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「ゲスの極み乙女」「indigo la End」「ジェニーハイ」「ichikoro」などさまざまなバンドで違う“音”を聴かせてくれるアーティスト 川谷絵音さん。実は“香り”といった別の才能を開花させている。ECのみで展開する川谷さんが手掛けるフレグランスブランド「an aesthetic life」(美的計画)が、初の実店舗展開として、デイトナ・インターナショナルの「ファーストハンド(Firsthand)」に8月26日から登場する。今回、初のお香や川谷さん直筆のサインが入った限定アイテムも揃える。川谷さんにとって「香り」とは? 音楽との相違点も含め、話を聞いた。
■川谷絵音
1988年長崎県生まれ。ミュージシャン、作詞家、作曲家、プロデューサー。「indigo la End」「ゲスの極み乙女」「ジェニーハイ」「ichikoro」といったバンドに参加するほか、「DADARAY」「美的計画」のプロデュースなど多岐にわたり活躍中。フレグランスブランド「an aesthetic life」はECを中心に販売する。
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ー川谷さんが作る楽曲をさまざまなボーカリストが歌うプロジェクト「美的計画」から誕生したフレグランスブランド an aesthetic lifeですが、そもそもなぜ“美的”という名前なのでしょうか?
僕が音楽活動の中で1番重視してるのが、言葉にしづらいんですが、自分の中の「美しさ」を、歌詞やメロディーで表現することで。美的計画は、X(旧Twitter)の企画で「曲を作ります」と呟いたことからスタートしています。当時まだ有名じゃなかったYOASOBIのikuraちゃんや、後から聞いたら「香水」の瑛人くんも応募してくれてたみたいで。第1弾で決定した、にしなちゃんに曲を書くために名前が必要だねとなって、「美しい」って言葉は入れたい、あとはその人の良さを引き立たせる曲を書くという意味で「美的計画」にしました。
ーなるほど、いわゆるビューティを意識していたわけではないと。
そうですね。当時、よく米津玄師とも「今のここは美しくない」とか言ってたんですよ。
ー米津さんと!
音楽に関してですよ(笑)。「美しい、美しくない」論争があって、僕らの中の流行りだったかな。それで美的計画という言葉が生まれたんです。
ーとても興味深い話ですが、ではなぜ「香り」に置き換えたのでしょうか?
香りは、音楽よりも自分の身近にある気がするんです。それこそ、人間の五感の中で嗅覚が1番早く、人間の中に伝達する。本当に本能というか。僕もやっぱり記憶に残っているものは「この匂い…あのときの」という、思い出よりも香りだったりするんですよ。例えばですが、下北沢のライブハウス時代のことは、その時の記憶が蘇る前にまずは嗅いでいた匂いを思い出す…。実際に今、嗅いでいるわけではないのに、頭の中に浮かぶ…。だから記憶としては、音楽よりも香りの方が強いんですよね。
ー耳で聴くよりも?
だから、ある種の嫉妬心もあったというか。音楽は再生しないと聞こえない。でも香りってどこにでもある。普通に歩いていても何か香ってくる。女性もよく言うと思うんですよ、「その匂いがタイプじゃない」って(笑)。
ー香りって直感的な好みがありますよね。
そうなんですよね。能動的に匂いを嗅ごうと思っているのではなく、受動的に匂いを嗅いでしまっているというのがある。そういう意味で1番、美しさを感じるんです。
美的計画は、僕が好きな人の声をみんなに聞いてほしいという思いがあった。そこから、僕が好きな香りをみんなにも嗅いでほしい、共有したいと思うようになったんです。
ー川谷さんはどんな香りが好きなんですか?
香りの原体験は、アイスクリームの箱で。スーパーに売っている、カップのアイスクリームがいっぱい入った箱です(笑)。
ーアイスの空き箱!?
