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創業70周年「クラランス」が描く未来は? 先代の意思を継ぐ2代目と10代の娘たちに聞く

左からエマ、クリスチャン、ジャード

Image by: FASHIONSNAP

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創業70周年「クラランス」が描く未来は? 先代の意思を継ぐ2代目と10代の娘たちに聞く

左からエマ、クリスチャン、ジャード

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 今年創業70周年を迎えたフランス発ビューティブランド「クラランス(CLARINS)」。ケミカル全盛期の時代であっても、常に植物や地球に敬意を払い植物美容学のパイオニアとしての地位を築いてきた。さらにコングロマリット傘下にはならず、同族経営でクラランス家がビジネスを統率する、稀有な存在だ。このほど、2代目でファミーユC パルティシパシオン マネージング・ディレクターのクリスチャン・クルタン・クラランス(Christian Courtin-Clarins)氏が来日。70年の歴史におけるターニングポイントや家族経営への思いを語ってもらうとともに、一緒に来日した娘のエマ(Emma)とジャード(Jade)に、100年を見据えた次世代のクラランスについて聞いた。

◾️クリスチャン・クルタン・クラランス(CHRISTIAN COURTIN-CLARINS):クラランス会長を経て、現ファミーユC パルティシパシオン マネージング・ディレクター。創業者であるジャック・クルタン・クラランスを父に持ち、クラランスの海外でのビジネス展開の礎を築き世界的ブランドへ押し上げた立役者。1男4女の父であり、娘の1人はすでに経営に参画している。今回の来日には、三女のエマと四女のジャード、そして13歳の長男トムとともに来日した。

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⎯⎯クラランスは世界中で誰もが知る化粧品会社のひとつだと思いますが、その偉大な創業者のご子息としての日々は、大変なプレッシャーがあったのではないかと想像します。ご自身で半生を振り返ってみていかがですか? 

クリスチャン・クルタン・クラランス ファミーユC パルティシパシオン マネージング・ディレクター(以下、クリスチャン):プレッシャーと感じたことはなく、むしろ喜びでした。入社したのが1974年でしたが、国際事業を任され、大きく発展させることに貢献できた。現在、海外売上比率は95%となっています。父が開発した製品や父のヴィジョンをベースに、父の考えを世界各国に伝搬させていきました。

⎯⎯海外比率95%というのに驚きますが、そのうち日本の売り上げはどのくらいなのでしょうか?

クリスチャン:日本は約3~4%といったところでしょうか。最も大きなシェアを占めているのが中国とアメリカですね。

⎯⎯創業者であるお父さま、ジャック・クルタン・クラランス氏はどんな人でしたか?

クリスチャン:クラランスは、医学を学んでいた父が、その経験を生かしてスパを設立したことに始まります。医学部に在籍していた頃から植物由来の治癒力にとても興味があったようで、私が幼いころも歴史的な物語をたくさん読み聞かせてくれたことをよく覚えています。 

 それから父はこよなく人を愛する人で、よく「自分が話す前に、まずは相手の話を聞きなさい」と言われて育ちました。聞き上手になれば、ほんの少し話しただけでも相手はお前の言ったことを記憶しているものだよ、と。そうやって聞く力を養っていったおかげで、今、世界130ヶ国でクラランスを進出させることに成功したといっても過言ではありません。

⎯⎯どういうことでしょうか?

クリスチャン:どうやって130ヶ国に進出できたのか? とよく聞かれるのですが、その答えは単純で、「本を読むこと」なんです。歴史について、宗教について、戦争について、必ずその国を訪れる際には、ありとあらゆることを調べ、理解を深めて、いかに自分がその国をリスペクトしているかを伝えます。それがここまで来れた秘訣と言えるかもしれませんね。

⎯⎯なるほど。相手からのリスペクトを感じられると好印象になるので商談もスムーズに運びそうですね。そのほかにもお父さまとのエピソードはありますか?

クリスチャン:そうですね。実は父は大の旅行嫌いだったんです。これだけ世界展開しているのに、ほとんどの国に行ってない…。そんな父が訪れた国はたった2ヶ国で、それが、アメリカと日本なんですよ。

⎯⎯そうなんですね!とっても嬉しいです。でもなぜ、日本に来てくださったのですか?

クリスチャン:私が初めて来日した際に、日本の神道について知り感銘を受けたことがきっかけです。自然に対しての愛や尊重する気持ちであったり、たとえ周りの人々と意見が違っても調和のもとに共存していく術であったり。神道の教えというのは、まさにクラランスの理念そのものなのです。その影響もあって、旅嫌いの父の心を動かしたのだと思います。

⎯⎯それはいつ頃ですか?

