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1977年に創業し、2022年で45周年を迎えたファッションブランド「フォーティファイブ・アール(45R)」。「気持ちの良い服を、喜んできていただく」ことをブランド理念として、生地作りから全ての工程を内製化して品質を追求したデイリーウェアを展開しており、現在は国内外に約60店舗を出店している。2017年には日本製品、サービスの海外進出をサポートする海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)から「高品質な大人服"が他国にはない日本のコンテンツになり得る」と評価され最大8.2億円の出資を受けた。店舗運営を取り仕切る「あっぱれ部」、人事総務・経理にあたる「おめつけ部」などのユニークな部署名も特徴の一つとなっている。
コロナ禍を経てEC販売が当たり前となった現代、フォーティファイブ・アールが実店舗に求める役割とは何か。2022年 神奈川県・葉山町にオープンした旗艦店に伺い、店舗作りのこだわりやショップスタッフの育成などについて、「あっぱれ部」執行役員の髙橋優希氏に話を聞いた。
売り上げ第一ではない、45Rが掲げる「三方よし」のブランド理念
ー髙橋さんは2003年にフォーティファイブ・アールに新卒入社されていますが、入社を決めた理由は?
シンプルに会社の考え方に共感したからです。元々服が好きだったのでアパレル業界で就職しようとは考えていました。それで色々なアパレル企業の説明会に足を運んだんですが、どの会社の説明会でも聞かされる話が「うちは売上がこんなに伸びています」みたいな業績に関するガツガツした内容ばかりで、当時の私には正直あまり興味が持てなかったんです。でも、フォーティファイブ・アールの説明会では「これ以上売り上げ規模を拡大することは考えておらず、今後はブランドの深みを育てることに注力する」といった、他のアパレル企業と真逆の話をされていて。店頭スタッフについての「できるだけアルバイトではなく、ブランドをしっかりと理解している正社員で運営していきたい」という考えだったり、売り上げ第一ではない姿勢が自分の中ですごく腑に落ちて、フォーティファイブ・アールに入社を決めました。
ー入社前と入社後での会社のイメージにギャップはありましたか?
入社前後のギャップはほとんどなかったです。ただ、服との向き合い方に関しては私の想像のはるか上を行っていました。例えば、ニューヨークのお店では製品を店頭に出すときそのまま並べるのではなく、まず一度洗濯してから天日干しして、「焼きたてパンのようにふっくらと」した状態で手に取っていただけるよう、大事に店頭に並べるんです。日本では洗濯機がない店舗もありますが、霧吹きをして一度揉み込み、スチーマーを当てて風合いを出すという一連の流れは全店舗で実施していますね。私が知る限りでは、ほかのブランドはどこも袋から出してピシッとしている状態で店頭に並べているので、服を手にとった時の直感をここまで追求しているのは流石だなと思いました。
ー自分たちが考える最高のコンディションで商品を手にとってほしいということですね。
そうですね。デニムなどが特にそうですが、着用して、洗って、馴染んで、「その人らしさ」が出てきた方が服は魅力的に見えると思っています。最初の状態が100点ではなく、服を育てて「100点にしていく」といった考え方です。
ー髙橋さんは「あっぱれ部」という部署に所属されています。とてもユニークなネーミングですが、この部署はどういった仕事をする部署なんでしょうか?
主な業務は店舗の運営ですね。主に私と、同じく執行役員の後藤(後藤健太)で全体の大まかな方針を決定しています。元々の名前は「店舗運営部」だったんですが、ある日の朝礼で社長の髙橋(髙橋慎志)が突然「店舗運営部を『あっぱれ部』に改名する」とアナウンスして、この部署名になりました(笑)。名前を変更した意図は聞かされていないので本当のところは分かりませんが、フォーティファイブ・アールには自分たちだけではなく、お客様と工場様・館様・地域社会などのフォーティファイブ・アールに関わる全ての人たちに喜んでいただける商いを目指す「三方よし」の考え方が根付いているので、「外部の方から『あっぱれ』と褒めていただける店舗を作りましょう」という想いが込められていると理解しています。
ーちなみに他にはどんな部署が?
