「セリーヌ(CELINE)」はウィメンズの2021年サマーコレクションを映像で発表した。若い世代をドキュメンタリーのように捉えたコレクションは、7月に発表したメンズコレクションと同様に、前シーズンまでの"ザ・フレンチ"なスタイルから一変している。(文:ファッションジャーナリスト 増田海治郎)
エディ・スリマン(Hedi Slimane)というデザイナーは、自らのスタイルを頑なに変えないタイプのデザイナーだと長らく思っていた。過去のディオール・オム時代、サンローラン時代を通して。だから、セリーヌの2019年秋冬でシックなフレンチスタイルに舵を切った時は、いたく驚いた。
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7月29日に発表された2021年スプリングのメンズコレクションの映像は、それを遥かに超える驚きがあった。ティックトック(TikTok)で踊るユース世代にインスパイアされたコレクションは、それまでのフレンチの要素はゼロ。幅広い年代のアメカジを無作為にコーディネートしたような、まるでローズボール(全米最大級のフリーマーケット)が意思を持って歩き出したかのようなコレクションで、従来の「ロック&スキニー&フレンチ」の方程式からかけ離れたものだった。「俺は今後も新しいユースカルチャーをフックアップし続ける」と宣言したかのような、これまでのキャリアでもっとも大きな変節だった。
10月26日に発表されたウィメンズの2021年サマーコレクションも、その流れを汲んでいる。軸になっているのは、やはりユースカルチャー。プレス担当者からのメールには「ヤングジェネレーションをドキュメンタリーのように捉え、今までのセリーヌウーマンに新しいエッセンスを加え、スポーティなシルエットをノンシャランに着こなす女性像を表現。若い世代に"希望"を持ってほしいというエディの思いが込められている」という説明書きが添えられていた。
08 WOMENS 2021 SUMMER Image by CELINE
映像の舞台はモナコの競技場、スタッド・ルイ・ドゥ。ランウェイは、レッドカーペットならぬ赤い陸上トラックだ。競技場の照明が不規則に点灯する様は、光の使い方に長けたエディならではの演出で、フィジカルショーとの連動性を感じずに入られない。
全体的なスタイルは、分かりやすく言うと「フレンチ+アメカジ」。メンズと違うのは、金ボタンのツイードジャケットやグレンチェックの端整なテーラードジャケットなど、フレンチのフレーバーがちゃんと残っていること。でも、着こなしは前シーズンと正反対で、ベースボールキャップ、スポーティーなビキニトップ、カットオフしたスウェットシャツ、デニムなどでアメカジ風に着崩している。
08 WOMENS 2021 SUMMER Image by CELINE
股上の深いルーズフィットのクロップドデニムは「セリーヌ フォールド」という新型。足元はフラットシューズ、ゴツめのブーツ、ラバーのレインブーツ、スニーカーが中心で、ヒールの色気のある靴は皆無だ。バブル期を連想させるボディコンさえも、スニーカーとキャップで健康的に着こなす。今のユース世代のリラックス感、リミックス感を上手に表現しているとは思うが、60年代後半のパリ左岸の夜の社交を表現した最強にエレガントな2020年秋冬との落差は、どうポジティブに解釈しても凄まじいものがある。
音楽は、ニューヨーク・ハーレム出身のラッパーPRINCESS NOKIA(プリンセス ノキア)の「I LIKE HIM」のエクステンド・バージョン。「エディ=ロック」のイメージは、音楽の面でも大きく変化しているのだ。
映像の最後は、スタジアムの宇宙船のような形状の照明がドームを閉じるように動きはじめ、やがて宇宙にワープするという演出で幕を閉じる。この劇的なエディの変化を、フックアップされた若い世代はどう思っているのだろうか? 往年のエディ信者たちはどう思っているのだろうか? 気になって仕方がない。
セリーヌ08ウィメンズ2021サマーコレクション
文・増田海治郎
雑誌編集者、繊維業界紙の記者を経て、フリーランスのファッションジャーナリスト/クリエイティブディレクターとして独立。自他ともに認める"デフィレ中毒"で、年間のファッションショーの取材本数は約250本。初の書籍「渋カジが、わたしを作った。」(講談社)が好評発売中。
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