(文:sushi)
非常に残念に思っているのだが、僕はジーンズがあまり似合わない。腰の幅が少し広く、腰に合わせてサイズを選ぶと上半身に対して下半身がアンバランスに大きく見えてしまうのだ。
長年の歴史を持つジーンズはブランドや年代によって微細な差があり、こだわりが詰まったディテールを目にした時にはロマンを感じる。そして経年変化を楽しめるのも魅力の一つ。そんなジーンズに造詣が深い人にはファッションに対する教養の深さを感じ、成熟した大人に対する憧れに似た憧憬の念を禁じ得ない。服に関する蘊蓄(うんちく)だとか、ブランドに関するストーリーが大好物の僕がジーンズに深くハマりこんでしまっても全く不思議ではないのだが、上記の理由もあり、心躍るジーンズを見ても「カッコいいけど僕には似合わない」と思いを押し殺し、距離を置いてきた。ジーンズはディープな世界を見せてくれる永遠の定番品。このテーマについて語るのは恐れ多いが、僕の視点からジーンズの魅力を正直に綴ってみたいと思う。
不朽の名作 Levi's501xx
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あまりに広く深いジーンズの世界は掘り下げても底が見えないが、原点を追求するのであればやはり「リーバイス(Levi's)」しかないと思う。
リーバイスは1853年にリーバイ・ストラウス氏がサンフランシスコで設立し、鉱夫向けにキャンバス地を用いてワークパンツの生産を開始。その後生地をデニムに変更し、世界で初めてジーンズを作った企業となった。もはや説明不要だが、複数ある著名なリーバイスのモデルの中でも圧倒的な知名度を誇り、誰もが認める永遠の定番とされるのが501だ。
なぜ501がこれほどまでに有名なのかというと理由は単純明快、リーバイ社がジーンズを発明した技術で特許を取得し、その後正式に誕生したリーバイス初のモデルだからだ。いわば501はすべてのジーンズの始祖であるとも言える。1870年代の誕生から現在に至るまで、時代潮流に合わせ幾度とないマイナーチェンジを経て現行の形となっているが、現行モデルのベースが完成したのは第二次世界大戦後の1947年頃。そして501の中でも、1947年~1966年に生産されたモデルは戦時中に廃止されたロゴ入りボタンやウォッチポケットといったディテールが復活したほか、使われる生地も戦時中の物資統制がほどかれたことでより耐久性の高いものが採用できるようになるなどハイクオリティな作り込みが特徴で、リーバイスファンの間でも501の最高傑作とされる。それが「Levi's501xx」、俗に「ぺケぺケ」などと呼ばれるモデルだ。xxという文字列は「ダブルエクストラヘビー」を略したもの。501が誕生した1870年代当時では最も重いオンス数のデニム生地を用いて生産されていたことに由来する。
501xxは"キングオブヴィンテージジーンズ"との呼び声も高く、ジーンズのあがりを求めるのであれば文句なしだが、1945年以前に販売された501では戦時中の物資不足によりディテールの簡素化が見られ、納得のいくクオリティを生産できていなかったことへの反作用的な部分を感じられる点も人気の理由の一つ。クオリティだけではなくリーバイ社のジーンズへの熱い思いが伝わってくるこのモデルは、ジーンズ好きにとってはまさにロマンの塊。その歴史や生産背景を知れば知るほどに魅力的に感じる。
501xxに思いを馳せているうちに気付けばヴィンテージジーンズを取り扱うショップの通販にたどり着いていたが、大変希少なため相場は10万円程度、生半可な覚悟で手を出すには辟易する値段だ。聞いた話だが、501xxよりもさらに前の年代となる1900年代前半の501はウン千万円で取引されている事例があるとのこと。もはや服の枠を超えて資産の域に達しようとしているリーバイスのジーンズという世界に恐れおののいてしまった。
自信をくれたヤエカのシームレススタンダード
