片岡鶴太郎
Image by: FASHIONSNAP
芸人、俳優、ボクサー、ヨガマスター、芸術家──さまざまな肩書きを持つ片岡鶴太郎は、どの分野でもストイックに探求し続ける。モチベーションの源は「変身願望」だという。その欲はファッションにも通ずる。衣装はすべて自前。衣装部屋に収まりきらないコレクションから1時間をかけて最高のコーディネートを追求する。妥協を許さない鶴太郎の原動力はどこにあるのか。さまざまな変遷を経て今を生きる68歳の等身大の姿に迫る。
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DCブランドブームと駆け抜けた芸人時代
―ファッションに興味を持つようになったきっかけは?
子どもの時から好きでしたが、本格的には高校で制服が自由化になってからですね。学校が鶯谷にあったんですが、大量に服が積まれた倉庫が近くにあって、ファッションが好きな友達がセールに一緒に行こうよと言ってくれて。その中から探して服を選んでコーディネートをするということをやっていましたから、それがいわゆるファッションに目覚めた最初のきっかけかもしれません。
―衣装はすべて自前だと聞きました。クローゼットにはいま何着くらいあるんですか?
この間、引っ越したんですよ。前のマンションは衣装部屋が3部屋あったんですが、今の家はアトリエが広くなったけれど収納が少し狭くなって、衣装部屋も2部屋になってしまって。全部は入らないかもしれないと思って、少し整理しようと仕分けしたんですけど、捨てるものは1点も出てこなかったんですよ。30年ほど前にコレクションしていたものも「いま着たらカッコいいな」と思って。そうやって見ていたら、とてもじゃないけど捨てるものなんかなくて。しょうがないから、2部屋はもうパンパンです(笑)。永遠にコーディネートできちゃう。
―スタイリストは付けていないんですね。
今はいません。もちろん、バラエティ番組をバリバリやっていた頃はいましたよ。週に8、9本やっていた時は買いに行く時間もなかったですから、スタイリストくんに1つの番組で5〜6点は必ず用意してくれと伝えていて、その中からチョイスしてコーディネートしていました。気に入った服は買い取っていましたね。
―今もお忙しくされていると思いますが、服はどこで買われるんですか?
行きつけの古着屋さんがあるんです。元々は次男がよく行っていたお店で、アクセサリーのセンスがものすごく良いんだと言っていて。当時、僕自身はアクセサリーはそんなにつけていなくてあまり得意じゃないけど行ってみようか、と連れて行ってもらったのがきっかけです。それが4〜5年ぐらい前の話。それまで古着屋はジーンズとトレーナーしか置いていないようなイメージだったんですね。古着は汚くて着られないだろうなんて思って。でも次男から「いやいや、今の古着屋は違うよ」って言われて、実際に見てみたらイメージとは全然違いました。しかも「ジャンポール・ゴルチエ(Jean Paul Gaultier)」のTシャツがあったんですよ。驚きましたね。3点ぐらいあって全部買いました。その当時、ゴルチエって我々の年代は知っているけれど、若い子は身近じゃなかったから誰も手つけてなかったみたいで。それから「入荷したら一番に教えてね」なんてオーナーに言っていたんだけど、ところが今、ゴルチエ人気でしょう。みんなゴルチエの魅力に気付いちゃったんですね。
―昔からゴルチエが好きだったんですね。
なぜかと言うとね、35年ぐらい前でしょうか。当時、「マリテ+フランソワ・ジルボー(MARITHE+FRANCOIS GIRBAUD)」の服が好きで、相当着ていたんですね。それで「そんなに好きなら、ジルボーのパリコレショーがあるから、番組の企画で日本人モデルとして出てみないか」と声をかけていただいたんです。パリに行って、サイズを測ってもらって、白い麻のスーツを着てランウェイを歩きました。そこで、ジルボーとのご縁ができて。そのコレクションショーの後にパーティーがあって、そこでもお話をさせていただいた時に、「多分、これから出てくるから」と、当時まだ無名だったゴルチエを紹介してもらったんです。
―ご本人にお会いしていたとは驚きです。
ゴルチエはハンサムで、華奢で、線が細くて。素敵でしたよ。実際にその後すぐに日本でも人気になってね。僕もファンになりました。
―ゴルチエはいま、第一線から退いています。
そうなんですよね。この間、ミュージカル「ファッション・フリーク・ショー」の舞台裏を描いたドキュメンタリー映画を観たんですが、やっぱり素敵でね。また復帰してほしいなという思いもあります。
―日本で好きなブランドは?
やっぱり「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」や「ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)」ですね。
―DCブランドブームを象徴するブランドが好きなんですね。
僕がバラエティ番組に出始めた頃は真っ只中でしたからね。川久保玲さんや耀司さんのほかにも、小栗壮介さん、菊池武夫さん、佐藤孝信さん、三宅一生さん、細川伸さんもいて。
―ノーブランドの服も着られるようですが、ブランドにこだわっているわけではない?
