色博士になりたかった幼少期を経て、バイトと遊びに明け暮れた高校時代、アメリカンフットボールの選手として活躍した大学生活を経て博報堂に入社。約20年勤めた博報堂でクライアントとの思いを叶えていく中で、ブランディングを学び、ブランドとは何か、企業の根幹を学ぶ。一番印象深かったプロジェクトは丸ビルのローンチという。博報堂を辞め、妻である渡邉季穂氏の父親が経営するエクセル(現ウカ)に入社した。ウカへのリブランディングから、現在、そして地球の未来まで見据える想いについて。連載「美を伝える人-企業編-」uka 渡邉弘幸氏(後編)
ADVERTISING
ウカの成長曲線
ー博報堂の取締役から叱咤激励されながらウカへと入社。これまでの培ってきたブランディングの手腕を発揮されて、美容室をトータルビューティサロン「ウカ(uka)」へと発展させていったのはさすがです。この成長曲線はリブランディング当初から思い描いていたものだったのでしょうか?
すべて思い描いていた通り、というわけではありませんが、美容室の社長になる気は毛頭ありませんでした。義父たちが始めた仕事をどこまでレバレッジできるかをやりに来たんだと自分に言い聞かせていましたね。
ー何がそこまで突き進ませたのでしょうか?
義父は床屋をユニセックスなサロンにするために、美容室「エクセル(EXCeL)」を立ち上げました。「床屋はバリカン刈りやパンチパーマしかできない」と言われながらもチャレンジし続けていましたし、妻もネイリストの資格を取って違う価値をヘアサロンに持ってきて、新しいお客さまを獲得しようとアクションを起こしていました。そうした思いを汲みつつ、ヘアサロンでどこまでやれるかチャレンジしていった結果が今のウカです。
ペラフィネやNIGO®️…人からつながるコラボ
ーウカが今のように大きく発展していく転機となった出来事はありますか?
大きな転機なんてないですね。一つひとつの積み重ねです。ウカなんて誰も知らないから、妻の知り合いのライターさんを頼ってバイヤーさんを紹介してもらって営業かけたりとか…、もう1回新入社員営業みたいなことをしていました。妻の作ったネイルオイルを持って、バイヤーさんの手を借りてマッサージさせてもらったり。こんなごっつい手でやるから「痛い!」って怒られたりもして(笑)。
ーなんだかほっこりするエピソードですね(笑)。でもリブランディング後、わりと早い段階で有名ブランドとコラボしたネイルオイルが話題になっていた印象があります。
確かに、「ルシアン ペラフィネ(lucien pellat-finet)」やNIGO®️といったクリエイターや、伊勢丹、「コレット(colette)」などショップとコラボしたネイルオイルを作って、ウカの認知度が少しずつ上がっていったというのはありますね。
ーすごい人たちですね。どういう経緯でコラボに至ったのでしょうか?
実はペラフィネもNIGO®️も妻のお客さんで、伊勢丹とのコラボは(美容家・オーガニックスペシャリストの)吉川千明さんの紹介から、コレットはNIGO®️とヒデ(中田英寿)が2人で声をかけてくれてくれて実現しました。ウカがここまで成長できたのは手を差し伸べてくれた人たちのおかげ。“人との繋がりを大切に、期待してくれる人たちに応える、というのがウカのDNAなんだよ”とスタッフにはいつも伝えています。
2023年に発売した製品
今年3月に発売した、人道支援を目的にウクライナ国旗カラーを施したネイルポリッシュ
Image by: FASHIONSNAP
ーネイルオイルから始まり、ヘアケアやスカルプブラシなど、今や製品ラインナップはかなり豊富になりましたが、1月にブランド初のヘアカラー剤を発売されるとか。
7~8年前、サロンサービスをもっとよくしようとサロンマネージャーとミーティングをしていた時に、「最近カラー剤のアレルギーが多い」という話になったんです。まずはサロンでできることを考えました。頭皮のコンディションを良くするためのブラシ「uka scalp brush kenzan」を開発したり、スパを見直して髪や頭皮に残留したケミカル成分を除去できるようにしたり、カラー剤の塗布の仕方を見直したり、弱酸性でしっかりきれいに頭皮を保つことを約束する「ヘアケア フォー ピース」という施策を試みたりと、いろいろトライしてみました。
@cosmeベストコスメアワード2022で「uka scalp brush kenzan」が総合5位に
総合大賞はケイト「リップモンスター」 @cosmeベストコスメアワード2022
ー結果は解決には至らなかった?
