Image by: FASHIONSNAP/FASHIONSNAP(Ippei Saito)
男女二元論で物事を捉える価値観を問い直すことが少しずつ当たり前になりつつある昨今、ファッション業界においても、“女性的”であることを敢えてコンセプトとして打ち出すのは、それだけで強いステートメントになりうる。そのような中、舟山瑛美が手掛ける「フェティコ(FETICO)」は2020年のブランド設立以来、継続して「The Figure : Feminine(その姿、女性的)」をコンセプトに掲げてきた。決して性的にならずに、女性の色気や柔らかさ、強さを、身体のラインを美しく引き立てるボディコンシャスなシルエットで提案してきたフェティコの服たちは、“Male Gaze(男性のまなざし)”に向けられたものではなく、女性自身が主体的に自分の身体やその服を纏った姿を美しいものとして捉え、愛でる手助けをしてくれるものであり続けている。
けれども、「女性性」や「女性の身体」というものに対する社会や個人の価値観、認識が日々移ろい変化していく中で、スタートから4年目を迎えた今、舟山は“女性的である”ことを通して新たに何を表現するのか。その答えは、「年齢や世間からの“こうあるべき”という価値観に囚われず、いくつになっても自分の“永遠のお気に入り(Eternal Favorites)”を好きでいることを貫こう」というメッセージだった。
今シーズンのショーの舞台となったのは、明治末期の洋風建築を代表する歴史的建造物である、上野の「東京国立博物館 表慶館」。大理石の階段を「カツン、カツン」とヒールの靴で降りていく足音が暗闇に妖しく響きわたる演出で幕を開けたショーは、大きな白襟とフロントのクロスのカットが印象的なゴシックスタイルのドレス姿のファーストルックによって、舟山の「好き」と美的感覚に貫かれたダークで美しい世界観の中に、一気に観客を誘った。
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フェティコの2024年秋冬コレクションの着想源となったのは、1991年公開の映画「アダムス・ファミリー」(監督:バリー・ソネンフェルド)に登場するウェンズデー・アダムスや、アメリカの絵本作家 エドワード・ゴーリーによる繊細な線画の残酷な作品群をはじめとする、退廃的で皮肉的で陰気ながら、その独特の世界観が魅力的な作品たちだ。舟山は子どもの頃に映画を観た際、キラキラした可愛い女の子たちとは全く違う独自のスタイルを貫くウェンズデーの魅力的な姿に、「人と異なることを恐れない強さ」を教えてもらったという。
そんなウェンズデーのスタイルや世界観を今回のコレクションに散りばめたのは、歳を重ねることをネガティブに捉える世間の価値観や、年齢に応じた“こうあるべき”という決めつけなどによって、とりわけ女性が年齢とともに自由な感性を失ってしまいがちである状況に悲しさを感じたことがきっかけだったと、舟山は話す。だからこそ、「ベルベットのドレス」「レースやフリルがあしらわれた子ども服」「ヴィクトリアン・ゴシック様式のインテリア」「モノクロームのアート」「フェティッシュなスタイル」といった、幼い頃から本能的に惹かれてきたという「いくつになっても変わらずに好きなもの」のエッセンスをふんだんに取り入れた、計36ルックを披露した。
Image by: FASHIONSNAP
今季を象徴するキーディテールは、ウェンズデーのスタイルを彷彿とさせる「大きな白襟」で、ファーストルックのベルベットのドレスに加え、パフスリーブシャツやセーラーカラーのウールコート、ボア襟のキルティングコートといったアイテムに落とし込まれて登場。また、ボディラインや肌の美しさを引き立てる、レースのような可憐で繊細な編み地が特徴のニットアイテムは、エドワード・ゴーリーの絵本に描かれるヴィクトリア様式の邸宅の壁紙の柄にヒントを得たといい、ボディスーツやジャンプスーツ、ソックス、グローブなど、多様なレイヤードスタイルでコーディネートを彩った。
Image by: FASHIONSNAP
2024年春夏シーズンに初登場したバッグに続き、今季はイギリスのバッグブランド「ザ・ケンブリッジサッチェルカンパニー(The Cambridge Satchel Co)」とコラボレーションしたサッチェルバッグ「THE MINI」や、パール装飾がポイントのフェティコオリジナルのベルベット巾着バッグが新たに登場。また、同じくイギリスのハットブランド「ミサハラダ(misa harada)」と協業して製作したヴェールやパール、フェザーをあしらった3種類のハットをはじめ、ダークでロマンティックな世界観を完成させるのに重要な役割を果たすアイテムとして、ベルベットリボンのヘアアクセサリーやリバーレースのスカーフ、シルクのナロースカーフ、バラの刺繍が入ったチョーカーといった多様なシルクアクセサリーのほか、レザーのコルセットベルトやヴィクトリア調デザインのレースアップブーツ、ブランド初のジュエリーとなる大きなボールの意匠が特徴のチョーカーとイヤリングもラインナップする。
Image by: FASHIONSNAP
ところで、「女性の身体を美しく見せる」という点に重きを置いてきたブランドだからこそ、筆者がこれまで少し気になっていたことの一つは、フェティコが想定する“女性の身体”とは、結局は画一的な、背が高くスレンダーな身体のことを指すのではないか、という懸念だった。けれども今回のショーでは、まだ1人だけではあるものの、小柄でグラマーな体型の女性モデルが起用されていた。舟山によれば、自身のグラマーな体型を誇りに、魅力的に思って発信などを行っている彼女のチャーミングさや魅力に惹かれ、今回キャスティングすることに決めたのだという。
Image by: FASHIONSNAP
フェティコの服には、それを纏った自分の姿に思わずうっとりしてしまうような、自分自身が美しい存在になったように感じて祝福したくなるような、服としての強い美しさや魅力がある。その一方で、「女性性」や「女性の身体の美しさ」というものが強調されることに対して、やや居心地の悪さのようなものを感じてしまう部分もまた、同時に存在するように思う。特に今回のコレクションは、テーマや世界観が非現実的だからこそ、少し浮世離れした美しさとフェティッシュさに、「自分はこのブランドが想定する“女性”にはもしかしたら含まれていないのかもしれない」と、自身との間に距離を感じてしまいそうになる。
しかし、ショー終演後に舟山が語った言葉を聞いて、それは杞憂だと思い直した。彼女が「フェティコ」というブランドと服に込める想いは必ずしも“女性”の枠に限定されるものではなく、本当はもっと広く開かれ届きうるものなのではないかと感じたのだ。
“好きなものを大切にすることは、自分自身を大切にしていることと同じ。好きなことに素直な自分はより愛しく思える。お気に入りと共に人生を歩むことは、何より幸せなことだから”
体型に限らず、フェティコが“女性”としてまなざす人が、決して限定的で排他的なものにならず、“女性”という枠を超えてこれからより一層開かれたものになっていくことを期待したい、そう思わされるようなコレクションだった。
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