センスのいい人が絶対に手放すことができないアイテムとは?人柄や嗜好が存分に反映された多岐にわたるラインナップから、セレクターのB面を紐解いていく連載「マイエッセンシャルズ」。暮らしに欠かせないものをエッセンシャルズと称し、アイテムにまつわるストーリーと共に紹介します。記念すべき第1回は、ジョン メイソン スミスのデザイナーを務める吉田雄二さん。「エコパークポタリー(Echo Park Potery)」のマグカップや「ライカ(Leica)」のカメラなど、8つのマイエッセンシャルズを教えてもらいました。
目次
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1975年生まれ、福島県出身。大手セレクトショップでバイヤーを務めた後、独立。自身のブランド「ジョン メイソン スミス(JOHN MASON SMITH)」のデザイナー、「ジェーン スミス(JANE SMITH)」のディレクターとして活躍。
タフでストイックな佇まい、「Eichenlaubのカトラリー」
―シンプルでかっこいいカトラリーですね。初めて見ました。
これは「アイヘンラウプ(Eichenlaub)」という1910年創業のドイツのカトラリーブランドのものです。金属のカトラリーは鋳造と鍛造という2種類の作り方に分類されるのですが、これは後者で、簡単にいうと刀のように叩いて形を形成していくため、型に流し込んで作る鋳造よりも硬く仕上がるのが特徴です。今では珍しく、ステンレスの板を鍛造から研磨、仕上げまで、すべての工程を職人が手作業で行っているブランドです。
―どこで購入されたんですか?
ネットで買いました。日本にブランドの直営店がないので、オーダーして送ってもらいました。
―一見するとシンプルなカトラリーに見えますが、どこに惹かれましたか?
単純に金属とか革とか、そういう素材が好きなんですよね。それだけではなく、これはハンドクラフトならでの温もりが感じられるところに惹かれました。形も特徴的で、柄の部分は指が引っかかり持ちやすいデザインになっていて、とても使い心地がいいです。ドイツ製らしく質実剛健というか、タフでストイックな佇まいも気に入っています。
―ハンドクラフトと聞くと高そうですが、それぞれおいくらですか?
1本単位で販売していて、1万円くらいです。友人を自宅に招いて食事することがよくあるので、ダイニングに座る人数分は用意しています。これはローズウッドのものなのですが、柄の部分の素材を選べて、黒檀のものも所有しています。料理や食器に合わせて、柄の色や素材を合わせるのも楽しみの1つですね。一人暮らしの時間が長かったので、その時に料理は一通り覚えて、今でもよく作ってます。友人を招いた時から普段の食事までデイリーに使っているのですが、何の不満もなく、友人からの評判も良いですね。他のブランドのカトラリーも使ってみたこともあるのですが、結局これに辿り着く、完成形だと思っています。シンプルなデザインでダイニングを邪魔しないうえに、使い勝手も良いので、僕にとってはこれが1番です。
家で一番の存在感「Echo Park Potteryのマグカップ」
―続いてマグカップですが、カトラリーとは打って変わって派手ですね。
僕の家にある物の中で1番派手なカラーリングのものだと思います(笑)。これはLA在中のピーターシャイアー(Peter Shire)というアーティストが作っている「エコパークポタリー(Echo Park Potery)」のマグカップです。
―インクの飛び方や色の出方が印象的ですね。
これもハンドクラフトなので色味や飛び散り具合がそれぞれ異なるのが特徴で、いくつか見比べて自分好みのものを選びました。ドリッピングの技法で知られるジャクソン・ポロック(Jakson Pollock)のような雰囲気のデザインが、自分の好みにハマっているんだと思います。
―どんなところに惹かれましたか?
やはり一点物という点ですかね。同じようなカラーリングのものはたくさんあるのですが、全く同じものはないので、"自分だけ"という特別感がありますよね。極端なことを言うと、洋服も1点しかないものが1番カッコいいなと思っています。自分が着たい服や手に取りたいと思うものは、そういった類の特別感があるものが多いですね。
―ブランド名にもなっているエコパークはLAの地名なんですよね。
丘っぽいところにある何の変哲もない住宅街で、シャイアーのアトリエがあるらしく、今でも拠点を変えずに制作しているみたいです。集め出した当初はシャイアーが高齢ということもあり、今後あんまり作れないということを聞いていたので見かけたら買うようにしていたのですが、今でも元気みたいで新しい作品がどんどん出てきているのを見てちょっと安心しています(笑)。
―1番のお気に入りは?