ジーンズとは距離を置いてきたと言ったものの、一着も持っていないわけではないし、現行のモデルだが上記のLevi's501も持っていた。僕がジーンズと距離を置くようになってしまったのには理由がある。高校生の頃、半年に一度貯めた小遣いで東京で服を買うのが恒例だったのだが、とある古着屋で接客をしてくださった店員の「お客さんの体形にはデニムはあまりハマらないかも」という一言により、デニムを履くことに対する自信を完全に失ってしまったのだ。僕の様な腰回りがしっかりしていて、足首にかけて下半身が細くなっていくタイプの人間は、体型的にパンツ選びは慎重にならねばならないのは事実であった。
それでも不定期に、やはり自分もかっこよくジーンズを穿きたい!という気にはなっていたものの、なかなか体形に合うものが見つからず、自分のワードローブは長らくジーンズの定番が固まっていないという状態が続いていた。が、5年前にこの穴を埋めるデニムに出会った。それは「ヤエカ(YAECA)」のシームレススタンダードデニム。僕のワードローブにあるデニムの中で最も長く愛用している。
ヤエカは2002年に創立されたブランドで、「Logically Simple」をコンセプトに日常に寄り添うデイリーウェアを提案している。大袈裟なディテールや華美な装飾をそぎ落としているものの、定番のシャツにはスナップボタンが採用されていたりと独特の感性が落とし込まれているのが魅力だ。
今回取り上げるシームレスデニムも例に漏れず、ブランドの魅力が現れるのがその縫製方法。サイド部分にあしらわれる縫い目がなく、股下が筒状に構築されるため、通常のジーンズよりも丸みを帯びたヤエカらしい柔らかなシルエットになる。この構造はボディラインを拾いづらいので、僕の様な足がすらっとしていない人にもとてもおさまりが良い。これまでにジーンズ含め様々なパンツを穿いてきたが、このパンツ以上に足がきれいに見えるものは今のところないと思う。僕の体型にジャストフィットするこのジーンズは、自信を取り戻してくれたあがる一本だ。
ヤエカを紹介するにあたり、ワードローブからジーンズを引っ張り出し、改めてまじまじと眺めてみたのだが、シルエットの美しさ以外にも、穿き続けたことによる色落ちや太もも付け根部分に出たヒゲなどの経年変化を見て取ることができ、今まで感じていなかった魅力を自分の手で感じることができた。そうしているうちにだんだんと楽しくなってしまい、久々に洗いにかけてみようと浴室で湯と洗剤をかけてみたところ、想像以上に色落ちが激しく、浴室がインディゴに染まってしまった。まだまだジーンズに対する理解が浅かったと反省するとともに、12月で引き払うこの部屋の浴槽を前に頭を抱えている。
■sushi(Twitter)
15歳で不登校になるものの、ファッションとの出会いで人生が変貌し社会復帰。2018年に大学を卒業後、不動産デベロッパーに入社。商業施設の開発に携わる傍、副業制度を利用し2020年よりフリーランスのファッションライターとしても活動。noteマガジン「落ちていた寿司」でも執筆活動中。
あがりの服と、あがる服 バックナンバー
【vol.1】シャツ編:シャツの極致 シャルベ / 15歳の僕を変えたマーガレット・ハウエル
【vol.2】ルームウェア編:アマンも認めるプローのバスローブ / 外着にもしたいスリーピー・ジョーンズのパジャマ
【vol.3】レインウェア編:誇り高き迷彩のヴィンテージバブアー / 心強い鎧ビューフォート
【vol.4】サンダル編:"サンダル界のロールスロイス"ユッタニューマン / チープ・シックな逸品 シーサンのギョサン
【vol.5】メンズアクセサリー編:トゥアレグ族のクラフトマンシップ溢れるエルメスの「アノー」 / 真鍮の経年変化を楽しむマルジェラの「IDブレスレット」
【vol.6】カーディガン編:東北の逸品 気仙沼ニッティング「MM01」 / 珠玉のアウター コモリ×ノラのストールジャケット
【vol.7】ローファー編:革靴の王様 ジョンロブのロペス / 男らしさ漂うチーニーのハワード
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