人事総務・経理に相当する「おめつけ部」、テキスタイル製作を担当する「ころも研究部」、パタンナー部隊と生産管理を合体させた「かたち研究部」があります。店頭スタッフは「あっぱれ部」所属です。
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情報化社会で高まるローカルの価値、45R流「本物」の店作り
ー旗艦店を出店するにあたり、観光地ではなく葉山に決めた理由は?
「ローカルを突き詰めることで、グローバルにつながる」という考えが根底にあるからです。湘南や鎌倉など、人の往来が盛んな地域に出店した方が売上は増えると思いますが、ブランドとしては地域と密接に繋がり、お客様と地に足をつけたお付き合いをしていくといったことの方が重要だと考えています。例えば、葉山のお店周辺では子ども達が一日中防波堤から飛び込んでいたり、早朝に犬を散歩している方が挨拶してくれるといった「良い意味でのローカル感」があるんです。なんでもインターネットで情報を得ることができる現代だからこそ、ローカルの価値はすごく高まっていると感じていて。地域に根ざした店舗運営を突き詰めて、唯一無二の魅力を確立することで、世界中の人たちに魅力を感じてもらえるようなブランドにできると信じています。
ーEC販売が当たり前となった昨今ですが、実店舗の役割についてはどう考えていますか?
実店舗の一番の特徴は、商品の質感や着用感をダイレクトに伝えられることだと思います。ECでは、どんなにサイトをしっかりと作り込んだとしても、アイテムに直接触れることはできないですから。フォーティファイブ・アールでは生地から自社でこだわって製作しているので、実際に触って風合いを体感してもらうことが非常に大切だと考えています。
また、実店舗ならではの見せ方もありますね。フォーティファイブ・アールでは月毎にコレクションテーマを設けてアイテムを展開しているんですが、店頭に出すときにスタッフがテーマに合わせてコーディネートを工夫したり、並べ方を変えたりして趣向を凝らしています。ちなみに今月のテーマは「ネイティブアメリカンの世界」なので、トルソーの着せ込みもそれを意識したものになっています。商品の世界観をしっかりと伝えていくことも実店舗の重要な役割の一つですね。
ー確かに、実店舗に足を運ぶことでしかできない体験は確実にありますよね。
そうですね。あと、これは実店舗の役割とは少し違うのですが、フォーティファイブ・アールの店舗ではスタッフとお客様が親戚のような関係性を築けているのも特徴です。私も十数年間店頭スタッフとして働いていたのですが、ずっと仲良くさせていただいていたお客様が「小さかった息子が成人して、就職しました」と報告しに来店してくださったり。こういったお客様との心のつながりは実店舗でしか育めないものなので、服を売った先にこそ実店舗の存在意義があると考えています。
そのほか、リアル店舗ならではの取り組みと言えば、服のリペア・リメイクを提案するサービス「満足工房」といったサービスを全店舗で展開しています。サイズアウトしてしまったり、デザイン的に着づらくなってしまったフォーティファイブ・アールの服を、お客様のご要望に合わせて生まれ変わらせ、長く楽しんでもらうことが目的です。
ー「満足工房」へのお客さんの反応はどうですか?
好評ですね。特に最近はサステナビリティへの意識が高まってきたこともあって、「満足工房があるからフォーティファイブ・アールの服を買いたい」と言ってくださるお客様もいるほどです。服を売って終わりではなく、その先までしっかりとサポートできる点も実店舗の魅力だと思います。
ー店舗作りにおいて意識していることは?
