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ビューティ業界で注目を集めるトップランナーとして走り続けるメイクアップアーティストたちの、幼少期から現在までをひも解く連載「美を伝える人」。今回は「企業編」として業界をリードする企業において、化粧品の力で美を伝える人をピックアップ。企業編第1回は、チーフ D&I オフィサーとして資生堂の女性活躍をけん引、自らが体現する鈴木ゆかり常務にフォーカス。新ブランドの育成や海外でのスパ事業、グローバルブランド「クレ・ド・ポー ボーテ」の躍進など、長年に渡り高い実績を残してきたスーパーウーマンの素顔と、これからの新たな挑戦について聞いた。
■鈴木ゆかり(すずき ゆかり)
資生堂 代表取締役 エグゼクティブオフィサー、常務、チーフマーケティングオフィサー、チーフD&Iオフィサー。大学卒業後、1985年に資生堂入社。マーケティングやブランド育成、新ブランドの立ち上げ、海外における新規事業を成功に導くなど手腕を買われ、2017年に資生堂グローバルプレステージブランド事業本部 クレ・ド・ポー ボーテブランドユニット ブランドディレクターに就任。2018年には執行役員、2020年に取締役 常務、チーフブランドオフィサー クレ・ド・ポー ボーテ、イプサ、ザ・ギンザ、BAUMを歴任。2021年1月1日に代表取締役 エグゼクティブオフィサー、2022年1月からチーフマーケティングオフィサー、チーフ D&I オフィサーを兼務。
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幼少期からリーダーシップを発揮
—経歴を見る限り、なんでもこなせるスーパーウーマンという印象を受けますが、幼少期の鈴木さんはどんなお子さんだったのでしょうか?
それが……まったく思い出せなくて(笑)
—と言いますと?
自分がどんな子どもだったか、記憶にないんです。周りから客観的にどう思われていたのかも自分ではよくわからなかったので、このインタビューの前に両親に同じ質問をしてきました(笑)。
—わざわざありがとうございます(笑)
母が言うには、面倒見の良い子だったそうです。弟が3つ下と8つ下にいるのですが、3つ下の弟が生まれた時に、突如お姉ちゃんスイッチが入ったようで、オムツ替えを手伝ったり、率先して一緒に遊んだり、私がお友達の家へ遊びにいく時も連れて行ったりと、とにかく良く面倒を見ていたと。母は「あなたのおかげで手が空いて楽させてもらったわ」と言っていましたね(笑)。
2人の弟さんと「とにかく面倒見が良かった」
—やはり、幼少期からリーダー気質だったのですね。
そんな立派なものじゃないと思うのですが、隣に住んでいた歳上のお兄ちゃんたちとよく遊んでおり、一番年下の私がなぜかリーダーシップを発揮していたと聞いています(笑)。でも、学級委員をやったりもしていたのでリーダーシップを取ることは嫌いじゃなかったのかもしれません。あとは、とっても頑固だったとも言われました。好きなことには熱心に集中するが、嫌なことは一切受け付けないという。本質は同じで変わっていないなと思いましたね。幸い、勉強は好きだったので学校の成績は良かったと思います。イヤイヤ勉強をさせられた記憶はないですね。
バレーボール部で夢中だったこととは?
ーその時からスーパーウーマンだったのですね。では学生時代夢中になったことは何だったのでしょうか?
高校時代は部活に夢中だったことしか記憶がないんですよね。バレーボール部だったのですが、夏休みも毎日学校へ行って練習に明け暮れていました。今思い返してみると、バレーボールがすごく好きだったというより、チームの仲間と一致団結して同じ目標に向かって打ち込んでいくということが楽しかったように思います。大学時代もテニスサークルに入っていたのですが、とにかく仲間と交流を深めるのが楽しかったですね。
—ここまでの流れでは美容とはあまり接点がないように思いますが、資生堂に入ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
大学時代に専攻していた社会心理学のゼミがきっかけでした。その恩師が「化粧のもつ心理的な効用」というテーマで、資生堂と共同研究を長年行っていたんです。1985年にビューティーサイエンス研究所が設立されたのをきっかけに、資生堂に入社しました。本当に偶然の出会いです。
—思い出のエピソードも、ゼミの内容も、人にまつわることが多いので、鈴木さんはもともと、“人”への興味関心が高いのですね。ビューティーサイエンス研究所では、具体的にどんなことをされていたのですか?
ビューティーサイエンス研究所では、「ビューティの心理学的効用」という大きなテーマで、運動生理学、栄養など、美容にまつわる周辺領域の研究を行っていました。たとえば、好きな服を着て気分が明るくなることがあると思いますが、化粧も同じでメイクをすると心が上向きになることがありますよね。みんな実体験として知ってはいたものの、当時はまだ科学的に検証されていなかった。そういった研究をするのが、とても新鮮でしたね。
入社して知った、「美」のもつ本質的な力
—思い出深かったエピソードはありますか?
「精神疾患を患っている方にメイクアップを施すとどんな効果が生まれるか」という研究に携わっていた時ですね。その時参加してくださったのが13歳から7年間入院していた、当時20歳ぐらいの方。長い入院生活の中で一度も笑顔を見せたことがなかったそうなのですが、メイクアップが仕上がっていくにつれ表情が柔らかになり、最終的には仕上がったお顔を鏡で見て、にっこりと微笑んでくださったんです。その時の鳥肌ものの体験と感動が、私の原体験となっています。「美」のもつ本質的な力を知ったことが、長らくこの業界で夢を追いかけ続けられた理由なんじゃないかと思います。
—鈴木さんの現在までのご活躍は、その時の貴重な体験が原点となっていたのですね。
はい。「美容は心の健康に寄与する産業である」なんてもっともらしい理由で入社しましたが、実際に、このような体験ができるとは思ってもみませんでした。美容はただ肌や髪を整えるためのもの、と考えてしまうのはもったいない。気持ちが引き締まったり、楽しい気分になったり、自信にもつながります。また、1日の始まりと終わりに自分と向き合える貴重な時間でもあります。今はマスクをつけることが当たり前になって、メイクなんかいいや、肌が荒れても隠せばいいと思ってしまいがち。そんな時代だからこそ、「美」の持つ力をもっと発信していかないと、と常に思っています。美容を楽しむことで、心の豊かさや健やかさも変わってくるはずですから。
(文:ライターSAKAI NAOMI、聞き手・企画編集:福崎明子)
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