フレグランスの魅力とは、単に“匂い”だけじゃない。どんな思いがどのような香料やボトルに託されているのか…そんな奥深さを解き明かすフレグランス連載。
第16回は、スーパーラグジュアリーフレグランス「アンリ・ジャック(HENRY JACQUES)」の新作をピックアップ。
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毎回、予想外のサプライズとともに新作を届けてくれるアンリ・ジャック。今回は3種のバラの香りのコレクションだが、クリエイションのすべてにおいて徹底したこだわりを見せるアンリ・ジャックが、ついにバラの栽培に着手。自社栽培のバラを使った初めてのクリエイションが誕生した。
これまでもフレグランスごとに最適なバラを世界中から厳選し調達してきたが、より完璧なバラが存在するのではないか⎯⎯ そんな思いが高じて、自社でバラを栽培することを決定。鉄分豊富な赤土と、十分な日照と雨量が望めるバラ栽培に最適な畑を南仏ラ・モットに見つけ、2021年に購入。農耕機械は使わずに馬で土壌を耕し、エコサート認証を取得した栽培方法で可能な限り土壌を保護。一輪一輪手摘みしたバラは数時間以内に保管された後、加工される。
そうして抽出された最高級品質のローズ ド メ アブソリュートを使って誕生したのが「コレクション ドゥ ラトリエ 2023」だ。実は2021年に畑を購入後、その年も翌年もバラを栽培していたが、納得のいくバラが収穫できず見送り、2023年に収穫したものがようやく商品化に至ったという。そして、アンリ・ジャックが思い描く最高のローズ ド メが毎年収穫できれば、バラの個性を最大限に表現するため、最も純度の高い1作品と、その時々のインスピレーションによって生まれた2作品をセットにした「コレクション」という形で毎年発売されていく。
第1作となる「2023」のインスピレーションソースは、晩年のアンリ・マティス(Henri Matisse)の作品。マティスの晩年といえば鮮やかな切り絵作品が有名だが、アンリ・ジャックの香りは輪郭を曖昧にし、さまざまに解釈ができる複雑な香りを作り出すことを追求しているという点で、色彩の中でデッサンし具象と抽象の両方を表現するマティスの切り絵に共通項を見いだしているのだ。
「コレクション ドゥ ラトリエ 2023」を構成するのは「ローズ トレ ローズ」「ローズ ソレイユ」「ローズ アジュール」の3種。
最も純度の高い「ローズ トレ ローズ」は、2023年のローズ ド メ アブソリュートの個性を最大限に引き出した香りで、ハチミツとグリーンハーブの香りが溶け込みつつ、ラストにわずかにスパイシーを感じさせる。高純度のためか結晶が浮かんで見えるのが特徴だ。
「ローズ ソレイユ」はクローブ、サンダルウッド、パチュリ、イランイランなどをともなう、繊細で温かみのあるスパイシーな香り。「ローズ アジュール」はドライなウッドとシトラスを帯びた意外性のある香り。いずれも30mLサイズのクリスタルボトルに収められ、世界限定500セットのみ販売される。
光を受けて輝く姿が神々しいほどに美しい3つの香水。アンリ・マティスが最晩年に自ら設計しデザインした南仏ヴァンスのロザリオ礼拝堂を訪れたことがあるが、まるで切り絵のように青と黄と緑が配置されたステンドグラスを抜けて、真っ白の床や壁に映り込む光の彩りを見るようだ。来年はどのような佇まいで嗅覚と視覚を刺激してくれるのか…きっとエレガントなサプライズを届けてくれるに違いない。
ビューティ・ジャーナリスト
大学卒業後、航空会社、化粧品会社AD/PR勤務を経て編集者に転身。VOGUE、marie claire、Harper’s BAZAARにてビューティを担当し、2023年独立。早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻修了、経営管理修士(MBA)。専門職学位論文のテーマは「化粧品ビジネスにおけるラグジュアリーブランド戦略の考察—プロダクトにみるラグジュアリー構成因子—」。
■問い合わせ先
アンリ・ジャック 銀座:東京都中央区銀座7-6-19
Tel:03-3289-0068 ※火曜定休
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