一番は「選び抜いた本物の素材を使う」ことです。今の世の中、◯◯風みたいなものが溢れていると思うんですよ。例えば、レンガを使っていないけど「レンガ造り風」の店舗設計にしたりとか。もちろん買い物をする場所なので見た目だけそれらしく見えればいいという考えもあるかと思いますが、フォーティファイブ・アールではそういったことは絶対にしません。お客様に最高のお買い物体験を提供するには、店舗設計は非常に重要な要素ですから。
ーちなみに葉山店では、どういった「本物の素材」を使っているのでしょうか。
まず建物の建材には、堅く重厚な質感が特徴の千葉県産「山武杉」を使用し、切り出した材木をできる限り木目が綺麗に揃うように組み上げています。床にはフランスの古い修道院に敷かれていた大理石を採用し、加工をほとんどせずそのままの風合いで敷き詰めました。また、屋根には古くから神社仏閣に使われる銅板を使っているほか、店舗の周りには黒松や姫車輪梅、マグノリアといった植物を植えるなど、一切妥協することなく仕上げています。
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ーすごいこだわりようですね。アイテムの魅力を余すところなく伝えるためでしょうか。
そうですね。ただそれだけではなく、フォーティファイブ・アールではできるだけ長く着てほしいという考えで服作りをしているので、店舗に関してもしっかりと地域に根付かせたいという想いで作っています。その場しのぎではなく本物の素材を使うことで、結果的に多くの方に愛されるお店になると考えているんです。
ー内装だけでなく、働くスタッフも店舗を構成する重要な要素だと思いますが、スタッフの育成で大切にしていることはありますか?
質問への回答になるか分かりませんが、私たちはスタッフを「育成する」という意識は持っていないです。誰かが誰かを管理したり、何かを無理に教えることって実はそんなに効果がないんじゃないかなと思っていて。だからフォーティファイブ・アールでは、全国に店舗を構えるブランドではスタンダードな形式とも言えるエリアマネージャー制度を数年前に廃止しました。代わりに導入したのが「とこわ回路」というシステム。いつまでも若々しいことを表す「常若」という言葉に由来しています。これは、店舗ごとに各分野が得意な人を集めて「着こなしチーム」「しつらえチーム」などのグループを作り、チームごとに自分たちでどうしたら店舗をより良くできるかを考えて実行する仕組みです。他店のスタッフや本社スタッフと連携することで回路をつなげ、現場の意見で会社を動かすことを目的としています。人間はただ言われたことをやるのではなく、自分の頭で考え実行することで本当の意味で「成長」すると考えているんです。
ー自由に考える場を提供して成長を促しているんですね。店頭に立つ人材として、望ましい人材像は?
とにかく服が好きな人。入社前後のギャップのところでもお話しましたが、フォーティファイブ・アールは服作りや店作りに関して強いこだわりを持っているブランドなので、社員はもちろん、お客様にも服オタク、フォーティファイブ・アールオタクの人が非常に多いんです。気持ちいい服を喜んでいただくというテーマを常に追求し、それを具現化する為に、一人一人に求められるレベルがとても高い会社でもあります。だから、そういった熱量を吸収してモチベーションに変え、積極的に挑戦できる人が望ましいですね。社歴に関係なく多くの挑戦機会があるので、志一つで入社前には考えていなかった新しい自分に出会えるんじゃないかと思います。「服が好き」という軸があれば専門知識や販売経験などは必須ではなく、多様な価値観を持った人と働きたいと考えています。最近は中途採用も積極的に行っていて、アパレルとは違ったバックグラウンドの方を採用することも多いです。
ー例えば、最近ではどんな方を採用しましたか?
ピアノなどの楽器が置いてあって、生演奏ができるようなバーで歌を歌っていた人ですね(笑)。新しい人が入社して色々な価値観や経験がミックスされることで、よりブランドに深みが増していくと思っているので、今後も人材採用は強化していきたいポイントです。
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「ないもの作り」の哲学、トレンドの後追いをしない無二のクリエイション
ーフォーティファイブ・アールのブランドとしての強みは?
