語の再定義で印象的なのは、「エコレザー」の定義が大きく変化したことです。これまでは、「自然の動物を守る目的で生み出された人工皮革」のことを指していた「エコレザー」が以下のように設定されました。
エコレザー = 環境に配慮して製造される革・レザー
ー 皮革製造におけるライフサイクルにおいて、環境配慮のため、排水、廃棄物処理などが法令に遵守していることが確認され、消費者及び環境に有害な化学物質などにも配慮されている革(レザー)
つまり、エコレザーは本革のみを指すということです。
②合成皮革の名称には全般的に「革」「レザー」の使用NG
合成皮革の名称には全般的に「革」「レザー」という表現が使えません。なので、「フェイクレザー」や「アップルレザー」といった表記はNGの対象となります。
「レザー調素材」の分類
動物由来以外の“レザー調”の素材は、「人工皮革」「合成皮革」「皮革繊維再生複合材」に分類されます。これらはいずれも「レザー」「革」の表現が使えません。
合成皮革とは
合成皮革とは、基材に織布、編物、不織布などを用いて、表面にポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリウレタンなどの合成樹脂面を配し、革(レザー)の外観を模倣し、その特性である感触や光沢、柔軟性などを与えたものです。
人工皮革とは
人工皮革は、基材に特殊不織布を使用します。合成皮革と同様に、表面にポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリウレタンなどの合成樹脂面を配して、革(レザー)の特徴に似た質感を作った上で、銀付き革調に加工、または特殊不織布に立毛を配して、スエード調、ベロア調、ヌバック調に加工したもののことを人工皮革と呼びます。
皮革繊維再生複合材とは
基布に加工して革を模倣した合成皮革や人工皮革と、革を再利用した素材は別物です。革(レザー)を機械的または化学的に繊維状、小片又は粉末状に粉砕したものを、乾燥質量で50%以上配合し、樹脂などの使用の有無にかかわらず、シート状などに加工したものは「皮革繊維再生複合材」と呼ばれます。
なお、革(レザー)繊維、結合材又は革(レザー)製造用の助剤以外に他の成分を含む場合はその表示が必要です。貿易で使用されているHSコードでは「コンポジションレザー(composition leather)」という用語が使用されていますが厳密にはこれも正しくないそうです。シート状にした素材の表面に、合成皮革のような加工を施したものも皮革繊維再生複合材に含みます。
「〇〇レザー」と呼べなくなる、人工皮革・合成皮革
今後、合成皮革の名称表現にはどのような点に注意が必要なのでしょうか?間違えやすい用語の定義をまとめました。
NG:植物原料の名前を入れた「アップルレザー」など
例:ヴィーガンレザー、アップルレザー、キノコレザー、サボテンレザー etc...
植物由来のレザーライクな素材を、その原料から引用した「〇〇レザー」と呼ぶのは全般的にNG。植物由来を表現した「ヴィーガンレザー」という表現も使用しない方が良いとされています。素材名だけではなく、商品名に使用することもできません。
NG:本革の偽物であることを表現した「フェイクレザー」など
例:シンセティック(人工的な)レザー、フェイク(偽物の)レザー etc...
人工物であることを表現していた名称でも、消費者の誤解につながるため、今回のJIS規格では不適切な表現として定められました。
NG:石油由来であることを表現した「ビニールレザー」など
例:PU(ポリウレタン)レザー、ビニールレザー etc...
ビニールやポリウレタンといった石油由来の原料名を引用した名称も使用できません。
NG:粉砕した革をシート状にした「リサイクルレザー」など
例:ボンデッドレザー、リサイクルレザー、再生革 etc...
例え原料が動物由来の皮革でも、上記の「革の定義」にもあるように、革を細かく粉砕しシート状に加工した素材を「ボンデッドレザー」「リサイクルレザー」「再生革」などと表記することも誤り。
→正しい呼び名:「皮革繊維再生複合材」「ボンデッドレザーファイバ」「レザーファイバボード」
■MEMO
Q. 「レザー」がつかない人口皮革の扱いはどう変わる?
A. スエード調、ベロア調、ヌバック調に加工をした人工皮革も、JISで規定した以外の商品は、名称に「スエード(スウエード)」「ベロア」「ヌバック」を使用できなくなったので要注意。
Q. 「フェイクファー」もこの規定に含まれる?
A. 含まれません。(今回のJIS規格設定を主導したのは、皮革を専門に扱う「日本皮革産業連合会」。この団体は毛皮に関しては取り扱っていないので、「フェイクファー」という表現は今回の規格の対象外です)
まとめ
- 「エコレザー」の定義が変更、環境に配慮した本革のみを指す
- 動物由来でない“レザー調”の素材には「〇〇レザー」「〇〇革」と言う造語表現を使用できない
- 動物由来以外の“レザー調”の素材は、「人工皮革」「合成皮革」「皮革繊維再生複合材」に分類される
- スエード調、ベロア調、ヌバック調に加工をした人工皮革も、JISで規定した以外の商品以外では名称に「スエード(スウエード)」「ベロア」「ヌバック」を使用できない
今回制定されたJIS規格には、法的な拘束力はありませんが、すでにイタリア、フランス、スペイン、ドイツ、ブラジル、ポルトガルなど、革製品が主力産業になっている諸外国では「革(レザー)は動物由来のものに限定する」ことが法律で定められており、日本で法律が制定される日も遠くないかもしれません。誤解や勘違いで消費者が想像と違った商品を手に取ってしまうことがないように、生産者も消費者も正しい知識を身につけることが求められそうです。
>FASHIONSNAP 「ファッション・アパレル関連用語集」でも皮革関連用語を紹介。「人工皮革」用語も随時追加していきます。
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