ないです。着心地と素材とデザインが良ければ、ノーブランドでも買いますよ。メンズだとなかなかサイズがなかったりするのでウィメンズも着ます。みんな気付いていないけど(笑)。
―いま気になっているブランドはありますか?
インスタグラムのコメントで教えてもらった「タカヒロミヤシタザソロイスト.(TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.)」は面白いなと思ってチェックしていますよ。
ヨガに4時間、朝食に2時間、スタイリングに1時間
―インスタグラムでは、柄と柄を合わせた上級者のコーディネートも投稿していますね。スタイリングで心がけていることは?
感覚で選んでいますね。今日は何を着ようかなと思って選ぶんですけど、フィッティングしてみると意外と合わないな、とかね。逆にこれは合わないだろうと思うと、意外と合ったりなんかして。そういう発見があるもんで、だから出かける1時間前にその作業をしないと間に合わない(笑)。
―それは大変ですね(笑)。
自宅が古着屋みたいになっちゃっていますから、「毎日古着屋に行って、好きなもの選んでコーディネートする」というのがプライベートで実現しているから楽しいんですよ。1時間でも決まらない時があって、遅刻しそうになるから、できれば前日にそれをやるようにしてます。それでも平気で3〜4時間はかかっちゃいますけど。
―でも前日に選んだものが、当日になって「やっぱりちょっと違う」......なんてこともあったりするのでは?
それなんですよ(笑)。不思議ですね。選んで、もうこれで準備万端だと思ったのに、自分の中では飽きちゃっている。それでまたコーディネートをやり直すなんてこともあります。
―ファッションが本当に好きだからこそですね。今日の衣装のポイントは?
今日は銀座もとじでトークショーがあったからね。秋色でコックリとしたものを着たいなと思って、シックにまとめましたよ。
―和服は持っていますか?
ありますよ。お茶の稽古をやっていたもんでね。和装屋さんで買ったものをもうちょっと面白くしたいなと思って、袴風の羽織にアレンジして、稽古に着ていったりしていました。そこにラメのストールを入れたりとか、和洋を面白くミックスして楽しんでいます。
―鶴太郎さん流ですね。和装は遊びを取り入れにくいイメージがありますが。
もちろん正式な決まり事があるんでしょうけれども、ガチガチにならずにどう自分のセンスを楽しんで取り入れられるかを考えるのが楽しいですね。ベルベットの黒のシルクハットを被ったり、アクセサリーをわざと着けたり、襟元なんかも変えられるし。そうやって遊んでいます。
―ちなみに美容でこだわっていることはありますか?
食事と運動に気をつけているだけです。使っているのはごま油。ごま油と言っても普通の飴色のごま油じゃなくて、炒っていない生のごまから抽出した「太白ごま油」です。料理の時もそうだし、80度ぐらいまで加熱すると抗酸化作用が強くなるので、歯を磨いた後にスプーン1杯分を口に含んでうがいをして歯をコーティングするという使い方もしています。あとは手や首回りとか、顔も少し赤らんだりしたところにも塗布したり。それくらいです。
―シンプルな生活ですね。鶴太郎さんといえば夜に起きて、ヨガに4時間、朝食に2時間をかけるライフスタイルで知られています。今日も夜に起床したんですか?
そう。いつもは大体夜11時なんですけど、今日朝8時半にはもう出なきゃいけなかったんで、10時に起きました。
―習慣にするのは大変そうです......。
最初はね。でも毎日やコツコツ反復していくと、1〜2ヶ月後に効果が出てくるんですよ。変わっていくっていうのが如実にわかる。それが面白くて。もちろん半信半疑で折れそうになるけれど、続けて1年経つと明確な違いを感じます。
―そのモチベーションの源は?
おそらく僕の中にある変身願望でしょうね。
―いろいろな肩書きを持っているのは、その変身願望から来ている?
そう思います。おそらく今の自分には満足してないんでしょうね。
―今は満足していますか?
いや、まだまだです。
失敗を成功にするために、絶対に描き直さない
―銀座もとじとのプロジェクトも新しい挑戦ですね。
やっぱり今までにない挑戦をすることで刺激をもらったり、新たに学ぶ喜びを感じられることに幸せを感じるんでしょうね。
■男の粋は羽織の裏 〜片岡鶴太郎、男の粋を描く〜
片岡鶴太郎が額裏(羽織の裏地)の絹布に染料を用いて、墨彩画のごとく筆のストロークで大胆かつ繊細に描き上げた原画に、東京友禅作家の生駒暉夫が地染めを施し、唯一無二の額裏を15点制作。片岡はこれまで着物や帯の制作経験はあるが、額裏を手掛けたのは初めて。銀座もとじ 和染で期間限定で展示販売した。
―このプロジェクトが立ち上がったきっかけは?