持ち手が2つのものです。結構珍しく、子ども用のマグカップにはこういう仕様のものがあったりするのですが、大人用のものでは見かけなくて。本当は口が広い方が飲みやすくていいのですが、デザインが可愛くて気に入っています。妻は他のものを使って、僕はこれを使うのがお決まりですね。
撮ることの楽しさを再認識した「ライカのM10とオールドレンズ」
―ドイツを代表するカメラメーカー「ライカ(Leica)」のカメラ。吉田さんのインスタグラムには、自身で撮影された風景や洋服が投稿されていますが、写真を撮るのは昔から好きだったんですか?
10年ほど前から趣味で撮っていて、いつの間にか出かける時にはカメラを携帯するようになっていました。携帯が普及して誰でも簡単に綺麗な写真が撮れるようになったので、写真が趣味だと公言することってなかなか難しいと思っていたのですが、このカメラを使うようになってから、向き合う決意も込めて、写真が好きと言えるようになったかもしれません。
―それはどんな変化なんでしょうか?
写真に対する価値観の変化ですかね。被写体が鮮明だったり、ピントが綺麗にあってなくてもいいんだと思えるようになりました。このカメラ、撮るのが本当に難しくて、歪んだりピントが合わなかったりして、買った当初は挫折しそうになったくらいで(笑)。今ではそれも楽しいと思えるようになったので良かったのですが。
―どのようなものを撮ることが多いですか?
風景からスタイリングまで気になったものを撮っています。どんな日常でも「ライカ」のフィルターを通すと、エモーショナルになるような気がします。漠然と「ライカ」らしい写真のイメージがあって、それが他のメーカーではどうしても表現できないものだったんですよね。
―それは色味ですか?
正しい表現かわかりませんが"出だし"が違うような気がします。色味は後から調節できますが、それだけでは補完できないものがあって、やっぱり「ライカ」のカメラじゃないといけないと思わされました。時計だったら「ロレックス(ROLEX)」、パソコンだったら「アップル(Apple)」みたいな、そんな感覚ですかね。コンピューターというよりクラシックな機械に近いような感覚で、シャッター切る音やずっしり重い重量感など、決して便利とは言えないけどロマンがあるというか。シンプルで余計なボタンもないデザインも好きで、撮り手の技量が問われるような感覚を楽しんでいます。
毎日アクセサリー感覚で取り替える、「アイウェア」
―吉田さんはアイウェアも含めて上手にスタイリングされている印象があります。結構奇抜なデザインでもすんなりとかけこなしているイメージがあり、素敵だなと思っていました。
本当はメガネはいらないくらい視力はいいんですよ。でも無いと寂しいというか、アクセサリーの延長線上の感覚で、他のアイテムに合わせて着替えるように取り入れています。「アイヴァン(EYEVAN)」や「オリバー ピープルズ(OLIVER PEOPLES)」、「ジェントルモンスター(GENTLE MONSTER)」などブランドは様々なのですが、こうやって並べてみると似たようなものを買っていますね。知らない人から見たら、同じものだと思われそう(笑)。
―これで全部ですか?
家にまだありますね。全部持ってくるのも大変だったのでお気に入りを持ってきました。所有する数量に興味がないのですが、多分数十本くらいあると思います。その時の気分に合わせてアイウェアも心機一転させたくて、1シーズンで2本くらいは買い足していますね。
―選ぶ基準はありますか?
特にこれという決まりはないですが、歴史上の人物や映画に出てくるキャラクターを参考にすることは多いです。メガネをかけている俳優やミュージシャンなどは意識して見てますね。自分にとってマイヒーローのようなキャラクターを参考に選んでいます。
―たくさん種類がありますが、どんなことを意識してかけ分けていますか?
その日の気分含め、誰に会うとか、どんな風に見られたいかを想像して選ぶようにしています。このラインナップからわかるかもしれませんが、結構癖のあるアイテムを選びがちなので、全体としてのバランスは特に意識するようにしていますね。
実用性も兼ね備えた「レザーネックレス」
―アイウェアに引き続き、レザーのネックレスも吉田さんを象徴するようなアイテムだと思っていました。今日も身につけていらっしゃいますね。
基本的に出かけている時には、どれかを首から下げていますね。20代前半には「ゴローズ(goro's)」をつけていた時もあったので、ネックレスは若い頃からずっと好きなのだと思います。何かを首から下げていると安心するというか、自分の中ではお守りのような感覚ですね。
―レザーのネックレスをつけるようになったきっかけは何だったんですか?
