オーストラリア発のフレグランスブランド「ゴールドフィールド アンド バンクス(Goldfield & Banks)」が日本に上陸し、ニッチフレグランス専門店「ノーズショップ(NOSE SHOP)」での取り扱いが始まった。創業者のディミトリ・ウェバー(Dimitri Weber)氏は、フランス生まれベルギー育ち。約15年間、香水業界でPRやマーケターとして活躍し「SHISEIDO」や「イッセイ ミヤケ(Issey Miyake)」、「カルティエ(Cartier)」など、名だたるブランドに携わってきた経歴を持つ。10年前、出張で訪れたオーストラリアの“素材”に魅了され、移住を決意して2016年に自身のブランドとしてゴールドフィールド アンド バンクスを立ち上げたという。香水を知り尽くしたヨーロピアンが、なぜ「香水ブランド不毛の地」と呼ばれるオーストラリアで香水メゾンを作ったのか、ディミトリ氏に話を聞いた。
”不毛の地”の開拓で香水業界に新しい波を
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➖長年香水業界の最前線を経て、ご自身のブランドを立ち上げたきっかけを教えてください。
大手のメゾンで働いていた時から世界中を仕事で旅していたのですが、初めてオーストラリアを訪れた時に、たくさんの香水の原料があることを知ってポテンシャルを感じたことからです。
➖前々から自分のブランドを作ることに興味があったのですか?
以前から「なぜ自分のブランドを立ち上げないのか」と尋ねられることはありましたが、当時はそれほど興味はありませんでした。フランスをはじめヨーロッパにはフレグランスメゾンがたくさんあるので、同じようなブランドを作るのは意味がないと思っていましたから。ただ、ファッションやスキンケアはとてもダイバーシティでいろいろな国から生まれたものがあるのに、フレグランスはフランス、さらにはグラースのものが中心で、つまらないと感じていたんです。なので、これまで注目されていなかったオーストラリア原産の香料にフォーカスを当てたブランドを作ることで、香水業界に新しい波を起こそうと考えました。
➖確かに、フレグランスはフランスやヨーロッパが王道で、オーストラリアの香水メゾンはあまり知られていないのではないでしょうか。
オーストラリア発のフレグランスが全くないわけではなくて、「イソップ(Aesop)」のようなスキンケアやボディアイテムとフレグランスを展開するブランドはあります。それから、スキンケアですが香りにもこだわっている「ジュリーク(Jurlique)」のようなブランドも。それでも私がブランドを立ち上げた当時はフレグランスが主軸のブランドはなかったんですね。
ーその理由はどうしてだと思いますか?
それはオーストラリアに香水づくりの技法が知られていなかったことが理由だと思います。ゴールドフィールド アンド バンクスのスタートは6年前ですが、それからオーストラリア発の新しいブランドがいくつか誕生しましたから、オーストラリアのフレグランス市場で新しい扉を開くことができたと感じています。
➖オーストラリアの原料を使ってフランスの技法でつくるというのは斬新ですね。
フランスのフレグランスの製造技術は超一流でこれは揺るぎない事実。今やフレグランスをどの国で作ったとしてもフランスで生まれた技法を基にしています。私はオーストラリアですばらしい原料を見つけることができましたから、それらを最大限に活かすために一流の技術が必要です。そこで、原料をオーストラリアで集めて、製造はフランスで行っているんです。
➖ブランド名もユニークですよね。由来は何ですか?
オーストラリア大陸を発見したエンデバー号の乗組員で植物学者のジョゼフ・バンクス(Joseph Banks)から取りました。彼は大陸の植物をヨーロッパに持ち帰った「植物学の父」とも呼ばれていて、イギリスとオーストラリアでとても有名な人物。実は香水のボトルに貼っているラベルのギザギザは、「バンクスリーフ」と呼ばれる植物をモチーフにしてスカラップのような形で表現したんです。そして、オーストラリアは私にとって原料の宝庫で、まさに「ゴールドフィールド(採金地)」なので、ゴールドフィールド アンド バンクスと名付けたのです。
ジョゼフ・バンクス氏の書籍
➖既にヨーロッパや韓国など世界各国で展開していますが、ブランドのユーザーはどのような人たちでしょうか。
世界中で色々な世代の方に性別を問わずお使いいただいています。最近ではYouTubeやTikTokで紹介されることもあり、そこから知ってくれる方も多いですね。ファッションと違ってフレグランスは感情にも大きく関係していて、よりパーソナルなものなので、年齢や性別でターゲットを絞るのが難しいんです。感情に年齢はありませんから。私たちが使う原料、そこから生まれたフレグランスに興味を持っていただければどんな方にもおすすめできます。
香水作りのスタートは原料 一年中旅してリサーチ
➖香りを作る時のインスピレーションは何ですか?
