フレグランスの魅力とは、単に“匂い”だけじゃない。どんな思いがどのような香料やボトルに託されているのか…そんな奥深さを解き明かすフレグランス連載。
第13回は、「ラブソルー(LabSolue)」を展開する老舗フレグランスハウスの3代目、アンブラ・マルトーネ(Ambra Martone)にインタビュー。
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第二次世界大戦が終戦を迎えた1945年、ヴィンチェンツォ・マルトーネ(Vincenzo Martone)がミラノに調剤薬局「MARVIN」を創業。その後、化粧品事業やフレグランス事業にも着手し、特に医薬品開発技術を生かしたスキンケア商品は注目を集め、1969年には低刺激性保湿クリームで“化粧品業界のオスカー”と呼ばれる賞を受賞している。
その後、息子のロベルト(Roberto)が会社を継承し大きく成長。1975年には社名をICRに改名し、フレグランスと化粧品の開発・製造・販売を行うグローバルカンパニーへ。そして3代目として受け継いだのがロベルトの2人の娘、ジョルジア(Giorgia)とアンブラの姉妹である。
フレグランス事業を大きく飛躍させたのは、息子のロベルト。きっかけは1970年代、イタリアンファッションデザイナーの台頭である。イタリア建築やイタリア車同様にイタリアンファッションが世界から注目され、アップカミングなデザイナーが次々に登場。ところが彼らは皆、自分の世界観を表現するフレグランスを、フランスのOEMに委託生産していた。そこで“made in Italy”にこだわるロベルトはファッションハウス1軒1軒を訪れて営業。そうして「ヴェルサーチェ(VERSACE)」を皮切りに、「トラサルディ(TRUSSARDI)」、「ブルガリ(BVLGARI)」、「フェラガモ(FERRAGAMO)」、「エマニュエル ウンガロ(Emanuel Ungaro)」、「ドルチェ&ガッバーナ(Dolce&Gabbana)」、「ロベルト・カヴァリ(Roberto Cavalli)」など、数多くのラグジュアリーブランドのフレグランス製造を請け負うようになり、今に至っている。
「ビジネスの成功に特別な秘訣はないわ。フレグランスに対する情熱と、いいものを代々残していきたいという強い気持ちを持ち続けることが最も大切だと思う。そして完璧なクリエイションに向けて品質と人材に目を向けることね」
そう語るアンブラがジョルジアとともに2007年に立ち上げた自社ブランドが「ラブソルー(LabSolue)」。マルトーネ家の歴史と伝統への敬意を込めて“Laboratory(代々培われてきた専門性やクラフトマンシップ)”と“Absolute(植物原料のアブソリュート)”を組み合わせた造語である。
驚かされるのは、ラブソルーを手がけている調香師たちの豪華ラインナップだ。ジャック・キャヴァリエ(Jacques Cavallier)、ファブリス・ペルグラン(Fabrice Pellegrin)、モーリス・ルーセル(Maurice Roucel)、ダフネ・ブジェ(Daphné Bugey)、ヤン・ヴァスニエ(Yann Vasnier)、ナタリー・ローソン(Nathalie Lorson)、オリヴィエ・クレスプ(Olivier Cresp)など多数。いずれも名香やヒット作を生み出してきた調香師ばかりだが、思えばラグジュアリーブランドのフレグランスをこれまで一手に引き受けてきたという歴史を持つわけだから、当然のことだ。
「祖父の時代から深いつながりのある調香師たちばかりですね。彼らはアーティストであり、それぞれにシグネチャースタイルを持っている。だからフレグランスを創作するにあたり、まずはその製品のムードやストーリーを考え、それにふさわしい調香師を選定し、その嗅覚をインスパイアすべくあらゆる角度からブリーフィングするようにしています」
ところで、ラブソルーの製品名にはすべて番号が振られている。実はこれは、MARVIN時代の工場の跡地に建てられた五つ星ホテル「マーニャ パルス(Magna Pars)」の部屋番号とリンクさせているためだ。
「事業拡大とともに工場を郊外に移転することなったわけですが、マルトーネ家の原点であり聖なる場所である跡地をどう残すか…そんなことを家族で食事をしながら話していた時に、祖父の功績に光を当てられるようシンプルにフレグランスホテルを作ろう!ということになったんです。家族でくつろげるように全室スイートにし、それぞれフレグランスの原材料をテーマに設計。ラブソルーの製品名に記載されている番号は、その部屋番号なんです。滞在中はアペリティフから食事のメニュー、スパに至るまですべてにおいて香りを楽しめるようデザインしています」
ラブソルーにはもうひとつ、「アクア アドルネティオニス(AQUA ADORNATIONIS)」というラインがある。これはアーカイブから見つかった祖父のフォーミュラを現代の素材を用いてアップデートしたもので、ボトルデザインもラベルも当時のものを再現しているという。
「“アドルネティオニス”というのはフランス語の“トワレ”や“パルファン”に当たるラテン語で、実際に使われていた言葉です。語源をひも解くと“アクア アドルネティオニス”とは“自身を大切にする水(water to adore yourself)”という意味。私たちは製品化の際、ラテン語やギリシャ語を含め言語も大切に考えるようにしています」
2025年はMARVIN創業から80年、ICRに社名変更してから50年という節目の年となる。イタリア的クラフトマンシップがモダンに昇華された新作の登場が、今から楽しみだ。
ビューティ・ジャーナリスト
大学卒業後、航空会社、化粧品会社AD/PR勤務を経て編集者に転身。VOGUE、marie claire、Harper’s BAZAARにてビューティを担当し、2023年独立。早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻修了、経営管理修士(MBA)。専門職学位論文のテーマは「化粧品ビジネスにおけるラグジュアリーブランド戦略の考察—プロダクトにみるラグジュアリー構成因子—」。
■問い合わせ先
LabSolue:公式サイト
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