トゥモローランド デ・プレ 高本千晶、インターナショナル ギャラリー ビームス 片桐恵利佳
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コロナ時代、2020年代のファッションシーンは激しく変化している。バイイングの在り方が変わる中で、この1年間、バイヤーはどう発注し、どのように自身の仕事を変化させてきたのか。「トゥモローランド デ・プレ」高本千晶さんと「インターナショナル ギャラリー ビームス」片桐恵利佳さんのレディスバイヤーおふたりに語り合っていただいた。(記事:encoremode)
──昨年1年間のコロナ禍において、直接見られなくなった海外ブランドなどの発注はどのようにされましたか?
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高本千晶(以下、高本)「直接見られなくなってしまったブランドに関してはズームを使ったミーティングをしたり、いつもオーダーしているブランドに関しては、生地スワッチなど、具体的な素材サンプルを送ってもらい、そこで検討してフィードバックするという形が多かったです。3Dバーチャルで360度が見られるブランドもあって、完成度は高かったのですが、通常でお取り組みしているブランド以外は、実際にオーダーに到達するというのは難しかったですよね。やはり素材感も分からないし、靴もフィッティングも分からないですから」
片桐恵利佳(以下、片桐)「弊社の場合、ブランド切りが多く、日本でサンプルが見られるブランドも多かったので幸いでした。サンプルを見られるハイエンドのブランドもありましたし、それが半分で、バーチャル半分という感じでしたが、ただ想像でオーダーする機会が非常に多かったと感じています。若手デザイナーに関してはスワッチを送っていただいたり、ズームでの商談が中心でしたが、着て初めて分かる感じの商品や、今までのシーズンのフィードバックとして縫製に心配があったようなブランドは、サンプルからプロダクションが想像できる部分もありましたので、オーダーに至らなかったケースもありました」
──リアルな展示会に行けてたら、オーダーを付けたかもという商品もありましたか?
片桐「物がないと感じ取れないディティールのブランドもありますので、そうだと思います。ただ、弊社の場合、海外駐在の現地スタッフがいるので、いつも出張の際は、彼らとお互いにリサーチを掛け合って買い付けするのですが、今回に関しては、まずバーチャル上で話し合いを持ちながら、現地スタッフが派遣可能なエリアであれば行ってもらうという形をとっていました。もちろん、自分の目を通して見られないという点はありましたが、何も情報がないよりは良かったかなと。ひとつの安心には繋がりましたよね」
──高本さんは、オーダーを付けられない商品が多かったとお感じですか?
高本「私の方でも日本でサンプルが見られるブランドも多かったです。いつもは海外で見ていたブランドでも、日本のショールームがサンプルを引っ張っていましたので。実際には、いつもの7割くらいは不自由なく見られていました。ただ、合同ショールームとか、展示会とかでたまたま見つけるアイテムも結構あって、その場所に行った時の空気感で買うことも多かったので、長いお付き合いのブランドだと信頼関係があるのですが、そこまでデザイナーと深くやり取りしていないブランドになると、オーダーまでなかなか到達しなかったですね。弊社にも、ニューヨークとパリに駐在スタッフはいるのですが、ロックダウンしていたという場所的な問題もあり、出歩いて確認してもらうことは出来なかったんです」
片桐「弊社にもパリに駐在員がいるのですが、外出許可証が必要という規制もあったので、ミラノとかよりはフレキシブルさが違いました。パリでぐるぐる回れたらありがたかったんですけれど」
高本「パリはなかなか難しかったですよね」
──この1年間でご自身の仕事に変化はありましたか?
高本「今考えると、海外出張の時期に集中して物に向き合えた時間が毎シーズンあったことは貴重だったし、ありがたかったと思っています。 この1年、海外に行って情報を得られない分、国内の展示会を出来るだけ見に行くようにしています。ただ、いつもの海外出張だと、結構決まった期間でまとめて物が見られることがメリットだったのですが、国内展示会が2~3ヶ月くらいずっと展示会が続いていて、とにかくタームが長くて、持久走状態みたいだと感じています。 海外に行っていない分、日本でのお店に対するアプローチなど、他の仕事が増えたので、いつもやっているバイイング業務との比重が変わったと感じています」
──集中してやった方が効率が良いということでしょうか?
