「ジエダ(JieDa)」を手掛けるデザイナー 藤田宏行が、新ブランド「オーエル(OL)」を立ち上げた。2018年に「第5回 TOKYO FASHION AWARD」を受賞した藤田は、2022年7月にデニムブランド「ピースデニム(PEACE DENIM)」をスタート。今回新たに始動する「OL」は自身3ブランド目となる。テックウェアブランドであるOLを今始める理由、そして藤田にとっての「創作の果て」とは?
藤田宏行が手掛ける新テックウェアブランド「OL」とは?
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ー今回立ち上げた新レーベル OLについて。まずはジエダとの違いを教えてください。
ご存知の通りジエダではデイリーウェアを提案しているのですが、今回立ち上げたOLはテック素材を用いたアウトドア系のブランドとして展開していきます。ただゴリゴリのアウトドアという訳ではなく、機能的でありつつ街着としても着用できるデザイン性の高さを強みにしたいと思っています。
Image by: OL
ー藤田さんといえば、かつては大阪でストリートスナップの常連でしたよね。その頃テックウェアはよく着ていたんですか?
懐かしい(笑)。20年くらい前「ビームス(BEAMS)」で働いていた時は、お店で「アークテリクス(ARC'TERYX)」を取り扱っていたこともありたまに着ていました。でも特別アウトドアブランドを好んで着ていたといった感じではなかったですね。
ーそれでは、アウトドアブランド「OL」を立ち上げた理由は?
理由は2つあります。1つは自分のライフスタイルが変わりアウトドアに挑戦するようになって、街とアウトドアの両方で着られる服が欲しいと思ったこと。僕の実家は島根で「アウトドア菊信」というアウトドアショップを営んでいるのですが、父に代わりオンラインストアのディレクションをすることになったんです。それをきっかけに実家で取り扱いのある服を着て登山にも挑戦するようになって、段々と日常の中でもテックウェアを着る機会が増えました。
そこで、ジエダの2023年春夏シーズンで一部テックウェアを作ろうと思ってデザインをしていたんですが、やはりブランドの中で系統が違いすぎて浮いてしまって。そこで思い切って別ブランドとして立ち上げようと思ったのが1つ目ですね。これまでのジエダのコレクションでは何度かアウトドアにデザインを寄せたシーズンもあり、工場さんとも繋がりはあったので、比較的スムーズに始動できたと思います。
もう1つはイタリア発の「ジーアールテンケー(GR10K)」「ロア(ROA)」や韓国発の「ポストアーカイヴファンクション(POST ARCHIVE FACTION)」など、海外のデザイン性の高いテックウェアブランドが国内外ですごく注目されていることです。日本のブランドでこの領域を専門にしているところはあまりなかったのでやるなら今しかないと思い、このタイミングでの立ち上げに至りました。
ーご実家のアウトドアショップ「アウトドア菊信」はジエダの旗艦店と同じ名前ですね。
元を辿ると、祖父が「菊信」という店名で刃物店を営んでいたんです。でも、僕が中学生くらいの頃に父が店にアウトドアグッズを置き始めて。数年したらアウトドアグッズが店を占領して「アウトドア菊信」になりました(笑)。2代にわたって受け継がれてきた店名なので、絶やしたくないという思いもあってセレクトショップを立ち上げる際に「キクノブ」と名付けたんです。キクノブのロゴマークの裏にあるこの紋章も、元々は祖父の店の商品に刻印していたものだったりします。
ーちなみに「菊信」という店名の由来は?
祖父は昔「菊秀」という刃物店で丁稚奉公、今でいうインターンをしていたのですが、修行を終えて自分の店を出すにあたって屋号の「菊」の文字をもらって「菊信」と名付けたと聞いています。江戸時代の画家が師匠の漢字を1文字もらうみたいなイメージですね。
ー藤田さんにもお子さんがいらっしゃるとのことですが、「キクノブ」を受け継いでほしいですか?