年齢なのかもしれないですが、最近物忘れが本当に多くなってきて。とにかく首から下げていたら忘れてないだろうという気持ちで、鍵やAirpodを収納できる実用性も兼ねたネックレスを集めるようになりました。時々首から下げることすらも忘れてしまうこともあるんですけどね(笑)。一部例外もあって、例えばこれは「エルメス(HERMÈS)」のルーペをモチーフにしたネックレスなのですが、ちゃんと拡大して視ることができるので運針を確認する時に使うこともあります。デザイン性だけではなく、実用性も兼ねているものに惹かれているのかもしれませんね。
―あくまでも使うことが目的にあるんですね。でも首から下げるだけでスタイリングも上品に仕上がりそう。
古着を着ることも多いので、そういう時にもレザーのアイテムが入るだけで、グッと印象が変わりますよね。どことなく引き締まるというか、少し綺麗に見えてくれるというか。
―普段はどのような組み合わせで使っていますか?
気分で選んでいるので、固定の組み合わせはないですね。その日頭が痛くなりそうだったら「エルメス」のピルケースのネックレスを選ぶとか、使うことを前提に選んでいます。スタッズがついたコインケースはイギリスらしさを感じるので、UKっぽいテイストの服装の時に合わせたりとか、スタイリングに寄せることもあります。
―1番使う頻度が高いのはどれですか?
毎日使うものだったら「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」のAirPodsケースですかね。一度AirPodsを無くしたことがあって、それ以来必ずケースに入れて首から下げるようにしています。
―ちなみに1番気に入ってるのは?
「エルメス」と「メゾン マルジェラ」のキーケースですね。「エルメス」を代表する象徴的なアイテムを「メゾン マルジェラ」がサイズと素材を変えて展開しているというところにグッときました。マルタン・マルジェラが「エルメス」のデザイナーを務めていた時期もあり、そういった背景も含めて気に入っていて、ブラックジョーク的に一緒につけています(笑)。
一目で品の良さがわかる、「カシミヤアイテム」
―吉田さんがデザイナーを務める「ジョン メイソン スミス(John mason smith)」と「パタゴニア(Patagonia)」のカシミヤ商品ですね。
この「パタゴニア」のセーターとマフラーはリサイクルカシミヤを使用しています。製造段階で回収されたカシミヤの端切れを使用したアップサイクルなアイテムで、前面にブランドのロゴもなくシンプルなデザインで気に入っています。「パタゴニア」は90年代前半くらいからよく着ていて、ブランドのフィロソフィーやモノづくりの背景もしっかりしているので、ずっと好きなブランドの一つです。
―”買わなくていい”というプロモーションも印象的ですよね。
サステナブルって簡単に言えない難しい領域だと思っていて。やらないよりはやったほうがもちろんいいですけど、僕は「パタゴニア」を知っているが故に簡単に手出しできない領域というか。この規模感では到底できないので、自分のブランドでは安易にサステナブルとは言わないようにしています。自分のブランドで同じリサイクルカシミヤを手配できたとしても、この価格帯では絶対に提供できませんから。リサイクルですけど風合いも損なっていないし、余計なデザインがないので、どんな人でも気軽に着られるのが魅力的ですよね。
―確かにアウトドアブランドのアイテムでこのくらいシンプルなものってなかなか無いですよね。一方、「ジョン メイソン スミス」のアイテムもシンプルですが、だいぶ質感が異なりますね。
これは軽くて薄くて、柔らかくて、日常使いできるものを目指して作りました。気温に応じて脱ぎ着できて、バッグに入れても気にならないので、デイリーに使えるものが出来たかなと思います。いま肩に掛けているのも同じシリーズのものなのですが、アンサンブルで着られるようになっていて、少し暑い時には首に巻きつけるスタイルもおすすめしています。
―本当に薄いですね。カシミヤでこの薄さって珍しいですね。
緩く甘めに編みあげてもらっています。見た目で言うとモヘアを使ったセーターとかはこういう甘い編み方をするのですが、カシミヤではあまりなくて、素材の良さを活かせたかなと思います。
―この紐はどのように使うのが正解ですか?