高本「インプットの時間が集中してあって、そこでシーズンのイメージを組み立てることがルーティン化されていたのですが、インプットに集中出来ることもなく、常にアウトプットと背中合わせの状態なんですね。やはり海外に出張して集中して物事を見れた方が、刺激になって良いなと感じています」
片桐「私も高本さんと一緒で、展示会がずっと続いている状態とか、海外出張だと一発で終わる部分が、ズームの商談だと1回では終わらなかったりするので、この1年間、エンドレスで仕事が続いている感覚がありますね。とにかく、ひとつのことをまとめるのにかなり時間が掛かっていると感じています。海外出張だとその場所の空気感を感じながら、良い意味での行き当たりばったりでオーダーを付けていた物などが、日本に持ち帰った時にプラス要素で働いていたりした部分があったのですが、国内の中でしかオーダーが完結できないという現実は、商品にまつわる色々な要素が、表現する上では少し物足りない感覚を、バイヤーとして感じています。ただ国内の展示会は回っていて、ドメスティックブランドがこんなに数があることに驚きましたし、良い機会にはなっていますよね。そういう意味でのインプットは多かったと感じています」
──今季、春夏の入荷はスムーズに入ってきたのでしょうか?
片桐「セール化しないブランドが多くなっているのと、ブランド内のMD組みが構成されているブランドも多いので、前年と比較するとイレギュラーではあるのですが、入荷タームは遅れています。国内ブランドが先行して、その後にインポートが5月、むしろ7~8月まで続く流れになっていてバラバラです。賛否両論はあると思いますが、今季から方針を大きく変えたいというブランドもありますので、そことの折り合いをつけながら、店舗のVMDを組んでいく感じです。でも、そこが一番表現できるセクションではありますから」
高本「海外のブランドで方針自体を見直しているブランドは多いですもんね」
──5~6月の入荷は、売り時としては適時なのでしょうか?
片桐「キャリーオーバーで展開していくブランドも多数ありますので、いわゆるシーズンレスで着る感覚のものを中心にオーダーしています。インポート物ですと、この時期にウール物が入ってきたりもしますし、そこの不思議さはまったく気候が合っていないので仕方がないかなと。もともとオーダー数も少なく、厳選はしています」
──高本さんはいかがでしょうか?
高本「うちもキャリーオーバーという概念で動いていまして、特に昨年の春夏物に関しては、お店がクローズしていた期間も長かったので、時期をずらして販売したり、引き続き販売するという部分もあります。 今季の物に関しても、夏が長いというのもあって、自らいつもよりも納期を遅く設定していますね。今までの7月からのセールに合わせていた部分から、キャリーオーバーとの連動と、商品をもっと長く大切に売るという考えにシフトしています。納期は遅いですが、こちらの意向とマッチして、ちょうど良い時期になった商品が増えたと考えています」
──今後の流れとしては、セールではなくキャリーオーバーするという形に変わりつつあるのでしょうか?
高本「サステイナブルという観点からも、大量に生産しないという傾向はここ何ヶ月かでぐっと強まったと感じています。もちろん素材の使われ方などもそうなのですが、むしろ洋服に対する向き合い方が変わってきたと感じていますね」
片桐「キャリーオーバーに関しては、洋服の向き合い方を変えるという意味での取り組みのひとつだと思っていますが、販売側としては、在庫がさらに上乗せされていくことに対して正直不安も感じています。ただ、現状、日本の消費活動とは見合っていない部分はありますが、そこにトライしないといけない時期、局面に来ているとも思っています」
高本「経験を積み重ねていくことは必要だと考えます。弊社もバジェットやブランドの整理が必須事項とはいえ、何でもかんでも勢いでは売れない時代になってきていますので、より丁寧に伝える部分が大きくなってきていると感じます」
──仕入れ予算の変化や国内仕入れが増えたなどの変化はありましたか?
