
Image by: FASHIONSNAP(Kazuki Ono)
「フェティコ(FETICO)」から届いたインビテーションには「Queen of Curves」と書いてあった。
ショー会場に着くまで、そのクイーンは建築家のザハ・ハディド(Zaha Hadid)のことだと思っていたけれど、クラシカルなダンスフロアに通されて、やや混乱したまま得意の誤読だと気づく。あまりにもイメージとかけ離れすぎている。
そしてシートには真っ黒のキャンドルが──これは何?
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暗転し、まもなくスピーカーから重低音が流れ、まもなくけたたましいドラムの音が臨場感を高め、まもなく幾何学的に歩き回るモデルが現れる。

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フィットしているのにハギが多くて着心地の良さそうなドレス、コルセットとバージャケットをマッシュアップしたようなトップス、ホワイトカラーに合わせられたデニムのスカートや、レオパードのボディスーツに羽織られた玉虫色のトレンチコート。それから、大胆に覗く脚はニットタイツによる抑制が効かせられている。それから、宗教的な印象のベロアのワンピースにはハーネスが合わせられている。

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ほとんど全てのルックで、極性による個性の輪郭がこれでもかと打ち出され、インディヴィジュアルなスタイルを作るということへの明確な意思とテクニックを感じる。
シェイプひとつとっても、交通標識のように記号としてひとつの意味だけを表すものではなく、ファッションのコードという象徴となって表現そのものに奥行きを作り出していた。
ついでカーヴという言葉の味わいが増していき「直線は哲学者をも迷わせる迷路」と言ったJ.L.ボルヘスの言葉がよぎる──カーヴによって無限に広がる二項対立的な直線が閉じられて円になる。ついで無限は閉じられて、極性によるものも善悪のように割り切る必要がないのだとわかる。二律背反でもない。自己矛盾でもない。正反対のものだったはずの端と端とが繋がり、調和する感覚がする。

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次々と登場するモデルたちの演出なく淡々と歩く姿により、それらは強調されていく。
表面的なラッピングによる印象の強い刺激や、わかりやすいゴールが予感させる解脱感、ハッピーエンドが約束されている物語など、現代で要求されがちな節約的な軽さに対する拒絶すら感じるコレクションだった。受け取り手に知性を要求するように。

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──ショーが終わり、ダンスフロアを出て、ビルの前で配られていたコンセプトシートを確認した。けれど上記のようなことは全く書かれておらず、再び得意の誤読に恥ずかしくなる。「Queen of Curves」はピンナップ・ガールのベティ・ペイジだった。
けれど、表現されたものは受け取り手が観察した時点で生まれ変わるし、ファッションそのものが生き物で、誰によって読み解かれるかで性質が変わるんだ! と開き直る。
先入観を持たせないためにコンセプトシートをショー終わりに配ったんだよね! と開き直る。
持ち出した真っ黒なキャンドルを改めて眺めながら、これはきっと聖なるものと性的なものの象徴を併せ持っているのだ! と開き直りを加速させながら、いそいそと電車に自分をしまいこんだ。
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