ハリー・フェイン
Image by: FASHIONSNAP
1日に5分は遅れてしまう時計をこよなく愛する男がいる。「カルティエ(Cartier)」のヴィンテージ収集家、ハリー・フェイン(Harry Fane)だ。自身が所有するカルティエのアイコンウォッチ「タンク(TANK)」のヴィンテージコレクションの一部が、「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」南青山店で展示販売されることになり来日。尽きることのないカルティエへの想いを語った。
収集のきっかけは"100年前に完成されたデザイン"
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ーカルティエを収集するきっかけはなんだったのでしょうか?
19歳の時に、親友がカルティエの時計をくれたんです。そこで初めて魅了されましたね。その後ビジネスを始めて、様々な場所に足を運び、腕時計だけではなくジュエリーも収集するようになりました。
カルティエの黄金期は1920年代で、 世界的に有名になった時代でもあります。ここに並んでいる「タンク」の中にもその時代に作られたものが多くありますが、当時のデザインが現代でもブランドのコアになっている。完成されたデザインを100年近く前に作り上げたとは、素晴らしいですよね。
ー日本のコム デ ギャルソンでの展示はどのようにして実現したのですか?
2年前にロンドンで展示会を開催したときに、ドーバー ストリート マーケット ロンドン(Dover Street Market London)のディコン・ボーデン(Dickon Bowden)さんと仲良くなったのがきっかけです。彼から今回の話がありました。東京で上手くいくかどうかわからない中で、勇気ある提案ですよね。とても素晴らしいインスタレーションになり反応も良かったので、実現できてよかったと思っています。
「タンク」コレクションの種類はさまざま
ーコレクションの一部である「タンク」についてお聞かせください。
タンクはカルティエが戦車(=タンク)をモチーフにして製作したものでした。小さいサイズの「タンク ペティート(Tank petite)」やケースが曲線を描いた「タンク カーブ(Tank Curved)」などタイプは様々ですが、全て1つのデザインが基礎になっています。
この「タンク オビュ(Tank Obus)」のオビュは砲弾という意味で、ラグ(本体とストラップを固定する部分)が砲弾のように見えるんですよ。第一次世界大戦がモチーフになっています。その他にも「タンク シノワーズ(Tank Chinoise)」は1926年に作られたとても希少なもので、モチーフは中国。他のケースに比べて横のラインが強調されています。
なかなか出会えない時計の集め方
ーどうやってヴィンテージ時計を集めているのですか?
見つけるのはとても困難なのですが、私が仕事熱心なんです(笑)。様々な場所にいるカルティエが好きな人の元を訪れたり、私がコレクターだと知っている方から「見せたいものがあります」といった連絡を頂いたり。貴重な一本に出会うこともありますね。
ー購入する基準は?
ヴィンテージの「タンク」はもともと数が少ないので、できるだけ出会った時に買うようにしています。5本買える年もあれば、たった1本しか買えない年もあるのですが。
ヴィンテージを追い求める理由
ーフェインさん自身は普段、どういった時計をつけているのでしょうか。
「タンク ノーマル(Tank Normale)」です。これは1924年にカルティエが作った最初のタンクで、本当にこの時計が好きなんですよ。なので売るつもりはありません。同じモデルでも別々の職人が作っているので、微妙に仕上がりが違っているんです。これまで色々な時計をしてきましたが、結局この時計に戻りました。これが本当の愛というやつでしょうか(笑)。
ー収集するだけではなく、愛しているんですね。
限られた人しか手にすることができませんし、とても繊細なんです。これは1日に5分ほど遅れてしまうので、リューズを回して時間を合わせることから1日が始まります。デジタルウォッチだと、2年ぐらい引き出しに入れていても時間が狂うことはないですよね。それも便利なんですが、違うんです。手入れを繰り返しながら、ヴィンテージ時計と関係性を築いていくことが楽しいんですよ。
ーそこまで夢中になれる理由はどこにあるのでしょうか?
カルティエの長い歴史は大変興味深く、情熱を注ぐ理由でもあります。特に「タンク」は歴史がありながらもタイムレスなデザインで、今も決して古く感じることはありませんから。これをデザインした人は、まさか100年後に東京の最先端の店舗で自分が作った時計について話されているなんて、夢にも思わなかったでしょうね。
(聞き手:今井 祐衣、平田 陽彦)
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