片桐「仕入れ予算は減らしている部分もあります。とはいえ、仕入れ予算が減っていながら昨対ベースの売上予算はキープしないといけない状況で、その組み立てにはかなり熟考しました。国内仕入れをすれば、当然掛け率も制限されますから、原価率も気にしながらやるとなると、なかなか厳しいものがあると感じていますし、うちのセクションに関しては店舗も2店舗プラスオンラインくらいで、それほど国内ブランドが必要ではないんです。むしろ、社内の他のレーベルもあるので、そことは差別化しています」
高本「弊社も仕入れ予算は半分くらいに抑えていますね。片桐さんと同様で、昨対が参考にならないと言いながらも、予算としてはそこが目処になってきますので、四苦八苦している部分はあります。予算を抑えている分、その内容の精度を上げないといけないバランスだったり、キャリーオーバーもあるので、お客様に向けて内容もうまく出していかないといけない。売り方がより難しくなったと感じています。 ドメスティックブランドの比重に関しては、何十店舗も仕掛けているということもあり、増えていますね。それと海外のブランドを国内で扱う、輸入卸の比重も大きくなっています。当然、今までのダイレクトでインポートを扱っていた時よりも、売り上げも上げたいけれど、利益も取りたいというところでは、バランスが難しくなってきている状況ですよね」
──次の21-22年秋冬から22年春夏に向けて、仕入れるにあたってのトレンドや傾向はありますか?
高本「よりシーズンレスだったり、定番的なアイテムが望まれる傾向だったり、セールにせずにキャリーオーバーでいくという部分も含めて、その傾向は強いと感じています。アイテムの提案としてもそういうポイントを意識してやっていきたいと思っていますね。最近の売れている傾向を見ると、一時期は外に出る機会も減り、ベーシックに着られる服という視点だったのですが、着るだけで自分の気持ちが上がる、華やかに装う、外に出た時に心地良さとか、自分らしさを追求するアイテムに視点が向いてきているように感じています。そういう部分も意識して、提案するアイテムでも、装う楽しさとシーズンレスで普遍的に着られる物を見つけて、提案していきたいと考えています」
──シーズンレスや普遍的と華やかさとは相反する感じで難しそうですが、いかがでしょうか?
片桐「その微妙なさじ加減で売れている流れは、この21年春夏の傾向で私も感じています。ベーシック過ぎる物が世の中に溢れすぎたということなのかもしれません」
高本「秋冬は、上質なコートやストール、ニットとかが、素材の良さで選ばれた物が多かったと感じています。春夏はより軽い装いになるので、一点で意味をもたらす物が求められているのかなと。そういうシーズンに合わせて、人の気持ちや求められている物を素直に表現していけたらいいですよね」
片桐「私は、ミニマルなセクションという部分もあり、"シーズンごとに少しずつ新しい発見をしてもらいたい"というコンセプトを大切にしています。最近は、コレクションを毎シーズンチェックして、洋服を探している女性のお客様はほとんどいらっしゃらず、情報の取り方がパーソナルになってきているので、ブランドバリューにこだわらず、新しいデザイナーズやアップカミングな要素を含めたブランドに対してアプローチをすると、お客様の反応がダイレクトに来るんですよね。ファッションが多様化している中で、ファッション好きな人にとっては新しい要素が刺激になっていると考えています。自分にとってもそこはリアルな部分ですので、同じ目線で大切にしていきたいですし、ブランドを探していくという部分に集中したいと思っています。 それに私たちがコンタクトを取っているブランドのビジネスが、B to Cが多くなっている傾向がありまして、我々セレクトショップはそういうブランドに対して"どうアプローチして行くか?"を考える局面に来ているのかなと感じています。特にインポートブランドだと、サステイナビリティーを意識してB to Cや、デッドストックの生地を使ってアップサイクルを心掛けているブランドも多いので、これからセレクトショップの意義が、どういうところに向かっていくのかなという部分では注視していますね」
──それも含めて、これからのあるべきバイヤーとは?
高本「物が飽和している時代で、特に海外ブランドによっては、マーケットの大きいところに露出していくスタンスではないブランドも増えてきています。もちろん、海外の方がサステイナブルの観点は早いですし、日常に根付いている人も多い。そこに関しては、日本はすごく遅れている国ですよね。これからは新しい物を探すよりは、今まであるブランドや大きく広がっているブランドの"どこを切り取って提案するか?"というバイヤーのディレクション力が大事になると考えています」
片桐「これだけ多様化しているので、お客様は好きなところに行きたい、だから編集力が重要という部分は、数年前から浮き彫りになっていた問題で、そこを強化していくべきと考えます。個店さんが支持される理由って、オーナーのセレクション力や見せ方だったりで、"そこのお店で買いたい"と思わせる要素が重要なのですが、大きな会社の傘の中で私たちがやったとしても、透けて見えなければお店はただの箱になってしまうのかなと。そういった意味で、日々精進ですね(笑)」
──ディレクション力や編集力は人に付随する力ですが、結局、インプットをしないとアウトプットが描けないという問題がありますよね。今までは海外出張で得られたものがけっこう大きいと考えますが、それを得られない現在、どうやったら高められると考えますか?