会長(泉二弘明氏)とはもともと交流があったんですけど、今年1月に若社長(泉二啓太氏)が2代目社長に就任したと聞いて初めてお食事をご一緒したんです。そこで、海外に行ってから着物の素晴らしさを実感して日本文化を大事に広めていきたい、という思いをいろいろ聞いて、感銘を受けて一緒にやりましょうかとお声がけさせていただきました。「羽裏に描くというのが男のおしゃれ」ということで、来年の干支の龍をモチーフにしましょうか、なんて言ったのが始まりなんですよ。(東京友禅作家の)生駒(暉夫)先生が工房を貸してくださって、3月17日から制作をスタートしました。
―制作する点数は決まっていたんですか?
いえ。その日は筆試しもあるし、僕もどういうもんなのか半信半疑でしたから、なんとなく1点だけやってみましょうかと言ってやり始めたら、これが面白かったんですよね。若社長には「筆が乗っていくと2、3点いくかもわからないから、その分用意していただけますか」とちらっと言ってはいたんですが、結果、初日で5点描きました。
―だいぶ乗りましたね(笑)。
先生も良い方で、アトリエも綺麗で。やっぱり気の流れがいいんですよ。だから気分が乗ったんでしょうね。それで楽しくなっちゃって、別日にも伺って追加で5点つくりました。でもね、それから1週間後、また行きたくなっちゃって(笑)。最終的に15点になりました。本当はもっと描きたかったんですが、先生に「秋の展覧会があるから、俺に仕事させろ!」って言われちゃって(笑)。でも僕、若社長、先生3人の結束が強くなりました。
―展示では全15点が揃いました。実際に見ていかがですか?
僕は作品を作る方なので、それを生かすも殺すも若社長のセンスになるわけですよね。こればかりは僕がとやかく言うことは一切しないつもりでお任せしたから。でもやっぱりさすがだなと思いました。作品だけだと、絹が薄いですから透き通ってしまって、要するにインパクトがなくなるわけですよね。そこに白い布をかませることで作品がよく目立つと同時に、軸風に仕立ててくれて、それが良かった。15点となると圧巻ですよね。一発OKでした。
写真 小林茂太/ 空間デザイン 村山圭
―鶴太郎さんの「挑戦」への原動力はどこにあるんでしょうか?
やったことがないことに足を踏み入れるのは怖いし、すごくスリルもある。でもやらないよりもやった方が得るものがあるし、そこでの新たな出会いや作品が完成した時の喜びはこの上ないですよ。仮に失敗してでもやった方がいいと思います。
―失敗を怖いと思うことは?
ないですね。失敗をどうしようかと考えることで成功に導くわけだから、失敗のままでは絶対終わらせないことを心がけています。
―失敗を怖れて一歩を踏み出せない人も多いと思います。
いまの時代は上の人に怒られるとかはなくなったと思うけど、怒られることを怖がっていると何もできなくなっちゃう。我々の世代は怒られ慣れているんですよね。
―落ち込んだりは?
しないしない(笑)。要するに1つの“イエローカード”だから、「これがダメならこうしよう」と思考を変えればいい。それだけのことです。怒られるということは、次の手立てに行くチャンスがもらえているわけだからね。それは落ち込む必要もないんですよ。
失敗で言うと、僕も今回の作品15点の中で「あ、これはやべえぞ」となった作品はもちろんあります。黙っているけど(笑)。絹の生地は高級ですから、何も手をつけない方がリスクはない。だからこそ、一度手をつけたらば成功まで持っていかなきゃいけないんです。僕はボクシングをやっていましたから、一度リングに上がったら、どんなにボコボコにされても、泥臭い試合しても、判定勝ちまでは絶対降りないと決めていて。絵もそうです。破棄して描き直すなんてことは絶対しません。
―それはすべての作品制作において?
そうです。まずったなあと思って、嫌な汗が出て、心臓もバクバクするけれど、でもこれをどう活かすか、いろんな手立てを考えながらやると、ふっと抜ける時があるんです。それが味になってくる。
―描き直さないというのも勇気が必要ですよね。
でも描き直すことをやってしまったら絶対伸びないなと思って。新しい紙でもう1回描き直すと、たしかに描けそうな気はするけれど、結局また同じところで躓くんですよ。だから、しがみついてでも突破しなきゃダメ。それに突破した時に成功体験を持つと、次にそれが経験値として役立つんです。
―ファッションで挑戦したいことはありますか?
自分でデザインしてみたいという思いはありますね。今回、羽裏に絵を描いた延長で、Tシャツにアートを描いていて。それをどう仕立てるかという作業をこれからやるところです。
―完成が楽しみです。最後に、鶴太郎さんにとって「ファッション」とは?
僕がファッションで思っていることが2つあって。まず一つは、礼節であるということ。例えば、お食事会にご招待いただいたら、その方に対する礼節としてコーディネートすることを心がけています。と同時に、僕の生き方もちゃんとまとっていたいという思いもあって。でも生き方だけが突っ走ってしまうと、礼節と矛盾してしまう。礼節と自分の生き方をどう表現していくかという、このせめぎ合いを愉しむのがファッションです。
(聞き手:伊藤真帆)
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