これは洒落のようなアイテムなので、ベルトにしたり、チョーカーのように首に巻いたりとか、正解はないです。スケーターがシューレースをベルト代わりにしているのをモチーフにしていて、そんなイメージで作りました。一応ちゃんとカシミヤですけどね(笑)。
―カシミヤという素材自体が好きなんですか?
個人的にもそうですし、作り手としても好きで、可能な限りコレクションの中で使いたい素材の一つですね。カシミヤやシルクなど昔ながらの良い素材は、良くも悪くも最終の仕上げで質感が大きく変わってしまうリスクやプライス面のこともありますけど、できる限り使うようにしています。
自分の価値観を反映したラインナップ「アートと額装」
―タイポグラフィーからアート写真まで並んでいて壮観ですね。
様々なアーティストの作品をオリジナルボディのTシャツにプリントする"THE ARTIST"という企画を「ジョン メイソン スミス」で毎シーズン行っているのですが、そのコラボで取り組みがあったNYのフィルムメーカーであるシェリルダンや写真家のジェイミー・モーガンなどの作品を揃えています。作家本人と直接やりとりしていることもあって、個人的にも思い入れのある企画なので、作ったTシャツと同柄のアートが揃うとテンション上がりますね。このシェリルの作品は、"THE ARTIST"の一番最初の2018年の企画の際に使わせてもらったもので、特に気に入っている作品です。
―黒で統一された額も格好いいですね。
いつも恵比寿にある額装屋さんでオーダーしています。いろいろ合わせてもらうんですけど結局黒い金属の細い縁が1番しっくりくる感覚があって。マットの幅も決められるので、担当者さんと相談しながら決めてますね。
―普段どこに飾っていますか?
最初は店舗に飾ろうと思っていたのですが、置いてみると意外と合わなかったので、今は事務所に置いています。気分によって入れ替えています。
―どんな時に欠かせないと感じますか?
本当にアートが身近にあることが自然になっているので、日々何かを新たに感じるということはないですけど、いつの間にか知らず知らずのうちに影響を受けて、僕自身の空気感や雰囲気を作り上げてくれていると感じています。このラインナップもいわゆる人気どころではないというか、王道ではないので、僕らしい世界観が反映されていると思っていて。マイナーでニッチなラインナップですが、個人的にはものすごく気に入っていますね。
現代に通じる美しさを感じる、「スツール」
―雰囲気のあるスツールですね。これはどちらのものですか?
フランスのデザイナーであるシャルロット・ペリアンとピエール・シャポーのビンテージスツールです。直営店に置いているものと自宅で使っているものを持ってきました。足がクロスしているものがシャポーのもので、それ以外がペリアンがデザインしたものです。
―家具も昔から好きだったんですか。
ブランドを始めて、ルックを撮影したり事務所構えたりする時に椅子やスツールが必要になり、色々探しているうちに好きになりました。ヴィンテージのスツールや家具ってここ最近ブームじゃないですか。いわゆる定番のものだと、他のブランドのルックやお店でもよく見るというか、ブームになりすぎているような感じがしていて、被るのが嫌なので、あえて少し変化があるものを選んでいます。
ちょうど直営店もできるタイミングだったので、什器として置けるものも探していて。この直営店は少し緊張感がありながら、どこか温かみのある空間を目指していたので、コンクリート打ちっぱなしやシルバーのラックなどインダストリアル感のある店内に、手仕事のぬくもりを感じさせるスツールがあると映えるかなと思い、これらのスツールを選びました。自宅や事務所でも兼用して使っているものもあり、ペアで揃えているものもあります。
―スツールを暮らしに欠かせないものに選んだわけは?
これも洋服の延長線上ですかね。あんまり新品を買うという感覚がなくて、古くていいものを探すというのが僕の中でのルーティンになっているのかもしれません。古くていいものを探した末に、これらのスツールを見つけました。選んだ理由は、単純にものとして美しかったから。年代は古いですが、現代にも通じる普遍的な美しさが感じられる。そんなものに囲まれて仕事をしたいとか、生活したいという想いがあるので、暮らしに欠かせないものとしてセレクトしました。
―今回選んだラインナップを振り返ってみてどうですか?
自分自身が古いものに惹かれているということを再認識しました。サングラスやネックレスは新しいものですが、テイストとしては古くて、クラシカルなものに豊かさを感じているのかなと思います。デザインが良いうえに、機能が備わってて、クラフトマンシップが感じられて、なんなら廃盤になっていくものを見つけたら、このラインナップも変わるかもかもしれませんね(笑)。
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