素敵な原料が香水作りのスタートです。私は香水の原料を見つけるのが大好きで、一年中探しに行っています。実はオーストラリア原産の原料はとても貴重なんです。キャビアライムやクァンドン(デザートピーチ)など、オーストラリアのみで栽培されている植物を香水にたくさん使用しています。
➖オーストラリア産の原料で、特徴的なものを教えてください。
まず、アガーウッドは木に人工的に傷をつけ菌を繁殖させることで樹脂が生成され良い香りが発生するのですが、オーストラリアでは100%オーガニックなアガーウッドを生産していてこれは大変貴重です。それからサンダルウッド(白檀)はほとんどがインド産ですが、私のブランドではオーストラリア政府が先住民のアボリジニたちとパートナーシップを組んで提供している野生のサンダルウッドを使っています。
アガーウッド エッセンス
ボロニアの花はタスマニアで9月の3週間だけ咲くとても貴重な花です。今は合成香料が主流になっていますが、天然由来のアブソリュートは1kgで約300万円と大変高価なんですよ。ワトル(ミモザ)はオーストラリアのシンボルが集まったエンブレムにも描かれている国のシンボルフラワーで、これも香水に使えます。
また、ラベンダーといえばフランスが有名ですが、タスマニア産のラベンダーはサステナブルでフランスと同等の高品質な香りなんです。公害も一切発生させません。実は100年前にフランスから輸入してきて広がったのですが、現在タスマニアには世界一のラベンダー畑があるんです。
➖種類が豊富で貴重なものもあるんですね。日本にはない、初めて名前を聞いた植物も多かったので驚きました。
そうでしょう?オーストラリアで有名なのは「ボンダイビーチ(オーストラリアのニューサウスウェールズ州シドニー大都市圏にある人気のビーチ)」だけじゃないんです(笑)。いろんなすばらしい原料があるということを伝えていきたいですね。
➖ずばり、ディミトリさんはどの原料が一番好きですか?
迷いますが、ブッダウッド(デザートローズウッド)ですね。ブッダウッドオイルはシナモンやナツメグの微かな香りがして、スキンケアで使われることは結構あるのですが、香水で使うのは私のブランドが初めてだと思います。約1000年もの間、アボリジニに使われてきたそうで、オーストラリアの文化とも深い関係があります。
日本での展開と今後の新作について
➖日本人にとっては、海外製のフレグランスは強く感じてしまうこともありますが、ゴールドフィールド アンド バンクスの香水はまろやかな香り立ちで使いやすいと感じました。
オーストラリアは夏が暑くて湿度も高いので、気候が日本に似ています。そのためフレッシュな香りを心地よく感じるとか、好みが近いのかもしれません。また私のブランドは香り立ちは静かですが、しっかりと持続性があります。これはフランスの最高峰の技術が使われているからできることなんです。
➖日本での展開については以前から考えていたんですか?
実は6年前にブランドを開始した時、初めてコンタクトがあったのが日本の方でした。先日訪れた関西でのイベントにも熱狂的なファンの方が多く、「やっと日本に来てくれた」と喜んでくれたので、日本で展開できることをとても嬉しく思います。
➖ノーズショップでの展開を決めた理由は?
店の雰囲気やデザイン、全てがパーフェクトだと感じました。ノーズショップはニッチフレグランスのセレクトショップというのがとても嬉しかったです。
➖ノーズショップで展開している他のブランドに比べると、ゴールドフィールド アンド バンクスのボトルデザインはシンプルに感じます。
原料そのものの色や香りを主役にしたいという思いがありましたし、そもそもオーストラリアにはユニークなボトルやブランドはまだないので、瓶で差別化する必要はないと考えたんです。ただ、シンプルな中にこだわりを詰め込みました。例えば、「シルキー ウッド」のボトルは、瓶に24金が入ったパウダーをサンドブラストの技法で吹き付けることでゴールドに仕上げています。
➖日本ではどの香りが人気になりそうですか?
世界で400店舗ほど展開していますが、実は人気の香りがどの国でも同じ傾向があるので、日本も同様なんじゃないかと思っています。人気の上位は「サンセット アワー」「シルキー ウッド」「ボヘミアン ライム」「パシフィック ロック モス」などですね。私の香水はレイヤリングもおすすめで、例えば「ホワイト サンダルウッド」と「ウッド インフュージョン」はとても美しい香りになります。
ディミトリ氏おすすめのレイヤリング(ウッド インフュージョン、ホワイト サンダルウッド)
➖アジアでは日本以外にどこに出店していますか?
韓国、シンガポール、マレーシアに出店していて、来年の1月には中国への進出も控えています。韓国は8年前はほとんど誰も香水をつけていなかったのに、先日訪れた時にはみんな香水をつけていて、カルチャーの移り変わりの早さに驚きました。
➖アジアでもフレグランスの文化が根付いてきているのですね。今後の新作の構想は?
今は香水のみですが、今後はソープ、キャンドル、ハンドクリームなどの展開を予定しています。オーストラリアにはマカダミアオイルやホホバオイルなど本当に素晴らしい原料があるので、スキンケア、特にボディケアのアイテムはオーストラリアで作りたいと思っています。
➖最後に、フレグランス市場についてディミトリさんの思いを聞かせてください。
日本はもちろん、韓国や他の国からもいろんな香水ブランドが誕生することを願っています。人々は今ユニークなものを欲していると思うので、もっとバラエティ豊かなフレグランスが増え、市場が賑わうといいと思います。オーストラリア発祥の美容は、イギリスの老舗百貨店「ハロッズ(Harrods)」などでも「A Beauty」と呼ばれて注目されているんです。私たちのブランドでは、これからも使う人が穏やかな気持ちになったり、自信を持ったり、ポジティブなムードに導けるフレグランスを届けたいと思っています。
■ゴールド フィールド アンド バンクス:ノーズショップ公式オンラインストア
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