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可愛いだけじゃダメ? 「ジェニーファックス」が問う美の規範

ジェニーファックス 2025年秋冬コレクション

Image by: Jennyfax

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可愛いだけじゃダメ? 「ジェニーファックス」が問う美の規範

ジェニーファックス 2025年秋冬コレクション

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 前回の2025年春夏コレクション「come together」の続編として、パリで二度目のプレゼンテーション形式の発表となった「ジェニーファックス(JennyFax)」。

 前回は、パリのカフェに集ったさまざまな個性を持った5人の女性の日常を覗き見するようなシチュエーションを演出。今回は「the invitation」をコレクションテーマに前回と同じく集う女性たちを観客が外から見る形式だが、仲睦まじく集っているのではなく、1人に対して9人が囲うような異様なシチュエーションに私たちは出くわす。

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 かといって、1人を9人が攻め立てていたり、険悪なムードが流れるわけでもなく、9人のキャラクターは自由に立ったり座ったり、近くにあるスナックやジュースを取りに行ったりリラックスしたムードだ。ただ1人のキャラクターだけは、神々しい光が差し込む部屋でどこか誇らしげな佇まいで9人に対峙している。

 ガーリーな少女性の印象を持ったジェニーファックスは、ここ最近変化を徐々に遂げている。それは「自分が思い描いてきた女性像が成長し始めている」と2024年秋冬コレクションの際に話していたデザイナーのジェン・ファン(Shueh Jen-Fang)の意識をもとに、新たな章を迎え始めているように感じる。ブランドを立ち上げてから、「普通の女の子」を肯定するような服作りと精神性は変わらぬまま、時代の美の規範がトレンド化し、一律になればなるほど、ジェン・ファンのウィットに富んだ表現はより大胆さを増している。近年ではデザイナー自身の体を3Dスキャンしたシリコンのコルセットをあえて細身のモデルに着せてボディポジティブを表し、お気に入りのランジェリーを隠さず、あえてレイヤードとしておもてに出したランジェリードッキングドレスなど、社会からタブー視されかねない装いを軽やかに描く。ある意味、反骨精神に近い力強い語り掛けをジェン・ファンが「普通の女の子」たちに投げかけているようでもある。

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 そんなジェン・ファンの姿は、自信に満ち溢れた表情で佇む1人のキャラクターに重ねてみえる。前回のコレクションで「協会から帰宅中の少女」を演じた同じモデルを起用し、引き続きゆったりとしたロングドレスにオールバックの姿。

2025年秋冬コレクション

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 彼女の姿をじっくりと見たあとに、9人のキャラクターに目をやると、どこか自身の身体から逸脱したシルエットを描いていることに気が付く。わかりやすいのは、ピンクのフリルドレスに誇張された白のパニエを纏った最も可愛らしいガーリーなスタイルのキャラクター。まるで整形術後のように包帯でぐるっと顔を矯正している様子は、社会が求める「かわいい」に縛られているようにも見える一方で、なりたい自分になろうとしているようにも見える。

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 ランジェリードッキングドレスは、華奢な身体からパッドもニップレスもずり下がって見えてしまっているキャミソールワンピースに応用。腰には、ビッグサイズのコルセットブラがスカート上に巻かれている。また過去コレクションから引き続き、ジェニーファックスが社会規範を表すものとして扱ってきたスクールユニフォームも展開。ネイビーのニットカーディガンに、ピンクのラインが入ったジャージパンツとミニスカート合わせた制服は一見すると普通に見えるが、胸元に「I’m Sorry」、背中には大胆に「Sorry!!!」とプリントが入り、指先には痛々しい絆創膏が巻かれ、どこか自信なさげな立ち姿だ。

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 ほかにも、どこかノスタルジックに感じるカラーバランスのロングコートに、ウエストポーチとリュックを抱えてやってきた学校帰りのようなキャラクターも登場。ロングコートはレイヤードに見えるが、襟元から花柄、腰からチェックの生地が繋がった一着に仕上がっている。観客は服に隠された違和感をたよりに、「the invitation」の招待者は誰なのだろうと考えながら、コレクション全体を客観的に理解していこうとするのだが、いつ間にかその儀式的な集いの一員へと誘われている。すっかりジェニーファックスの世界観に取り込まれ、出口に向かった先には、1人のキャラクターによる自信に満ちた表情のポートレイトがをゴールドの額縁に飾られていた。

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Jennyfax 2025年秋冬

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アーティストコーディネーター/ファッションライター

Yoshiko Kurata

1991年生まれ。国内外のファッションデザイナー、フォトグラファー、アーティストなどを幅広い分野で特集・取材。これまでの寄稿媒体に、FASHIONSNAP、GINZA、HOMMEgirls、i-D JAPAN、SPUR、STUDIO VOICE、SSENSE、TOKION、VOGUE JAPANなどがある。2019年3月にはアダチプレス出版による書籍『“複雑なタイトルをここに” 』の共同翻訳・編集を行う。2022年にはDISEL ART GALLERYの展示キュレーションを担当。同年「Gucci Bamboo 1947」にて日本人アーティストniko itoをコーディネーションする。

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