そうですね…。ジアミンアレルギーの解決はできませんでした。悩んでいたある日、ヘアスタイリストのshucoさんから、「子どものころからアレルギー持ちで、おしゃれな髪色をしたくてもできなかったのに、ヘナならカラーしながらトリートメントも育毛もデトックスもできる」と聞いて、「これだ!」と。
石垣のヘナとの出合い
ーウカのヘナカラーのこだわりを教えてください。
ヘナカラーを作ろうと思い立って調べてみると、ヘナの産地はほとんどがインド産だと知りました。本当はインドへ行って色々見てきたかったんですけどコロナで行けないので、今の段階では栽培から製造工程まで安心してお願いできるところがなく、国産のヘナを探すことにしました。
ーそれで行き着いたのが沖縄・石垣島だったんですね。
はい、石垣の農園で有機栽培されたヘナに辿り着きました。これを主原料に作ったのがヘナカラー「uka クイーンオブイシガキ」です。
ーヘナは頭皮にやさしい反面、ケミカルなカラー剤と違ってサンプルの毛束の色通りに染まらなかったり、色のバリエーションが少なかったりと、なかなか難しい部分もありますよね。
そこで加えたのが、石垣産のインディゴです。ヘナ100%だと赤っぽいオレンジ色に染まりますが、インディゴを混ぜることで、色のバリエーションが広がります。それから、頭皮に触れる部分だけヘナ染めをして、毛先はケミカルなカラー剤を使ったインナーカラーで好きな色に染める、というようなハイブリッドも可能です。肌や髪を守りながらおしゃれも楽しめる、そんなヘアデザイン面での提案も発信していけたらと思っています。
「ネオ・ヘナ」3つの特典」
①頭皮ケアとヘアカラーを同時に。 かつ、アレルギーになりにくい。
100% 天然由来の染毛剤となる植物「ヘナ」。頭皮にたっぷり塗布して1時間放置しても大丈夫。塗れば塗るほど頭皮環境が整う。ふっくらと潤いが保たれたヘルシーな頭皮へ。
②地球に優しく、ツヤが増す。
100%自然由来で水に流しても環境を汚染しない。染めるほどにツヤめき、植物染料「ローソニア」で髪をコーティングすることでハリやコシのある髪へ導く。
③天然インディゴを混ぜて、ダークヘアに。
インド大陸発祥の伝統医学「アーユルヴェーダ」5000 年以上も前から愛されてきた植物のひとつが、ヘナ。オレンジにしか染まらないと思われているヘナと天然の藍色染料植物「インディゴ」をミックスすることで、ダークなトーンの髪色を作り出すことが可能に。
石垣産ヘナ・インディゴ:石垣の農園で農薬・化学肥料を一切使用せず循環型の農業で育てているヘナとインディゴを使用。照り付ける太陽のもと、石垣の肥沃な土壌に含まれるローソニア、タンニンが豊富。収穫した後のヘナとインディゴの枝を燃やして炭にして追肥することで、土壌がアルカリ性に傾き、色素成分を濃く含有するヘナを収穫することができまる。さらに石垣ヘナは一般的に流通しているヘナに比べて香りがマイルドなことも特徴。
ー石垣産のヘナを使用することで、ほかの相乗効果もありますか?
ジアミンアレルギーからお客さまの頭皮を守るのはもちろんですが、扱う美容師の手肌にも優しく安心できるものができたと思います。さらに、黒髪文化の東アジアでの流通を増やし、国産ヘナとインディゴ農家さんを増やすサポートにも力を入れていけたらという思いもあります。
さらに先を見据える循環社会
ーウカの「夢」を教えてください。
“いたわり”や、“癒し”“循環回復”といった、消費するだけではない部分にも目を向けられるビューティカンパニーになることです。
ーウカヘナもそのひとつだと思いますが、ほか行っていくことはありますか?
ヘッドセラピーシリーズが10周年を迎えるにあたり、リニューアルします。新たな成分として着目したのがクスノキ科の落葉低木「クロモジ」です。そこでクロモジの産地を調べていたところ、ある人から「下田にもある」と紹介していただいたのですが、そこではなぜか海洋学者の方がクロモジを育てていたんです。
ー海洋学者の方がですか?
そうなんです。理由を尋ねると、海洋環境を良くするためには山林の保全が不可欠だから、と。数年前、熱海の土砂崩れが大きなニュースになりましたが、あれは人間が山に手を入れてあげなかった結果、草木の根が張らず土が痩せ、土砂崩れが発生してしまったのだそうです。適度に手を入れて、適度に落葉樹を入れる。するとそこに何億もの常在菌が生まれ、それが素晴らしい栄養素となって強い根を張る樹木が作られ、その横に黒文字が生えてくる。それを恵として僕達が適度に伐採させていただくと、巡り巡って僕達の体にいい影響を与えてくれるのだと教えていただきました。いい環境の山から流れるミネラルたっぷりの水分が河川に流れ、海水に流れ、豊かなプランクトンと海藻が作られ、やがてたくさんの魚が集まってくる。
ー循環するということですね。
サーキュレーションエコノミーで森林保全を一緒にドネーションさせていただけるうえ、体にいいものを作り続けることができる。そういうビジネスに、今とても興味があります。サーキュレーションエコノミー材料を積極的に使うなど、まずはもの作りから少しずつ実現していきたいですね。
(文 ライターSAKAI NAOMI、聞き手・企画編集 福崎明子)
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【美を伝える人】の過去記事
RELATED ARTICLE
関連記事
READ ALSO
あわせて読みたい
RANKING TOP 10
アクセスランキング
銀行やメディアとのもたれ合いが元凶? 鹿児島「山形屋」再生計画が苦境