フレグランスの魅力とは、単に“匂い”だけじゃない。どんな思いがどのような香料やボトルに託されているのか…そんな奥深さを解き明かすフレグランス連載。
第14回は、英国の老舗フレグランスハウス「ペンハリガン(PENHALIGON’S)」のコレクションを解き明かす。
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ラグジュアリーなメゾンフレグランスとして、日本でもフレグランス好きを中心に男女問わず人気のペンハリガンだが、始まりは1軒のバーバーショップ。1870年、ウィリアム・ペンハリガン(William Penhaligon)がロンドンにオープンした理髪店は古くから貴族御用達の紳士服店などが並ぶエリアにあり、ペンハリガンにも質の高い顧客が多く集まったことが想像できる。
フレグランスを始めたのは1872年のこと。ウィリアムが専属理容師を務めていたトルコ風呂にインスパイアされて作った「Hammam Bouquet」(廃番)が最初のフレグランスである。貴族出身のイタリア映画監督、ルキノ・ヴィスコンティ(Luchino Visconti)も愛用していたというこの香りは大きな反響を呼び、その後は貴族からのオーダーにも対応。ウィリアム逝去後にはロイヤルワラントを2つ授与され、文字通りオーセンティックな王室御用達ブランドとなる。
英国王室御用達ブランドというと正統派のクラシックなイメージがあり、実際10年ほど前まではそのような印象だったように思う。大きく変わったのは2016年、「ポートレート」コレクションの発売からだ。
この年は「イヴ・サンローラン・ボーテ(Yves Saint Laurent Beauté)」の「ル ヴェスティエール デ パルファム」(全5種)や「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」の「レ・パルファン ルイ・ヴィトン」(全7種)が発売されるなど、コレクションによる打ち出しがムーブメントになり始めた時期。そんな中、ポートレートコレクションは、フレグランス1つひとつにキャラクターを持たせ、「英国の上流階級の秘密」というユーモラスかつシニカルなストーリーを構築し、他ブランドとは一線を画すことで、強く目を引いた。
典型的な英国紳士であるジョージ卿とその妻で社交的なブランシュ夫人、ジョージ卿にはクララという愛人がおり、娘のローズは毎晩劇場に通う夫ネルソン侯爵に飽き飽きしていて、そんなネルソン侯爵に恋に落ちているハンターのテディ、そうとは知らずにテディに想いを寄せる薄情者ヘレン……といった複雑な人間模様が、それぞれのキャラクターに合わせた香りと動物をモチーフにした美しいボトルで描かれていく。
香りのクリエイションにはアルベルト・モリヤス(Alberto Morillas)やドミニク・ロピオン(Dominique Ropion)、ジュリエット・カラグーゾグー(Juliette Karaguezoglou)、ファブリス・ペルグラン(Fabrice Pellegrin)など、スター調香師を多数起用しているところも、フレグランス好きにはたまらない魅力だ。
そんなアグレッシブなコレクションを展開するペンハリガンから、新たなコレクション「ポーション&レメディ」が登場。コロナ禍を経てウェルビーイングとニッチフレグランスに対する世界的なニーズに応えて、「ウィリアム・ペンハリガンのラボに残されていたフォーミュラをもとに、香りの作用に着目して創作」というストーリー仕立てのコレクションだ。
全5種のラインナップはすべて異なる調香師の手によるもの。それぞれに付けたユニークな名前と背景に基づいて香りを創作しているのが実にペンハリガンらしい。例えば「オー ジ オーダシティ(EAU THE AUDACITY)」(“大胆な水”の意)はインセンスとオレンジブロッサムアブソリュート、サフランやレザーを使って大胆さを香らせ、「ヴラ ヴラ ヴルーム(VRA VRA VROOM)」(エンジン音の“ブルーンブルーン”)はアプリコット、オスマンサス、マグノリアにレザーを加えてエネルギッシュに。
作り手側の感性を押し付けることなく、使う側が各々の個性に合わせて自由に楽しくセレクトできる……それがペンハリガンの英国的たるコレクションの魅力なのだ。
ビューティ・ジャーナリスト
大学卒業後、航空会社、化粧品会社AD/PR勤務を経て編集者に転身。VOGUE、marie claire、Harper’s BAZAARにてビューティを担当し、2023年独立。早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻修了、経営管理修士(MBA)。専門職学位論文のテーマは「化粧品ビジネスにおけるラグジュアリーブランド戦略の考察—プロダクトにみるラグジュアリー構成因子—」。
■問い合わせ先
ブルーベル・ジャパン:公式サイト
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