おばあさんのクローゼットのように成熟し、今の時代を俯瞰する 本当に良い古着屋を求めて。渋谷 DESPERATE LIVING編
【連載】本当に良い古着屋を求めて 第4回
Image by: FASHIONSNAP
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おばあさんのクローゼットのように成熟し、今の時代を俯瞰する 本当に良い古着屋を求めて。渋谷 DESPERATE LIVING編
【連載】本当に良い古着屋を求めて 第4回
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知らない時代の知らない誰かが着ていた服との運命的な出会いは、古着選びの面白さのひとつ。誰かの物語を背負った服を自分らしく着こなすために。人気古着店のオーナーに学ぶ連載「本当に良い古着屋を求めて」第4回。
渋谷駅新南口から徒歩約2分。オフィスビルに囲まれたエリアにひっそり佇む、赤煉瓦が印象的な第一平野ビル。静まりかえる急階段を上った4階に、昨年11月に創業20年を迎えた老舗古着屋「デスペレートリビング(DESPERATE LIVING)」はある。長年東京の古着シーンを支え続ける共同オーナーの牧野孝彦さんと山田裕子さんとの会話の中で、多様な時代のアイテムの組み合わせで自分だけのスタイルを突き詰めることができる「古着を着る」という営みの味わい深さを改めて実感させられた。
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目次
人生の側にある、映画、音楽、そして古着
様々な音楽関係の店で働いた経験を持ち、渋谷のレコードショップで出会ったという牧野さんと山田さんは、2003年の11月に高円寺にDESPERATE LIVINGをオープン。高円寺で3年、渋谷の宮益坂ビルへ移転し10年、その後現在の場所に店舗を構え約7年半になる。選んできたのは「なんでもあってなんでもない街」。現在の店舗も、109からパルコまで様々なテイストのスタイルを受け入れる、そんな渋谷の中でも特に特定のスタイルに染まっていないビジネス街を選んだ。
店頭には、オープン当初から牧野さんがセレクトしたレコードが並んでいる。ラインナップは、エレクトロニカからアバンギャルド、ノイズ、古いラウンジ、ダブまで様々。「今までの価値観からちょっとズレたものが置いてあったり。そういうのっていいですよね」と牧野さん。
店名は、ジョン・ウォーターズ(John Waters)監督のカルト的人気を誇る映画「デスペレート・リビング」から命名。同店が提案する世界観を表現するキーワードは「ガーリー」「シャビー(=みすぼらしい)」「グルーミー(=仄暗い)」「サバービア(=郊外)」「グラニー(=おばあさん)」。ガーリーは、アーティストのリタ・アッカーマン(Rita Ackermann)が描き出す女性像のような、1990年代から2000年代にかけてのガーリーさ。シャビーはマルタン・マルジェラ(Martin Margiela)が1990年代に発表したスタイル。サバービアは、1970年代に発表されたビル・オーエンス(Bill Owens)の写真集「Suburbia」が切り取る、豊かなニュー・ファミリーからホームレスまで、アメリカ社会の構図を生々しく映し出す郊外の人々のイメージに近い。
レンタル落ちした映画のVHSを大量に買い集め、それらが詰まった段ボールの山に囲まれて暮らしていたこともあるというほど映画好きな牧野さんと山田さん。グラニーのイメージは、そうして出会った映画の登場人物たちからきている。店名の由来にもなった映画「デスペレート・リビング」に登場する個性的な女性たちや、ドキュメンタリー映画「グレイ・ガーデンズ」で描かれる、没落貴族の女性たちがボロ屋でみすぼらしく暮らしながらもアイデアで豊さを補う様子、様々な時代のアイテムをユニークに着こなすファッションセンスなど、ただ可愛らしいだけではない“得体の知れない魅力”を持った人物像だ。
床や什器はお手製のベニヤ張り。着想源はマイク・ケリー(Mike Kelley)やカレン・キリムニック(Karen Kilimnik)の インスタレーション。
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何を見て考え、何を「選ばない」か