高本「現状、日常生活に根を張るしかないですが、いま個人個人の発信力も高まっている時代ですよね。個店のオーナーさんによっては、ファッションという分野だけど、ファッションだけではなく、世の中の政治的なことや環境問題、そういうライフスタイルに根付くすべてのことに対して、今までのファッション情報だけではない部分に目を向けて、興味を持たれている方が多いと感じています。だから、より目を向けていなかった情報に目を向けて吸収しながら、編集、ディレクションしていくことで、"そのライフスタイルの信念がどこにあるのか?"という部分までも表現した中に服がある、というような感じを伝えるのが大事かな」
片桐「私の場合は、もともと音楽の部署も経験してきたこともあり、主流の捉え方がファッションではなく音楽だったりして、それを取り囲む人たちから影響を受けることが多かったんですね。いまもその部分は変わっておらず、正直なところファッション情報だけをメインで見ているということはないんです。例えば、環境問題が露呈している時代は、"大体そういう音楽が流行って、こういう部分に戻るよね"みたいな空気感があるんですね。ファッションも流動的に回っているので、なんとなくの時代感はエンドレスで回っていると思っています。ただ過渡期は過ぎているので、そういう音楽的な部分から感じ取るものと、そこにリンクするものが必然的に繋がるという感覚があるので、いつも答え合わせが出来てしまっているんですね。BLM(ブラック・ライブズ・マター)の活動などもそうですが、そこから出てくるファッション表現も回っていると思っています」
──さて、コロナが無くなって、自由に移動できる時代になったら、最初にどこに何をしに行きたいですか?
高本「最近、北欧のライフスタイルも含めて、それにまつわるファッション、そして物もそうですが、そこは気になっているので、海外に行けるようになったらコペンハーゲンに行きたいです。コペンハーゲンにはまだ行ったことがないんですよね。食やライフスタイルも良さそうなので、そこも味わいつつ、一対一で取り組めそうなブランドもありそうなので、そういうのを探したいです」
片桐「仕事においては、現在、ルーマニアのデザイナーと取り組みを行っているので、ブカレストに行ってみたいですね。そのデザイナーとはパリでは会っているのですが、いつもズームでしか話していないので、生産背景や取り組みの内容を見に行きたいです。 プレイベートではアリゾナのサンタフェです。ジョージア・オキーフ美術館もあって、その周辺のセレクトショップなどを回ってみたいですね。アメリカ過ぎないライフスタイルが根付いているらしいですし、そこに根付くファッション文化があると思うので、一回見てみたいです。ロケーションとともにそういう文化があると思いますので」
──ありがとうございました
高本千晶(たかもと ちあき)
株式会社 TOMORROWLAND / DES PRES BUYER
1998年入社。TOMORROWLAND店・EDITION店 販売スタッフ・店長を経て、2002年より現職、現在はDES PRES担当。以降、フレンチスタイルを学び追求しながら、年間4~6回バイイングシーズンを経て、インスピレーションキャッチと商品開発に奮闘中。
片桐恵利佳(かたぎり えりか)
インターナショナル ギャラリー ビームス ウィメンズディレクター千葉県出身。BEAMS RECORDSやInternational Gallery BEAMSでの経験を経て、2018年からバイヤーに。現在はInternational Gallery BEAMSのウィメンズディレクターとして国内外の新進気鋭ブランドを日本に紹介。
海外出張の往来が無くなった現在は、趣味の散歩に拍車がかかり、休日になると愛用のフィルムカメラを持ち歩きながら、街歩きをする日々を楽しんでいます。
写真/野﨑慧嗣
取材/久保雅裕(encoremodeコントリビューティングエディター)
取材・文/カネコヒデシ
■USENのオウンドメディア「encore(アンコール)」:公式サイト
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