コム デ ギャルソン オム プリュス 2025年秋冬コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
ファッションは"時代を移す鏡"として、社会と無関係ではいられない。近年、戦争というワードは、あらゆるデザイナーの頭の中にあり続けてきたが、今季の川久保玲による「コム デ ギャルソン オム プリュス(COMME des GARÇONS HOMME PLUS)」ほど、直接的に批判した例はない。
「TO HELL WITH WAR」というテーマが添えられた2025年秋冬コレクション。ミリタリーウェアを解体し、戦争を真っ向から批判した。川久保が明確に戦争をテーマに取り上げたのは2015年春夏シーズン以来で、ウクライナ紛争が始まった2014年に発表されたコレクションだった。それから10年が経ち、状況は悪化の一途を辿るばかりだ。近年、川久保は不安定な社会情勢への憂慮を口にすることはあったが、今回は彼女の中に募った思いが具体的なステイトメントとして表出した。
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ナポレオンジャケット、オフィサージャケット、ネットシャツといったミリタリーウエアが中心に参照されており、序盤に登場した過剰に付けられた金色のボタンは"留める"という本来の機能を果たしていない。ナポレオンジャケットのフロントパーツは一部外れて虚しく垂れ下がっていた。
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軍装と端正なテーラードや燕尾ジャケットは、乱暴なカットオフでドッキングされ、時にナイフで切られたようにシャープな切れ込みが入る。ジャケットの胸についた花弁のような装飾の裏地は、血の如く真紅だ。足元を見ると、「キッズラブゲイト(KIDS LOVE GAITE)」が制作したコンバットブーツのつま先が、天に向かって90度折れ曲がっている。ミリタリーは、痛みを伴いながら解体されていく。
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カラフルなフェルト生地は一見、プレイフルにも見えるが、1900年代初頭以前のアーミーウェアは戦地の風景に溶け込むアースカラーではなく、権力の象徴として色彩が取り入れられていたことを思い出させる。タータンチェック柄もまた、スコットランドの軍隊に由来するもの。川久保のクリエイションは、抽象的な方法で"新しさ"を伝えるが、今回のショーは直感的というより暗示的なものとして、あらゆるディテールを取り入れているように見えた。
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モデルが被っているヘルメットは、あるものは花で覆われ、あるものは厚いサテンがターバンのように巻き付けられている。帽子ブランド「ヒヅメ(HIZUME)」を手掛ける日爪ノブキが制作を手掛け、ヘルメットの下からはヒッピーのように編み込まれたウィッグが覗く。まるで「武器ではなく、花を」というスローガンを掲げたアメリカのヒッピー、フラワーチルドレンのようだ。
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1960年代から70年代にかけて、ベトナム戦争を背景に、フラワー・チルドレンは平和と愛の象徴として体を花で飾った。花の刺繍が施されたウエストコート、デジタルカモフラージュのサイケデリックな色彩、コム デ ギャルソン オム プリュスでは珍しいデニム生地の使用も、このムーブメントとのリンクを感じさせる。フラワーチルドレンが宿した反逆心は、海を越えて、イギリスのパンクへと繋がっていったのか、縦横に走るジップ使いは反骨精神を示す。
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服以外にも特筆すべきことがある。今回のサウンドトラックとして選ばれたのは、ニーナ・シモンのアルバム『Wild Is The Wind』から「LILAC WINE」「FOUR WOMEN」「WILD IS THE WIND」の3曲。鳴り響くニーナ・シモンの力強い歌声は、服とともにゲストの心を揺さぶった。
ランウェイのセットはいつも通り、まっすぐと伸びる一本の道を観客が囲む。しかし、モデルの頭がぶつかるほど低い位置に吊るされた巨大な照明ライトが、ただならぬ存在感を静かに放っていた。それを「爆撃のようだ」と唱える声もあったが、ほのかな光をテーマにした前回の2025年春夏シーズンから連綿と続く、希望の光として見出すこともできよう。その強い光りの中を、解体された暴力の服を着た少年たちが闊歩する。最後のルックとして歩いてきたモデルの顔には、かすかな微笑みが浮かんでいるようだった。
服そのものを通して、直接的に語りかける強さ。川久保の場合、服は口よりも物を言う。ショーが終わるとスタンディングオベーションが起きた。戦争を憂う、そのシンプルなステートメントは、ニーナ・シモンの歌う愛の風とともに誰しもの心を吹き抜けたのだ。
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