セレクトするアイテムの年代は1890年から2000年頃まで。ヴィンテージと定義される20年以上前の服を買い付け、エリアはアメリカを中心にヨーロッパもカバーする。ヴィンテージにはこだわるが、年代に対しての固定的な価値設定はせず、大事にするのは今の時代にあったムードがあること。古くて良いものから、値段は手頃でも雰囲気があるものまで、自分にとっての掘り出し物を見つける楽しさを提供できるラック作りを目指している。
今のムードを掴むためにインプットするのは、現在のコレクションブランドからストリートブランド、写真、映画などと幅広いが、インプットと言っても特定のデザインをサンプリングすることではない。「時代の流れとともに色々なものが出てきて、そういったものを見た上で、『じゃあ違うことをやろう』って瞬間があるじゃないですか。参考にするのではなく、何を選ばず何を選択するかという感覚かもしれませんね」と山田さん。
時代のムードを掴んだ、新鮮な服としての古着
同店の大きな特徴の一つは、オリジナルリメイクライン「ドリームランダーズ(DREAM LANDERS)」。買い付けは2人で、リメイクは山田さんの担当だ。気になって買い留めたアイテムたちから「余計なものを省く」ようなイメージで鋏を入れていく。そういった削ぎ落とし研ぎ澄ませていく感覚にも、繊細な時代性を機敏に掴み取る感覚が光る。
「ドリームランダーズ」というのは、ジョン・ウォーターズが映画の制作スタッフたちを呼んだ愛称。「買ってくれた人は、DESPERATE LIVING経由でジョン・ウォーターズの仲間(=ドリームランダーズ)になる」という意味が込められているそう。
「時代に合わせて生まれる様々なものを見て、どのように“次のもの”を選びとるか」という山田さんの言葉はドリームランダーズのリメイクの感覚にも通じている。音楽や映画、アーカイヴなど幅広いカルチャーをリスペクトしながら、新鮮かつ時代が求める「服」を提案する2人の姿勢はとても「デザイナー」的。そのクリエイションは、既存のアーカイヴを纏うということに留まらない、「古着を着ること」の新鮮な面白さを教えてくれる。
オーナーが組む“DESPERATE LIVINGな”3ルック
Fスナスタッフをモデルに、牧野さんと山田さんが組むDESPERATE LIVINGな3つのスタイルを紹介。
ドリームランダーズ×ミニTで、1990〜2000年代のムード
山田さん
ドリームランダースにミニTといった、このお店らしい組み合わせ。1990〜2000年代の間くらいの時期をイメージしました。
牧野さん
リチャード・カーン(Richard Kahn)の「ハード・コア」みたいな感じですね。
ワンピースにもなるスカート 着こなしに遊び心
牧野さん
ヨーロッパのブランドのもので、一見リメイクのように見えるのですが、元からこういった形をしています。かなり珍しいものですね。
レオタードの艶感と重たいニットのレイヤード
牧野さん
パンツは70年代のベルボトム、ブーツはフランス軍のものです。
山田さん
ニットのような素材に、レオタードのような少しツルツルしたもの合わせるのも好きですね。
Fスナスタッフが変身
ウィメンズアイテムも普段から着こなす、古着(特に70's)が大好きなFスナスタッフSが今回も取材に同行。牧野さんと山田さんのおすすめを伺いながら、気になるアイテムをピック。
牧野さん
パロディアイテムに日曜日のおじさん感のあるサーマルパンツ。シューズは軍物のオーバーシューズです。
ベルボトムのパンツにノースビーチレザーを合わせて、サイケなTシャツを…ちょっと定石すぎますかね?(笑)
スタッフS
山田さん
かわいい!意外と最近やる人もいないし、あえて「王道」というのも良いですね。
■DESPERATE LIVING
所在地:東京都渋谷区渋谷3-25-21 第一平野ビル401
営業時間:14:00〜19:00
定休日:火曜・水曜
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【連載:本当にいい古着屋を求めて】
第1回:祐天寺「Gabber」
第2回:下北沢「ムー」
第3回:学芸大学「ISSUE」
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