フレグランスの魅力とは、単に“匂い”だけじゃない。どんな思いがどのような香料やボトルに託されているのか…そんな奥深さを解き明かすフレグランス連載。
第21回は、昨年末に日本での販売を開始した緒方慎一郎による「KAORI」にフォーカス。
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KAORIのYOKAコレクション全6種。左から時計回りにKOTO、IRORI、TACHIBANA、TATAMI、OGATA(各1万4850円)、SAKAMOTO(1万6500円)
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現在、東京都現代美術館で開催中の「坂本龍一 音を視る 時を聴く」(2025年3月30日まで)。NHK「日曜美術館」で取り上げられ、春休みが重なっていることもあり、美術館の想定を遥かに超える来場者数で大盛況となっている。
さまざまなアーティストとのコラボレーションによる視覚と聴覚のインスタレーションは、非常にユニークかつダイナミックな没入体験を得られるが、坂本龍一が生前に愛した香りをご存じだろうか?緒方慎一郎とのコラボレーションによる「YOKA SAKAMOTO」である。
緒方慎一郎を説明するのは非常に難しいが、端的にいえば「自然との共生により培われてきた日本の伝統文化を継承しつつ、時代に合わせて再解釈しながら、現代における暮らしの作法を創造し、提唱する人」。そのために彼は食、茶、菓子、工芸、建築などさまざまな分野において、空間や道具のデザインを通じて暮らしの作法を提案、その哲学は和食料理店「八雲茶寮」や和菓子店「HIGASHIYA」、由布院「山荘 無量塔」、紙の器「WASARA」、「イソップ(Aēsop)」、「アンダーズ東京」などに見ることができる。
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以前は金物店だったという17世紀の建築を生かして設計したOGATA Parisのエントランスホール
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2020年、構想から十数年をかけてフランス・マレ地区に「OGATA Paris」をオープンしたが、それは緒方の哲学の集大成でもある。そこで今まで手がけていなかった香りも加えることにし、2022年に香りの空間を完成させると同時に「YOKA」という香りのシリーズをスタートさせている。
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YOKAは香り2.5g×10袋、リネン香袋、紐がわっぱの中にセットされている。パッケージの蓋を開いて香立にすることもできる
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YOKAとは「余香」、すなわちほのかな天然の香りを身にまとうというコンセプトで、お香に用いられる原材料を細かく砕いて調合したもの。ただしお香とは異なり温めたり燃やしたりする必要はなく、器にのせて室内に漂わせたり、リネンの香袋に入れて持ち歩くなど、常温で楽しむことができるように作られている。
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香を衣に焚き染めるという古の慣習に着想を得て、リネンの香袋を用意
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ブランドを象徴する「OGATA」のほか「KOTO」、「TATAMI」、「TACHIBANA」、「IRORI」の5種類をラインナップ。さらにOGATA Parisだけの特別な体験として、五行説における木・火・土・金・水に基づく5つの香りをベースに好みの原材料をブレンドして作るオーダーメイドサービス「YOKA sur mesure」も展開。原材料を提供している京都の香老舗「松栄堂」の調香師が駐在し、調合にあたっている。残念ながら日本ではこのオーダーメイドサービスは展開されていないが、5種類のYOKAが2024年11月からついに日本発売開始。公式オンラインショップをはじめ、日本茶専門店「SABOE TOKYO」、和菓子店「HIGASHIYA GINZA」、和食料理店「八雲茶寮」などで販売されている。
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OGATA Paris地下1階の香りの空間。ここでオーダーメイドを楽しめるほか、日本未発売のインセンススティックや作家による香道具なども販売されている
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さて、坂本龍一と緒方慎一郎は以前から交流があり、2021年にはコンプリートアートボックス「2020S」のアートディレクションを緒方が担当している。一方、坂本は以前から松栄堂のお香を愛用しており、コンプリートアートボックス「Ryuichi Sakamoto 2019」には自身が愛用していた松栄堂のお香をセットしたほど。ゆえに緒方慎一郎×坂本龍一×松栄堂によるYOKA SAKAMOTOは必然の帰結といえよう。
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坂本龍一のアルバムジャケットを彷彿させる、白と黒でデザインされたYOKA SAKAMOTO(1万6500円)
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坂本と緒方が一緒に松栄堂まで出向いて作ったという香りは、坂本がレコーディング中はもちろん、最期まで傍らに携えていたという特別なブレンド。そして半年ほどかけて考案されたというパッケージには、坂本による手書きの譜面がエンボス加工され、ついに2024年12月に発売開始となった。ピアノを思わせる黒のパッケージは、白にエンボス加工を施した「OGATA」と対をなすデザインにもなっている。
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香り25g、香壺、仕覆、リネン香袋を桐箱にセットした展覧会限定のYOKA SAKAMOTO(5万5000円)
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YOKA SAKAMOTOはYOKAの6番目の香りとして通常販売されているが、東京都現代美術館の展覧会場内特設ショップでは、香壺とともに桐箱に収めた特別仕様のYOKA SAKAMOTOを限定販売中だ。展覧会では屋内外に広がるインスタレーションの数々に圧倒されるばかりだが、特設ショップにひっそりと置かれているYOKA SAKAMOTOにも注目してほしい。
ビューティ・ジャーナリスト
大学卒業後、航空会社、化粧品会社AD/PR勤務を経て編集者に転身。VOGUE、marie claire、Harper’s BAZAARにてビューティを担当し、2023年独立。早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻修了、経営管理修士(MBA)。専門職学位論文のテーマは「化粧品ビジネスにおけるラグジュアリーブランド戦略の考察—プロダクトにみるラグジュアリー構成因子—」。
◾️問い合わせ先
OGATA Online Department Store:公式サイト
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