めっちゃいい匂いですよ! ちょっと中毒性がある匂いで、子どものころずっとそのアイスの空き箱を嗅いでて、親に怒られるほどでした(笑)。
ー親からすれば「何やってるの!」となりますね(笑)。
何故だかわからないんですが、好きだったんですよね。父が母を喜ばせたいタイプで、よく仕事帰りに甘いものを買って帰ってきて。それで当時よく食べていたバニラアイスの空き箱の香りにハマったんです。あれだけ香りにハマったのはそれくらいかも。同じ匂いを毎日嗅いでいましたね。だから好きなのはバニラっぽい香りですね。
ーだから最初にバニラの香りを出したんですね。
当時の実家の匂いを思い出すと、やっぱアイスの箱とバニラの匂いなんですよね、自分の中で。最初に作る香りは、自分の原体験を形にした方がいいと思ったんです。
ー実際に香りを作るときに大変だったことは?
香りを作ってくださっていたメーカーさんから、僕が思い描いた香りを作るのに、1つ素材が足りないと言われたんですよ。「イリスという高級な素材が手に入らないから、代わりになりそうなもので作りました」と言われて香ってみたけど、全然違って。だから1年ぐらいですかね、とにかくイリスが入るのを待って。それで「あ、これだ!」となりました。
ーイリスが手に入るか入らないかで、an aesthetic lifeができるかどうか分かれたんですね。
そうですね。不思議なんですけど、イリスはよくウィメンズの香水に使われている素材だと思いますが、それが入ることで、甘すぎなくなるというか。僕は香水っぽい香水はつけないんですよ。だから甘すぎるバニラよりは、甘さはあるけど主張しすぎない香りが好き。男性でも女性でもつけれる香りがいいと思ったんです。
ー音楽との結びつきもありますか?
美的計画では女性目線で歌詞を書いていて、人に歌ってもらうこともあり主観的ではない、第三者的な位置で歌詞を書いています。自分ではないけど、自分みたいな。香りでいうとバニラなんだけど、甘すぎない…みたいな、曖昧さを残したところは近いかもしれません。
あと、ラベンダーを共通成分として配合しているんですが、花言葉が好きなんですよ。それこそ花言葉の曲を書くことも多いんです。ラベンダーの花言葉は「沈黙」「疑念」「疑惑」。でもマイナスな意味ではなく、なんでこんな小さい花から、こんな強い香りがするんだろうという疑惑と、「いい香りすぎて沈黙してしまう」というのが、良い音楽と似ていて。良い音楽を聞くと、感想が出てこないってことあるじゃないですか。静かに聞いてしまうと思うんですが、そこが香りとリンクしてると思っていて。なのでラベンダーはずっと使っていますね。
ー音楽と香りのモノづくりにおける共通点は?
フレグランスを作るときに、何の素材を何%ずつ混ぜる、みたいなのがあると思いますが、音楽もどういうジャンルをどれぐらいの割合で混ぜて…とか。例えばハウス20%で、そのハウスのリズムに対してダヴのギターを当てるとか。先ほどのイリスの話じゃないですけど、ジャンルを1個変えるだけで、例えばバスドラムの位置を変えるだけで、音楽のジャンルも変わってきますから。そこは似ていると思います。
ーでは逆に音楽との違いは?
香りは身にまとえるけど、音楽をまとえない。そう思うとやっぱり香りと音楽は全然違うものだと思いますね。人に会うと、その人の匂いというのがありますが、音楽は話をしないとその人が何を聴いているか分からない。音楽は二次的なもので、香りは直感的なものじゃないかと。もちろん僕らは感覚や直感で音楽を作ったりもするんですけど、音楽をみなさんに届けるためには何かの媒体が必要だったり、何か機械が必要だったりととても物理的で。そこが全然香りと違う、音楽が香りに勝てないところではあるのかなと思うんです。
ー現在、フレグランスファブリックスプレー(2種)とフレグランスを出されています。香りの着想源は?
バニラの香りのものは、先ほど話した通りではあるんですが、実は、すごく記憶に残っているホテルの匂いがあって。それを再現しようというところから始まっているんです。
ーどこのホテルですか?