クリスチャン:父と一緒に来日したのは、日本の子会社が設立された1985年です。最初の店舗のオープンがその翌年の4月でしたので、日本では桜が満開でとても美しい季節でした。お酒の樽で鏡開きしたのですが、それもいい思い出です。

⎯⎯クラランスは70年間、常に世界の化粧品業界をリードしてきたブランドのひとつだと思いますが、今振り返ってみて「ここがターニングポイントだった」と思うような出来事はありますか?

クリスチャン:ひとつ挙げるとするなら、1980年代にフランスの市場でクラランスがプレミアムスキンケアブランドとして売上No. 1になったことでしょうか。これまでの実績の裏付けであり、まさしく世界的に認められたことを意味していると自負しています。

 ただ、何かひとつ劇的なターニングポイントがあったかというと、そういうわけではないように思います。なぜならクラランスは、日々たゆみなく進化をし続けるブランドだからです。科学的に合成させた製品が求められていた1960年代に、植物バイオテックによる化粧品を世に出し大成功を納めました。今なお国際的なビジネス展開が堅調なのも、初期からずっとオリジナリティを持って業界をリードし続けているからではないかと思っています。

⎯⎯長い歴史の中でヒットコスメもたくさん誕生していますが、クラランスを飛躍させるきっかけとなった製品は何でしょうか?

クリスチャン:1つは、「ボディ オイル“トニック”」です。100%植物由来でストレッチマークを予防したり、肌のファーミング効果が大変高いと好評で、1965年に父が作った製品にも関わらず、いまだに全世界で好調に売り上げを伸ばしている、ブランドの象徴的存在です。

「ボディ オイル“トニック”」

⎯⎯クラランスは自然や植物を大切にしてきたブランドという印象がありますが、これまでの取り組みについて改めて教えてください。

クリスチャン:原材料のクオリティに徹底してこだわり抜くこともクラランスの強みのひとつ。そのために、空気がきれいなアルプスの山中と南仏に自社農園を持ち、そこで栽培し収穫した植物を原材料として使用しています。栽培している植物は100%オーガニック。殺虫剤などの化学薬品はもちろん、エンジンを搭載した機械も一切使わず、馬で畑を耕す昔ながらの方法で栽培を行っています。

⎯⎯馬で⁉︎ ビジネス展開の規模を考えると、そのこだわりを貫くのはかなり大変なのでは?

クリスチャン:馬が牧草を食べ、排泄されたものが大地を肥やします。するとミツバチが増えて受粉ができるようになっていき、できた実や種子を鳥や動物が食べ、その排泄物でまた土地が肥沃になる。こうした全ての工程に不要な要素はなく、相互に助け合い循環していくもの。自然というのは本当によくできているんです。

⎯⎯今でこそ環境に配慮した取り組みは当たり前のものとなりましたが、クラランスは環境汚染が大きく問題視される以前から植樹など盛んに取り組んでいました。

クリスチャン:そうですね。1985年に、アメリカの有識人が「バイオダイバーシティ」という言葉を作りました。それは生物多様性と訳されますが、その概念は「全ての生物が相互に助け合い、影響を与え合いながら生きている」というもの。そんな中、森林の伐採が進み、失われていく森林を再生するために木を植えようと植樹を盛んに行っていたのですが、この頃の植樹はエコロジー的には大きな過ちだったと思います。

⎯⎯大きな過ちとは?

クリスチャン:ひとつの種類の木をたくさん植樹してしまったのが過ちだったのです。自然界では多様な植物の共存が必要。だから単種栽培はしてはいけないことだったんですね。

⎯⎯それでいうと、今は植物においても多様性を重視した取り組みが行われていますね。大事な言葉が生まれた1985年はクラランスにとって、日本でのビジネスが本格化した年でもあります。

クリスチャン:そうです。1985年はクラランスにとって大切な年になりました。日本支社の開設や後に日本初のブティックをオープンし、本格的に日本のビジネスを始めた年でもあります。

 さらにはクラランスを飛躍させた製品の2つ目である、「ダブル セーラム」を発表した年。そして私の初めての娘が誕生した年でもあるからです。その時、父となった私は考えたのです。「将来、娘は美しい海で泳ぎ続けることができるのだろうか」と。バイオダイバーシティの論文を初めて読んだのはこの頃。これこそまさにクラランスの進むべき道であると確信しましたし、生物多様性を尊重するだけでなく、本来あったその多様性を取り戻すための活動をしようと心に誓いました。

