あらゆる多様性を受け入れるインクルーシブな企業文化を目指し、D&I(多様性と包摂)を積極的に推進するパルファム ジバンシイ(PARFUMS GIVENCHY)が、6月のプライド月間に合わせさまざまな取り組みを行っている。オンラインゲーミングプラットフォーム「ロブロックス(Roblox)」上で、初の「ジバンシイ ビューティー バーチャル ポップアップ」を開催し、デジタルクリエイターのアクセル(AXEL)氏などクリエイターがプライド月間で特別アイテムを作成、世界中で盛り上がるバーチャル上でのコミュニケーションに力を入れる。またそれを前に4月には、今年30周年を迎えた「Tokyo Rainbow Pride(以下、TRP)」に、LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン・ジャパン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON JAPAN)の傘の下、2年連続でブースを出展。美容クリエイターのズッチ マティア(Zutti Mattia)さんと共にパレードにも参加した。今回、ズッチさんとアクセルさんが対談。LGBTQIA+を知り、誰もが平等で生きやすい社会になるために大事なこととはーー。
◾️ズッチ マティア(Zutti Mattia):美容クリエイター
美容部員を経て現在はジェンダーレスインフルエンサーとして、何にも捉われない美をSNSで発信。高いメイク技術や自由な発想で注目を集め、マルチに活躍している。SNSの総フォロワー数は120万人超(2024.6時点)。
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◾️アクセル(AXEL):デジタルクリエイター、UGCクリエイター
デジタル上では Akusesa として活動。アメリカのサンディエゴでスウェーデン人と日本人のハーフとして生まれる。7歳からデザインを始め、その後スウェーデンに移住し、ATO Studios AB(atostudios.se)のオーナーとして活動を開始。現在は東京に拠点を移している。北欧のインダストリアルデザインとプロダクトデザインを専攻し、ゲームだけでなく企業商品のビジュアライゼーションにおいて、3Dレンダーと図面を用いて独自性を表現。Robloxの2023年「Insights From Our Latest Digital Expression, Fashion & Beauty Trends Report」でもデザインが使用されている。
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⎯⎯ LGBTQIA+など当事者とその支援者(Ally)と共に「“性”と“生”の多様性」を祝福するイベント「東京レインボープライド」(Tokyo Rainbow Pride、以下TRP)にズッチさんは参加されました。TRP活動をどのように捉えていますか?
ズッチ マティア(以下、ズッチ):TRPの期間中は、会場や周辺の店舗もセクシュアルマイノリティのシンボルであるレインボーカラーに彩られ、多くの参加者によるパレードも開催されています。当事者の知り合いも多いので、自分たちは周りからこんな姿に映っているんだな、と自分の居場所を再確認できる機会でもありますね。TRPも年々規模が拡大し支援者も増えていて、いい意味で“特別なもの”ではなくフラットな存在になりつつあると感じています。
⎯⎯ 確かに、ある意味“普通のこと”と捉えている人も増えていそうです。アクセルさんはスウェーデンで生活されていた期間が長いと思いますが、北欧はより性にオープンなイメージがあります。
アクセル:そうなんです。私はスウェーデンで育ちましたが、自身のパーソナルを大事にするということから、スウェーデンでもプライドパレードは盛んです。自分らしく生きる社会を作るためにもこうした活動はとても素晴らしいと思いますね。
Tokyo Rainbow Pride(PARFUMS GIVENCHY)
⎯⎯プライドパレード活動を通して声を上げ続けているものの、世界的にみると日本はまだ社会変革につながっていないという印象もあります。
ズッチ:私は当事者ではありますが、私自身は生き辛さなどを感じることはあまりないですね。ただ、自身が何者なのかというのを知るためにも、LGBTQIA+などの中のいずれかに分類されたいという人もいます。これは賛否両論あると思いますが、一意見として私はLGBTQIA+などに固執する必要はないと感じています。ひとりの人間として誰が何を愛してもいい。過ちをおかしているわけではないのだから。LGBTQIA+などという枠組みがなくなった方が良いと思っていて。
⎯⎯ こうした活動がなくなること=ゴール、なのかもしれません。4月に行われた「TRP 2024」への参加は、ズッチさんからパルファム ジバンシイに声がけしたことからタッグを組んだそうですね。
ズッチ:そうなんです。毎年2~3月にシドニーで開催される世界最大規模のLGBTQIA+など祭典「シドニー・ゲイ・アンド・レズビアン・マルディグラ(Sydney Gay and Lesbian Mardi Gras)」に昨年初めて参加して、国籍や性別、チャレンジド(障がいを持つ人)などすべての人が平等で、なんて素敵な世界なんだと感銘を受けました。この世界を日本でも体験できればと思い、その2ヶ月後に日本で開催されたTRP 2023のパレードに参加したんです。そのときにパルファム ジバンシイさんのブースにも立ち寄って、そしたら気さくに接していただいたのが印象に残っていて。D&Iを積極的に推進するパルファム ジバンシイさんと6月のプライド月間に合わせてぜひ何か一緒にお取り組みができたらと思い、LVMHフレグランスブランズの金山桃社長に私から声を掛けました。
⎯⎯ 素晴らしい行動力ですね。
ズッチ:どの企業もD&Iの推進ジェンダー平等を掲げてもいますが、正直、「いざというときはどうなの? どう行動し貢献するのだろう?」っていつも不安もあったんです。しかしLVMHはTRP 2024に協賛し、パルファム ジバンシイだけでなくグループ全体としても積極的に活動している点も魅力ですよね。
⎯⎯ アクセルさんはプライドパレードに参加した経験はありますか?