マンダリン オリエンタル 東京です。都内のホテルに泊まるのが好きなんですが、マンダリンに泊まったときの匂いが、特別な何かではなく、なんだか落ち着く匂いだったんです。
ベルガモットとレモンのシトラスミックスにフレッシュなラベンダーやグリーンノートが広がるアロマティックブレンド。オークモスが持つ個性豊かなウエット感と、華やかなホワイトフローラル、ベンゾインの穏やかな甘み。天然精油を50%配合した贅沢でナチュラルな香り立ちは、ピローミストとしてもおすすめ。ユニセックスでモダンな香りは、上質で心地の良い空間を演出する。
フランス産ラベンダーをキーに、清涼感のあるシトラスやドライな風合いを持つシダーウッドがリラックスしたトップノートを演出。洗練されたマニッシュな香調の中に、パウダリーなイリスや、さりげないバニラの甘さを調和させることで、香りに多面性を持たせ、ジェンダーレスにまとえる香水に仕上げた。ラストノートは素肌になじんだ温かなムスクとサンダルウッドが残る、お香のような奥深い余韻を楽しめる。
ーそれでフレグランスファブリックスプレーを最初に作ったんですね。
作りやすかったというのもあるんですが、値ごろ感もあってか、出すと売り切れるという状況です。ファブリックスプレーはまだ日本ではそんなに使われているものではないと思うんですが、ただ1度使用するとその香りがないと何だか落ち着かない、というのが僕にはあり。だから別の香りが入る隙間がなくなってしまうんですが(笑)。そういうところからもリピートしてくれている人がいるのかなと。
ー新しい展開としてお香を出されるのはどうしてですか?例えば、キャンドルでも良いのではと思ったのですが。
お香って、燃やすという工程がありますよね。僕の歌詞にも燃える燃やすは、割とキーワードになっていてものすごく出てくるんですが、お香はひと手間というキーワードが音楽にリンクしていると思います。対してキャンドルは、ぼっと燃えるという感じがちょっと違うというか、見た目の美しさからも愛でる対象だったりしますよね。僕はお香を香りを楽しむものとして使用しているので、そこが違うのかなと。
ー感覚的なところですよね。
そうですね、感覚的に嗅いでいる。風情を楽しんでいるのがいいんですよね。
ー少し話は変わりますが、川谷さんは自分の香水以外でつけているブランドはありますか?
「フエギア 1833(FUEGUIA 1833)」の「ハカランダ」ですね。19世紀のギターをかき鳴らす音がインスピレーション源の1つとするフレグランスですが、木のウッディ調の香りがとても好きで、ライブ前によくつけてます。あとは「セリーヌ(CELINE)」の「パラード」は、デヴィッド・ボウイ(David Bowie)のペルソナの世界観を香りのベースにしているのかな。ライブ前にメンバーにもシュシュってすることもあります。フレグランス以外では、最近「ハッチ(HACCI)」のハンドソープやボディソープを使っています(笑)。
ー今後作りたいものは?
また違うフレグランスを作りたいですね。曲を作って、「この香りとこの曲はリンクしてます」という、曲と香りを同時にリリースしたいんです。
以前、米津のライブに行ったとき、「Lemon」の曲の前にレモンの香りが会場全体に香るという演出があって。それまでそんな演出に遭遇したことがなかったし、視覚も聴覚も嗅覚もライブで満たしているっていうことを感じたことがなかったから、音楽と香りって一緒に楽しめるんだと思ったんですよね。だから音楽と香りを一緒に楽しむために香りと曲をリンクさせたいんですが、実際大変そうなんですよね(笑)。曲と香り、どっちから先に作ればいいのか…まずそこからです(笑)。
(聞き手:福崎明子、芳乃内史也)
■「an aesthetic life」初の実店舗販売
発売日:8月26日
発売日入店方法:抽選による入店(詳細はInstagram@firsthand__officialプロフィールのURLから)
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