⎯⎯クラランスは創業からファミリービジネスを貫いています。今回の来日には、3番目と4番目のお嬢さま2人も一緒です。彼女たちもゆくゆくはビジネスを引き継いでいくことになるのですね。

クリスチャン:現在、上の娘はすでにクラランス社に入社し活躍しています。今回来日した2人、エマとジャードはまだ学生で、これから国際的なビジネススクールに進む予定ですが、クラランスを担う人材として世界をみるという意味でも今回の来日は意味があるものになったと思います。余談ですが、彼女たちは日本に来ることを夢見ていたんです。だから日本に来てから1日で1万6000歩も歩いたんですよ。渋谷、表参道、銀座のほか、チームラボにも行きました。五感に訴えるコンセプトは、クラランスとも通じるところがあると感じたようです。

⎯⎯彼女たちに伝えていること、また彼女たちから学んでいることがあれば教えてください。

クリスチャン:速いスピードで変化する現代社会の中で、パッションや新たな情報が欲しいと思った時には2人に意見を求めています。そういった時には、若い世代らしいモダンで先鋭的なヴィジョンをもたらしてくれ、すでにクラランスにとってなくてはならない存在になっているといえますね。日本の神道に通じるクラランスの理念は、彼女たちにもしっかり受け継がれていると思っているので心配はしていません。その基礎を大切にしつつ、さらに彼女たちの能力やアイデアを今後のクラランスのために生かしていってもらえたらと思っています。

 彼女たちにいつも言っているのは、好きなことがやれる、とても恵まれている環境にいるということです。ただし、自分たちがやりたいことは、極めなさい、とも伝えています。

三女のエマ

四女のジャード

⎯⎯エマ(Emma、19歳)は、InstagramとTikTok合わせて約5万の、ジャード(Jade、17歳)は合わせて約28万のフォロワーがいてライフスタイルを発信しているのですね。今後、ビジネススクールを経て70年続くクラランスに入社することになると思いますが、クラランスで何をしたいと思っていますか?

エマ:難しい質問ですが、第一世代の創設当初からクラランスを愛してくれているお客さまがいて、今第二世代で新たなファン層を獲得しています。私たち第三世代のジェネレーションは、SNSなどを通じてコミュニティを形成する傾向があります。そのためこれまでとは違った最先端の情報やナレッジを共有し、相互に共存でき、誰もが満足できるコミュニティを作っていければ。

ジャード:今の時代、SNSが発達し携帯1つでありとあらゆる情報をいい意味でも悪い意味でも得ることができます。そんな中で、第一世代のファン、第二世代のファンの人たちの、SNSとは違ったオーセンティックな自然体のお客さまとのつながり、考え方を大切にしながら、同時にいい意味での私たちの最先端の情報や知識を、提供できたらと思っています。そうすることで、父が語っていたキーワード、「バイオダイバーシティ」や「イノベーション」などに向き合い、さらには時代に適したインクルーシブな社会貢献ができるのではないでしょうか。

⎯⎯最後に、今後の経営戦略について教えてください。

クリスチャン:昨年は全世界で最も大きなマーケットである中国に注力してきましたが、今年は経済が大幅に停滞しているので大きな成果は上げられていません。ただ幸いなことに、さほど大きな影響は受けておらず、これはクラランスのクオリティーの高さによるものだと考えています。2番目のマーケットはアメリカで、その2ヶ国にクラランスは多くの投資を行っており、その利益で他国に投資しています。今後はさらに日本への投資を増やしていくつもりです。私たちは日本が大好きですし、日本には未来がありますからね。

⎯⎯日本でどんな施策を考えていらっしゃいますか?

クリスチャン:それは内緒です。戦略的なことなので。おそらく、日本のファンのみなさんにとってグッドサプライズなマーケティングだと思いますので、ぜひ楽しみにしていてください。

今回、13歳の長男・トム(右)も一緒に来日した

◾️クラランス:公式サイト

(文:サカイナオミ、聞き手:福崎明子、平原麻菜実)

美容ライター

サカイナオミ

美容室勤務、美容ジャーナリスト齋藤薫氏のアシスタントを経て、美容ライターとして独立。25ansなどファッション誌のビューティ記事のライティングのほか、ヘルスケア関連の書籍や化粧品ブランドの広告コピーなども手掛ける。インスタグラムにて、毎日ひとつずつ推しコスメを紹介する「#一日一コスメ」を発信中。

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