そこは息子に任せます。でも、バスの運転手になりたいと言っているので、バスの菊信とかも面白いかもしれないですね(笑)。
ー話が脱線してしまいました(笑)。ブランド名 OLに込めた意味を教えてください。
先ほど2023年春夏シーズンのジエダにテックウェアがハマらなかったという話をしましたが、ジエダの「異常値(Outliers)」という意味を込めて「OL」と名付けました。
ーでは、ジエダから派生した「突然変異」的なアイテムを展開していく?
頭の中でジエダとOLは完全に別のものとして考えています。ジエダはその時の気分で色々なものを作っていますが、OLはテックウェア一本で展開していきます。街でもアウトドアでもカッコよく着られて、機能的かつストレスフリーという部分をコンセプトに掲げます。
ーちなみにアウトドアというのは、具体的にどれくらいのレベルを想定しているのでしょうか。
ゆくゆくは山でも着られるくらいの機能性を持たせたいですね。でも今はまだデザインとの兼ね合いもあり、本格的な登山で使うのは難しいと思います。もちろん軽登山でなら十分使えるスペックですが。
OLからジエダに逆輸入、クリエイションの共通項
ージエダとピースデニムで培ってきたクリエイションをどのようにOLに活かしているのでしょうか。
デザインやサイズ感、トレンドの汲み取り方といった部分はジエダ、ピースデニムと共通している部分がありますね。ただブランド同士の影響という観点で言えば、逆にジエダがOLから影響を受けている方が大きいかもしれません。立体裁断や着用感を意識した縫製などについてはOLの服をデザインしたことによって「これはジエダにも活かせるのでは?」といった考えが浮かんできて、逆輸入的に取り入れました。ジエダの2024年春夏コレクションは、少なからずOLから影響を受けたラインナップになっています。OLとジエダ、ピースデニムで相互的に刺激しあって、クリエイションの幅を広げていきたいですね。
ーOLファーストコレクションでは、多くのアイテムに「斜め」のデザインを採用しています。今後もブランドを象徴するデザインとして取り入れていくのでしょうか。
確かに斜めのデザインがかなり多くなっていますね。ただ、これは具体的に何かをイメージして製作したというよりは、デザインしていた時にふと頭に浮かんだものを今シーズンのキーポイントとして取り入れただけなので、このデザインをずっとブランドの代名詞として使っていくという予定はないです。シーズンごとにひらめきや直感を大事にして、その時の気分や時代に合わせたデザインをしていきます。
Image by: FASHIONSNAP
ーこのブラックのブルゾンはテックウェアらしい生地にスラッシュジップを配するなど、まさにOLのデビューコレクションらしいデザインと言えそうです。
このアイテムは生地にテフロン加工を施すことで耐久撥水、撥油、防汚に優れたアウターに仕上げました。アウトドアブランドにはあまり見られない、ややゆとりを持たせた絶妙なオーバーシルエットになるよう設計しており、ストレッチ性もあるので着心地が非常に良いのが特徴です。斜めに配したジップには、閉めた時にジップの引き手が口元に来ることを防ぎ、よりストレスフリーに着用できるといった実用的な意味合いもあります。
また、左胸部分には、デザインの中に機能性を取り入れたかったので、シームレスなポケットを埋め込みました。ポケットはちょうど「iPhone 14 pro」が入るサイズに設定していて、着用時にポケットから取り出しやすい角度に計算しています。
ー初めてテックウェアをデザインして苦労したことは?
デイリーウェアに比べて機能も充実させなければいけないので、とにかく気を遣うのは素材選びですね。数ある機能素材の中から最適な生地を選び出すのは想像以上に大変で、毎日発狂しています。1型につき4種類くらいの生地を使うのですが、「ここにはこの生地を当てたからその隣はあれにしよう」といったパズルを組み立てるような思考で試行錯誤を繰り返しています。
あとは素材によっては縫製できる工場が少ないなど、生産面で制約が多いのも大変ですね。ロット数の関係で細かなディテールを削る必要に迫られることもあったりして、ジエダの何倍も時間がかかっています。デザインを服に落とし込んでいく作業が難しい感じです。
ーデビューシーズンとなる2023年秋冬コレクションは何型展開ですか?