私たちは「ないもの作り」と呼んでいるんですが、世の中にないものを作っているところですね。素材を1から作っているという意味でもそうですし、服作りのインスピレーションソースや考え方などに関してもトレンドの後追いではない、唯一無二のモノづくりをしているという点で「ないもの作り」と言えると思います。
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例えば、今そこにディスプレイしているシャツにしても一見オーソドックスなブラックシャツに見えるかもしれませんが、実は糸から作ってインディゴ染めを施しているんです。また、デザインはヨットの帆をイメージしてつぎはぎで仕上げていて、着込んでいくと継いである部分に当たりが出てデニムのような風合いに育っていきます。我々が展開している服は全て「フォーティファイブ・アールでしか買えないものを」という考えのもと作られていて、「流行っているから、売れそうだからなんとなく」でデザインしているものはないんです。こうしたこだわりの甲斐あってか、2023年の全アイテムのプロパー消化率は現在98%を超えています。
ープロパー消化率98%以上というのは驚異的な数字ですね。
そうですね。もちろん大量生産をしていないからではありますが、入荷してきたアイテムがほとんど売れているという状況には我々も驚いています。売れ残ったとしても、ひと手間を加え付加価値をつけてリメイク商品として売り出しているので、店頭でのセールに関してはもう4年くらいしていないです。
ーブランドとして高めの年齢層にリーチしている印象がありますが、新規客層開拓についての考えは?
間違いなく今後の課題ですね。45年もブランドを続けていると、当然初期からお付き合いさせていただいているお客様は一緒に年齢を重ねてきていますし、お店にお越しいただける方の平均年齢も上がっています。もちろんそれだけ長くブランドを愛してくださっていることには感謝してもしきれないですが、今後も長くブランドを続けていくためには若年層の取り込みが必要だと認識しています。
ー若年層開拓のために取り組んでいることを教えてください。
若い層への露出を増やすことが一番の近道だと考え、7月に渋谷パルコでポップアップを開催しました。そのほかには、金沢文化服装学院で教鞭を執る機会をいただいて学生たちに「若年層にもっと知ってもらうにはどうしたら良いか」というテーマで意見をもらい、出てきたアイデアを取り入れたイベントを開催したり。10代20代だけでなく、今後幅広い年代の方と関われる機会を積極的に作っていきたいですね。
ー現在、フォーティファイブ・アールは国内外合わせて約60店舗を出店していますが、今後の出店計画を教えてください。
海外に関してはまだ20店舗ほどしか展開していないので出店を進めていくつもりですが、国内の店舗に関しては、これ以上数を増やすのではなく、既存の店舗の価値を高めていくことに注力することになるかと思います。店舗を「拡大」するのではなく「拡充」するイメージですね。更に言えば、ファストファッションに取り込まれたり、ファッションビルとしての要素が薄まったりでテナントのスタンスが変わってしまった場合は、撤退して店舗数を減らすこともあり得ます。人口も減少傾向にあり、これ以上日本のマーケットが大きくなることはないと思うので、現状の店舗数をベースにして質の高いサービスを提供することが一番かなと。ただ、絶対に店舗を増やさない訳ではなく、魅力的なテナントや売場が見つかった際は出店を進めるつもりです。直近では、阪急うめだ本店の8階の新売場「グリーンエイジ(GREEN AGE)」への出店が決まっています。
ー2024年のブランドの方向性は?
2024年は「維新 はっしん 伝心」というテーマを掲げてブランド運営に取り組みます。このテーマは冒頭でお話したあっぱれ部執行役員の後藤が「明治維新」から着想を得て設定したものなのですが、日本全体を見ても会社のトップ交代が多く見られる現在、ブランドとして「次の世代にバトンタッチしていく」といった意図を込めたそうです。新しい世代に多くのチャンスを与えることで、会社全体の若返りを図ります。ブランド創業から45年を迎えたこともあり、次の45年に向けてブランドをどうやって成長させていくかを考え実行する「維新」の年、未来のお客様にブランドを知ってもらう「はっしん」の年、そしてこの志を社員とお客様に伝えていく「伝心」の年にしていきたいですね。
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