アクセル:スウェーデン国内では各地で頻繁にプライドパレードが行われています。私の友人にもLGBTQIA+など当事者が多く、彼らのエモーショナルサポート(精神的支え)として参加したことがあります。スウェーデンでは企業レベルでサポートする環境がすでに出来上がっているのではないでしょうか。
⎯⎯ 今回アクセルさんは、ロブロックスで開催中のジバンシイ ビューティー バーチャル ポップアップ内のゲームでプライド月間のための特別アイテムをデザインしましたね。
アクセル:ロブロックス内のゲームにはプライド活動にインスパイアされたシーンやファッションなども多く、私も普段からそういったゲームを選んで遊んだりもしています。メタバース内にはLGBTQIA+などをサポートする体制が整っていますし、ゲームやアバターを通してLGBTQIA+などに自然に触れることができる環境です。
今回のジバンシイ ビューティー バーチャル ポップアップでは、「みんなの手に届くメッセージ」をデザインしてほしいという課題をもらって、プライド活動からのインスパイアにプラスして日本の文化も取り入れたいと『扇子』を作りました。ポップアップ内にはさまざまなクリエイターとコラボしたランウェイショーやメイクアップがあり、とてもおもしろいものに仕上がっています。自分自身にとっても新しい出会いや発見が多くとても成長できました。ゲームは公開されているので、ぜひズッチさんも遊んでみてくださいね。
ズッチ:もちろん、楽しんでみたいと思います!
ロブロックスで開催中のジバンシイ ビューティー バーチャル ポップアップ(PARFUMS GIVENCHY)
⎯⎯ パルファム ジバンシイはリアルでもデジタル分野でもLGBTQIA+コミュニティへのコミットメントにおいて先駆的なビューティブランドです。ブランドに対してはどのようなイメージを抱いていましたか?
アクセル:香水やメイクが人気で、化粧品で人を美しくするブランドというイメージでした。具体的な活動は知らなかったのですが、今回をきっかけにさらに興味が湧きましたね。ロブロックスの取り組みを見ても、ビューティ系だけではなく若いクリエイターともコラボし、企業としてもさらに変わっていく意思が伝わってきました。古い考えに捉われず、さまざまなプライド活動に進んで挑戦している姿はとても素晴らしく、ブランドの強いメッセージを感じましたね。
ズッチ:最初は、LVMHグループの1つのビューティブランドという印象だったんです。国や性自認、性的指向などに関わらず自分らしくいられればいいというマインドなどを持っていることなどを知るほど、きれいになるだけじゃなくより自分らしさを引き出せるブランドであると感じました。プライド活動を通してパルファム ジバンシイの思いを知ってほしいですね。
⎯⎯ きれいになる概念が、ただメイクやスキンケアをするだけではないということですよね。ズッチさんにとって自分を引き出すメイクとは?