デビューシーズンはトライアルだったのでかなり少なくて、10型くらいです。でも2月にパリでOLの展示会を開いた時に現地のバイヤーに「型数が少なすぎてオーダーできない」と言われてしまったので、今後は毎シーズン30型くらい作るつもりです。ジエダではオーダーしてもらうことができなかった新しい取引先も増えてきているので、しっかりと体制を整えていければと考えています。
新規開拓目指す、OLのブランドヴィジョン
ーOLのデビューにあたり、売上や取り扱い店舗数など、初年度の数値的な目標はありますか?
数字を追いかけてブランドを運営したくないので、数値目標は全く設定していないんです。でもあまり小ロットの発注だと工場さんのご迷惑になってしまうので、必要最低限の数量は確保したいですね。もちろん置いてほしいと思うお店などはありますが、連絡をとっている時に身構えられてしまうと嫌なのでこの場では秘密にしておきます(笑)。
Image by: OL
ーブランドとして目指していることは?
海外の取引先を増やしたいですね。先ほど話した、注目されているファッション寄りのテックウェアブランドたちと肩を並べて置かせてもらって、ジエダの服を知らない海外の人たちにも魅力を伝えられるようなブランドに成長することが目標です。
ー国内に関してはどういったヴィジョンをお持ちでしょうか。
ジエダを取り扱っていないお店にも興味を持っていただきたいですね。ジエダを知っている方からすると、OLはジエダから派生したブランドというイメージになるかもしれませんが、OLのデザインをするときは完全にスイッチが切り替わっています。もちろん「キクノブ」には置きますが、それ以外にジエダとはあまり親和性がなかったようなショップともお取引できたらと思っています。
ー例えばどのようなお店でしょうか。
例を挙げるとすれば、テックウェアやアウトドア用品を取り扱っているお店ですね。なかでも、テックウェアをファッション的な文脈で紹介しているショップで展開できたらと考えています。店舗名は控えますが、デビューシーズンではジエダで取引がなかったお店からもオーダーをいただくことができたので、今後はセレクトショップや百貨店など、業態は問わずに相性が良さそうなところと積極的にお話させていただきたいです。
デザイナー藤田宏行の「創作の果て」
ー新ブランドを立ち上げるときには、どういった基準でブランドコンセプトを決めているのでしょうか?
僕の中にはあくまで一つの柱としてジエダがあり、ジエダを一つのセレクトショップとして見立てた時に「店に足りないもの」を新ブランドとして追加しているという感覚です。「ベーシックなデニムが欲しい」と思ったのでピースデニムを、「テックウェアが欲しい」と思ったのでOLを作りました。
ージエダを一つの店として捉えているんですね。今後「セレクトショップ ジエダ」に追加したいカテゴリーはありますか?
うーん。考えてみましたがすぐには思いつかないですね。もしそれが分かっていたら展開していると思いますし。今後アイデアが浮かんだタイミングで新ブランドとして追加したいと思います。
ー抽象的な話にはなりますが、藤田さんにとっての「創作の最終目標」とは?
実はこれまでも何度か考えたことがあったんですが、僕自身には長期的な目標だったり野望みたいなものがないんですよね。好きなことで生計を立てられている今の環境に感謝しています。でも、それは決して現状維持で良いと考えている訳ではないんです。おそらく僕は長期的な目標を立てることに向いていなくて、目の前のことに精一杯取り組んでいると不意に「チャンスのタイミング」が現れるんですよ。「TOKYO FASHION AWARD」受賞やジエダショップオープン、今回のOL立ち上げもそうですが、そういった「波」を掴んでここまでやってきていて。今後も近い目標を達成し続けて、最後には森でも見ながらぼーっと過ごせたら良いなと思っています(笑)。
ー将来的に隠居も考えているんですね。
服に対する創作意欲が完全に尽きたら、抜け殻のようになるかもしれないです(笑)。でも今は自分の内側からやりたいことが溢れていて、2024年の秋冬分までほとんど決まっているので全くそんなイメージは湧かないですね。
(聞き手:村田太一)
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