ズッチ:メイクすることは自身を強くする鎧でありライフスタイルの1つですね。絵を描いたり歌ったりすることはできないですが、メイクやファッションで感情を表現することができると思います。最近は男性でもメイクする人が増えてきて、マナーにもなりつつあります。メイク以外にもインナーケアやストレスフリーなど1人ひとりそれぞれの「美しさ」がありますよね。
アクセル:私はメイクをしませんが、きれいでいたいという気持ちは持っています。でもメイクに対するハードルは高くて、ショップにまで足が向かないという人も多いのではないでしょうか。そういう意味で、ロブロックスのゲームだったら、メイクも紹介されているしアバターにメイクアップもすることも可能です。誰もがビューティを身近に感じることができますよね。ズッチさんが言ったように自分らしくいられるための手段として、パルファム ジバンシイがファーストステップになるといいですね。
⎯⎯ 今回のプライド活動を通じて感じたことや、今後の課題はなんだと思いますか?
アクセル:誰もが同じように扱われることで仲間としてのつながりを感じましたし、活動を通して共に進むことの大切さが重要だと実感しました。スウェーデンは性教育は進んでいて、差別意識はなくなってきていますが、日本は「変えよう」という気持ちは見えている一方で課題も感じますね。例えばSNSやメディア報道などはフェイクがあったり暴言が多々あったり。とてもきつく苦しい表現が多いのではないでしょうか。
ズッチ:そうですね…。例えば、書類などの性別表記に男性か女性しかなかったり。高校生の時に、提出書類にある、性別欄に「男性・女性」どちらかに○を、というところに、私はその横に「自分」って書いてたんですよ。それで先生に怒られて…。男性とか女性とかじゃなく、「自分」じゃんって思っちゃって。日本は、「こうじゃないといけない」という同調圧力が強いかもしれませんね。人と違うことは何も悪くないことで、誰もが自由でいて欲しいですよね。それこそ私は、人と違う代表で生きていて私自身が好きで輝かしい存在です。日常的に選択肢にぶつかったときはいつも「生きるか死ぬか」で考えているんですよ。
⎯⎯ 生きるか死ぬか?というと?
ズッチ:例えばですが、仕事やカミングアウトするかどうかで悩んでいるとして、YESを選択しても死ぬわけじゃないし帰る場所もあるから大丈夫。そんな思いで生きていれば全然平気なんですよね。
アクセル:周りから何を言われても、自分が正しいと思ったことを実行するのが1番です。私は自分がいいと思ってデザインした作品を、ほかの人も素敵だと思ってもらえたらとてもうれしいです。デザインの力で人を幸せにすることが夢ですね。
ズッチ:私自身はまだ成功していないと思っているし、コスメブランドを持つことやNYに住むのが夢です。叶っていない夢はたくさんありますが、毎日充実しているのである意味、後悔はないと思って生きています。
⎯⎯ では最後に、誰もが平等で生きやすい世の中になるために、われわれができることは?
ズッチ:無関心になることですね。これは冷たいようで、すごく人のためになると思うんです。もちろん何かをサポートすることは大事ですが、そこに固執しすぎてしまうと逆に居場所がない人が増えるのでは? だからこそLGBTQIA+などに固執する必要がなく、枠組みさえなくなってフラットに生きればいいという考えに行き着くんですね。実は私自身、最近まで自分のセクシュアリティタイプを知らなかったほど無関心で。私は無関心でいることのラクさを知っているし、興味がないことの素晴らしさがあると思います。
アクセル:まず自分を大事にすることが大事ですね。そして1人ひとりが異なっているという違いを認めることも必要です。お互いを理解し大切にし合うことで生きやすい社会にもつながります。これは決して特別なことではなく、日常生活で周りの人を思いやるなど小さなことから一歩ずつ進められることだと思います。
<参考>
パルファム ジバンシイ ジャパンの主なD&I活動
2020年:LVMHジャパンとして「ジョブレインボー仕事博2020」に出展
2021年:LGBTQIA+などの性的マイノリティが自分らしく働ける職場づくりの貢献を評価され、PRIDE指標ゴールドを獲得。その後、2022、2023年と3年連続でゴールド獲得
2022年:求人応募時に性別、婚姻状況、年齢、写真などの情報を求めないことを表明
2022、2023年:LVMHグループ「MEプログラム」にパルファム ジバンシイとして参画、女性の復職・リスキリングを支援
2023年:LVMHビューティー部門からジバンシイがTRP2023初参加/Business for Marriage Equality の賛同企業として反差別のメッセージを発信/認定NPO法人ReBit主催のワークショップを開催。DE&Iの観点から、接客・店舗づくりを学ぶ
2024年:認定NPO法人ReBit、niaulab by ZOZO、パルファム ジバンシイの3社連携で、セクシュアルマイノリティのパーソナルスタイリング支援プロジェクトを始動
◾️パルファム ジバンシイ:公式サイト
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